「一致したな」
「一致したね」
自己嫌悪かぁ……麻美さんを思い出す。
あの場合は他人とのコミュニケーションが原因だったね。
今回の場合は母親、あるいは家族とのコミュニケーションか。
……心のスキマってこんなのばっかりなのかな? いや、歩美さんは違ったか。
「そうなると、結には家の連中に真っ向から立ち向かえるようになってもらわないといけないな」
「うん。原因が親なのは大体分かってたんで結さんに家の事をスッパリ忘れさせた後に桂馬くんの惨状を見せつけて客観視させるつもりだと思ったんだけど……」
「……スマン、そんな事全く考えてなかった」
「うん。知ってた」
桂馬くんがちゃんと考えてたなら私に文句なんて言うはずが無い。
「……よし、そのルートで進めてみるか。結の方は頼んだぞ」
「順調に進んでるから私の方は特に問題は無いけど……桂馬くんの方は大丈夫なの?」
「ああ。と言うか僕の方はあんまりやることが無いからな」
「そうじゃなくて、体の調子は?」
「……僕を見くびるな。この程度の妨害、全く問題ない!」
「そう……辛かったらすぐに言ってね」
「ああ。それじゃあ僕は家に……」
「ちょっと待って!」
席を立ってカラオケの個室から出ようとした桂馬くんを呼び止める。
「せっかくだから歌ってこうよ。お気に入りの歌を思いっきり歌えば胸のつかえも少しは楽になるかもよ」
「歌だと? いや、僕は別に……」
「ホラホラ、私も歌うからさ。アイドルの生歌を聞ける滅多に無い機会だよ」
「……そう言えば、お前ってアイドルだったな」
「そう言えばって何!? そう言えばって!!」
「あ~、はいはい。それじゃあ折角だから何か歌うか」
その後、私たちは時間が来るまで歌った。
……なお、桂馬くんの歌声は……何というか、非常にユニークだったと言っておこう。うん。
私が家に帰ると既にエルシィさんと結さんが帰ってきていた。
立派なドラムも置いてある。吹奏楽部で使わなくなった古いドラムらしいのでやや薄汚れてるけど普通に使えそうだ。
「ドラムはちゃんと用意できたんだね」
「はい! こっそり持ってきました!!」
「……え? まさか無断で持ってきたの?」
「え? ダメでしたか?」
「ダメだよ!? 結さんは何してたの!?」
「え、えっと……冷静に考えたら校内で使うならともかく家に持って帰るのは無理だと思ったので……」
バレたら普通に犯罪なんだけどなこれ……地獄の技術を使った犯行だからまずバレないと思うけど。
……まあいいか。見なかったことにしよう。
「それじゃあ折角だから何か演奏してみてよ」
「お任せ下さい! 行きますよ!」
結さんはうきうきした様子でバチを手に取りドラムセットの椅子に座り演奏を始める。
最初に会った頃は全然笑ってなかったのに、今は凄く良い笑顔だ。
「い、いかがでしたか?」
「……うん。凄く良かったと思うよ」
「はいっ!! 何て言うか、こう……凄かったです!!」
流石は吹奏楽部と言うべきか、結さんの演奏は見事なものだった。
もちろんプロの人達と比べるとまだまだだけど、楽しんで演奏しているのが伝わるような良い演奏だった。
「ゆ、結さん! それって私にもできますかね!?」
「え? やってみたいのですか? 構いませんが……」
「やったぁ!!」
……果たしてエルシィさんに
まあいいか。結さんも1人でさみしく演奏するよりエルシィさんにドラム教える方が楽しめそうだし。
しばらくはこのまま様子見かな。エルシィさんが天然で何とか進めてくれるだろう。
……実はそこまで計算ずく……いや、エルシィさんに限ってそれは無いね。
「……結さん、この家は楽しい?」
「え? はい、皆さんとても良くして頂いて、とても楽しいです」
「……そう」
あなたは自力で気付いてくれるかな。『あなたが今居る場所は桂馬くんから奪ったものだ』って。
そして立ち向かってほしい。今あなたが感じている幸せはあなたが望めばあの家でもきっと手に入る物なんだから。
しばらく様子を見て、時期を待ってさりげなくあっちの家の方に意識を向けさせてみよう。あなたならきっと立ち向かえるから。
桂馬くんはいつもこんな事を考えながら攻略を進めてたのかな。
私と桂馬くん、そしてエルシィさんの3人分の命が私の選択次第で決まる。
そう考えるととても重く感じる。けど私は負けないよ。
これは今まで私が桂馬くんに押しつけてきた重みだから。
そして、これは私が選んだ攻略だから。
原作において桂馬は絵が下手という設定があるので、本作では美術系統(音楽含む)が全て下手という設定にしてみました。
但し、あくまでアナログな事が苦手なのであってデジタルな事は完璧にこなせます。
例えば歌は控えめに言っても音痴ですが、ピアノやリコーダー等の楽器を奏でるのは完璧にこなすでしょう。