もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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コアクマの長所

 昨日は最悪の日だった。

 朝起きたら名状しがたき弁当箱のようなものに襲われ、

 朝食が少なかったので午前中は空腹で過ごし、

 英語教師の児玉には理不尽な因縁をつけられ、

 昼は名状しがたきナニモノカを強引に食わされ、

 案の定体に異変が生じてボロボロになり、

 死にそうになりながら家に帰った。

 

 せめて今日は良い日であって欲しい。

 

 そんなささやかな願いがフラグになったんだろうか? 下の階から突如爆発音が響き渡った。

 間違いなくエルシィの仕業だろう。

 

 何も聞かなかった事にして二度寝してしまおうかとも思ったが、あのバグ魔(エルシィ)を放置し続ける事は不可能だ。

 非常に気は進まないが、被害が拡大する前にさっさと何とかした方が良いだろう。

 

 

 

 

 キッチンは酷い有様だった。

 

 スス爆弾を爆破させたとでも言えばいいのか、流しやその周辺は黒っぽい何かで被われている。

 その黒いのの一部から青白い炎が上がっている。燃え広がる様子は無いので普通の炎では無さそうだ。

 カフェへのドアが壊れている。まるで凶暴な生物がこちら側から強引にブチ破ったかのようだ。

 そして、エルシィがフライパンだったと思われるものを持って涙目で立ち尽くしている。

 

 爆発音がしたから壁やら物やらが壊れたかと思ったが、僕から確認できるのはドア1枚とフライパンが一つ壊れただけか。思ったよりも被害は少なかったな。

 それでも家庭内の事件としてはかなりヒドいんだが。

 

「うぅぅ……ごめんなさい神様。失敗しちゃったみたいです……」

「ったく、何をどうやったらこんなに……いや、言わなくていい」

 

 口で説明されても理解できる気がしない。

 

「まずは状況を整理するぞ。

 お前がやってたのは……料理……で良いのか?」

「はい……姫様に教えてもらいながら頑張ったんですけど……」

「中川に?」

「はい……」

「姿が見えないが? もう出かけたのか?」

「はい……」

 

 中川の教え方が壊滅的だったという可能性も無きにしも非ずだが……流石にそれは無いだろう。

 朝の空き時間にできる限り教えて、そして出かけた後にエルシィが何かやらかしたんだろう。

 

 爆発音があったにも関わらず母さんは降りてこない。理由は分からんが好都合だ。起きてくる前に片付けてしまおう。

 ドアはどう直すかな、何か丁度いい板とかあったか? 無ければダンボールとガムテープで塞ぐしかないが。

 スス状の黒いものはエルシィの箒で落とせるのか? 謎の青い炎はどう処理するんだ?

 フライパンは……後で良いな。

 

「はぁ。さっさと片付けるぞ」

「…………」

「……おいエルシィ?」

「ひゃいっ! な、何ですか?」

「……片付けるぞ。コレ」

「は、はい。そうですね……」

 

 エルシィはふらふらと立ち上がり、愛用の箒を手に取る。

 そしてそれをゆっくりと……

 

「ちょっと待った!! 前みたいに出力最大になってないだろうな?」

「へ? も、もちろん……あ」

「……よし、片付けは後で良い。

 一旦そこの椅子に座れ」

「え? でも……」

()()()()()()

「は、はい!」

 

 エルシィの調子がかなり悪い。

 このまま片付けを始めたら余計に被害が拡大するだけだ。

 僕はギャルゲーマーであってカウンセラーじゃないんだがな。やるしかないか。

 エルシィの向かいの椅子に腰掛け、問いかける。

 

「料理の失敗がそんなに堪えたか?」

「……はい」

「……一つ疑問だったんだが、地獄ではお前の料理は普通に受け入れられていたのか?」

「はい! みんなおいしいって言ってくれました!

 神様みたいに体調を崩す人も居なかったです!」

「なるほどな。悪魔には食えても、人間の体には合わないんだろうな」

「はい。それで姫様に相談して、人間界の食材を教えてもらったんです。

 けど……」

「……何故かこうなったと」

「はい……」

 

 情報をまとめるとエルシィの心のスキマは……って、違う違う。これは攻略じゃない。

 ただ、悩みという意味では割と分かりやすい所にありそうだな。

 

「エルシィ、料理にこだわりすぎるな」

「ふぇ?」

「お前の料理は地獄では誇れるものなのかもしれんが、人間界(ここ)ではぶっちゃけ役立たずだ」

「うぐっ! ひ、ひどいですよ神様!!」

「…………」

 

 無言でキッチンの惨状へと視線を向けるとエルシィは大人しくなった。

 

「ご、ごめんなさい……」

「分かれば良い。

 続けて質問させてもらうぞ。お前が誇れるものは料理だけなのか?」

「……それは……」

「例えば掃除だ。うちの母さんはいつも喜んでるぞ」

「は、はいっ! 私はお掃除が得意です!!」

「他には……そうだな。

 中川の替え玉だ。あまり問題なくこなしてるみたいじゃないか」

 

 小さなステージの上でスッ転んだりとかのミスはあったらしいが、一応問題なくこなせている。

 と言うか、そういう致命的ではないけど良い意味で目立つミスのおかげで若干人気が上がったらしい。

 と、中川が少々複雑そうな表情で言っていた。

 

「そうですけど……人の真似なんて私じゃなくてもできますよ……」

「いや、アイドルをほぼ完全に模倣するって相当だぞ? 少なくとも僕には絶対に無理だ」

「え? そうですか?」

「ああそうだ。

 長くなったが、結論としては『料理以外の長所で頑張れ』って事だな」

「……そうですね。分かりました!

 私、頑張ります!!」

「ああ。頑張れ」

「はいっ!!」

 

 やっと立ち直ってくれたか。

 これを期に料理はスッパリ止めてほしいが……素直に止めるとも思えんな。

 とりあえずそっちの方は中川に何とかしてもらおうか。

 それじゃあとりあえずススを掃除してもらって、あとはテキトーに何とかするか。

 さっさと片付けてゲームするぞ。必要なものは……

 

 

ズドォォォォンン

 

 

「…………おい」

「あ、パワー最大になってた……」

「このバグ魔!! お前はどうやってもミスするのか!!」

「す、すいません~!!」







安定の爆発オチ。
なお、この後どうやって処理したかは皆さんのご想像に丸投げ……お任せします!


では章末恒例企画更新。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=130405&uid=39849

それでは、次回もお楽しみに!

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