もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

331 / 343
61 歩美の質問・麻美の質問

「じゃあ歩美、質問は?」

「……質問って言うかルール確認なんだけど、いい?」

「それが質問か?」

「違うわよ!!」

「ハハッ、冗談だ。で、何だ? ルール確認であればノーカウントで構わんぞ」

「それじゃあ……この質問の順番って何周するの?」

「時間の許す限り、全員が満足するまでだろうな。

 質問は1回こっきりという事はまず無いだろうから安心してくれ」

「2周目以降の順番ってどうなるの?」

「……偶数周目は逆にするか。

 お前は次の周は最後な」

「分かった。じゃあ、質問。

 桂木……あんたに好きな人は居る?

 一応言っておくけど、ゲームのキャラは除いて。この現実世界で、好きな人は居る?」

 

 『好きな人』とだけ言われると恋愛感情以外でも一応成立するな。

 だがまぁ、ここは捻くれた答えは出さずに真面目に答えておこう。ここで騙す意味は皆無だ。

 

「答えは『NO』だ。

 今現在、現実世界の住人で僕が恋愛感情を抱いている相手は存在していない」

「……分かった。ありがと」

 

 その答えに対して一部の人、とくに美生が何か言いたそうな顔をしているが、ルールに従って黙ってくれているらしい。

 さて、次の指名は……

 

(……かのん、お前の質問ターンは要らないよな?)

(え? うん。私に質問したい事は無いから飛ばしちゃっていいよ。

 あれ? もしかして攻略順?)

(そんなとこだ)

 

「じゃあ次、麻美」

「……えっ、あ、私もいいの?」

「ああ。特に無いならパスでもいいが、どうする?」

「……じゃあ、私もルールの確認。

 質問の相手って桂馬君だけじゃなくてかのんさんでもいいの?」

「そうだな……まあ良いんじゃないか?」

「私は構わないよ。嘘偽り無く、誠心誠意答えるよ」

「分かった。じゃあ質問します。

 かのんさんが桂馬君の許嫁を自称しているのは何で?」

「そこかぁ……最低限だけ答える事もできるけど誤解を招きそうだね。

 結さん! ちょっと黒板借りるよ!」

「どうぞご自由に。後で消してくださいね」

 

 かのんが黒板に駆け寄り、チョークを手に取る。

 駆け魂狩りの超簡単な説明をここで行うつもりのようだ。

 

「女神様たちには説明するまでもないけど、この世界には今私たちが居る『人間界』の他に2つの世界がある。

 『天界』と『冥界』。

 冥界は今は『地獄』って呼ばれてるみたいだけど、とりあえず『冥界』で統一しておくね。

 

 300年くらい前、冥界の一部の悪い悪魔が悪い事を企てようとした。

 それを阻止しようとした残りの悪魔は天界の女神と手を組んで、その悪い悪魔を封印した。

 

 そして現在。封印の力は当初と比べるとかなり弱くなっていて、肉体を捨てて魂だけの存在になればすり抜けられるくらいになってる。

 そんな悪魔の魂は人間界に流れ着く。

 その悪魔の魂が悪さをする前に狩るのが私と桂馬くん、そしてエルシィさんのお仕事だよ」

 

 そんな感じの説明を、大雑把な絵を書きながら行っていた。

 

「……かのんさん。そこまではもう知ってるよ」

「知らない人も居るからさ」

「……続き、お願いします」

「うん。

 魂だけの悪魔……駆け魂は厄介な場所に隠れる。

 それは、『人の心のスキマ』

 駆け魂を討伐するにはまずは何らかの方法でそこから追い出してやる必要がある。

 方法はいくつかあるみたいだけど……エルシィさん。一番の方法は?」

「それは勿論、『恋愛』です。

 愛こそが心のスキマを埋める最上級の感情です」

 

 かのんからの振りにエルシィがキリッとしたドヤ顔で答えた。

 女神モードなんで微妙に文言は変わっているが、内容はあの時と全く変わってないな。

 

「……っていうわけで、駆け魂狩りの際には何名か恋愛を使って攻略させて頂きました。桂馬くんが。

 えっと……何人くらいだっけ?」

「……6人。天理も入れるなら7人だ」

 

 正確には天理は攻略していないが、攻略のフリはした。

 『キスしたか否か』で判断するのであれば天理も含まれる。

 

「それで……その7人のうちの2人目が私なんだよ」

「…………えっ、ええっ!?」

「当時、1人目を攻略した直後で、私は全ての事情を把握していた。

 そんな状態で恋愛ってできると思う? 桂馬くんの性格もある程度は把握できてたから、100%打算の恋愛になるってほぼ確信できたよ」

「でも……実際にはちゃんと……ちゃんと? 恋愛できたんだよね?」

「うん。その時に使った桂馬くんの手法っていうのが、

 『強制された恋愛関係』からの攻略。

 こういうのを、ギャルゲーの世界では『許嫁ルート』って言うらしいよ」

「何でそれが許嫁に……?」

「えっと……桂馬くんパス」

 

 ここでパスが飛んできた。確かに僕から説明する方が良さそうだ。

 

「ギャルゲーというものは『お約束の展開』みたいなものが無数に存在する。

 どっかの名家同士が政略結婚を目論んでいて、それを成功させる為に主人公とヒロイン……許嫁たちにやたらとプレッシャーを掛けてくる展開とかな。

 そういうのが多いから、『強制された恋愛関係』の代表的なものとして『許嫁』という言葉が使われたんだろう」

「……っていう事だよ! 麻美さん分かった?」

「一応分かった……気がする」

「それじゃあ話を戻すね。

 そういうわけで私は桂馬くんから『許嫁キャラ』として攻略されました。

 その時の事をネタにしてからかってるだけっていうのが質問に対する回答かな」

「そういう事だから、世間一般でいう許嫁……『婚約者』という意味は皆無である事を明言しておこう。

 かのんが僕にとてつもない好意を主張している事までは否定できないが……将来を誓い合ったとか、愛し合っているとか、そういう関係ではない事は確かだ」

 

 そんな補足と共に、麻美からの質問に対する回答を締めくくった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。