もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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06 小悪魔の頑張り

 何とかハクアを正気に戻す事ができた。

 後は駆け魂を何とかすれば良いんだが……

 

「……どうしたもんかな」

「ちょっと待ちなさい、あれだけ力強く私を説得しておいて計画無しなの!?」

「お前が居たからと言って確実に勝てるとは思わないが、お前が居ないと絶対に勝てないっていうのは確信している。

 何故なら、僕もエルシィも勾留ビンを使えないからな」

「……は? え、使えないってどういう事よ!?」

「詳しい話は後にしてくれ。一応駆け魂を倒す別の手段も呼んでるが……」

 

[メールだよっ! メールだよっ!]

 

 即座にメールを開いて内容を確認する。案の定、中川からのメールだった。

 

『ごめん、今メール確認した。

 最低でもあと3時間は拘束されそう』

 

「……やはり無理か」

 

 いつもは攻略完了予定日が大体決まっているか中川もなんとか都合を付けられるが(それでもかなり無茶してるらしいが)、今回のような突発的な呼び出しだと厳しいようだ。

 3時間……持たせるのも厳しいよなコレ。大結界の維持だけなら何とかなるかもしれないが、襲ってくる生徒たちをいなすのは難しいだろう。

 

「仕方あるまい、ハクア、羽衣の複数制御とやらで生徒たちを全員拘束しながら勾留ビンを使えるか?」

「無理に決まってるでしょ! 出来てたら最初からやってるわよ!」

「……そりゃそうだよな」

 

 勾留ビンはハクアにしか使えない。

 そして、僕もエルシィも生徒たちを止める事はできない。

 中川が居れば駆け魂を討伐できる。できなかったとしても弱体化くらいはできると思うが3時間+移動時間の間は絶対に来れない。

 厳しいなぁ……

 

「……神様」

「ん? どうしたエルシィ」

「あの駆け魂を弱らせられれば良いんですよね? 生徒さんたちを操れないくらいに」

「そうだな。生徒が居なければ、捕まえられるよな?」

「当然よ。妨害さえ無ければ遅れは取らないわ」

「……分かりました。

 なら私に任せてください。

 あとハクア、これから私がやる事はドクロウ室長以外には秘密にしといてね」

「え? 何をする気なの……?」

 

 エルシィが一歩前に出て駆け魂に向かって手をかざす。

 すると、駆け魂を球体の結界が被った。

 

「おいエルシィ、まさか……」

「ご安心下さい。強制切断したわけじゃないです。

 あの結界は駆け魂や人間に反応するタイプのものではないので」

 

 エルシィは大きく息を吸い……

 そして、歌を歌った。

 

「♪♪~♪♪~ ♪♪~♪♪~

 ♪♪~♪♪~ ♪♪~♪♪~」

 

 すると、駆け魂は突然苦しみ出した。その駆け魂が操る生徒たちも同様に苦しんでいる。

 

「おいエル……いや、後だ。

 ハクア! 行けるな?」

「え、ええ! 任せなさい!!」

 

 重要なのは、妨害が止んだという事だ。

 問題なくやれるはずだ。

 

「今度こそ、捕まえる! 勾留ビン!!」

 

 ハクアが結界の外側からビンを構えて駆け魂を吸い出す。

 駆け魂はもがいていたが、それ以上の妨害は無かった。

 大きさ故に、たっぷりと1分くらいの時間をかけて駆け魂は勾留ビンに完全に閉じこめられた。

 

「勾留、完了!!」

 

 人が入りそうなくらい巨大だったビンがシュルシュルと縮み手のひらに収まる大きさとなる。

 それとほぼ同時にエルシィは歌を止め、2つの結界を解き、その場にドサリと倒れた。

 

「エルシィ!?」

「なっ!? おい!!」

 

 慌てて駆け寄り様子を見る。

 ……どうやら寝ているだけのようだ。それ以外に特に異常は見当たらない。

 

「ったく、仕方ない。

 ここの処理をさっさと終えて一旦家に帰るぞ。お前も来るか?」

「……そうね、流石にこのまま解散する気は無いわ」

 

 とりあえず、中川に解決のメールを送ってと。

 屋上まで上がってきた生徒を地面に戻したり、屋根に空いた大穴を塞いだりしないとな。

 まぁ、僕には無理だから全部ハクアがやったんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、何で僕がこいつをおんぶしてやらなきゃならないんだ」

 

 帰り道にて、僕は一向に目を覚まさないエルシィを背負って歩いている。

 意識不明の女子を背負って歩くイベントはギャルゲーでは割と定番だが、エルシィは攻略ヒロインではない。

 

「おいハクア、お前の羽衣とか使えば何か運べるんじゃないのか?」

「あれだって多少は魔力を消費するのよ。

 後処理のせいで若干枯渇気味だからちょっと休ませて」

「……はぁ、仕方あるまい」

 

 その後、しばらく無言で歩いているとハクアから声を掛けられた。

 

「……今回は、その……ありがと」

「ん? 何がだ?」

「その……駆け魂から助けてくれて」

「……お前、本物か?」

「どういう意味よ!?」

「あのハクアが人間相手に対等にお礼を言うってのがな」

「私だってちゃんとお礼を言うときは言うわよ!!」

「ん? そうか。まあ気にするな。

 あの場面でお前に脱落されると僕達が危なかったからな。

 お前の為に助けたわけじゃないさ」

「そうなのかもしれないけど……

 って言うか、『エルシィに勾留ビンが使えない』ってどういう事なの?

 いえ、それだけじゃないわ。エルシィがあれだけ大規模な結界を何の準備も無しに展開したのはどういう事なの?」

「ん? 勾留ビンはともかく、結界は異常なのか?」

「あの劇場をすっぽり覆っちゃうような結界なんて10人前後の小隊が協力してやっと作れる代物よ?

 もしかして知らなかったの?」

「……どうやら、情報のすり合わせを行う必要がありそうだな」

 

 かなり、面倒な作業になりそうだ。






Q、結界による強制切断はダメで勾留ビンはOKなの?

A、結界がOKだとハクアがあっさり救出できちゃゲフンゲフン。
  勾留ビンには魔力を封じる効果でもあるんじゃないですかね。きっと。

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