……昼休み……
「これまた妙な展開になったね」
「ああ、そうだな」
「ところで桂馬くん、一つだけ質問があるんだけど?」
「何だ?」
「私には、桂馬くんが何にも考えずに売り言葉に買い言葉で話してただけに見えてたんだけど、実際の所はどうだったのかな? かな?」
「いや、そんな威圧感出さなくても普通に答えるよ。
確かに何も考えてなかったが……結果オーライだろう?
あいつとユータ君とやらが上手くくっつけば駆け魂も出てくるだろう」
「ああ、やっぱり? そんな気はしてたよ」
桂馬くん、行動だけ見れば結果オーライだけど目的がズレすぎてるよ。
ちひろさんがユータ君なんかとくっついた所でスキマは埋まらないよ。
いや、もしかしたら一応は埋まるのかもしれないけど数日でより深いスキマになって再発するんじゃないかな?
やっぱりちゃんと言った方が良いのかなぁ……? う~ん、でも……
……仕方ない。私が近くでフォローしよう。恋愛相談の名目で桂馬くんとちひろさんが2人で会話する事自体は良い事だから。
「それじゃあ攻略対象の情報を集めるぞ。
クラスはちひろから教えてもらったから、そっちの方で情報収集だ」
「そうだね、そうしようか」
……そして、数日後 放課後……
私と桂馬くん、そしてちひろさんの3人でパソコンルームに集まっていた。
この場所を選んだ理由は2つ。1つは単純に人が居ないから。もう1つは……もう少ししたら分かると思う。
「それでは、どうしようもない貴様の為に僕が攻略を全力でサポートしてやろう。
頭が高いぞ、私はお前の落とし神だ」
「何言ってんのバーカ。あんなの冗談よ。オタメガ何かに頼ってどうなるってのよ」
「フッ、その態度、すぐに後悔する事になるだろう。
あの程度の男、3日後には攻略できているだろう。
では始めるぞ。やれ、エルシィ!」
「はいは~い」
予め桂馬くんに渡されていた模造紙や付箋をテキパキと張り付けていく。
そこに書かれている内容はユータ君の行動パターン、と言うより生活パターンだ。時間割から分かる移動教室のタイミングや移動経路は勿論、休み時間や放課後に立ち寄る場所などが分刻みで記されている。
こんなものが女子の家から見つかったら一発でストーカー認定されそうなくらい細かい代物だ。小阪さんに逆に引かれないと良いんだけど……
「では説明するぞ。
まず、ユータ君は部活にも所属しておらず、特定の委員会に入れ込んでいるわけでもなく、そこまで目立つ趣味もない。
よって属性が特定できない特殊キャラだと考えられる。
だから、今回はどんな相手にも使える汎用的な手法を主軸に攻略していこうと思う」
「はぁアホらし。こんな事して何になるってのよ。もう帰る」
そりゃそうだよね。こんな事説明されても『ハイそうですか』って指示されたように行動する人は居ないよね。
……まぁ、だからこそこの場所を選んだんだけどさ。
「まあ待て」
「はぁ?」
ちひろさんが部屋から出る直前に呼び止める。
そして懐から取り出した紙コップに水筒から熱いお茶を入れて突きつける。
熱いと言っても持つくらいは普通にできる温度になってるはずだ。当然、火傷する事も無い……はずだ。
「ほら」
「?」
ちひろさんは桂馬くんに促されるままにコップを受け取る。
「ほれ」
「え? ちょっ、わっ!!」
突然桂馬くんがちひろさんを軽く突き飛ばす。
バランスを崩したちひろさんは数歩下がって踏ん張ろうとするが、その先にはある人が居た。
この時間、この場所を通るであろうと桂馬くんに予測された人物……ユータ君が。
当然、ちひろさんはユータ君にぶつかる。
それだけならまだしも、コップから飛び跳ねた熱いお茶がユータ君にかかった。
「熱っ! な、何だ!!!」
「え? あっ、ご、ごごごごめんなさいっっ!!!」
ちひろさんはユータくんに凄い勢いで謝り倒した。
そしてすぐにこちらに向かって飛んできた。
「何してくれてやがんのよこのオタメガぁぁああ!!!」
「フッ、説明してやろう。エルシィ」
「えっと……これですね。はいっ」
桂馬くんから渡されていた大きな花が描かれた模造紙を広げる。
「恋愛はよく植物に例えられる。
出会いのインパクトが大きければより太い幹になって……」
「こんなんで仲良くなれるかぁ!!」
「あ、おい、何をしている、止めろ!」
起こったちひろさんが模造紙をビリビリに破いてから部屋から走り去る。
うん、普通はこういう反応をするよね。
普通の人は相手と仲良くする事が目的だけど、桂馬くんの場合は相手を攻略する事が目的だからこういう事が割と頻繁に発生する。
けど、その効果は絶大だ。
そうだね……早ければ明日くらいには成果が出てくるかな?
会話に微妙な怒りをにじませるのにヤンデレ語は便利だと思いました。まる。