なんとか家に辿り着き、僕の部屋に腰を降ろす。
ハクアには窓から入ってもらった。
「最初に会った時から変な人間だと思ってたけど、この部屋も相当ね……」
「ん? 何かおかしな点でも?」
「おかしい所だらけでしょうが! 何でモニターが6台も並んでるのよ! 一体何に使う気よ!?」
「何って……ゲームに決まっているだろう」
「ゲームやるにしたって6台同時に使うわけが無いでしょう!」
「ああ安心しろ。6台同時に使う」
「どうやってよ!?」
「そんな事より、話し合うべき事が山ほどあると思うが?」
「うっ、そうね……」
さて、何から話すか。
訊きたい事があり過ぎてなぁ。
「まずは……駆け魂ってのは何なんだ? 一応エルシィから『駆け魂の正体は悪魔』って事だけは聞いたんだが……」
「え? まさかそれしか聞いてないの?」
「エルシィだからな」
「……エルシィだったわね」
この一言で納得できるってある意味凄いよな。
「それじゃあ……『旧悪魔』と『新悪魔』については知ってる?」
「初耳だ。が、予想は付くな。
旧悪魔が駆け魂で、新悪魔がお前たちって事か?」
「そういう事。
かつての地獄は人間が普通にイメージするようないわゆる『悪い悪魔』が支配していた。
しかし、それを良しとしない者たちが居た。
彼らは古い悪魔達を封印・追放し、新たな地獄を作り上げた。
秩序と理性の保たれた、今の地獄へとね」
「なるほど、その封印された連中が駆け魂って事か」
「ええ。封印も完璧じゃないらしくて、たま~に逃げ出す悪魔が居るらしいわ。
もっとも、かなり弱ってるから逃げたてならそこまで脅威じゃないけど」
「弱っている駆け魂は新たな肉体と負のエネルギーを求めて女子の心のスキマへと入り込む。
そして放置するといつか復活するから駆け魂隊が何とかする……と」
「そういう事。理解が早くて助かるわ」
エルシィが悪魔としてキャラが弱いのはそういう理由もあったんだな。
僕達が普通にイメージする悪魔とは違う存在だったんだからな。
「それじゃあ今度は私から質問。
『勾留ビンが使えない』ってどういう事?」
「本人の自己申告だ。『使えない』と言っていただけで理由は聞いてないな」
「それじゃあ、今までの駆け魂はどうしてたの?」
「毎回毎回完全に消滅させてる」
「……え? ちょっと待ちなさい。どういう事!?」
「駆け魂を捕まえる事はできないから毎回消滅させている。
……やはりこれは異常な事なのか?」
「異常よ!! 駆け魂を勝手に殺す……のはまぁ旧悪魔が相手だから文句を言う人は少ないと思うけど、そもそも消せるの?」
「エルシィによれば、『駆け魂は負の感情を糧にするので、正の感情をぶつけてやれば消滅する』とかなんとか」
「……り、理論上不可能ではないかもしれないけど……
そうだ、具体的に何をやってるの?」
「そうだな……エルシィが結界で閉じこめて、中川……もう1人の
「ちょっと待って!? もう1人の協力者ってどういう事!?」
「やっぱりそれも異常なんだな……
僕は駆け魂をスキマから追い出す攻略担当、中川はその後に討伐する担当、エルシィは……両方のサポートという分担で行動している。
……言っておくが、僕達が勝手に巻き込んでいるとかじゃないぞ? 鬱陶しい事にちゃんとドクロウ室長とやらとの契約がされている」
「……これ以上はドクロウ室長に直接問い合わせた方が良さそうね」
「そうしてくれ」
しかし気になるな。何で原則を曲げてまでエルシィを送り込んできたんだ?
何か理由でもあるのか?
「まあいい。じゃあまた僕から質問。
エルシィの結界術についてだ」
本人が起きてからと思ったんだが、一向に起きないからな。
そもそもエルシィが説明できるのか怪しいし。
「まず、今回エルシィがやってたような結界術、お前は使えるのか?」
「……小さな結界を張る事自体は私でも何とかなると思う。
でも、コンパクトな結界を連続で展開して攻撃するなんて器用な事はまず無理だし、あんなに大きな結界を張るのも私1人の力だと無理よ」
「なるほどな。ちなみに、地獄でエルシィの結界を見た事はあるか?」
「小さな結界を張れるのは何度か見たことあるけど、あそこまで大きい結界は初めて見たわ」
人間界に来てから力が増した? それとも単に力を隠していた?
それは後で本人に訊くとして、次だ。
「エルシィが最後にやってたアレ、アレは一体何なんだ?」
「私もあんなのは初めて見るわ。
駆け魂の動きが弱まってたのは確かだけど……」
ハクアでも分からないのか。やはりこれも本人に訊くしかないな。
今までは比較となる悪魔が居なかったから流していたが、こうやってじっくりと比較すると色々と妙な点が浮き彫りになってくるな。
2人の協力者
結界のみに特化した能力
駆け魂の強引な討伐
……ダメだ、分からないことだらけだ。
僕の……僕達の見えない所で、一体何があったんだ……?
「それじゃあまた私から質問……って言いたい所だけど、これ以上は直接エルシィに聞いた方が早そうね。
肝心のエルシィは一向に起きないし、今日はもう帰らせてもらうわ」
「ん、そうか。僕もとりあえず訊きたい事は……ああ、忘れる所だった。
最後に、この契約についてだ」
忌々しい首輪を指し示しながら問う。
ちなみに、ハクアの首にもちゃんと首輪は付いていた。そこら辺はエルシィと一緒なんだな。
「この契約、いつまで続くんだ?」
「え? 駆け魂を全部捕まえるまでよ?」
「全部って一体何匹なんだ?」
「ん~、確か先週で6万匹くらいだったわよ」
「…………は?」
ろ、ろく、まん……?
「あ、それじゃあね~」
「あ、おい! ちょっと待てぇぇぇぇええええ!!!!」
そんな心の底からの叫びを無視してハクアは帰って行った。
約60,000匹ねぇ……おい、ふざけてるのか。
今更な事だが、改めて言おう。
やっぱり
というわけで、とりあえずハクア編終了です!
……こんな所で切ったら確実に暴動が起きますよね。ええ、分かっております。
というわけで、ちゃんとハクア編後日談も書いてあります。
引き続き明日も投稿するのでお楽しみに!