もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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07 無口少女の意志

 今日は図書館の休館日。

 予定では、視聴覚ブース導入の日だな。

 ……予定では。

 だが、現状を見る限りでは今日中に作業が終わるとは到底思えないな。

 

 

 図書館の前には人だかりができている。今日の作業の為に集まった図書委員達だ。

 しかし、中に入ろうとする者は誰も居なかった。

 しばらくして何も知らない図書委員長がやってきて呑気に皆に声をかけた。

 

「おっす~、皆そろってるな~。

 ん? どしたの? 何かあったの?」

「あ、委員長! ドアが開かないんですよ。パスワードも合わなくて」

「んん~?」

「あと、ドアの前に……とにかく来てください」

「何だ何だ?」

 

 委員長が図書委員の一人に入り口の扉まで引っ張られる。

 開かない扉の向こう側に小さめのホワイトボードが置いてあり、そこにはこんな事が書かれていた。

 

『視聴覚ブース導入反対! 汐宮栞』

 

「…………ええぇ~?」

 

 

 と言う訳で分かりやすく結論を言うと『栞が図書館を占拠して立て篭もった』。

 中々の行動力だな。

 

「しばらく見ない間に凄い事になってるね……」

「ああいうタイプのキャラは口数が少ないだけであって心の中では人一倍考えている。

 むしろ喋れないからこそ、こういう行動を取るほど追い詰められると言うべきか」

「そ、そそそそんな事より、ここここれからどうするんですか神様!!!」

 

 僕達は今、透明化して図書館の近くに居る。

 今日が攻略最終日だから中川も一緒だ。

 

「どうするの、桂馬くん?

 これは止めるべきなの? それとも手助けするべきなの?」

「まずは様子を見よう。

 栞の行動はほぼ読めるが、委員長やその他の図書委員の方は分からん。

 腹括って窓ガラスの1枚や2枚くらいあっさりと割るタイプだったりなんかしたらこんな立て篭もりはあっさりと瓦解するからな」

「……過激な委員長だね」

「可能性の話だ。

 だが恐らくはそんな事はしないし、他の委員が勝手にやらかそうとしても止められる人間だと思う。

 あと、教師に相談する事すらしないんじゃないかな」

「え、どうして?」

「騒ぎになったらせっかく頑張って通したらしい視聴覚ブースの件が白紙に戻りかねない。

 あの委員長だったらそれくらいはしっかりと考えてくれる……気がする」

「だ、大丈夫かな……?」

「それを確認する為にも、少し様子を見るぞ」

「うん」

「えっと……りょーかいです!」

 

 

 

 

 

 

 しばらく様子を観察したが、概ね計画通りに行きそうだ。

 窓ガラスを割ろうとする生徒も居たが、委員長がキッチリと止めていた。

 先生を呼びに行こうとした生徒も居たが、それもキッチリと止めていた。

 今のところは図書館の中の栞に怒鳴るくらいしかしていない。と言うよりそれしか出来ないようだな。

 

「……よし、それじゃあ適当なタイミングで図書館の中に突入するぞ」

「……どうやって?」

「なに、簡単な事だ。

 天井に風穴開けてそこから降りれば良い」

「過激過ぎない!? って言うかどうやって!?」

「エルシィ、お前なら羽衣とか箒とかで行けるだろ」

「はいっ! お任せ下さい!!」

「……そこに箒って選択肢が普通に入るんだね……」

 

 箒という名の兵器だからなアレ。

 図書館ごと一掃してしまう可能性が無きにしも非ずだが……そこは箒の出力を調整すれば何とかなってほしい。

 

「それじゃあ、空けた穴の後始末は……」

「羽衣さんならだいじょーぶです!」

「……いつか過労死するんじゃないかな、この羽衣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「栞ぃぃぃ!! 開けろぉぉぉ!!!」

 

 わ、我ながら大それた事をしてしまった。

 外から藤井寺委員長の怒鳴り声が聞こえる。何で怒鳴り声ってあんなに怖いんだろう。

 で、でも大丈夫。こんな時の為の準備に抜かりは無い!

 昨日わざわざ買ってきたこの耳栓さえ付ければ怒鳴り声なんて……

 

「こぉらぁぁああああ!! このうつけぇぇ!! 早く開けろぉぉぉぉ!!」

 

 耳栓してても普通に怖い!

 や、やっぱりこんな立て篭もりなんて止めた方が良かったのかな……

 いやいや! このくらい覚悟の上の狼藉のはず!

 いくら貸出頻度が少ないからって、この()たちを処分してどこにでも売ってるCDやDVDを入れようだなんて、図書館はコンビニじゃないのよ!!

 今日の為にしっかりと準備してきた。食料や水も一週間分は用意した。徹底抗戦してやる!

 視聴覚ブース、断固阻止!!

 そう、この子たちは私が……

 …………あ、あれ? 何だか眠い……

 今朝、早起きしたからかな……

 ……意識が……遠く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドォォン ガラガラガラ…… (「いてっ」)

 

「はっ!!」

 

 わ、私どれくらい寝てた!?

 今の音は一体!?

 上の方から聞こえてきたけど……よ、様子を見に行った方が良いのかな?

 で、でも、一体何が居るの? ちゃんと人が居ない事は今朝確かめたはず!

 まさか、幽霊や妖怪といった魑魅魍魎の存在が現れたのだろうか?

 いや、それとも視聴覚ブースの設置に激怒した図書館の妖精が現れたのだろうか!?

 

 私が錯乱していると、上の方からコツン、コツンと足音のような音が近付いてくる。

 どうすれば良いのだろうか? 相手が人外の類であるならば勝ち目は無い。逃げるか隠れるかしか無い。

 ……ちょっと待って? もしやこれは委員長の策略?

 どうやってかは分からないけど、こうやって私をおどかす事で図書館を開けさせようとしている?

 そうだ! きっとそうに違いない!

 この程度で私を謀ろうなど100年早いわ!

 

 真相が分かったならもう怖くない。

 私は今日の為に買ったダルマを抱えて階段近くの物陰に隠れる。

 誰か来たらこのダルマを両手で振り下ろして返り討ちにしてくれるわ!

 

 コツンコツンという音が近付いてくる。

 明かりはカウンター近くしか付けておらず、外も暗くなってきているようなので不審者の姿はよく見えなかったけどぼんやりとしたシルエットだけなら目視できた。

 階段を降りきって背中を向けた時、それがあなたの潮時よ!

 

 顔を出したら相手に気付かれるかもしれないから、物陰でじっと息を潜めて待つ。

 足跡が階段を降りきり、そして遠ざかろうとした所で私は駆け出した。

 委員長の差し金の謎の侵入者、覚悟っ!!

 

「ん? おわっ!!」

 

 寸前で気付かれて避けられた。ここが本の世界だったらあれで決まってたのに!

 だけど相手はしりもちを突いている。今がチャンス。もう一度ダルマを振り上げ、そして振り下ろし……

 

「ちょ、ちょっと待った栞!! 僕だ! 敵じゃない!!」

 

 その声を聞いて腕を止める。最近良く聞く声だった。

 そして、相手の顔をよく見てみたら……

 

「か、桂木くん?」

 

 名前を名乗ったあの男が、そこに居た。






アニメでそこそこ注目を浴びて、原作でも地味に出てるダルマ。
本作でも活躍したよ! やったね!

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