もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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56 理力操作

『訓練を始める前に……ミネルヴァ、ちょっと来てくれ』

「……こうでしょうか?」

 

 エルシィがテーブルをよじ登って鏡の前に正座した。

 

『違う、そうじゃない。我が宿主の隣に来てくれ』

「そっちでしたか。はい」

 

 テーブルから降りて僕の隣に立った。

 あと、かのんは誰かに何かを言われるまでもなくずっと僕の側に居た事も説明しておこう。

 

『桂木、2人の首輪に触れてくれ』

「首輪? ああ、地獄の契約の奴か」

 

 そう言えば、これもエルシィが使っている道具の一つだ。

 ただの飾りでなければこれも理力を使う道具って事になるな。

 そんな事を考えながら言われるがままに2人の首輪に触れた。

 

『………………改造完了だ。見た目の変化は無いが、色々と都合良くいじらせてもらった』

「早いな!?」

『お前の首輪の解析はずっと進めていたからな。と言うかそれくらいしかやることが無かった』

「流石は叡智の女神と言うべきなのか……?」

「どんな改造をしたの?」

『まず、一応入っていたギロチン機能の破壊だ。これで地獄の契約に縛られる必要は無くなったな』

「マジで入ってたのかよその機能」

『ミネルヴァ姉様に配慮したのか、作動条件はかなり厳しかったようだがな。

 もう一つの改造は『リンク機能の強化』だ。

 元々この首輪にはリンクしている首輪の持ち主の死を感じ取って自爆する機能があった。

 その機能を都合の良いようにいじらせてもらった』

「具体的には?」

『一言で言うと『情報の伝達』だ。

 お前たち3人と私で念話が可能になった。

 話すだけではなく、言葉で現すのが難しいようなイメージ等を送る事も可能だ。ある程度の訓練が必要だがな。

 私の『叡智』を伝えるためにも必須の機能となる』

「なるほど。だから訓練前にわざわざ改造したんだね?」

『あともう一つ。姉様とのリンクを構築する事で『互助』の恩恵を受ける事ができないかと目論んだのだが……できてはいるもののかなり効率が悪いようだ。

 互助の本来の権能と比較して20%程度といった所か』

 

 一応、素の状態よりは強くなっているらしい。

 ミネルヴァの能力は元がチートだから20%でも十分な気もするが……どうなんだろうな。

 

『まあいい。これで下準備は整った。訓練を始めるぞ』

「……メル、ちょっと気になったのですが、あなた随分とやる気がありますね。

 いつも面倒臭がりだったはずなのに、どうしてですか?」

『姉上、そんな事も分からないのか。とても単純な話だ。

 私は、知りたいんだ。理力を得た人間が、魔力を得た人間がどれだけ強くなれるのかを。

 女神にも悪魔にもできない事を実現している、人間の可能性のその先を』

「……愚問だったようですね。神様と姫様を宜しくお願いします」

『無論だ。では始めよう。

 まずは自身の理力を感じ取る事から……』

 

 

 こんな感じで理力活用の訓練が始まったわけだが……こんな一般人には感知すらできないようなエネルギーの説明を細かくした所で無意味だろうから巻きで進めていく。

 分かりやすそうな所だけかいつまんで描写させてもらおう。

 

 

『姉様、手伝え』

「何でしょうか?」

『姉様に触れる事で理力を大幅に増幅できる事はお前たちに説明するまでもないな?

 故に、触れたり離したりを繰り返す事で自身の中で何かが増減する感覚があるはずだ。

 その感覚をハッキリと掴む事ができれば第1段階は完了だ。

 ……ああ、そうそう。互助の権能はユピテルの姉妹が相手でなくとも有効だ。効果はかなり落ちるがな』

「っていう事は私でも使える方法なんだね。よし、やってみる。

 エルシィさん。ちょっと手を出して」

 

 

 そんな感じで、ものの数分で理力の感覚を掴み……

 

 

 

『理力を身体中に広げて固めるイメージだ。それだけで身体能力の向上が期待できる』

「……意外と難しいな」

「できたっ! こんな感じだよね?」

「早いな!?」

「無意識とはいえ結構前から理力を使ってたみたいだからね。それを意識して使っただけだよ」

「くっ、負けてられるか!」

 

 

 かのんに少し遅れて身体強化を習得し……

 

 

 

『ある程度の理力制御ができるようになったなら術を教えても大丈夫そうだ。

 宿主である桂木はともかく、歌姫の方は戦闘中に教えている暇はあまり無いだろうからあらかじめいくつか教えておこう』

「うわっ、何か頭の中に変なのが……」

『雷撃関係のいくつかの術式を脳に直接送った。例えば、スタンガンの電力の強化とか。

 あと、簡単な治療術の術式も送っておいた。専門のアポロ姉様ほどではないが、かすり傷程度なら簡単に治せる』

「えっと、これをこうして……えいっ!」

「あばばばばばばばばば!!!」

「あっ、ごめん桂馬くん!!」

『明後日の方向に電撃が飛んだな。操作性に難アリか。要改善だな』

 

 ※黒焦げになりますが安全なスタンガンです!

 

 

 突然電撃を喰らい……

 

 

 

「お風呂上がらせてもらったわ。

 あれ? 何か桂木が黒焦げだけど大丈夫?」

『問題ない。ああ、丁度いい所に来た。

 魔力による身体強化の方法を教えてくれ』

「方法? 簡単なのなら、魔力を身体中に広げて、それを維持するだけである程度強化できるけど……」

「つまり理力とほぼ同じだね。こんな感じか」

『理力による強化と魔力による強化は競合しない……か。

 あくまでも使い手の問題であってエネルギーそのものは対ではないのだな』

「……何か凄い事をサラッとやっているのは気のせいかしら?」

 

 

 時にハクアにもアドバイスを貰い……

 

 

 

「そう言えば、僕は魔力は使えないのか?」

『お前の肉体からは魔力を一切感じない。

 他の女神の宿主もそうだったからおそらくは女神の宿主になった副作用のようなものだろう。

 私が出ていけば魔力を使えるようになるかもしれないが……現状では絶対に不可能だ』

「そういう事なら仕方ないか。

 ……って言うか、その辺の知識があればかのん宿主説を完全に除外できてたな」

「た、確かに。思いっきり魔力を使ってたね、私」

『先ほども言ったが、理力と魔力のハイブリッド運用は女神にも悪魔にも不可能な事だ。

 ドクロウの正確な意図までは分からないが、魔力と理力の精製装置をペンダントに仕込んでいる時点でそういう方向性の強化を目指していたのは断定できる』

「……ドクロウ室長は私に何をさせる気なの」

『特に深い意図もなく、確実に駆け魂を仕留められるようにできるだけ強化しようとした可能性もあるな』

 

 

 そんな重要な情報が今更明かされたり……

 

 

 

「そう言えば気になってたんだけど、駆け魂討伐って主にエルシィさんの力なんだよね? 私自身の力じゃなくて」

『そうだな。理力による結界に歌を反響させる事で駆け魂まで伝達し、ダメージを与えている。理屈としてはただの大声でも討伐は可能だ』

「うっ、そ、そうなんだ……」

『ただ、正の感情が込められた歌が媒介として非常に適しているのも確かだ。大声による討伐も理論上可能という話であって、悪魔を弱らせる程度ならまだしも魂滅させるというのは普通は不可能だ。そう気を落とすな』

「あ、ありがと……」

『……復活した今の女神ならあの程度の魂は一撃で消し飛ばせるがな』

「…………」

「おいメルクリウス。お前はかのんを励ましたいのか貶したいのかどっちなんだ」

 

 

 そんな感じで夜は更けていった。







 叡智の女神様は知識欲を満たす事に関しては誰よりも貪欲なんじゃないかと勝手に想像してます。

 前章もかのんちゃん覚醒イベントだったけど、本話もかのんちゃん覚醒イベント(物理)
 いや、物理じゃなくて魔力とか理力なんだけどさ。(戦闘面)の方が正確ですね。
 なお、物理攻撃力もしっかり上がっている模様。師匠の拳と互角くらいにはなってる気がします。
 人外の力を借りたとはいえ師匠に追いつくかのんが凄いのか、そこまでやらないと追いつけない師匠が凄いのか……

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