もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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53 帰宅

 というわけでハクアと合流したわけだが……

 

「心配しながら駆けつけてみたら……どーして女の子に囲まれて楽しそうにしてやがったのよ!!」

「……成り行きだ」

「成り行きだったね」

「少々信じがたいですが成り行きです」

「どんな成り行きよ!!」

 

 現在、前夜祭も無事に終わって帰宅している最中だ。

 僕の家に押しかけて泊まっていこうとするような非常識な奴は当然居なかったのでここに居るのは僕とかのん、エルシィ、そしてハクアだけだ。

 

「しかし随分と帰りが遅かったな。何かトラブルでもあったか?」

「それはもう色々とあったわよ。

 長くなるから落ち着ける所で話しましょうか。

 それより、ちゃんと女神は見つけられたんでしょうね?」

「愚問だな。僕を誰だと思っている。

 6人全員……いや、5人まで見つけたよ」

「え? 最後の1人はどうしたのよ」

「最後の女神に関しては……」

「私が見つけ出したよ」

 

 そういうコトだな。メルクリウスを見つけ出したのはかのんであって僕ではない。

 細かいことだが、重要な事だ。

 

「その辺の事に関しても長くなる。落ち着いた所で話そう」

「ハクアさんが地獄に出発したのっていつ頃だったっけ?」

「ウルカヌスが復活してエルシィが目覚めた次の日くらいだったはずよ」

「そう言えばそうでしたね。私が目覚めた翌日でした」

 

 かのんの疑問に対してハクアとエルシィが答えた。

 と言うことは……アポロの覚醒、マルスの復活、あとメルクリウスの事を話せばいいのか。

 ……そう言えばあいつはどうしてるんだ? PFPが確かこの辺に……あったあった。

 

「おいメルクリウス。起きてるか?」

 

 僕がPFPに向かって呼びかけると……画面に映っていた僕が光り出した。

 ほんの数秒ほどで光は収まり、かのんの姿が現れた。

 

『呼んだか?』

「お前……その中でもそっちの姿なのか」

『良い事じゃないか。愛しの歌姫の姿がいつでも見れるぞ』

「妙な枕詞を付けるんじゃない」

 

 エルシィやうちの母さんが出てくるのに比べたら大分マシだが……鏡に向かうとかのんの姿が現れるってのは何か違和感あるな。

 

「う~ん、流石は叡智の女神様。分かってらっしゃる」

「おいかのん、便乗するな」

『私の個人的な意見だが、我が宿主には是非とも歌姫と結ばれてほしいものだ。

 理力だけでなく魔力も同時に使いこなす人間には非常に興味がある』

「そういう理由なんだね……協力してくれるなら別に良いけど。

 と言うか、言うほど使いこなせてるかな?」

『無意識の身体強化を結構前から使っていたようだぞ?

 魔力も理力も、確実にお前の力になっている。

 そうでもなければ武道家とアイドルがまともに戦えるわけが無いだろう』

「確かにそうかもしれないけど……」

『無意識でもそれだけの効果がある。意識してしっかりと使えばより高度な事も可能になる。

 今夜にでも理力制御の手ほどきをしてやろう』

「えっと……あ、ありがとう?」

 

 かのんはこれ以上強くなるのだろうか? 今でも十分おかしいんだが。

 

『何を他人事のような顔をしているのだ我が宿主よ。

 お前にも付き合ってもらうぞ』

「はっ? 僕が? どうして」

『私1人で理力を運用するよりも協力できた方が効率が良いし楽だからな』

「おいおい、ゲーマーに戦えっていうのか?」

『ギャルゲーでもたまにあるじゃないか。ガリ勉野郎のはずなのに戦いになると魔法を使い出す超能力者が』

「……確かに」

 

 ギャルゲーのはずなのに何故か突然RPG風の戦闘になるゲームは……ごく少数ではあるが存在している。

 と言うか何でそんな事を知って……記憶を共有してるから知ってて当たり前か。

 

「え~っと……結局誰が宿主なの?」

「僕だ」

「紛らわしいわね。何でわざわざ外見変えてるのよ。って言うかお前だったの?

 そうなるとずっと側に居たって事よね……?」

『そうなるな』

「……こんな所に居たのに見つけ出した桂木……じゃなくて中川さんを褒めるべきなのか、

 それともそんな所に引きこもってた女神を叱るべきなのか……」

「……私の妹が申し訳ありません」

『ここに入ったこと自体は不可抗力だ。そんな事で叱らないでくれ』

「ハクアさん。訂正の必要は無いよ。将来的には名字変わるから」

「おいかのん。どさくさに紛れて大真面目な顔で妙な事を口走るんじゃない」

「え? 何か変だった?」

 

 かのんが見せる表情は真顔に近いが良く見ると微妙に笑っているように見える。

 明らかに狙ってボケているな。

 

「……お、ようやく家に帰ってこれたようだな」

「あ、ホントだ。まぁ、今はこんなものでいっか」

「おいおい、何を企んでるんだ」

「ナイショだよ~」

 

 かのんはそう言ってサッサと家の中へと入って行ってしまった。

 ……今更な事だが、僕はとんでもない奴を家へと招き入れてしまったのかもしれないな。

 そんな事を考えながら、僕もかのんの後に続いた。

 

 

 

 

「……エルシィ、あの2人、何か雰囲気変わってない?」

「ある意味今までがおかしかったみたいです。

 姫様ったら神様に『攻略の記憶が無い』って嘘吐いてたみたいなので」

「……ちょっと待ちなさい。まさかとは思うけど……中川さんも桂木に『攻略』されてたの?」

「あれ? 言いませんでしたっけ?」

「初耳よ!!

 確かに私が知ってても何の意味も無いけど……結構大事な事をサラッと言うのは止めなさい!!」

「え、ご、ごめんなさい……?」

 

 残った2名は、そんな会話を交わしながら家の扉を開けたようだった。







 メルクリウスの台詞で『ガリ勉野郎のはずなのに戦いになると魔法を使い出す超能力者』が『たまに』居るって言ってますけど、たまにと表現できるほど居るのだろうか?
 ときメモくらいしか知らないんですけども。
 と言うかときメモは頭おかしい。良い意味で。

 ハクアのかのんに対する呼称って本作で出てきてましたっけ? 今回は『中川さん』にしておきましたけども。
 過去の文章を漁ってみましたが、ハクア編後日談で『中川』と呼び捨てにしている場面が一応ありました。
 ただ、この時は状況がかなり特殊だったので通常の呼称と異なっていても問題なさそうです。
 それ以降で、かのんを呼び捨てにしている場面がもしあったらご連絡下さい。その場面の状況を鑑みて修正します。

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