ドロドロドロドロ……
「わっとっとっ」
エルシィが慌てながらアラームを消す。
「ふぅ、防音結界張っておいて良かったぁ。
えっと、駆け魂の持ち主は……」
センサーを掲げながら周囲に向けると一人の女子に反応があった。
バチを両手に打楽器を楽しそうに鳴らしている。
「これは神様にご報告……っと、その前に、羽衣さん!」
駆け魂持ちの少女を羽衣で透かして見る事で彼女の個人情報が表示される。
この情報は羽衣の容量さえ残っていれば自動的に保存されるのでエルシィでも安心だ。
「……よし。それじゃあ一旦帰りましょう!」
エルシィは開いていた窓から飛び出して家に向かった。
「名前は
身長160cm、体重50kg、血液型AB型、誕生日は10月10日。
以上です!!」
「お前今度からセンサー持ってどっか行くの禁止な」
「ダメですよ!! 駆け魂見逃しちゃうかもしれないじゃないですか!!」
そんな事は分かってるんだよ。
でもな、5人だぞ? うちの高校の2年だけで既に5人目だぞ?
何か呪われてるんじゃないだろうな? うちの高校。
「とりあえず明日は僕も一緒に行って様子を見るとして……
エルシィ、お前から見てどんな感じだった? 心のスキマは分かるか?」
「え? そ~ですね……凄く楽しそうに何か叩いてましたよ?」
「叩く? 楽器か? となるとドラムか?」
「いえ、ドラムじゃなかったと思います」
軽音の打楽器といったらドラムが一般的だった気がするが……明日見れば分かるか。
……そして翌日……
「……おいエルシィ」
「はい? なんでしょうか?」
「お前確か軽音部に見学に行ったんだよな?」
「はい!」
「……ここに見学に来たのか?」
「勿論です!!」
「……ここ、吹奏楽部の部室のようなんだが?」
「…………へ?」
入り口の辺りから軽く覗いただけで木管楽器、金管楽器による演奏がよく見える。勿論ギター等の弦楽器なんて無い。
軽音の定義としては『軽く楽しむ音楽』なので楽器が違っていても本人たちが軽音と言い張れば一応軽音にはなるが……
……入り口の所に『吹奏楽部』という張り紙がある時点で色々とアウトだ。こんな目立つものを見落としたのだろうか? このバグ魔は。
「え、えっと……と、とにかく! この中に結さんは居ます!!」
「まあそうだな。軽音部だろうと吹奏楽部だろうとやることに変わりは無い」
「そ、その通りです!! さっすが神様! 分かってらっしゃいますね!!」
とりあえずエルシィのアホさは今更だから放っておくとして……
まずは情報収集だ。部活の中で悩みがあるのか、それとも別の要因が絡んでいるのか。
軽音部って事で仲間との間で音楽性の違いがうんたらみたいな定番の悩みを予想していたんだが……流石に吹奏楽部でそういう類の悩みは無いだろう。
そんな風に考えていたせいか、それに気付くのに少々遅れた。
最初に聞こえてきたのはドドドドッと、何かが凄い速さで走っている音。
続けて聞こえたのはその音が段々と大きくなった音。
うるさいなと思いながらも不審に思って後ろを振り向くと、
「退きなさい!!」
という言葉と共に思いっきり押しのけ、と言うより床に叩きつけられた。
そしてその人物は僕には目もくれずに吹奏楽部の部室へと突撃していった。
「か、神様大丈夫ですか!?」
「う、く、大丈夫……あああああ!!」
「か、神様!?」
自分の体の状態を確かめて、気付いた。
無惨に砕け散ったものに……
「僕の、僕のPFPがぁぁぁああああ!!!!」
「……えと、大丈夫そうですね」
「チクショウ! どこのどいつだ!! エルシィ、羽衣で確認!!」
「え? これは攻略対象の情報を見るものであって……」
「いいからやれ!!」
PFPの恨みは限りなく重い!
「は、はい!!
……えっと、五位堂
「ちょっと待て、五位堂だと?
って事はまさか……」
PFPの恨みはひとまず置いておいて、部室内の様子を伺う。
するとさっき僕を突き飛ばした女性が何事かを叫んでいた。
「まあまあ結さんこんな場所で一体何をしていたの今日はお茶道と生け花のお稽古の日でしょう。結さんの為に今日から新しい先生をご招待しているのよ。少し無理言って遅れさせてもらったから急いで行きましょうね。私が探した先生だからきっと結さんも気に入るわよ。前の先生は庶民向けのみすぼらしいお稽古だったけど今回は五位堂家に相応しい風格と気品を持つ先生だから安心しなさい」
「お、お母様、あの……」
「吹奏楽部の皆さん失礼させていただきますね。さあ結さん外に車を待たせてあるから急ぎましょう」
「……し、失礼します」
結の母親らしき女性は結の手を掴むとそのままどこかへと行ってしまった。
良家のお嬢様とそのテンプレママってとこか? また何とも王道な設定だな。
『結ちゃん自身は良い子なんだけど、母親がねぇ~』
『最近どんどん部活の時間短くなってるよね。このままだと止めさせられちゃうんじゃない?』
『発表会とかに影響が出る前に何とかした方が……』
……ほぼ間違いなくあの母親、と言うより家からの重圧が心のスキマの原因なんじゃないか?
断定してしまうのは少々早いが……
「ひとまず、結たちを追うぞ」
「はいっ、了解です!!」
トランプをドローした時の感想。
『軽音部まだねぇよ』
まぁ、原作通りに進めるだけでは不可能な状態を作る事こそがシャッフルの意義だから正しいんですけどね。
なお、原作において彼女の攻略後にはレベル4の駆け魂が現れますが、本作においてはまだ現れません。
レベル3すら出てないし。
羽衣によるパラメータスキャンの裏設定として『年齢は分かるけど学年は直接は分からない。なので年齢と誕生日から逆算して高校何年生かを自動的に表示する機能がある』みたいな設定を設けてみました。なので今回のように明らかに年齢が高いと妙な学年になったりします。
留年とかを無視すれば高校2年生は16~17歳なので、『年齢ー(14 or 15)』が学年になりますね。