もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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03 本の山

  ……駆け魂を見つけた翌日(攻略1日目)、放課後……

 

「ふっふっふっ、ついに私の時代が来たんですね!!」

「あーそうだなー」

 

 昨日の予定通りエルシィを連れてきて攻略女子のプロフィールを調べてもらう。

 何かやたらと張りきってて今もこんな調子だがテキトーに放っておこう。

 

 図書館に入りカウンターを確認すると昨日と同じ女子が座っていた。

 物陰に移動してからエルシィに指示を出す。

 

「あの娘ですね! それじゃあ行きます!

 羽衣さん! お願いします!」

 

 エルシィがそう言うと羽衣の一部がが変形し、半透明の円盤状になる。

 それを使って例の女子を透かしてみると謎の記号(地獄の文字?)が羽衣に浮かび上がった。

 

「来ました! 来ましたよ!

 名前は汐宮栞。2年生。

 身長157cm、体重41kg、血液型B型、誕生日は12月26日。

 羽衣さんで分かるのはこんな所ですね」

「なるほどな。助かった」

「モチロンですよ! なんたって私は神様のバディーですからね!!」

「あーそーだなー」

 

 同じ学年だったのか。

 僕のクラスでは見た覚えが無いからB組では無さそうだな。

 

「神様! 次は何すれば良いですか!!」

「あーそーだな……その辺の本でも読んでてくれ」

「じょーほーしゅーしゅーというヤツですね! お任せ下さい!!」

 

 そう言ってトテトテと駆け出し、奥の方に消えていった。

 エルシィも消えたし、攻略を始めるとしますか。

 カウンターへ真っ直ぐ進み、攻略対象である汐宮栞に呼びかける。

 

「すみません、昨日来た者ですが、ゲームの本ありますか?」

「…………」

 

 栞は沈黙している。

 だが、昨日最初に呼びかけた時みたいに読書に熱中してて返事をしないという事ではなく、顔を上げてこちらを見つめて、にも関わらず沈黙している。

 単純に僕の言葉を聞き逃したのか? それとも他に何か理由があるのか。

 待つべきか、それとも何か言うべきか。

 

「…………しょ、少々お待ち下さい」

 

 僕が悩んでいたら栞が口を開いてくれた。

 そしてカウンターの席から立ち上がると図書館の奥の方へと消えていった。

 

  ……そして2分後……

 

 栞に言われた通りにカウンター付近で待っていたらゴロゴロという音が聞こえてきた。

 音がした方を見てみると、人の身長の高さくらいまで山積みされた本が台車で運ばれていた。

 誰が運んでいるのか……何となく想像は付くな。

 その本の山はカウンターの近くで止まり、その影から栞が出てきた。

 

「…………お、お待たせしました。こちらがこの図書館にある『ゲーム』に関する本全部、になります。

 ……ぜ、全部で1057冊です。

 ……ゲームの本とだけ言われたので、囲碁将棋などのボードゲームから、最近のテレビゲーム、他にもゲームと名の付くものを題材にした本をご用意しました」

 

 これは……凄いな。いろんな意味で

 キーワード『ゲーム』で調べた本を片っ端から持ってきたという感じだが、そんな便利な検索機能がこの図書館にあるとも思えないし、少なくとも僕は見たことが無い。まさか、ここの本を全部覚えてるとか言い出さないだろうな?

 仮に検索できたとしても、これだけの量の本を一日で用意するのは凄い、と言うより異常だ。

 そもそも僕の目的は大まかな分類で言えばテレビゲーム、より細かく絞るならギャルゲー関係なんだが……何だろうな、例えるなら3択問題で失敗を恐れるあまり3つとも答えるようなそんな印象を受けたぞ。

 っていうかこれ、誰が元の場所に片付ける予定なんだ? 栞がきちんと片付けるのか? そうでないなら普通に考えていい迷惑以外の何物でも無いんだが。

 

 しかしまぁ……

 

 前日にちょっと言っただけで人の身長分にもなる量の本を用意するヒロインは流石の僕も見たことが無い。

 汐宮栞……面白い奴じゃないか。

 図書委員だったんで若干萎えていたが、いいだろう。全力で攻略しようじゃないか!

 

「わざわざありがとう。

 でも、僕が欲しかったのはテレビゲーム関係の本なんだよ」

「えっ…………」

「テレビゲーム関係の本はこの本の山のどの辺かな?」

「あ、う…………」

 

 言葉にならないもごもごした声を発しながら本の山の一部を指差す。

 言葉にしてくれないとモノローグが無いから伝わらないんだよな……何とか喋らせないと。

 

「それじゃあテレビゲーム関係の本だけちょっと読ませてもらうよ。この辺だったね」

 

 とりあえず栞が指差した辺りの本を床に降ろす。

 そして残りを片付けるわけだが……

 

「…………」

 

 栞は何も言わずに台車を押して行こうとする。

 単に図書館を利用する為に来たのならそのまま見送っても全く問題ないが、あいにくと僕は栞を攻略しに来たんだ。

 イベントは逃さない。

 

「ちょっと待って、それ、一人で片付けるの?」

「…………え?」

「いや、『え?』じゃなくて、一人で片付けるのかい?」

「…………あ、はい」

「それだけの量、確か1000冊くらい? 一人じゃ大変だろう。僕も手伝うよ」

「……え? あの……」

「さ、場所はどこだ? のんびりやってたら日が暮れるから、手早く済ませよう」

「……あ、えっと……こっち……です」

 

 そう言って栞は台車を押すので僕は付いていく。

 台車を押すのを手伝おうかとも思ったが、流石に距離を詰めすぎだろう。

 こういう無口キャラは感情の変化が表に出にくい。慎重に進めるに越した事は無いだろう。





エルシィの台詞『羽衣さん! お願いします!』を『出でよ、検火鏡!』にしようか割と悩みました。

 ※検火鏡:神のみのプロトタイプに当たる読み切り版に出てきた地獄の道具。攻略対象の情報を調べる事ができる。

本作ではあくまで羽衣の機能という事になってるので結局前者になりましたが。
ちなみに、本作の羽衣機能の元ネタは検火鏡ですが、性能は微妙に違います。
見ただけで所属クラスや家族構成まで分かるってどんなテクノロジーだよ……

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