もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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54 団欒

 夕食の支度を全部かのんに任せて、僕とハクアはお互いの情報を交換した。

 エルシィは……掃除だな。箒さんが最小パワーになっている事をハクアに確認してもらってから掃除をさせておく。台所には1歩たりとも入れさせるわけにはいかない。

 

「……そんな事があったのか。随分と大変だったみたいだな」

「ホントよ! どうしてこんな目に遭うのかって何度思った事か!

 でも、無事で帰ってこれたから良かったと思っておくわ」

 

 敵地のど真ん中で捕まっていたわけだから無事に帰ってこれただけでも儲けものか。

 運が良かったのか、それとも別の要因でもあるのか……

 

「それより、そっちもそっちで大変だったみたいね」

「お前ほどじゃないさ。命の危険は……ほぼ無かったからな」

 

 1回だけ突然武器を突きつけられた事はあったが、それだけだ。マルスのアレはウルカヌスの時より危機感は感じなかったしな。

 

「にしても、宿主がお前って、どうやったらそんな結論に辿り着くのよ……」

「僕には絶対に出せない答えだったな。かのんのおかげだ」

「そう言えば、中川さんがお前の元攻略対象だったっていうの初耳なんだけど?」

「確かに言ってなかったな。そもそも言う必要も無い事だし」

「私が聞いてれば『記憶操作対象の例外ルール』くらいは教えてたかもしれないわね」

「それは駆け魂隊の中では共通の認識なのか……」

「実際にどうなるかは場合によるだろうけど、協力者(バディー)の記憶が奪われない可能性を指摘するくらいはできたと思うわよ」

「やっぱりエルシィはバグ魔だな。

 だが、知らなかったからこそここまでの関係性を築けた。過程はどうあれ結果は間違っていなかったんだろう」

 

 エルシィのバグっぷりすらドクロウ室長の計算の内だった可能性も有り得る。

 ……いや、流石に無いか? エルシィがある意味規格外だから何とも言えんな。

 ただ……かのんが協力者に選ばれた本当の理由、それはこの時の為だったんだろうな。

 まるで未来視でもしているかのような事をするな。実は似たような事をできるんだろうか?

 

 

 

「みんな~。ご飯できたよ~」

 

 かのんの声が聞こえてきた。もうそんな時間か。

 

「飯にするか」

「そうね。今後の事はその後考えましょう」

 

 

 食卓を見て、何か違和感があるなと思った。

 その正体に気付いたのは全員が席についた時だった。

 

「……かのん、この並びはお前の仕業か?」

「え? うん。そーだよ」

 

 うちの食器は、使う人がほぼ決まっている。

 と言うか、エルシィが隠し子としてこの家に居座った頃に、密かに娘を欲しがっていた母さんがエルシィ用の食器を買い足したのだ。ついでに同時期に居候になったかのんの分も。

 だから、その配置をいじるだけで席順を入れ替える事は簡単だ。かのんと僕を隣り同士にするとか。

 なお、今まで僕達が隣り同士で座った事はほぼ……と言うか全く無い。食卓の席順なんて大体固定になるし、うちの母さんは居候の女子に息子を必要以上に近付けないようにする分別はあったからな。

 

「あれ? 確かに何かいつもと違うわね」

「神様と姫様が隣り同士になるのは……初めてでしょうか?」

「そうだね~。さぁ食べよう。頂きます」

「……頂きます」

 

 席順くらいで何か起こるわけでもないか。サッサと食べてしまおう。

 

 

(にこにこ~)

 

「…………」

 

(にこにこ~)

 

「…………」

 

(にこにこ~)

 

「…………」

 

 かのんがこの上なくにこやかな顔を浮かべている。

 視線が痛い……という程ではないが凄く気になる。

 

「……おい、さっきから何なんだ?」

「何でもないよ~」

 

 何だかよく分からんが……サッサと食べてしまおう。

 そんな事を考えて、焦ってしまったのがいけなかったのだろうか?

 

「あ、桂馬くん。口元にご飯粒付いてるよ」

 

 かのんに指摘されてから僕が動くよりも早くかのんが動いた。

 ご飯粒をつまみ上げてそのまま口にするとかいうギャルゲーではしばしば見かけるような事をやってのけたのだ。

 

「っっ!? か、かのん……正気か?」

「……実際やってみると結構恥ずかしいね、これ」

 

 少し顔を赤らめたかのんからそんなコメントが出てきた。

 

「……どこから計算ずくだったんだ?」

「席を隣にしたのは故意だし、笑顔で見守ってたのも故意だけど、さっきのはアドリブだよ」

「いや、笑顔で見守ってただけで十分計算ずく……いや、違うのか」

 

 笑顔で見守っていた理由が別にあるのであれば、それ以降の行いは偶然だったのだろう。

 

「いつもの事だが、美味いぞ。ありがとな」

「うん! どういたしまして!」

 

 かのんは『その言葉が聞きたかった』と言わんばかりに大きく頷いて、ようやく自分の食事に手を付けた。







 ツイッターでも呟いたけど、『かのん様は告らせたい』とかいう妙な単語が頭に浮かんできました。
 今の状況と大体合ってるという。かのんからの告白が既に済んでいるので、元ネタのかぐや様と比較すると凄い皮肉ですが。
 本気になったかのんちゃんの快進撃はまだまだ続く!(予定)

 かのんの計略を色々とこねくり回しながら書いてみましたが、実は微妙におかしな点があります。
 かのん編第4話での錯覚魔法のテストではかのんの外見になったエルシィが桂馬の隣に座ってエルボーを喰らってます。
 これは……アレです! 娘ができて暴走した麻里さんがかのんへの気遣いをつい忘れてたんでしょう!
 ……こんなさりげない描写が後々の問題点になるなんて全く想像してなかったですよ。
 つまりアレだ。エルボーを喰らうようなエルシィが悪い!

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