もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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05 入れ替わり生活の始まり

 五位堂家の邸宅に来た時と同じように3人で桂馬くんの家に帰る。

 私が使わせてもらってる部屋に集まって今後の打ち合わせを行う。

 

「まずは自己紹介からさせてもらうよ。私は中川かのん。こっちの子が……桂木エルシィさん。さっき下に居た女の人が桂馬くんのお母さんの桂木麻里さん。

 そして、結さんが入ってる身体の本当の持ち主が桂木桂馬くんだね」

 

 私の名前は適当に誤魔化そうかとも考えたんだけど……既に顔をしっかりと見られてる以上は下手に取り繕わない方が良いだろう。

 せめて最初に錯覚魔法がかかった状態だったら……あれ? そう言えば錯覚魔法は効くのかな? 今の結さんって桂馬くんの身体だけど……

 後で確かめた方が良いかもしれない。

 

「……あ、あの、少々宜しいでしょうか?」

「何? 気になる所があったら何でも訊いてね」

「はい。中川様は桂馬様とどういったご関係なのでしょうか? 名字も違うようなので少し気になったのですが……」

「あ~……うん。えっとね……」

 

 私がここに住んでいる事に特に疚しいことは無いので包み隠さず教えても大丈夫……のはず。

 ここで一番マズいのは私と桂馬くんとが恋人関係だと勘違いされる事。攻略にかなりの悪影響を与えるだろう。

 とりあえず堂々とただの居候であると言っておこう。疑われるようなら実は親戚同士だみたいな設定を加えちゃおう。

 

「色々と事情があってここに居候させてもらってるの。あ、でもこの事は誰にも言わないでおいて欲しいかな。色々と面倒な事になるから」

「?? どういう意味でしょうか?」

 

 結さんが素でポカンとしている。

 ま、まさかとは思うけど……私の事、知らない?

 ……そうか、きっと親からテレビとかも禁止されてたんだ。いかにもドラマに出てくる頭固い母親って感じの人だったし!

 それなら私の事を知らなくても仕方ない! あの母親のせいだ!!

 

「な、中川様? ど、どうかなさいましたか? 何だか怖い顔をしていらっしゃるのですが……」

「ううん、何でもないよ。とにかくナイショね♪」

「は、はぁ……」

 

 あっちの方は桂馬くんも何かやらかしてそうだからしばらく放置しておこう。

 最優先は攻略。結さんのサポートだ。

 

 と、気を引き締め直した所で下の階に居る麻里さんの声が聞こえた。

 

『皆~、お風呂沸いたから順番に入っちゃいなさい!』

 

「それじゃあ……結さん入っちゃう?」

「お、お風呂は遠慮させていただきます……お、お構い無くお過ごし下さい……」

 

 そりゃそうだよね。いきなり男の人の体になってお風呂に入る勇気は私にも無い。

 ……桂馬くんの方はどうしてるかな? 桂馬くんなら遠慮なく入りそうな気がするけど……

 

 

 

 

 

  ~~一方その頃、五位堂家~~

 

 こ、これが女の子のカラダ……

 白くて、柔らかくて、スベスベしてて、ドキドキする……

 ボク、ボク……

 

「……な~んて事をゲームではよく言われてるが、なってみたら思ったよりも普通で拍子抜けだな」

 

 いつもの身体と違うんで色々と違和感はあるがそれだけだ。

 

「ふむ……ゲームでもよく言われているが、大きな胸は確かに重いな。巨乳キャラの台詞でよく『肩が凝るから云々』ってあるけど、これなら無理もないな」

 

 考察は置いておいてさっさと服を脱いでお湯に入る。

 この無駄に広い邸宅の浴場なだけあって無駄に広い。下手するとそこらの銭湯よりも広いんじゃないか? 一体何の意味があるのやら。

 

 しっかしまさかこんなことになるとはなぁ。駆け魂というものをちょっと舐めていたかもしれん。

 完全に想定外のルートを進んでいるが、まぁ決して悪い流れではないな。

 こんなファンタジーな展開まで作り上げるとは……現実(リアル)もやればできるじゃないか。

 

 

  ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 ……うん、桂馬くんなら心配ないだろう。きっと。

 それより心配なのは明日の学校だね。

 一朝一夕で入れ替わりが解除されるとは到底思えない。攻略完了までずっとそのままだと思う。

 だから学校でも入れ替わって生活する事になる。

 私も登校してフォローに回りたいんだけど……仕事があるんだよなぁ……

 エルシィさんと入れ替わるという手も無くは無いんだけど……

 

「結さん、私たちの名前はちゃんと覚えられましたか?」

「はい、中川かのん様と桂木エルシィ様ですね」

「念のためどっちがどっちかも言ってくれますか?」

「え? はい。そちらが中川様、こちらがエルシィ様ですね」

 

 と、私たちが錯覚魔法を使っているにも関わらず正しい方を言い当ててきた。

 こうなると結さんの前で入れ替わりは使えない。ちゃんと説明すれば使えない事も無いけど……それをやろうと恐ろしく面倒くさい事になる。

 仮に仕事を休んで私が学校に行っても、私の立場で結さんをフォローするのは不可能に近い。やはりエルシィさんに頑張ってもらう、最悪放置するしかないだろう。

 

 ……ってあれ? 桂馬くんと結さんにそれぞれ錯覚魔法使えば入れ替わりの問題って解決するんじゃないだろうか?

 う~ん……この状況すらも桂馬くんなら利用するだろうから下手な事はしない方が良いか。

 一応エルシィさんと話して手段だけは確保しておこう。


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