もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

85 / 343
04 駆け魂の能力

「もうっ! 何やってんのよエルシィ!」

「ご、ごめんハクア……」

「もういい。エルシィ何かには頼らない。私1人でやるわ!」

 

 勝算があっての発言……では無さそうだな。

 ただ単にムキになってるだけだろうが一応訊いておくか。

 

「おい、1人で行って勝算はあるのか?」

「っ、エルシィと一緒に行くよりはマシよ!」

「頭を冷やせこのバカ。闇雲に突っ込んだところで何も改善しないぞ。

 僕は『勝算はあるのか』と訊いてるんだ。あれだけの数の妨害を凌ぎながら駆け魂を捕まえられるのか?

 1人で何とかなる方法があるなら是非とも教えてくれ」

「方法なんて関係ない! これは私がやらなきゃいけないのよ!!」

 

 ハクアはそう言い放って駆け魂が逃げた穴から飛び出して行ってしまった。

 あいつ、完全に周りが見えていない、いや、認めたくないんだろうな。

 

「エルシィ、急いで追いかけろ」

「え~、でもハクアは1人でやるって……」

「何だってあのアホに従う必要がある。

 あとエルシィ、結界術を使わなかったのは何か理由があるのか?」

「結界ですか? 何でですか?」

「……僕達は遠くから逃げ出してきた駆け魂を追ってるんだぞ?

 場所が分かった時点で結界を張って再び逃げられないようにするのは当然の事だと思うが?」

「……ああああ! 神様頭良いです!」

「お前がアホなんだよ!!

 あと、結界であの駆け魂だけを閉じこめれば、他の生徒への干渉は防げたんじゃないのか?」

「うーん……それはちょっと難しいかもしれませんね。

 生徒さん達と駆け魂は繋がっていたので、それを分断するように結界を張るのは抵抗を受けます。

 力技でやってやれないことは無いかもしれませんが……強引にねじ切ると生徒さん達の心に悪影響が出るかもしれません。

 最悪の場合は心が壊れるかも……」

「そうか。そう都合良くは行かんか」

 

 生徒たちを切り捨てれば可能という意味でもあるが……そんなバッドエンドは僕には不要だ。

 だがやはり手数が足りない。中川を呼ぶぞ。

 ……呼べれば良いんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……反応、無し。逃げられた?

 またやり直しなの……?」

 

 駆け魂が逃げた穴を通じて屋上まで辿り着いたけどセンサーの反応は無し。

 周囲を見回しても目視できる範囲にそれらしき影は無かった。

 

「そんな……あんなに苦労して捜して、ここまで追い詰めたのに、またやり直しなの……?」

 

 どうして、こう上手く行かないんだろう?

 学校の模擬捕獲ではいつも一番の成績を出してたのに、人間界(こっち)に来てからはてんでダメだ。

 駆け魂隊に任命された時は凄く誇らしくて、今まで通りに一番の成果を上げてやる。そう思ってたのに。

 上から決められた協力者(バディー)は凄く頼りない。

 自分で駆け魂攻略をしようかとも考えたけど、悪魔による手出しは原則禁止だ。それ以前に人間の心なんて私には分からない。

 何かの偶然でようやく出てきた駆け魂にも逃げられて、こんな事になってる。

 

 私は皆の期待に応えて、一番の成果を上げなきゃいけないのに!

 こんなはずじゃない、こんなはずじゃ無かったのに!!

 

 

 その直後、センサーが鳴り響き、そして、私の意識は暗い闇へと沈んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドロドロドロドロ

 

「か、神様! 反応が!!」

「何だと? どこだ!」

「上の方……屋上です!!」

 

 センサーの圏外に行った後に戻ってきたのか、それとも最初からその辺に居たのか。

 駆け魂自体がセンサーから逃れる為に力を抑える……みたいな事ができてもおかしくはないが。

 っと、その辺は後でハクアにでも訊くとして、さっさと行こう。

 

「急げエルシィ!

 いや待て、先に結界を、屋上を切り取るようにできるか?」

「やってみます! 無理でした!」

「早いなオイ!」

「抵抗かかりました! あの駆け魂、まだ生徒さん達と繋がってます!」

「なら生徒ごとやれ! 絶対に逃すな!」

「はいっ! えっと……あの辺からあの辺まで……展開完了しました!」

「よし、今度こそハクアを追うぞ!」

「はいっ!」

 

 再び生徒達が動き出す前に僕達は駆け魂が空けた穴から飛び出した。

 

 

 屋根の上には駆け魂と、そしてハクアが居た。

 両者は向かい合っている、が……少々様子がおかしい。

 

「ハクア! 無事だったんだね!

 私も手伝いに……」

「おい待て、無闇に……」

 

 近づくな、と言おうとした瞬間、ハクアが振り向きざまに物騒な鎌を振り回してきた。

 

「……近づくな、私に、近付くなぁっ!!」

「わっ、ちょ、ハクアっ!?」

 

 ハクアが鎌を無茶苦茶に振り回すが、ガキンガキンという音と共に弾かれる。

 どうやらエルシィの結界術で何とか防いでいるようだ。

 ったく、あんなのに鎌を持たせたアホは誰だ。

 

「ちょ、ちょっと! どうしちゃったのハクア!?」

「エルシィ、ハクアの頭の所」

「へ? あ、あれはっ!」

 

 ハクアの頭のてっぺんからモヤモヤした物が伸びており、後ろの駆け魂へと繋がっている。

 これはさっきの生徒達と同じ状態……いや、更に凶暴になってる気がするぞ。

 

「ったく、悪魔のクセに駆け魂に操られてどうする」

「うぅぅ~、ハクア! しっかりして!!」

 

 だが、その程度の言葉で駆け魂の支配が解かれるはずもなく……

 ハクアは鎌を手に再び襲いかかってきた。







作中で駆け魂隊はエリートだと何度も言われてますが、地区長とかならともかくヒラの駆け魂隊がやる事ってエルシィでもできる程度の事しか無いんですよね……
むしろプライドの低い悪魔を遣わせて全部協力者に任せる方が上手く行くんじゃないでしょうかね?
もしかするとヴィンテージやサテュロスの連中がその辺の印象を操作して、人間界に行く悪魔を選別する口実にしている可能性が?
……まぁ、単に荒廃した地獄ではなく豊かな人間界で働く事自体が栄誉の可能性もありますが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。