もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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ところで皆さん、ルビ機能は活用していますか?
右上の方からいじれるので有効にする事をお勧めしておきます。

では、スタート。


04 最初のモノローグ

「この本、『水平思考ゲーム100選』はどの辺?」

「…………上から2番目、左から24冊目です」

「24……ここか」

 

 栞に本の名前を訊くだけで少しの間を置いてから正確な位置が返ってくる。

 おそらくはこの図書館のほぼ全ての本の場所を暗記しているんだろう。流石にゲーム関係の本だけ暗記しているという事も無いはずだ。

 無い……と思う。オタク系属性を持っていてテレビゲーム関係の本を全て暗記しているというのならまだ納得できる、囲碁将棋麻雀といった卓上ゲーム、水平思考ゲームや人狼ゲームといったややマイナーなゲームまで手を伸ばしているのもやや苦しいが納得はできる。

 しかし、主人公がゲーマーという設定はあるがほぼ生かされてないラノベとか、複数の人間を絶海の孤島に閉じこめてゲームと称して殺し合わせる小説とか、流石に手を広げすぎだろう。と言うか彼女自身がゲーマーだったらコレを持ってくるという発想がそもそも無いと思う。

 もしかすると完全記憶能力とか持ってるかもな。

 

「次は……『芸術的イカサマ麻雀の指南』」

「…………一番下、右から3冊目です」

「りょーかい」

 

 このままダラダラと手伝っても好感度は多少は稼げるだろうが、劇的な変化は見込めないだろう。

 それに、無難な選択肢を選びつづける長期戦なんて僕の主義に反する。

 そろそろ攻めていこうか。

 

「しっかし、本の片付けって面倒だな」

「! …………」

「ん? ああ、安心してくれ。君に文句を言ってるわけじゃない」

 

 そう言うと栞は安心したような表情を浮かべた……気がするのだが少々自信が無い。

 だが、次の僕の一言での表情の変化はしっかりと読み取れた。

 

「僕が文句を言ってるのはこの『本』だ」

「っ!!」

 

 明確に、怒りの感情を感じ取れた。

 

「場所を取るし、重いし、しかもわざわざこの広い図書館から探さなきゃならない。

 実に不便だ」

「……」

 

 言葉にこそ出さないが凄く怒ってるんだろうなぁ。もう一息といったところだろう。

 

「全部スキャンしてハードディスクに移しちゃえば、本なんて全部捨ててしまえるよ。君はどう思う?」

…………ば

「ん?」

「ばかぁぁぁぁぁぁ…………」

 

 そんな台詞を言った後ハッとしたような表情に見せ、台車をガラガラと押して走り去って行ってしまった。

 

 どうやらようやく聞けたようだ。情報の伝達以外での彼女の台詞、彼女の意見が。

 今ので嫌われたかもしれないが問題は無いだろう。むしろその方がやりやすいかもしれない。

 残りの本の片付けは多分栞がやってくれると思うから任せておくとして……

 ……とりあえず、持ってきてくれたテレビゲーム関係の本でも読むか。使えるネタがあるかもしれんし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何なのあの男は、死ぬればいいのに!

 

 あの男との最初の遭遇はつい昨日の事だ。

 お菓子の本を借りにきたと思ったらゲームの本を探しているなんて奇妙な事を言ってきた。

 返事を迷ってたら誰かに呼ばれたみたいで時間がどうとか言って去ってしまった。

 また明日来る事とゲームの本を探しているという事だけはよく分かったので、せっかくだから用意しておいた。

 

 で、次の日。あの男は予告通りやってきた。

 思いつく限りの本を集めて、それを見せた。

 見せた後にもしかしたら2~3冊くらいで良かったんじゃないかとか、ジャンルをもう少し絞るべきだったとか心の中で後悔して、しかも実際に要らない本が9割近くを占めていた。

 けど幸いな事にあの男は気にしてない風だった。

 それどころか本の片付けまで手伝ってくれた。

 

 私の言葉は遅かったはずなのに、あの男は一度も私を急かさなかった。

 本の場所を訊いて、私がそれをたどたどしく返して、そしてしまう。

 名前も知らない人と一緒に居たのにそこまで居心地は悪くは無かった。

 

 そんな風に考えていたとき、あの男は突然たわごとをのたまったのだ。

 

「全部スキャンしてハードディスクに移しちゃえば、本なんて全部捨ててしまえるよ」

 

 電子書籍は私も読んだ事はある。私は知らない物を否定する程心は狭くないから。

 でもあんなの本じゃない。

 表紙に装丁、中表紙に奥付、紙の香り、厚み、手触り!

 その全てが世界を形作っているというのに!!

 断言しよう、あんなのは本じゃない!

 あんなまがい物で満足してうちの()達を燃やそうだなんて許せなかった。

 だから……つい言ってしまった。

 

「ばかぁぁぁぁぁぁ…………」

 

 うぅぅ……今思い出しても恥ずかしさで顔が赤くなる。

 一応片付けを手伝ってくれた人に何て事を言ってしまったのだろう。

 ……いやいや、あんな暴言を吐く人間にはあれくらいで十分よ! しっかりしなさい汐宮栞!!

 あ、でも怒って怒鳴り込んできたりしたらどうしよう……あんな暴言人間と口喧嘩なんてできないよ。普通の人が相手でもできないけど。

 き、きっと大丈夫。だってあれだけ本をバカにしてたんだもん。図書館なんてもう二度と来ないはず。

 そう、そうよ! 大丈夫!

 よし! それじゃあ……

 ……この本、片付けようか。

 

 

 

 

 

  ……その頃のエルシィ……

 

「これは……真っ赤です! 今の日本はこんなのが街を闊歩しているんですね!!

 黒船の時代が終わって今は赤車の時代です!!

 しょーぼーしゃ……カッコいいです!!

 私、また賢くなってしまいました! どうしましょう!!」






最後の場面を書いてて『知らなかったのか? 大魔王(しょーぼーしゃ)からは逃げられない』というフレーズを思い出したけどだいたいあってると思う。

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