もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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自信と勇気

 日の光と電気ですっかり明るくなった図書館に委員長を先頭に図書委員のメンバーが入ってくる。

 

「コラァ栞! 辞世の句があるなら聞いてやるぞ!」

「……ご、ご迷惑をおかけしました」

 

 まさか返答があると思っていなかったのか委員長が驚く。

 

「ご、ごめんなさい。

 わ、私、本が捨てられる事が我慢できなかったんです。

 どの本にも伝えたい事があるんです!

 小さな、凄く小さな声かもしれませんが、ちゃんとあるんです。

 そんな、小さなささやきが聞こえる、そんな図書館であって欲しいんです!」

 

 栞がそう言い切ると、図書委員たちがざわざわと騒ぎ出す。

 

「しゃ、喋ってる」「喋ってるね」

「……はぁ、それならこんなバカな事せずに話してくれれば良かったのに」

「ご、ごめんなさい……」

「しゃーない。処分する本についてはまた会議しよっか」

「あ、ありがとうございます!!」

「但し、視聴覚ブースは決定だからね。

 捨てる本をゼロにするなんて事もまず無理だかね!」

「十分です! ありがとうございます!!」

「急によう喋るようになったなぁ……

 それじゃ、アンタのせいで凄く遅れたんだからこき使わせてもらうからね」

「はいっ!」

 

 栞は本のバリケードから抜け出し、やるべき作業を始める。

 が、本に手をかけた瞬間、ハッとしたように振り向く。

 

「あ、あの!! ここに私の他に誰か居ませんでしたか?」

「? 誰かって、誰?」

「え? アレ? ……誰だろう」

「夢でも見てたんじゃないの? さっさと仕事してちょーだい」

「は、はい……」

 

 そう言われてまたすぐに作業に入る。

 その表情は、最初に会ったときよりも随分と晴れやかだった。

 

 

 

 

 

 

「これにて、一件落着だね」

「ああ。そうだな」

「一時はどうなる事かと思いましたよ。今回も無事に終わってよかったです!」

 

 物陰からエンディングを見届けた後、屋上に居るエルシィ達に引っ張り上げてもらってその場で腰を降ろす。

 突入時に空けた穴は羽衣パワーで修復できたようだ。

 

「……『話したいけど普通に話せない』という意味では吉野麻美と似ていたのかもな」

「え、そうかな? 似てるようで全然違うと思うけど」

「……そうだな。共通点はそこだけか」

 

 当たり障りの無い会話しか出来ずに苦しんでいた麻美と、意志を伝える事が出来ずに苦しんでいた栞とではかなり違うか。

 

「どうしてそこまでして他人と関わろうとするんだろうな」

「……きっと、自信が無いからだと思う」

「ん? どういう意味だ?」

「自分じゃ自信が持てないから、誰かに自分という存在を認めてもらいたい。

 でも、やっぱり自信が無いからありのままの自分を出せない。

 だから苦しくなる。

 そういう事なんじゃないかな」

「……かもな」

 

 あの中川が言うなら、きっとそういう事なんだろう。

 理解はできるが……実感はできないな。

 

 

 

「神様! 姫様! 屋上の修理終わりました!」

「よし、それじゃあ帰るか」

「あっ、もうこんな時間! 私はお仕事があるから!」

「それでは、姫様を送ります!!」

「くれぐれも安全運転でね!」

「だいじょーぶです! 姫様にはお怪我はさせません!!」

「地面にも怪我させちゃダメだからね!?」

「おいお前たち、まずは僕を降ろしてから行ってくれ。屋上に置き去りにする気か?」

「おっとそうでした! それじゃあ行きましょう!!」




栞編、これにて終了です。
え? ライブシーン? カットですよ。

それでは例の企画を。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=133010&uid=39849


次回の更新についてですが、少々長くなりそうです。
リアルが忙しかったり、単純に次書く人が厄介だったりするので。
結構間が空くので気長にお待ちください。

では、次回もお楽しみに!

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