私が決意を固めてから数日、幸か不幸か特に大きな事件は起こらなかった。
強いて言うなら桂馬くんが結さんのお母さんにゲームを取り上げられそうになった事だけど、桂馬くんが自分で何とかしたらしい。詳細は……ちょっと怖くて訊けなかった。
結さんは桂馬くんの身体での生活に馴染んできた様子で、入れ替わってすぐの時にはあった強烈な違和感は薄れ、最初から男子であったかのように生活している。入れ替わりの事なんて忘れかけてるんじゃないだろうか?
……といったような事を昼休みの時間を利用して桂馬くんに伝えた。
「そういうわけで桂馬くん。そろそろ何か行動すべきだと思うんだけど、どう思う?
具体的には桂馬くんにはストレスって名目で倒れてもらおうと思うんだけど」
「名目ねぇ……確かに良い手だが不安もある。
結がそれを聞いて何も反応しなかったらお手上げだぞ」
「全く反応しないっていうのは結さんの性格を考えたら無いと思うけど……何だかんだ理由を付けて目を背けようとはするかもね」
「そうだな。そうなった時にちゃんと対処できるか?」
「うん。きっと大丈夫……いや、絶対に何とかしてみせるよ!」
「……分かった。頼んだぞ。
それじゃあ僕は仮病で寝込むか……ゲームとかしてたらダメかな?」
「……せめてバレないようにって頼んだらちゃんと隠せる? ゲームに夢中になって仮病がバレたってなったら困るからね?」
「……できるだけ早く片を付けてくれ」
「うん。任せて!」
その後、私はエルシィさんに透明化の処理をしてもらってから保健室へ先回り。エルシィさんには『桂馬くんの様子を見て、倒れて保健室に運ばれたら結さんを連れてきて』と頼んでおいた。
割と久しぶりの関係者全員集合になるかな? 私は隅っこの方で隠れて様子を見てるから私以外は誰も気付けないけど。
私が保健室に隠れてしばらくして、先生に背負われた状態で桂馬くんがやってきた。
ぐったりとしていて顔色も悪く、とても仮病には見えない。
って言うか、本当に具合が悪くなったんじゃないだろうか? もしそうなら攻略としてはありがたいけどかなり心配だ。
ここに桂馬くんを運び込んできた先生もどこかへ行ってしまったので今なら声を掛けられるけど……後でも大丈夫か。下手な事して面倒な事になっても困るし。
更に数分が経過すると今度はエルシィさんと結さんが慌しく飛び込んできた。
「け、桂馬様!? 何があったのですか!?」
「……結、か。心配するな。ちょっとゲームのやりすぎで倒れただけ……」
「にーさまがゲームをやったくらいで倒れる訳が無いじゃないですか!! 大丈夫なんですか!?」
「だから心配は要らないとゲホゲホッ」
「大変です。すぐにお医者さまを!」
「っ、呼ばない方が良い。入れ替わりが、バレるかもしれないから……」
「ですが!!」
その時、扉がガタンと音を立てて勢いよく開き、誰かが
勿論、結さんの母親だ。あと、執事っぽい人も付いてきている。
「結さん! 倒れたというのは本当なのですか!?
まあなんという事なの! 保健室の先生は一体何をしているの!?
岡本、すぐにお医者さまに連絡を。一丁目の方はヤブ医者だから二丁目の方に!!」
医者という言葉に反応した結さんが母親に対して声を上げる。
「お、お待ち下さいお母様! 医者はダメです!」
「誰が、お母様ですって? いい加減にしなさいこの結に近づくウジ虫がぁ!!」
「おごご、ず、ずびばせ……」
母親の逆鱗に触れた結さんが首を締めて殺されそうになっている。
これ、止めなくて大丈夫だよね? 流石に大丈夫だよね?
「響子様、今は結様を病院へとお連れするのが先かと」
「それもそうね。急ぎなさい!」
執事っぽい人が母親の暴走を止めてくれた。私たちを助けてくれたわけではないと思うけどありがたい。
そのまま桂馬くんは連れていかれて、残ったのは床に倒れてる結さんと呆然と立ち尽くすエルシィさんだけだった。
放っといて先に家に帰って待つ事もできるけど、声を掛けた方が良いかな。
身に纏ってる羽衣を解いて声をかける。
「大変な事になったみたいだね」
「えっ、中川様!? いつからいらっしゃったのですか!?」
「そんな事より、これからの事を話した方が良いんじゃない?
ひとまず家に戻って作戦会議でもしようか」
「え? ですが午後の授業は……」
「病欠とでも言っとけばサボれると思うよ。出たいなら止めはしないけど」
「そ、そうですか。ですが……」
……その後、結局授業を受けてから家に帰った。
本当にどっちでも良かったから別に良いんだけどね。