もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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03 ベタなイベント

 うぅぅ……どうすれば良いのでしょうか……

 お昼休みの時間になり昼食を頂く為に教室から出たいのですが、何故かもの凄い人だかりができています。

 

 

『かのんちゃん来てるってマジか!?』

『ああ。なんでも気付いたら居たらしいぜ! まるで忍者みたいに現れたってよ!』

『カノン=サンはニンジャだった?』

『アイエエエ! って、んなわけ無いだろ』

『忍者コスのかのんちゃん……アリだな!!』

 

 

 皆さん何事かを話しているのですが……一体何を話しているのでしょうか?

 外に出たいのにこの人だかりが止む様子はありません。うぅぅ……お母様、私は一体どうすれば?

 

 そんな風に呆然としていた時でした。あのお方に初めて声をかけて頂いたのは。

 

「おい君、大丈夫かい?」

「……え? わ、私でしょうか?」

 

 突然後ろから声をかけられて振り向くとそこには見知らぬ眼鏡の男子生徒がいらっしゃいました。

 

「どうしたんだい? もしかして、教室から出たいのかい?」

「え、ええ。そう、です」

「ふむ……失礼」

 

 その男子生徒はそう言うと自然な動作で私の手を取って歩き出しました。

 

「へ? あ、あの……」

「すいません! ちょっと、通して!」

 

 そして私の手を掴んだまま人ごみ人ごみを掻き分け、身動きが取れる場所まで連れてきて下さいました。

 

「ふぅ、ここまで来れば大丈夫かな。それじゃあね」

「へ? ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 手を離してそのままどこかへ行ってしまおうとしたので慌てて呼び止めました。

 お礼の一つもせずに行かせてしまうなど五位堂家の娘としてあるまじき事です。

 

「助けて頂いてありがとうございました。もし宜しければお名前をお聞かせ願えないでしょうか?」

「ふむ……名乗るほどの者じゃないさ。それじゃあね」

「え? 待っ!」

 

 そんな事を言い残すとその男子生徒は呼び止める間も無くどこかへ去って行ってしまいました。

 あの親切なお方は一体何者だったのでしょうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、これで出会いはバッチリだな」

 

 相手は良くも悪くもお嬢様だからな。台詞回しはベタなくらいで丁度いい。

 彼女が恩人をあっさりと忘れるような薄情者でなければかなり強い印象を残せただろう。

 

「あっ、神様! こんな所に居たんですか!

 オムそばパン、買ってきましたよ!」

「ん、助かる」

 

 どこからか現れたエルシィからオムそばパンを受け取って頬張る。

 教室前の混雑はまだまだ続きそうだからしばらくは適当に退避しておこう。

 

「あ、そうそう。中川の分のパンは透明化してあいつの机に仕込んでおけ。決して直接手渡しするなよ?」

「え? はい分かりました!」

 

 しっかし前に中川が学校に来た時よりも人が多い気がするな。単純に人気が上がったとかそういう理由なのか、それとも錯覚魔法を使ってたせいで突然現れたように見えたから何か話題になったのか……

 まあいいか。どうでも。

 

 さて、次に結に仕掛けるのは今日の放課後で良いだろう。

 偶然遭遇したっていう体で行くかな。あんまり露骨だと疑われるかもしれんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……そして、放課後……

 

 帰りのホームルームが終わったらさっさと2-Aの近くまで移動する。

 うちのクラスにはまた人が集まってきているが皆昼休みで満足したのか昼休みほどは集まっていない。

 2-Aの様子を観察すると結が普通に出てきた。今は自力で脱出できたようだな。

 気づかれないように尾行してイベントを起こす機会を伺う事にする。

 

 

 しばらく様子を見ると吹奏楽部の部室へと入って行ったが、数分で出てきた。何かあったのだろうか?

 

「エルシィ、あの辺の音って拾えるか?」

「ちょ~っと待ってくださいね。これをこうして……できました!」

 

 羽衣が小型のパラボラアンテナのような形に変化した。

 

「これ付けてください。聞こえるはずです」

 

 エルシィからイヤホンのようなものを渡される。耳に付けると会話が聞こえてきた。

 

『あの、ホントに止めちゃうの? 吹奏楽部』

『……はい。この後もお稽古が入っていますので。本当に申し訳ありません』

『う~ん……結は上手いからできれば止めてほしくなかったけど。しょうがないね』

『……失礼します』

 

 ふ~む、部活よりも稽古か。

 とてもじゃないが本人の意見とは思えんな。

 家からの重圧か。分かりやすくて僕としては非常に助かるが……

 

「……よし、エルシィ。指示通りに行動してくれ」

「何でしょうか? お任せ下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 やめたく、なかった。

 あの場所はただ一つの私が私で居られる所だった。

 でも、無理だ。お母様が認めてくれるはずが無い。

 ……今日もお稽古があります。急がなければ。

 

 早くお母様の下へと行かなければならないのに、足が重い。

 階段を降りるというだけの動作がとても辛い。

 ……そんな状態で歩いていたせいでしょうか?

 

「っ! あっ!」

 

 何かに躓いてしまいバランスを崩してしまいました。

 バランスを立てなおそうと動かした手は空を切り、私の身体はそのまま階段を転がり落ちて行きます。

 

ドサッ 「ぐはっ!」

 

 階段の下まで落ちて、でも何かの上に落ちたのか床にぶつかる痛みは感じませんでした。

 何か……いえ、どなたかを下敷きにしてしまったようです。

 その事に気付いた私は慌てて立ち上がり謝罪の言葉を口にします。

 

「も、申し訳ありません! 私、ちょっとボーッとしてて……」

「だ、大丈夫だ。

 ……ん? 君は……」

「え? あ、貴方様は!」

 

 そこにいらっしゃったのはお昼休みの時に私を助けてくださったあの眼鏡の男子生徒でした。

 

「ふふっ、また会ったね。どうやら僕と君には奇妙な縁があるようだ」

「は、はい……そう、ですね」

 

 一日に二度も助けて頂くなんて、なんだか物語みたいです。

 

(……ま、エルシィが結の足を引っ掛けただけなんだがな)

「? 何かおっしゃいましたか?」

「い、いや、何でもないよ。

 ところで、どうしたんだい? 階段で転ぶほど注意力散漫になるなんて、何か深刻な悩みでもあるのかい?」

「え? ……いえ、これ以上ご迷惑をお掛けするわけには……」

「遠慮する事はない。君と僕との仲じゃないか。と言ってもただ偶然2回ほど会っただけの仲だけど」

 

 たった二回ほど会っただけというのに妙に自信満々な姿を見て私は思わず笑ってしまいました。

 

「ふふっ、たった二回。そうですね」

「……ようやく笑ってくれたみたいだね」

「え?」

「初めて会った時から暗い顔が気になっていたんだ。君には笑顔の方が100倍似合うよ」

「え、そ、そんな事は……」

「もし良ければもっと君の笑顔を……ゴハッ!!」

 

 彼が何かを言おうとしたら突然お母様が現れて飛び蹴りをしました。

 

「娘に何をするかぁあああ!! 五位堂家の愛娘に暴行を働くなど命を失う覚悟があっての事なのですか?」

「あ、あの、お母様……」

「まあ結さん無事ですか? 私はあのケダモノに襲われている所をはっきりと見ましたよ。すぐに警察を呼んでお医者さまも呼びましょう。まったく、だから共学ではなく女子校にしようと申しましたのに。あの学園長、『最高の環境をご用意致します』なんて嘘ばっかりだったわ。きっと五位堂家の寄付が目的の出まかせだったのだわ」

 

 またお母様の長いお話が始まってしまいました。何とか否定しないと、私を助けて下さったこの方が警察のお世話になってしまいます。

 でも、お母様を止めるなんて……

 

「……さっきから黙ってれば言いたい放題ですね」

「何ですってケダモノ風情が」

「僕は貴女のご息女が階段から転びそうになったので助けただけです。

 それに対して貴女はいきなり飛び蹴りをかましてきました。

 警察がまともなら呼んだ所で捕まるのは貴女の方ですよ?」

 

 私がなにもできないでいたら彼は凛とした態度でお母様に反論をしました。

 

「まっ、何て口の利き方!? 私を五位堂と知っての狼藉ですか!?」

「……それは権力を使って事実をねじ曲げるという脅迫ですかね?」

「ッッッ!! 行きましょう結さん。こんな野蛮で学識の無い狼藉者に構っている暇などありませんわ!!」

「は、はい」

 

 凄いです。お母様を言い負かしてしまいました。

 一体彼は何者なのでしょうか?






今回のマシンガントーク部分は原作からのコピペが一部あります。
この後色々あって結局うやむやになっていましたが、何事も無かったら普通に警察呼ばれてたんでしょうかね?
五位堂家の権力が司法の手にどこまで及ぶかはイマイチ分かりませんが、呼ばれてたら面倒な事になってたのかなぁ……?

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