もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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55 目的

 夕食を食べ終えたら今後の打ち合わせに入る。

 

『アポロの神託では、この街が更地になるのはもうすぐらしいな』

「さ、更地? どういう事?」

「そう言えば神託の事を説明するのを忘れていたな」

 

 僕達の行動や事実関係だけを説明していたのでアポロの神託の事はハクアに伝え忘れていた。

 改めて、その詳細を説明する事にする。

 

「数日後にこの街が消し飛ぶって……凄い情報だけど微妙に使いにくい情報ね」

「肝心な所がフワッとしてるからなぁ……」

『今回の神託はむしろ分かりやすい方だ。いつもはもっと分かり辛い』

「メルの言う通りです。今回はマシな部類ですよ」

「そんなんで天界は今まで大丈夫だったのか……?」

『そもそも未来というものは常に変化し続けるものだ。この世界の住人に過ぎない我々が未来を1つに固定しようなどという事はおこがましいとは思わないか?』

「そういう話なのかこれ? まあいいか」

 

 神託に関する愚痴や哲学はおいておこう。

 今はそんな事はどうでもいい事だ。

 

「で、桂木の調査で何か怪しげな所を見つけた……と」

「私もそれは初耳だよ」

「話す暇は無かったからな」

 

 やたらと濃密な時間を過ごしているせいで遠い昔の事に感じるが、一本岩の『向こう側』に関する事と、そこに結界が張られている事を見つけ出したのは今日の昼頃だ。

 その後、舞校祭の準備の時に歩美と話して、その後かのんと話して……そんな感じだったもんだから伝える暇なんて無かった。

 

「魔力を使った結界と、『向こう側』ね。

 もしそれが正統悪魔社によるものだったら、私が集めてきた情報と繋がるかもしれない」

「敵の拠点から持ち帰った情報か。

 ……そんな無茶をする前に連絡くらいしてほしかったが」

「変な追跡魔術でもかけられてたら厄介な事になりそうだと思ったのよ。

 一応確認はしたけど、本当に巧妙に偽装されてたら確実に見抜けるとは言えないわ」

「ちゃんと考えあっての事なんだな。それなら別に構わないさ。

 それで? どんな情報を持ち帰ってきたんだ?」

「……地図で説明するわね」

 

 ハクアはテーブルの上に羽衣を広げた。

 少しすると2つの模様……この街の地図と、地図っぽいものが現れた。

 

「まず、正統悪魔社の目的は『旧地獄の復活』らしいわ。

 旧地獄の信奉者の集団なんだから当たり前と言えば当たり前だけどね」

「復活と言っても何をする気だ? 革命でも起こすのか?」

「もっと単純な話よ。

 女神の封印の事は当然知ってるわよね?」

「当たり前だ」

「そりゃそうよね。女神はここに居るんだから。

 当時の女神の力っていうのは本当に凄まじかったみたいでね、女神が居なくなった後も封印の力はまだかなり残ってる。少なくとも内部からこじ開けるのは厳しいでしょうね。

 ……肉体を捨てて脆弱な魂だけの存在になれば話は別だけど」

「手段を選ばず抜け出そうとした連中は駆け魂になった……と」

「そゆこと。そして、辛抱強い連中はかつての悪魔の力を残した状態で封印されている。

 数日前に現れた魂度(レベル)4か、それ以上の大物がね。

 もしそんなのがうじゃうじゃ湧いて出てきたら……この街が更地になるくらいじゃ済まないでしょうね」

「……その封印とやらが一本岩の『向こう側』にあるのか?」

「ええ。地獄に存在する封印の地『グレダ東砦』と、お前の言う『一本岩』の位置はピッタリと一致してた」

 

 羽衣に浮かんでいる2つの地図がゆっくりと移動して1枚に重なった。

 地獄がどういう風に存在しているかはイマイチ把握できていないが、要するに一本岩はヤバい場所に繋がっているという事だな。

 

「連中の目的は確定したと言って良さそうだな。

 メルクリウス。どうすれば阻止できる?」

 

 テーブルの上の鏡(かのんが用意した)に向かって問いかける。

 メルクリウスからの返答はすぐに返ってきた。

 

『現地を見てみないと断定はできないが、人間界の側からグレダ東砦を再封印してやれば概ね問題ないだろう。

 瘴気に満ちた冥界での作業よりはずっと簡単だ。我々が人柱になる必要すら無い。

 封印作業自体は10分もかからないだろう』

「そんな簡単でいいのか?」

『ヴィンテージの妨害を無視した場合の話だ。

 連中ごと封印してしまうと中で何をされるか分からん。

 ヴィンテージも、何匹か来ているかもしれない旧悪魔たちも綺麗に一掃してからの封印となる。

 普通に考えれば我ら姉妹が揃っていて負けるはずは無いが……油断していると少し前のミネルヴァの二の舞になる』

 

 旧地獄の暗殺魔術はエルシィですら昏倒させる威力だった。

 今の女神たちなら1発か2発くらいなら問題ない気もするが、ダース単位で刺されたら流石に死ぬんじゃないだろうか?

 果たしてそれだけの数の狂信者やら捨て駒やらが居るのかは分からないが……そういう可能性も一応あるわけだ。

 

『まぁ、油断しなければ良いだけの話だ。明日、決着を着けに行くとしよう。

 そろそろお前たちの訓練も始めたい。他に話す事が無いなら始めるぞ』

 

 情報の共有も完了し、今後の方針も決定した。メルクリウスの言う通りもう大丈夫そうだ。

 理力の活用か……前にディアナは3階から飛び降りて平気そうにしていたが、実はあれも理力によるものなんだろうか?

 身体能力の向上が期待できるならしっかりと学んでおこう。より多くのゲームを一度にこなすのにきっと役に立つから。


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