もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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05 落とし神の手腕

「ああ。やってやるさ」

 

 桂木くんはそう言ってくれたけど、凄く申し訳ない気分だ。

 でも、恋愛に関しては本当になんにもできない。桂木くんに頼るしかない。

 ……もうちょっと、何か支えられないか考えてみようかな。

 

 ……しかし、何か忘れているような……

 

[♪♪ ♪♪ ♪♪♪~♪~♪~♪~]

 

 あ、電話だ。

 

「はいもしも

『かのん! どこほっつきあるいてるの!!

 遅れるって連絡はあったけど、こんなに遅れるなんて聞いてないわよ!?

 すぐ戻ってきなさい!!』

ブツッ

 

 ……すっかり、忘れてた。

 

「ごめん桂木くん、エルシィさん! お仕事があるから急いで行かないと! じゃあね!!」

「おい待て、エルシィに送ってもらうといい」

「わ、私ですか!?」

「さっきは突然やられたんで寿命が縮んだが……予め分かっていれば問題は無い。

 空を飛んでいけば車とかよりずっと早く着くはずだ」

「そ、そうだね。ありがとう」

「あと……」

 

 桂馬くんは懐からPFPを取り出して起動した。

 

「お前のプライベートなメールアドレスってあるか?

 あるなら口頭でもいいから教えてくれ。連絡手段はあった方が良いからな」

「あ、うん。えっと……」

 

 お仕事用のアドレスはともかく、プライベートの方は迷惑メール対策にランダムな記号を並べてるので暗記はしてない。

 なので、携帯の画面を開いて見せる。

 

「……よし、送ったぞ」

 

[プルルルル プルルルル]

 

 あれ? よく考えたらこれ、初めてのクラスメイトとのアドレス交換だ。

 さ、最初のメールは何て送ろう! い、今から考えないと!!

 

「よし、届いたみたいだな。

 じゃあエルシィに送ってもらって……どうした?」

「あ、うん、何でもないよ!!」

「そうか。じゃ、頼んだぞ」

「はいっ! 姫様は責任持って私が運びます!!」

「……くれぐれも事故らないようにな?」

「も、もちろんですよ!! もし地面に衝突しても対物理結界を展開してるから大丈夫です!!」

「そういう問題じゃねぇよ!!」

 

 ……すこし、いや、かなり不安だなぁ……

 

「中川、やっぱりタクシーか何かにするか?」

「で、できるだけ速い方が良いんだけど、う~ん……」

「……じゃ、また明日な」

「うん。じゃあね」

 

 

 この後、結局私はエルシィさんに送ってもらった。

 テレビ局の前の地面が大きく抉れたけど……見なかった事にしよう。

 

 

 

……その夜……

 

 

 ど、どうしよう、クラスメイトへの初めてのメール!

 とりあえず『これからも宜しくね♪』みたいな感じで良いのかな?

 それともしっかりと『拝啓、桂木桂馬様、この度は……』みたいにした方が……

 桂木くんに全部頼りっきりなわけだから、軽い感じだとダメかな?

 って事は、えっと、感謝の重さを伝える為に『ヨロシクネ』って言葉を100個くらい並べてみるとか。

 それとも…………

 

 

……数時間後……

 

 

 ああでもないこうでもないと悩んでいるうちに夜が明けてしまった……

 うぅぅ……少しだけ休んでから学校に行こう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルシィが空から降ってきた日を攻略1日目とするなら、今日は2日目だ。

 放課後まではする事が無いので、ゲームを消化しておく。

 最近新しいゲームが多いからなぁ。嬉しいんだが時間がいくらあっても足りない。

 いざ! とゲームを始めた時、中川が教室にやってきた。

 

「おはようございます…………」

 

 凄く、眠たそうな顔で。

 あいつ、何かあったのか? まさかエルシィ絡みなのか?

 もしそうなら他人事では済まない可能性もあるわけで……仕方ない、面倒だがちょっと話を聞いてみるか。

 直接声をかけると色々マズいのでメールで。

 

『凄く眠そうだが、何かあったのか?』

 

 送信っと。

 中川の携帯から着信音が響き、慌てて開いている。

 そしてすぐに返信。

 

『なんでもないよ。ただ、ちょっと寝不足で』

 

 メールが届いた瞬間に中川が『しまった!』という感じの顔をしていたが、面倒だったんでスルーして無難な返信をしておく。

 

『そうか。ゆっくり休めよ』

 

 寝不足ねぇ、地獄の契約で命を取られそうになってるストレスとか?

 まあいいか。中川は攻略対象じゃないし、気にする事は無いな。

 

 

 

 

 

 待ちに待った、わけでもない放課後だ。

 今日は晴れているので陸上部の練習は普通にある。

 早速派手に応援……する前に校舎の影で打ち合わせを行っておく。

 

「んじゃ、エルシィ、準備は良いな?」

「はいっ! 神様!」

「中川、まだ眠そうだな、大丈夫か?」

「うん……大丈夫」

「ここから先はお前にできる事はあんまり無い。仕事に行きたいなら行っても構わないぞ」

「大丈夫。また少しだけ遅れるって連絡入れておいたから。

 それに、ここで帰っちゃったら桂木くんに全部押し付けてるみたいでイヤだから」

「……それじゃ、エルシィは横断幕の設置が終わったら中川と一緒に透明化して近くで見ててくれ。あまり面白いもんでも無いだろうけど」

「わっかりました!」

「じゃ、スタートだ」

 

 

 横断幕をこれでもかというくらいに掲げ、その中央に仁王立ちする。

 『応援団長』と書かれたタスキも忘れずに装着する。

 当然の事だが、すぐに歩美はこちらに気づいて真っ赤な顔をしながらもの凄い勢いでこっちに向かってきて、思いっきり蹴り飛ばされた。

 

「ゴフッ!」

「何なのさオタメガ! この恥ずかしい横断幕は!!」

 

 オタメガというのは僕の事らしい。オタクメガネの略だとか。

 脇腹の痛みに耐えながら台本どおりの台詞を紡ぐ。

 

「た、大会も近いので、その、応援を……」

 

 その台詞を聞いた歩美は一瞬だけ驚いたような顔をして、そして……

 次の瞬間には引き千切られた横断幕で首を絞められていた。

 

「何の恨みがあんのよこのっ! ふざけんじゃないわよ!!」

「ギギギッ!!」

「次やったらコロす!!」

 

 言うだけ言って、歩美は練習に戻って行った。

 

「か、神様! 生きてますか!?」

「ゼーハーゼーハー……死ぬかと思った……」

 

 怒るのは想定内だったが、何もあそこまでしなくても良いじゃないか!

 

「ま、とりあえず強烈な印象を与える事には成功しただろう。

 今日は引き上げるぞ」

「了解です!」

 

 

 

[3日目]

 

 今日も懲りずに横断幕で歩美を応援する。

 昨日使った文言は一切使いまわさず全部新しくしている。

 それに気づいてくれれば少しは好感度が上がってくれると思うんだが……

 

「ちょっと! 何でまた居るの! 横断幕止めろ!!」

 

 気づいてないな。あまり期待はしてなかったけど。

 横断幕は止めろ……か。仕方ない。明日は横断幕は止めるか。

 

 

[4日目]

 

 今日は一切横断幕を使っていない。これなら歩美も納得だろう!!

 

「バカヤロー!! 垂れ幕でも同じだよ!!」

 

 まぁ、だろうな。

 

 

[5日目]

 

 今日は大量の幟旗を用意してみたが……

 

「もうムシ、フン!」

 

 ついに無視されるようになったか。

 

「あの、神様、大丈夫なんですよね……? ただ単に嫌われていってるだけのような気がするんですけど……」

「桂木くん、大丈夫なんだよね? きっと大丈夫だよね?」

「あ、ああ。間違いない。順調に進んでいる!」

 

 とは言ったものの、段々不安になってきている。

 ちくしょう、セーブロード不可、バックログ無し、ファーストプレイのみって、どんな攻略だよ!!

 ああ、また胃が痛くなってきた。

 

「ちょっとトイレ行ってくる」

「ご、ごゆっくり」

 

 近くのトイレへと向かおうとするが、その前にグラウンドの方から聞きなれない声が聞こえてきた。

 

 

「ちょっと歩美ぃ、何で走ってるワケ?」

「2年はウチら3年が走るまで待機でしょ?」

 

 あいつらは3年の先輩か。

 ずいぶんとテンプレな後輩イビりだな。

 

「すみません、先輩方は今日は来られないかと思いまして。

 それに、大会も近いですから!」

「聞いた今の? すっかり選手気取りね」

「何でアタシが補欠であんたが代表なのよ! たまたま一回、良いタイムが出たくらいで調子乗っちゃってさぁ!」

「あのっ、罰なら早くお願いします! 本当に 大 会 まで時間が無いので!!」

「フンッ、外周よ! 外周30周!!」

 

 なるほど、あれが歩美に蹴落とされた先輩達か。

 

「う~! イヤな先輩です!

 人間界にも居るんですね! ああいう先輩!」

「地獄にも居るのか」

「ホントに色んな所に居るよね。ああいう先輩」

「ああいう先輩も、実は後輩を気遣うツンデレっていうケースもあるんだが……あいつらはどうなんだろうな」

「え~? 考えすぎじゃないですか?」

「どうだろうな」

 

 

[6日目]

 

 

「桂木くん、今日は何かしないの?」

「昨日は『もうムシ』って言われたから、少し様子を見て時間差でやってみようかと思ってな」

「ふ~ん」

 

 物陰に隠れてグラウンドの方の様子を伺う。

 歩美は校舎の方をチラチラ見ているようだ。

 

「あれ? 応援男は今日来てないね」

「さみしい歩美であった~」

「んなわけあるかぁっ!!」

 

 良かった。これで反応が薄かったらかなり危うかった。

 

「それじゃエルシィ、頼むぞ!」

「はいっ!」

 

 エルシィが羽衣の端を引っ張ると2つのアドバルーンが空に浮かび上がった。

 

「な、何あれ!」

「うわっ、アドバルーン、懐かし~」

 

 反応は上々のようだ。

 

「すみません神様、透明化に必要な最低限の分の羽衣を残したら2コしか作れませんでした」

「一つで充分だよ」

「明日はいよいよ大会ですね!

 私たちの応援でぜひ歩美様を1位に!

 そして、あの先輩達を悔しがらせたいです! とっても!!」

「エルシィさん、先輩に嫌な思い出でもあるの?」

「そもそも一週間応援したくらいで勝てるんだったら僕達がやった程度の応援なら学校が積極的にやりそうだが」

「ちょっと、神様ぁっ!! それじゃあこの一週間は何だったんですか!?」

「分かってないなお前は。僕達の目的は歩美に一位を取らせる事じゃなく……」

 

 

ガシャッ ドサッ

 

 

 僕の台詞を遮ったのは、グラウンドから聞こえてきたそんな音だった。




Q.ケツカッチンでリスケ無理(リームー)なかのんちゃんがどうして6日間も連続で登校できてるの?

A.君のような勘のいい読者は嫌いだよ。

とまあ冗談はさておき、かのんちゃんも攻略の成否に命がかかってるので、何とか強引に登校させてもらったんだと思います。って言うかそういう事にしておいて下さいお願いします!
もしそうなら、岡田さんがもの凄く苦労しそうですけどね……

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