良い開発会社を選ぶ……かぁ。
それって究極の答えと言うか……もっと私自身にできる事は無さそうなのかな?
ゲーム自体は会社が作るから私たちにできるのはそれくらいしか無いのかもしれないけど……
……私にできる事を精一杯やるしか無いか。
「岡田さん、少し良いですか?」
今の私にできるのはスケジュールを組んだ岡田さんから情報を引き出すこと、かな?
「? どうかした?」
「さっきのゲームの企画の事なんですけど……」
「やけに気にするわね。何か気になる事でもあるの?」
何て言って切り出そうかな?
この場に開発会社の人が居るわけでも無いから、結構強めに訊いて大丈夫かな。
「この会社って信用できますか?」
「え? えっと……それはどういう意味かしら?」
……ちょっと強すぎたかな? まあいいや。
「あ、すいません。『ちゃんと良いゲームに仕上げてくれるか』って意味です」
「ああ、そういう話ね。
残念だけどちょっとよく分からないわ」
「え、分からないんですか?」
流石の岡田さんもゲーム会社の実力までは把握してなかったらしい。
当然と言えば当然だけど、そうなると新たな疑問が出てくる。
「それじゃあ、どうしてこの会社にしたんですか?
何か実績や実力以外の判断基準があったんですか?」
「簡潔に言ってしまえばお金の問題ね。何社からか似たような提案はあったけど、そこの案が一番多い収益が見込めたからよ」
「な、なるほど……」
大人の世界ってそんなものだよね……
でもそうなってくると心配だ。ちゃんとした会社なのだろうか?
「……かのん、大丈夫?」
「え、あっはい」
「この件はほぼ確定したようなものだけど、まだ正式な契約は結んでないわ。
だから、今から断る事も可能よ」
「そうだったんですか?」
「ええ。だから今日よく確認して、大丈夫な事を確認してから契約しましょう」
これはありがたい情報だ。
契約が既に結ばれてたらどうするか具体的な事は全然考えてなかったけど、そんな事考える必要は無くなった。
本当に悪い会社だったら断れば良いだけだ。
「でも、大丈夫なんですか? 半ば決まったような状況で断ったら評判が悪くなるんじゃないですか?」
「あの程度の企業が起こす悪評ごときで私たちの評判は小揺ぎもしないわ」
岡田さんが凄く男前だ。ホント頼りになる人だ。
この人が私のマネージャーさんで本当に良かったよ。
「でもどうしたの突然、わざわざそんな事気にするなんて」
「えっと……」
正直に話しても大丈夫かな?
うん、きっと大丈夫。
「最近仲良くなった
だから、少しでも恩返ししておきたいんです。か……あの人、凄くゲームが好きなので少しでも良いゲームをプレゼントできたらなって。
私ができる事なんてたかが知れてるかもしれませんけどね」
「お友達? いつの間に?」
「学校でちょっと色々ありまして」
「ふぅん、なるほどね。そういう事なら彼氏に良いゲームをプレゼントしてあげましょう」
「は……え? あの、彼氏じゃないですよ?」
「あら、そうだった? 何となくそんな気がしたんだけど、気のせいだったかしらね」
い、今の、カマかけられてたんじゃぁ……?
アイドルだから恋愛禁止! って明言されてるわけじゃないんだけど、多分良い顔はしないよね。
そういう噂が立つだけでも結構な打撃になるらしいから岡田さんとしても把握しておきたかったのかな?
……桂馬くんの家に寝泊まりしてる事は流石にバレてない……と思う。その辺は割と徹底して隠蔽してるから。
「さっきも言ったけど、ゲームの打ち合わせは夕方頃だから。
とりあえず次の仕事をこなすわよ」
「はいっ!」
「ふぅん、なるほどな」
昼休み、中川からメールで連絡を受けた。
収益の問題で選んだ会社ねぇ……
具体的にどの会社なのかも聞きたかったのだが、部外者である僕が聞くのは流石にマズいらしい。
って言うか、収益が『見込める』って何だ? アイドルの収益なんて最初に名前を貸す時に金を取るくらいだと思うんだが。
売上金の一部が事務所の方に流れ込むとか?
それって、『コケたら収益減るからお前らも全力で宣伝しろよ』的な脅しなんじゃないのか?
アイドル事務所の側が頑張るだけ収益が増えるという良い契約とも取れるわけだが。
ゲーム開発の収益の流れなんて僕でも詳しくは知らないから実はこれが一般的なのかもしれんが……ちょっと気になるな。
……まあいいや。とりあえず適当に意見だけ送って、後は中川に何とか判断してもらってヤバかったら断れば良い。
問題はこっちだよ。
「ねーねー、姫様って誰なの?」
小阪が、鬱陶しい!!
くそっ、
「だから、僕も知らんと言ってるだろ」
「いや、さっき電話で長話してたじゃん。知らないって事は無いでしょ」
「……よくは知らないという意味だ。
確か親戚の一人でエルシィにそんな風に呼ばれてた奴が居た気がするが……
僕は
という事にしておこう。
「ふーん、向こうはオタメガの事知ってたの?」
「らしいな。ったく、どこで目を付けられたんだか」
「さっき他校の人とか言ってなかった?」
「忘れてただけだ」
「う~ん……まいっか。そういう事で」
完全に納得したわけでは無さそうだが、追求は止めてくれたようだ。
ふぅ、良かった良かっ……
「神様! お昼食べましょ!
今日も姫様の手作りのお弁当ですよ!!」
「よし、さっさと食おう。屋上で」
「ちょっと待ちなさい!! 手作りってどゆことよ!?」
さっさと小阪から逃走する。
エルシィ、お前わざとじゃないだろうな……?
はぁ……小阪にどう説明するか。いや、説明する義務なんて無いんだがな。
いや、この際設定を作りこんでエルシィに徹底させるくらいはした方が良いか。
くそっ、何で僕がこんな事を考えなきゃならないんだよ。
その後、屋上で弁当を食った。
普通に美味いからちょっと腹立たしかった。
……一方その頃……
「あらかのん、今日もお弁当なの? しかも手作りの」
「はい、最近ちょっと頑張ってみてます」
「へぇ、彼氏にでもあげる気?」
「いやだから、彼氏なんて居ませんってば」
「そう? 何か気になるのよね……」
岡田さんの勘、鋭いなぁ。微妙にズレてるけど。
完全に疑われてるよね? ちょっと何とかしたいかな。
話せる範囲で、適当にねじ曲げて話してしまおうか。
「彼氏ではないですけど、作ってあげたい人が居るのは事実ですね」
「やっぱりそうだったの。男の人? 女の人?」
「お、男の人で、ついでに同年代ですけど……彼氏とかじゃないですよ?」
「本当に?」
「はい、ホントです。私が彼女だなんて言ってもあの人にとっても迷惑ですし」
「アイドルが彼女で迷惑なんて、随分と贅沢な人ね」
「そうかもしれませんね。
でも、それでも大切な人です。そう、例えるなら家族みたいな感じです」
「家族……ねぇ」
「はい」
「……そう、なら頑張りなさい。
私は料理がそんなに上手いわけじゃないからあんまりアドバイスとかはできないけど、必要なら相談に乗るわ」
「えっ、岡田さんって料理できなかったんですか?」
「出来ないわけじゃないわよ! ちょっと苦手なだけよ!」
「あ、はい」
岡田さんって何でもできるイメージがあったからちょっと意外だ。
岡田さんも人間なんだな。当たり前だけど。
実際の契約とかでわざわざアイドルが同席するのかは疑問ですが……細かい事はスルーする方針でお願いします。