もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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06 それぞれの様子

  ……攻略2日目……

 

 

「とりあえず一晩考えてみたが、特に何も思いつかなかったのでしばらくはこのまま暮らそう」

「そ、そんな、思いつかなかったって……」

 

 朝早めに学校に来て結やエルシィと合流した。

 こんな異常事態を何とかする方法を一晩で思いつく方がおかしいのだが……結にしてみれば藁にも縋る思いだったのだろう。絶望感がありありと伝わってくる。

 

「まぁ、最初に入れ替わる時も突然入れ替わったんだ。そのうち戻るだろ」

「そんな無責任な! 私、男の方の生活なんて全然……」

 

 男だろうが女だろうが大して変わらないと思う、って言うか実際変わらないんだがなぁ。

 ま、お嬢様には厳しいか。

 

「あ、あの……一つお尋ねしたい事があるのですが……」

「ん? 何だ?」

「あの……その……

 ……お、お手洗いの方法を……」

「……は?」

 

 

 

  ……職員用トイレ……

 

「昨日からしてないってアホか!」

「だ、だって、やり方が……」

「やり方なんて男も女も同じだよ!」

「で、でも……し、下を脱ぐと見えてしまって……」

「脱がなきゃトイレなんてできないだろ!」

 

 トイレの問題か。入れ替わりあるあるネタだったな。

 実際に遭遇してみると……なんかこうイラつくな。

 

「うぅ……ぐすっ、戻りたい。

 家に帰りたい……」

 

 ……そうだな。一番苦しんでるのは結だ。

 さっさと駆け魂を追い出してやらんとな。

 

「大丈夫、きっと戻れるさ」

「……ごめんなさい。あなたも同じ立場なのに……

 私も頑張ります。元に戻れる日まで」

「……ああ」

 

 

 

 

 そんな感じで、お2人の入れ替わり学園生活が始まりました!

 ではまずは結さんの方から見てみましょう!

 

 

  ~~Side結~~

 

 桂馬様になりきったふるまいをしなくては。

 でも、桂馬様の事を良く知りません。どういう風にすれば良いのでしょうか?

 う~ん、あの王子様のような御方ですから、きっと皆から慕われる優等生なのでしょうね。

 私ごときが粗忽なふるまいをして評判を落とさないように気をつけなくては……

 

「では、このページの主人公の男の心情、分かる奴は答えてみろ」

 

 この問題は……予習した箇所です。大丈夫、完璧に答えられます!

 

「はい先生!」

 

 はっきりと声を上げて挙手。

 

「主人公の台詞内の『友』は猫を表わし、ドラ焼きが好きな猫を飼っているうちに堕落してしまった自己を振り返っています!」

 

 ……あれ? 何だか教室の皆さんがざわついてます。まさか、間違えてしまったのでしょうか……?

 い、いいえ、絶対これで合ってます!

 

「い、いかがでしょうか!」

「……ふむ、見事な答えだ。桂木」

 

 ああ、良かった。ちゃんと合ってました。

 

「で、これは一体何の嫌がらせだ?」

「あががががが!!」

 

 な、何故か二階堂先生に関節技をかけられてしまいました……

 せ、正解したはずなのに、何故……?

 

 

 

 

 う~ん、結さんはどうも神にーさまの事を勘違いしているようですね……

 神様なそんな優等生じゃないですよ。

 

 え? 優秀な悪魔ならこういう時はちゃんとフォローしろって?

 い、いや~、えっと……そう、私はまだ本気を出してないんです!

 って言うか、あれはいつもゲームばかりやってる神様のせいです! 神様が優等生だったら問題なかったんです!! 何故かテストはちゃんと高い点数取れるんだからその気になれば優等生になれるハズです!!

 ……では次は神様の方です。尤も、私は直接は見ておらず後から神様から聞いた話ですけどね。

 

 

 

  ~~桂馬Side~~

 

 お互いのふりをして入れ替わったまま生活……か。

 ゲームではそうするしかないからそうしてるケースが殆どだが、実際問題として完璧に演じることなど不可能だ。

 『違和感の無い入れ替わり』なんていうものは実例を挙げるなら中川がエルシィを演じるケース、吉野麻美と郁美の双子が入れ替わるケースくらいだ。

 前者は人間界に来てからの時間が短い上にアホキャラなんで多少違和感があってもごまかせるケース、後者はお互いの特徴をよく理解しているケースだな。

 だから、結が僕を演じるなんてのはほぼ間違いなく失敗するだろう。だが問題は無い。結が何かやらかして僕が問題児扱いされてもどうせ地獄の技術で記憶操作されるだろうしな。

 演技させる目的は『結に目的を与えてやること』『ある程度行動を制御すること』の2つだ。

 何かやることがあれば多少は安心できるだろうし、僕の演技をする以上は突拍子もない行動は取らないだろう。

 

 で、僕はどうするべきかという事なんだが……

 家からの影響を減らす事を考えるのであれば失望されるような行動を取るのが良いだろう。

 と言っても、流石に犯罪に手を染めるような事はしないぞ? あくまで普通にしてるだけで十分だろう。

 そういうわけで僕は演技なんてせずにいつも通りゲームをしている。

 結のクラスの連中が遠巻きにこちらを見て何か噂しているようだが……こっちもどうせ記憶操作されるだろう。思う存分ゲームするとしよう。

 

 

  ……昼休み……

 

「五位堂さん! お、オレと付き合ってください!!」

 

 何か妙な手紙で屋上に呼ばれたから行ってみたらいかにもモブっぽい男子が僕に……いや、結に告白してきた。

 前日に見かけた記憶も無ければ今日も初めて会った相手。結も特に何も言ってなかったからほぼ間違いなく初対面の相手が何の下準備もせずに告白してきたのだろう。

 全く愚かな、本当に愚かな。

 

「全くナンセンスだ」

「え?」

「お前は告白というものを舐めているのか?

 いいか、告白というのはゲーム次第では最重要イベントだぞ? 唐突に起こしてどうする?」

「は、え?」

「こういうのは告白から逆算して、インパクトのある出会いから始めてイベントを積み重ねて行き、完璧に準備を整えてから告白するんだ」

「は、はぁ…‥」

「それを手紙一つで呼び出して、屋上なんていうテンプレな場所で無難な台詞で告白なぞ、バカにしているのか?」

「え? いえ、あの……」

「別にテンプレの全てが害悪だというわけではない。だがお前の告白は工夫が無さ過ぎる。もっと努力をだな……」

「し、失礼しました!!」

 

 男が怯えたような顔で走り去っていく。

 ふん、所詮はその程度か。軟弱な奴だ。

 

 

 

 神様、全開ですね~……

 地獄の記憶操作だって手間がかかるんだからちょっとは自重してほしいです。

 あと、神様は最初から問題児です!!


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