本作のかのんちゃんは今日も元気です。
学校の近くまでは大人しく連行されておいたが、流石にこの状態で学校に入るのは不可能だ。
「こんな目立つ状態で、部外者の格好をした奴を2人も連れて入るのは流石に無理だ。
お前たち、手を離してくれないか?」
「うぅん……正論だね。仕方ないか」
「…………」
かのんは納得しながら手を離し、天理も無言で手を離した。
その直後、天理の身体が一瞬ガクッと沈み、すぐに元に戻った。
「……天理は気を失ってしまったようですね」
「おいおい、大丈夫か?」
「問題ありません。桂木さんとの長時間の接触で緊張し過ぎただけです。
手を離した瞬間に緊張の糸が切れてしまったようです」
「限界を越えてまで抱きつこうとするなよ……」
かのんへの対抗心だけでそこまでやるとはな。
バカだが……大物だな。
「ハクア、居るか?」
「ええ。ずぅぅぅっと居たわよ。随分とお楽しみだったみたいねぇ?」
「ならお前も今度経験してみるといい。連行される気分が味わえるぞ」
「れ、連行……? ……ちょっと勘弁して欲しいわ」
「……そうか。
それじゃ、かのんと天理にも透明化をかけて侵入してくれ。
入ったら……軽音部の部室にでも居てくれ。あそこなら祭りの最中には人は来ないだろう。
僕達は女神を集めてからそっちに向かう」
「分かったわ。気をつけてね」
ハクア達が透明化で姿を消し、残ったのは僕とエルシィだけだ。
それじゃ、女神を回収していこう。麻美と美生と歩美だな。
回収は滞り無く済んだ。女神の事で重要な話があるから集まってくれと言ったらすぐに着いてきてくれたよ。
……何か余計なのまで居たが。
「重要な時に世話になっている部長と副部長と会計の方々がこの部屋を使いたいと仰るなら構いませんが……私たちが居るとは考えなかったのですか?」
「居る可能性は考えてはいたが、居るならどうせ歩美も居るだろうからここでいいかなと」
「女神だの地獄だの、訳の分からない事に悩まされるのは鬱陶しいです。早く解決して下さいね」
「鬱陶しいというのは賛成だ。祭りが始まる前に……というのは流石に無理だが、可能な限り早く解決して気兼ねなく祭りに参加するとしよう」
案の定と言うか、軽音メンバーもほぼ勢ぞろいだった。京だけはクラスの方でも何かやってるらしくて来ていない。
というわけで、ここに居る(地獄の事に関する)部外者は、結と……
「か、桂木……これって一体どういう状況なん?
どういう集まりなのこれ?」
「……後でまとめて説明するんで僕達の会話はテキトーに聞き流しててくれ」
……軽音部の
僕もコレの扱いをどうしようか迷ったんだが……前に『僕の好きな人』に関して誤情報を並べ立てた事があったからな。結局役に立たなかったっぽいが、放置しておくのも後で面倒な事になりそうだ。例えばちひろが僕と歩美との仲を取り持とうとしたりとかな。
そういう不穏なフラグはこの際まとめてヘシ折っておこう。なに、元からこの集まりは爆弾だらけだ。1つ増えた所で構わないさ。
ここで、一度今回の集まりの目的を纏めておこう。
女神達に伝えなければならない事はシンプルだ。『女神6人復活して、悪魔の本拠地も見つかったからぶっ潰しにいくぞ』である。
その言葉だけで全員が一致団結して悪魔を殲滅してくれるなら話は簡単なんだが……それだけ告げてハイおしまいっていうのは無理だろう。
事情を知らない美生は間違いなく説明を求めてくるだろうし、ある程度は把握しているものの突っ込んだ説明はまだしていない歩美も、美生が質問をするなら間違いなく追従するだろう。しかも、その2人が宿している女神はウルカヌスとマルス。仮に怒らせても死にはしないと思うが、とにかく取扱い注意だ。
逆に絶対に安全な女神はミネルヴァとメルクリウスだな。理由は説明するまでもなかろう。
……いや、ミネルヴァと言うかエルシィは別の意味で危ういが。妙な失言はしない……事を信じよう。
アポロは……ちょっとよく分からないな。ただ、麻美は完全に僕の味方になってくれるはずだ。
ディアナ、そして天理。極端に物騒なわけではないが……正直読みきれてない。
あと、ハクアも居る。ハクアも戦闘に参加する事になるだろうから居るのは当然だな。ここもまぁ安全だな。
……そして、重要な人物がもう1人。
「……桂木、さっきからくっついてるのはあんたの従妹よね!? 一体何なの!?」
「後で色々と纏めて説明するつもりだ。ほんの少しだけ待っててくれ」
「……はぁ、分かった。早くしてね」
美生の台詞にもあったように、椅子をピッタリとくっつけて僕のとなりに座ってくっついている、かのん。
どうやら火に油を注ぐ気満々らしい。かのんのサポートは期待できそうにない。
まぁ、今回の集まりではその場凌ぎで不完全燃焼させるよりも大炎上させて色々とハッキリさせた方がメリットが大きそうだからある意味サポートなんだが……なんだかなぁ。
……まぁ、そんな感じだ。
とりあえず、やってみようか。
「まず、簡潔に言わせてもらおう。
女神が6人全員揃った。
悪魔の本拠地ももう分かってるからもうちょっとしたら殴り込みに行くぞ」
僕の言葉に対して、事情を知っている者は驚いたような顔を、知らない者は何が何だか良く分かってないような顔をしている。
当然、鏡の中の女神(エルシィを除いて全員分が机の上に並べてある)は事情を知っている方だ。
「で、女神たちに訊きたいんだが、今すぐ殴り込みに行くのと夜まで待って夜襲するの、どっちがいい?」
一応事前にエルシィとハクアとメルクリウスにも同じような質問をしてみた。
エルシィは『よく分かりません』
ハクアは『闇夜に紛れるっていう意味でも人目を避けるっていう意味でも夜襲の方がいい』
メルクリウスは『どっちでもいい』
そんな感じの答えが返ってきた。一応、夜襲の方が優勢のようだが、何とも言えないので実際に戦う女神達に訊くべきだろう。
今、この場でまず口を開いたのはマルスだった。
『桂木、そんな漠然と言われても簡単には決められない。
どちらの方が良いかなんて場合によるとしか言いようがない。
まず……場所はどこなんだ?』
「確かに、その辺も説明しないとな。
うちの近くの海の『一本岩』で全員理解できるか?」
『一本岩? ……歩美の記憶にちゃんとあるようだ。
…………遮蔽の無い海の上か。であれば、夜行くのは逆に危なくなりそうだ』
「……ああ、そうか、光ってたら逆に目立つよな」
『そういう事だ。日が照っている正午に行くのが一番だろう』
マルスだけでなく他の女神達も頷いている。
事前調査ではどっちでも良いと答えていたメルクリウスも……
(夜だと逆に目立つというのは盲点だった。
そういう事なら正午頃でいいだろう)
……との事だ。
なお、今のは鏡での会話ではなく念話だ。
「良し分かった。ハクアはそれでいいか?」
「昼に戦わなくちゃいけないなら透明化でも対応できるから問題ないわ。
あとは……祭りをそっちのけで海を眺めてるような変人がそう居ない事を祈っておくわ」
「りょーかい。
それじゃ、業務連絡は終了だ。12時に再びここに集まるまでは自由に過ごしててくれ」
「集合場所はここで確定なのですか……まあ構いませんけども。鍵はここに置いておきますね」
「あ~、そうだな。ありがとな結」
羽衣さんならピッキングも余裕だが、一応鍵も預かっておこう。
改めて皆の様子を伺うが、案の定誰一人として出ていく様子は無い。
「……どっから話すべきかな。
そうだな……美生、今お前が一番知りたい事って何だ?」
「そりゃもう色々と訊きたい事はあるけど、一番は……そこの従妹の事ね。
一体何なのその子!!」
「まぁ、そこだよなぁ……」
かのんはここに居るほぼ全員からの鋭い視線を飄々と受け流して今も僕にべったりとくっついている。
この話題になるようにかのんが誘導した……のかもしれない。
(……かのん。この質問になるように狙ってたか?)
(え? いや、そんな事全然考えてなかったよ)
偶然だったらしい。まあいいか。
僕とかのんとの関係か。
『一言では言い表せないようなただならぬ関係』とでも言えば一言で終わるが、それでは絶対に納得しないだろう。
じっくりと、時間をかけて話していこうか。幸い時間はたっぷりあるからな。
最初は『遮蔽の無い海の上だから闇夜に紛れて襲撃』という線で行こうかと思いましたが、女神たちってメッチャ光ってるので逆に目立ってしまい没に。
発光くらいは隠蔽できるみたいな設定にしようかとも思いましたが、会話量が無駄に増えそうなので止めておきました。ストーリー的には『今すぐ行く』以外なら何だって良かったし。
部室の中の人数
・桂馬 ・メルクリウス
・かのん ・エルシィ ・ハクア
・天理 ・ディアナ
・美生 ・ウルカヌス
・麻美 ・アポロ
・歩美 ・マルス
・結 ・ちひろ
計15名。
……こんなに居たのか。通りで大変なわけだよ!
このまま進めると筆者が地獄を見るので策を凝らします。