桂木桂馬と吉野郁美が手を組んでから数日後の話である。
その日、吉野麻美……私は帰宅してきた妹からこんな話を聞かされた。
「明日の休日さ、私の友達と一緒にガッカンランドって所に行くんだけど、お姉ちゃんも一緒に行かない?」
正直な話、全く気が乗らなかった。だけど郁美から、
「ほら、お姉ちゃんが頑張ってる人と付き合えるようになる訓練の一環だと思ってさ」
そう言われてしまうと無下にはできない。
でも、私が人付き合いを苦にしている事は妹も良く知っているので断ったくらいで機嫌を損ねるような事も無いだろう。
最近は体調もあまり良くないので断ろうと口を開き掛けた。
「あ、そうそう。あの桂木くんも来るんだってさ♪」
「……え?」
断る為に開き掛けた口から間抜けな声が漏れる。
なんで? どうして??
私がそう口にする前に察してくれたのか、それとも予め台詞を用意してあったのか、妹が理由を言う。
「なんか、私の友達の友達の友達がたまたま桂木くんだったんだってさ。
あ、それでどうする? 行く?」
さっきまで断る気満々だったはずなのに。
「行く」
反射的にそう答えてしまった。
そしてそれを聞いた妹は満足そうに頷いていた。
翌日。
私は集合場所であるガッカンランド前の大きな銅像の所まで辿り着いていた。
よく目立つ場所なので集合場所としてよく使われるのだろう。私とは全く関係ない他人も何人か集まっている。
だけど、見知った人は居ない。
そう、誰も居ない。郁美さえも。
私は当然妹と一緒に行くものと思っていたのだが、用事があるとか何とか言って先にでかけてしまった。
郁美が誘ったんだから一緒に来るべきだとか堅苦しい事を言うつもりは無いけど、なんだかなぁ。
……ところで、誰も来てないんだろうか? そろそろ集合時間のはずなんだけど……
って言うか、今日来る人を知らない。郁美と桂木君くらいしか分からない。
郁美はもちろん、桂木君も時間に遅れるような人には見えないんだけどな……
もしかして私が気付いてないだけでもう近くに居る?
そう思って辺りを見回してみるけどそれらしい人影は無い。
もしやと思って銅像の裏を確認してみる。
すると、居た。
いつものように携帯ゲームをしている桂木君が立っていた。
声をかけるべきなのだろうか? しかし声をかけても良いのだろうか?
しばらく躊躇したあと意を決して声をかける。
「あの、桂木君」
「ハッ!」
桂木君は私が声を掛けたのとほぼ同時に持っていた携帯ゲーム機を空に向けて突き出すと言う奇抜な行動に出た。
ビクリとする私を気にする風も無く、突き出した腕を元の高さまで戻す。
「ふむ、一回でちゃんと入ったか。意外と良いスポットだな」
「あの……」
「折角だから他のイベントもダウンロードしておくか。追加コンテンツを無料で配布してくれるのはありがたい」
「…………」
ゲームに夢中……なのかな? 存在を気付かれてないみたいだ。
「よし、って何だコレは! こんな酷いクオリティのイベントがあるか! いくら無料でもユーザーを舐めすぎだろう! この会社のゲームはもう買わん! 通常版しか」
桂木君は何事かに憤慨したら顔を上げた。
そして、目が合った。
どうしよう、何か言わないと。
そんな風に考えてて沈黙してた私への第一声がコレだった。
「何だ、居たのか」
そんな、凄くマイペースな発言だった。
……桂木桂馬。
自分は本当に彼の事が好きなのだろうか?
授業中とかお昼休みとか、ついつい彼を見つめてしまっている。
振り向いた彼と目が合った時にはもの凄く焦ったし、その日の下校中に彼が声をかけてきた時は表面上は何とか平穏に振る舞ってたけど心臓の音が聞こえそうなくらいどきどきだった。
これは恋……なのだろうか?
ただ一つだけ言える事として、私は彼の事がもの凄く気になるのである。
だけど理由はよく分からない。
今日ここへ来た理由の一つとして、この良く分からない気持ちの正体が分かるんじゃないかという期待があった。
彼と直接話せば分かるような気がしたのだが……何だか不安なスタートである。
「よし、それじゃあ行くか」
「え? え? あの!」
桂木君が一人でさっさと建物に入ろうとするのでしどろもどろになりながらも何とか言いたいことを言う。
「待って、妹は? 他の人は?」
「ん? 何だ、聞いてないのか?
君の妹とエルシィは一時間後、他の人は更に後だ。
最初は僕達二人だけだぞ?」
…………え?
混乱しそうになりながらも桂木君の言葉をよく吟味する。
そして……
「えええええええええっっ!?」
思わず叫んでしまったけど、私は悪くないと思う。