もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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01 再び始まる攻略

「うわ~、大きいね」

「ふむ……本が何冊あるのか気になるな」

 

 図書館は思ってたよりも大きかった。

 大きい大きいと聞いてはいたがまさかこれほどとは。

 館内はそこそこ静かだが、多少は話し声も聞こえる。

 これなら隅っこの方で勉強を教えてても文句は言われないだろう。

 

「それじゃあ、早速始めるぞ。科目は……数学だったか?」

「え? うん。それじゃあ数学で」

 

 そう言って中川は教科書の最初のページを開いた。

 

「おい、ちょっと待て」

「え? どうかした?」

「この前の授業の所だけじゃないのか?」

「え?」

「…………もしかして、今年度が始まってから今日までやった内容全部の復習なのか?」

「えっと、そのつもりだったんだけど……あれ?」

「……もしかして、全科目をやるつもりだったのか?」

「で、できればその方が……いえ何でもないですゴメンナサイ」

 

 そう言えば中川は単に『勉強教えてほしい』としか言ってなかった気がするな。

 それを前の授業に関する事だと勝手に思ったのは僕か。

 そもそも、中川は殆ど出席してないんだからあの日の授業分だけ教えた所でどうにもならないよな。

 

「……ふっ、ふふふっ」

「え? 桂馬くん……?」

「ふっはっはっはっ!

 いいだろう。30分でカタを付けてやる!!」

「えええええっっ!? 朝言ってたのって授業1コマ分の話だよね!?」

「そんな事知ったことか! やるぞ!!」

「え、あ、う、うん」

 

 

  ……そして、30分後……

 

 

「よし、きっかり30分だな」

「あ、あれ? 終わっちゃったよ? え??」

 

 やれば何とかなるもんだな。

 さて、早速ゲームだ。

 

「あ、アレの後にすぐゲームするって……桂馬くんって体力あるんだか無いんだか……」

「ん? 体力なんてゲームしてれば回復するだろ?」

「しないからね!? 普通の人はむしろ疲れるからね!?」

 

 ああ、やっぱりゲームは楽しいなぁ。

 ここはそこそこ静かだし、ゲームする場所としても丁度いいな。

 空き時間に足を運ぶ価値はあるか? いや、屋上の方が近いか。雨の日ならこっちの方が良いかもしれんが。

 

 

「そういえばさ、桂馬くんって本とか読まないの?」

「本? 殆ど読まないし、読むとしてもギャルゲー関係の本くらいだろうな」

「そっかぁ、せっかく図書館に来たんだからどんな本があるのかちょっと見て回ろうと思ったんだけど、桂馬くんは興味ないかな」

「そうだな。好きに見てくれば良い。僕はしばらくゲームしてる」

「うん。行ってきます」

 

 そう言って中川は本棚の方へと歩いて行った。

 何の本を捜すんだろうな? これだけ本があるとあてもなくのんびり見て回るなんて事してたら1日がかりになりそうだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 欲しい本は1種類。

 ついでに見ておきたいのも1種類かな。

 まず、エルシィさんに教える為の料理の本。

 まだ卵焼きすら満足に作れないみたいだけど……いつかは必要になるから確認だけでもしておきたい。

 ……必要になるよね? なってくれるよね?

 それ以外で見ておきたいのはゲーム関係の本。

 こっちは桂馬くんの為なんだけど……あんまり興味が無さそうだったからついでで良い。

 

 しばらく歩くと『ゲーム』と書いてある棚を見つけたので覗いてみる。

 そこにあったのは『現代囲碁必勝法』とか『詰め将棋100選』とか『初心者の麻雀入門』とか。

 ……どうやら卓上のゲームしか無いみたいだ。テレビゲームは別の棚にあるのか、そもそも無いのか……

 そう言えば桂馬くんってこういうゲームは得意なんだろうか? 桂馬くんなら難なくこなしそうな気がするけど。今度訊いてみよっと。

 

 気を取り直して別の棚を捜す。

 またしばらく進むと『料理』という棚が。

 覗いてみたら何か妙な物が並んでいた……などというどんでん返しは無く、料理の本が並んでいた。

 『初心者にオススメ家庭料理』『おいしいけんちん汁の作り方』『スイーツマスターのお菓子作り』等など。

 お菓子、お菓子かぁ。ちょっと自分用に借りてみようかな。

 

 うちの図書館では図書カードの代わりに学生証を使って本の貸出を行うらしい。

 返却期限は2週間後。この辺は普通の高校と変わらないかな。

 受付のカウンターの方に足を向けた所で、ふと気付いた。

 エルシィさんの学生証、持ってない。

 自分の学生証なら勿論持ってるけど……エルシィさんの姿で中川かのんの学生証を使って借りたらちょっと面倒な事になりそうだ。そもそも他人の学生証で借りられるのか微妙だし。

 かと言って変装を解いて借りるのはもっと問題だ。私は今日は学校に来てない事になってる。私が2人居るなんて事が広まったりしたら……どうなるんだろう?

 ちょっと状況が特殊過ぎて具体的な被害が思いつかないけど、問題になる事だけは確かだ。

 う~ん……それじゃあ、桂馬くんに代わりに借りてもらおう。それが一番簡単だ。

 早速元居た場所に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桂馬くん!」

 

 しばらくゲームしてたら中川が呼んできた。

 

「ん、もう終わったのか?」

「終わったんだけど、ちょっと頼みたい事があるの」

「また勉強とか言い出さないだろうな?」

「今日はもう勘弁して欲しいよ……

 そうじゃなくて、代わりに本を借りてほしいの」

「代わりに? 自分でやれば良いじゃないか」

「その、借りるのに学生証が必要らしくて……」

「……なるほど、分かった。

 返却も僕が適当にやっておけば良いんだな?」

「うん、お願いね」

 

 わざわざ返却するのは少々面倒だが、そのくらいなら別にいいだろう。

 勉強を教えるよりはずっと簡単だ。

 

「それで、何を借りるんだ?」

「うん、これ」

 

 中川が見せてきたのは料理の本、じゃなくてお菓子の本か。

 有名な菓子職人が監修したお菓子作りの本のようだ。

 

「借りるのは構わないんだが……

 一応言っておくぞ。僕は甘い物が苦手だ」

「え〝」

 

 中川の反応から察するに、僕に作ろうとしてたんだろう。

 今日のお礼とか、そんな意図だったのかもしれないが……苦手なものは苦手だ。

 

「で、その本で大丈夫か? なら借りにいくぞ」

「あ~、えっと……うん。大丈夫。多分」

「よし」

 

 椅子から立ち上がってゲームをしまう。

 財布の中にしまってある学生証を取り出しながら受付のカウンターまで向かう。

 そして受付が見えた辺りで、ソレは聞こえた。

 

ドロドロドロドロ……

 

「…………はぁ」

 

 どうやら最近続いていた安息の日々は去ったらしい。






図書館の貸し出しルールについては適当です。
舞島学園なら学生証か何かにICチップ埋め込むなりバーコード書くなりできそうだから問題ないかなと。

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