もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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04 スイッチ

  ……攻略初日 夜……

 

 桂馬くんは『早ければ今日中に決着が付く』って言ってて、そしてあと数時間で『今日』が終わるわけだけど……

 

「桂馬くん、どうしたのその格好?」

 

 何故か真っ白なタキシード姿で外に立っていた。

 

「エルシィの羽衣で作ってもらったタキシードだ。この格好で今から結を迎えに行く」

「え? 今から? 急ぎすぎじゃない?」

「そんな事は無い。僕の印象が強く残っているうちに畳み掛けた方が良い。

 今回の心のスキマの原因は家からの重圧を跳ね除けられないという事にある。重圧を跳ね除けねばならないと強く思わせるような魅力的なものを教えてあげるだけで解決だ。

 そう、エンディングは見えイタッ!」

 

 決め台詞を言い切る直前で頭を抱えてうずくまる。

 

「……だ、大丈夫?」

「神様、今回はかなり体を張ってましたからね。押しのけられたり結さんの下敷きになったり飛び蹴りされたり」

「あの母親、強く蹴りすぎだろ。

 だが、それも今日で終わりだ! エルシィ行くぞ!!」

「はいっ! お任せ下さい!!」

 

 う~ん、飛び蹴りされて頭が痛くなるかな? 転んだ拍子に頭を打ったとか? それだったらちゃんと病院に行った方が良いんじゃないかな。

 それ以前に何だか体調が悪そうに見える。やっぱり止めた方が……でもここさえ乗り切れば攻略は完了するらしいし……

 

「何ボサッとしてる。お前も、一緒に……」

 

 言い切る前に桂馬くんがドサリと音を立てて倒れる。

 

「け、桂馬くん!?」

「神様!?」

 

 やっぱり救急車を呼んだ方が良い。急いで携帯電話を取り出して119番をかけようとする。

 しかし、番号を打ち終える直前に桂馬くんの口から漏れた声が私の動きを止めた。

 

「……大丈夫です」

 

 たったそれだけの短い言葉。

 その言葉に私は強烈な違和感を覚えた。

 

「……え? あれ?」

 

 続けて出てきたのは形になっていない疑問の言葉。

 言葉遣いも微妙におかしい、何も起きてないのに混乱しているのもおかしい。

 でも何より雰囲気とか仕草とか、まるで別人のように異なっていた。

 ま、まさか……

 

「あなた! 自分の名前を言ってみて!!」

「へ? あの……え?」

「自分の名前! 早く!!」

「え、あの……五位堂結……です」

 

 桂馬くんの姿をしたその人物は確かにそう名乗った。

 これが壮大なドッキリを仕掛けられているんじゃなければ桂馬くんの体に結さんの人格が入っているらしい。

 となると……

 

[♪~♪♪~♪♪~♪♪♪~♪~ ♪~♪~♪~♪♪♪~♪~]

 

 突然電話がかかってきた。相手は知らない番号だったけど私は即座に通話ボタンを押した。

 

「桂馬くん無事!?」

『あ、ああ……こっちの説明の手間が省けるのは凄く助かるが、確認も兼ねてちょっと状況を整理させてくれ』

 

 電話の向こうから聞こえてきたのは女子の声。多分、五位堂結さんの声だ。

 

「こっちでは桂馬くんが突然倒れて、起きた人から名前を聞き出したら五位堂結って名乗ったよ」

『……やっぱりそういう事か。こっちは気付いたらあの結の母親が目の前に居て焦ったよ』

「これって……桂馬くんと結さんが入れ替わってるって事だよね」

『らしいな。今は五位堂家の屋敷らしき所に居るんだが……そいつを連れて来れるか?』

「分かった! エルシィさん、屋敷に行くよ! そこの人も連れて!!」

「よく分かんないけど……分かりました! 行きますよ!!」

「え? あの、それよりここは一体……私は屋敷に居たはずなのに」

「説明は後! エルシィさん、強制的に連れてって!」

「は、はいっ!」

「え? あの、きゃぁぁぁぁあ!!」

 

 エルシィさんが私たち3人を羽衣で包み込み、いつものように高速飛行する。

 

「結さんの家ってどこでしたっけ!?」

「大きい家って聞いてるから上空から見れば分かるはず!」

「了解です!!」

 

 

  そして数分後……

 

 

 何とか結さんの家(だと思われる屋敷)を探し出して急いで向かう。

 地面にクレーターができかけたけど今回はギリギリ止められたようだ。ほんの少しだけ地面がへこんでたけど……

 入り口の立派な門には結さんと思しき女子……の姿をした桂馬くんが手を振っていた。

 

「お~い、こっちだこっち」

「か、神様……ですよね?」

「ああ。疑うようなら今からゲームの6面同時攻略でもやろうか?」

「い、いえ、大丈夫です」

 

 6面同時……? ゲームを6つ同時にやるんだろうか?

 ムチャクチャな事を言ってる気がするけど桂馬くんならできそうだから怖い。

 

「あ、あの……一体何がどうなっているのでしょうか?

 私はお母様とお夕食を取っていたのですが……」

 

 強引に引っ張ってきた結さんが口を開く。さて、何から説明すれば良いのやら。

 

「そうだな……中川、手鏡とか持ってるか?」

「ああなるほど。うん。はいどうぞ」

 

 折りたたみ式の手鏡くらいならいつでも持ち歩いてる。

 鏡を広げて結さんの方へと向ける。

 

「こ、これはっ!?」

「どうやら僕と君の体の中身が入れ替わってしまったようだな」

「という事は……貴方は今日私を助けて下さった御方だったんですね!

 で、でも何でこんな事に!?」

「……さぁなぁ。皆目見当も付かん」

 

 桂馬くんはそんなテキトーな事を言いながら私たちを結さんから遠ざけて小声で話し始める。

 

(これ、駆け魂の影響……で良いんだよな?)

(それくらいしか心当たりは無いけど……駆け魂ってこんな事もできるの?)

(そーですねー。不可能では無いと思います)

(……エルシィさん、前に魂を入れ替えるのは無理って言ってなかったっけ?)

(え? そうでしたっけ?)

(確か……『難しい』とは言っていた気がするな。不可能ではなかったんだろう。

 っと、そんな事より今後の方針だ)

(あ、ゴメン。どうするの?)

(とりあえず……入れ替わった状態で生活するしかないわな。

 結のフォローは任せたぞ)

(お任せ下さい!!)

(お前が一番心配なんだがな……)

 

 相談を終えた桂馬くんが結さんへと振り向く。

 

「どうすべきか考える時間が欲しい。とりあえず僕になったまま生活しててくれ。こっちは何とかしとく」

「え!? そ、そんな困ります!」

「他にどうしようもないだろう。頼むから何とか……」

 

「結さん! そこに居たのね!!

 って、あああ! この男は!!」

 

 結さんがごねてるうちに母親が来てしまった。直接見るのはこれが初めてなんだけど……面倒な事になりそう。

 だけど、そんな私の心配とは裏腹にむしろ都合良く動いてくれた。

 

「お、お母様。お母様ぁぁあ!!」

 

 色々と限界に達していたのであろう結さんが母親に抱きつこうとする。

 しかしその身体は桂馬くんのものなので……

 

「消え失せなさいこの害虫が!!」

 

 と、あっさりと返り討ちに遭う。

 母の拳を受けて吹っ飛ばされて倒れたけど都合が良いからこのまま運んでしまおう。

 

(エルシィさん、行くよ)

(あっ、ハイ!!)






入れ替わりの描写は最初は原作通りに桂馬視点と結視点を同時に進めようかと思ったのですが、せっかくだからかのん視点で通してみました。
なお、決して結母のマシンガントークを書くのが面倒だったというわけではありません!!


本作では未だに分かりやすいレベル2の駆け魂が出てきてないので入れ替わりが駆け魂の影響だという事にかなり懐疑的です。
一応栞は影響を受けているという設定ですけどね。

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