ある朝の出来事
特に何事も無いいつも通りの平日。
ふと目を覚まして目覚まし時計を見るとセットしてある時間の2時間ほど前を示していた。
妙な時間に目が覚めてしまったけど、もう一眠りできるかな~なんて考えてた所で違和感を感じる。
いつもより、部屋が明るい。
違和感を感じながらも寝ぼけた状態でぼんやりと時計を眺め、そして気付いた。
時計が止まっている事に……
「って、えええええっっ!? 今何時!?」
慌てて携帯を取り出して時刻を確認する。
そこに示されていた時刻はセットした時間を数十分ほど過ぎていた。
逆に数十分で済んだ事に安心すべきなのかもしれないけど、お弁当を作る時間がかなり減った。
もう間に合わないかもしれないけど急いで飛び起きて階段を駆け下りる。
キッチンに飛び込むとそこにはエルシィさんが居た。
「おはようございます!
あれ? 今日は遅かったですね」
「うん、目覚まし時計がいつの間にか止まっててね」
「それは災難でしたね。
でもご安心下さい! 今日の分のお弁当は私が作っておきました!!」
「え、ホント? ありがとね」
と、お礼まで言ってからふと考える。
何か、何か大事な事を忘れている気がする。
エルシィさん、お弁当、料理……
…………あ。
「ふっふっふっ、私の久しぶりのお料理ですからね! 今日のお弁当は自信作ですよ!
ほら、見てくださいよあれ!」
エルシィさんはお弁当がある場所……ゴメン、訂正する。お弁当が
その指が指し示す先には確かにお弁当箱と言えなくもないものもあった。
けど、それ以上に気になるのは……
……そのお弁当箱から触手のような何かや目玉のような何かが多数飛び出していて、不気味にウネウネと蠢いている事だ。
そう、エルシィさんの料理は魔界仕込み。使用する材料も魔界のもの。
以前、桂馬君がエルシィさんの料理を食べさせられた後に感想を聞いてみたら『確かにこっちの魚より2倍くらい美味しいと言えなくもなかったが、人間に食えたもんじゃない』と言っていた。
と言うか、アレは料理なんだろうか? 死後に痙攣してるとかじゃなくて普通に生きて動いてるよね?
生物を生きたまま食べる文化は地球上でもどこかにありそうな気がしないでもないし、自然界には間違いなくそういうケースはあるとは思う。
でもあのクトゥルフ神話か何かに出てきそうなモンスターは明らかに捕食する側に見えるし、そもそも私はただの日本人だ。生きてる動物(?)を食べる文化なんて無い。
……ちょっと待ってほしい。お弁当を作ったという事はもしかして……
「あ、勿論姫様の分もお作りして……」
「ああっ、もうこんな時間だ!
今日は早いから急いで準備しないと!!
それじゃあね!!!」
エルシィさんが名状し難き何かを取り出す前に急いで台所を出て階段を駆け上がり自分の部屋に戻る。
あ、危なかった。エルシィさんには悪いけどあんな
急いで出かける準備をして、錯覚魔法をかけてから家を出た辺りで朝食を食べてない事に気付く。
……仕方ない。今日はコンビニで何とかしよう。
この家から事務所までの通り道にコンビニは無いので、事務所とは逆方向に少し行った場所にあるコンビニに寄る。
お昼は多分何とかなるから、朝食の分だけでいいかな。
適当な物を買ってから来た道を引き換えして事務所に向かう。
その途中、桂馬くんの家の前を通り過ぎた時に何か絶叫が聞こえた気がしたけど聞かなかった事にした。
ゴメン桂馬くん。私には今キミを助けるよりも大切な事があるの。自力で何とかして。
きっと桂馬くんなら何とかなるって信じてるから!
…………いやいや、このままだと桂馬くん朝食抜きだよ? 昼食は学食とかあるから何とかなるとは思うけど。
桂馬くんは『食事なんて面倒だ。栄養はゲームから取れる!』みたいな事をたまに言ってたりするけど、何も食べないとさすがにダメだと思う。
仕方ない。私の朝食の一部を玄関の前に置いておこう。
えっと……『桂馬くんゴメン。朝食はコンビニで買ったのを玄関の前に置いておくからそれで何とかして』、送信っと。
……私の朝ご飯、足りるかな……?
その後、昼休みに携帯を見てみると桂馬くんからの返信が来てた。
"朝食ありがとな。
量が少なかったように感じたけど、もしかして1人分から分けたのか?
だとしたらすまなかったな"
すっかりバレてるなぁ。桂馬くんらしいと言えばらしいけど。
……後で見捨てたことをちゃんと謝っとこう。
※ 生物を生きたまま食べる文化は日本にあるようです。
もっとも、それは小さな魚介類に限られるので、今回出てきた生物を食べるような文化は無いでしょうが……
指摘して下さった読者の方、ありがとうございました。