一本岩から少し離れた海岸線に彼女は居た。
「……追ってこない、か。臆病なのか慎重なのか。まあどっちでもいいけど。
女神の姉妹が全員復活してるならヴィンテージの連中の勝ち目は薄そうだ。
はぁ、やってらんないよ。折角お仕事を頑張ったってのに」
彼女……リューネは察していた。ほぼ間違いなく女神は全員復活している事に。
そして同時に、実際に戦って理解していた。2~3人程度であれば撃退は可能だが、6人全員に襲われたら恐らく負けるであろう事を。
「コロシアイは好きだけど別に死にたいわけじゃないんだよね。
まぁ、この計画が潰れた所でお偉いさん方はまた別の計画を練るでしょ。
面白い計画を立てるのに期待しよっか」
彼女がしばらくのんびりと海を眺めていると陸地の方からいくつかの光が見えた。
女神と宿主たちが一本岩の方へと向かっているらしい。
彼女はそれをぼんやりと見送った。
そんな彼女に、不意に声が掛けられた
「……こんな所で何をしている」
「……それはこっちのセリフだよ、リミュエル」
彼女が億劫そうに振り向くと戦う気満々で鎌を構えるリミュエルがそこに居た。
「あ~、今は戦いたい気分じゃなんだよね。見逃してくんない?」
「戯言を、何故私が見逃してやらねばならぬ」
「面倒だなぁ。って言うかホント何でこんな所に居るの。
グレダ東砦はあっちだよ」
「心配するな。既に私の部下が向かっている。
私がわざわざ出向く必要も無かろう」
「うわっ、ヴィンテージの奴らどんだけ下に見られてんの」
「無論、私が出向いた方が確実に勝利できるだろうが……
お前のような狂人を野放しにするリスクの方がずっと高いじゃろう」
「放っといてくれりゃいいのに。
はぁ、まあいいか。あっちの戦いが終わるまでお喋りでもしようよ。
どうせ突っ込んでくる気は無いんでしょ?」
「…………」
こうなる事を予期していたのか、それともただの趣味かは知らないがリューネの周りにはいくつかのトラップが仕掛けられており、敵を迎え撃つ為の簡単な陣地の構築が完了している。
不意打ちも不可能であり、短期決戦を仕掛ける事もできない。
この場所から引き剥がす事ができればまた事情は変わってくるが……生憎とリューネに動く気は無さそうだ。
「……仕方あるまい。向こうの決着が着くまでお前を監視させてもらうとしよう」
「それがいーよ。真面目に働く悪魔なんて人間のイメージぶち壊しだし」
そんな会話をしながらもお互いに警戒を絶やさず仕留める機会を虎視眈々と狙っているのは流石は歴戦の悪魔だと言うべきだろう。
敵との口約束に拘束力など存在しない。あるのはお互いに牽制しあえる程度の実力と判断力だけだ。
「うわ~、ピカピカしてるね。
女神の力ってのは凄いねホント」
「…………」
「お、あの大岩がスパッと切れた。
ああでも私でも頑張ればあれくらいはできるか。面倒だけど」
「…………」
「……何か喋ってくんないかな。これじゃ私がイタい人みたいじゃん」
「…………」
「……あ、そろそろ終わりっぽいね。
あれが伝説の封印術……の、簡易版か。
地獄の方の封印と比べるとお粗末なもんだけど、破るのには結構手間がかかりそう。どう思う?」
「…………」
「ホントに喋る気無いんだね。まあいいや。
そろそろ私は帰るから、その辺のトラップの後処理頼んだよ~」
一方的にそう告げたリューネは一本岩とは逆の方向へと飛び去って行った。
急いで後を追う事もできたが、ついさっきまで主戦場であった場所を去るというのは指揮官としては頂けない。
女神の復活と旧地獄の再封印という最大の目標が果たされた今、無理に深追いして仕留めにいく必要も薄い。
目視できなくなる距離まで見送ってからリミュエルは淡々とトラップの処理を行った。
最終決戦を敵のボスクラスのキャラの視点で語るとかいうある意味前代未聞な演出。
戦闘なんて飾りです!