もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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09 失敗の重み

 桂馬くんの家に見たこと無い悪魔の人がやってきた。

 あれ? 悪魔の人……? ……まあいいや。

 昨日の事件についてはある程度は桂馬くんから聞いていたので、その人がハクアさんだとすぐに分かった。

 どのくらいの距離感で接して良いのか良く分からなかったのでとりあえず仕事先で挨拶する感じで普通に接しておいたら握手してもらった。

 普段は握手を求められる立場なんだけどな~。流石に私の事は知らないのかな? 悪魔だし。

 

 今日ハクアさんが来た用事は始末書を書くためらしい。

 模型を始末()と呼んで良いのかな? アレって手間のかかる書類を書かせて反省を促すみたいな意味もあると思うんだけど……まあいいか。

 私は当日現場に居なかったので手伝える事は無さそうだ、少し離れて様子を見てよう。

 

「それじゃあ始めるわよ。

 あー、あー、それじゃあ人形たち! 時刻は正午、所定の位置に着きなさい!」

 

 ハクアさんがマイクに命令を吹き込むと模型の中の人形たちが一斉に動き出した。

 地獄の技術って便利だな~。

 

「12時8分、駆け魂潜入、場所不明。

 同時刻、地区長ハクアも到着。

 こんな風に時刻と行動を吹き込んでいけば模型に反映されるわ」

「なるほど。

 12時9分、理科室が爆発」

「え?」

 

 すると、校舎の一部がボンと音を立てて弾け飛んだ。

 幸い(?)な事に人は巻き込まれなかったみたい。

 

「じゃあ12時8分にカムバック」

 

 するとビデオを逆再生するかのように爆発した校舎の破片が元通りになった。

 って言うか桂馬くん、何やってるの?

 

「ちょっと! 何遊んでんのよ!」

「あ~、何となく?」

「何となくって何よ!? この始末書には私のクビがかかってるのよ!?」

「へ~、そりゃ大変だ。

 が、僕には関係ないな」

 

 桂馬くんが意味もなくふざけるとは思えない。

 ハクアさんからより多くの情報を得る為にボケてる……とか?

 

「くっ、分かったわ。

 協力してくれたら何でも一つ、質問を受け付けるわ」

「非常に魅力的な提案だが、僕の言いたい事はそうじゃない」

 

 あれ? 違ったのかな?

 じゃあ何だろう?

 

「昨日の時点で訊きたい事は概ね聞いたからな。

 情報はあればあるだけ良いが、もう必須とは言えないレベルだ」

「じゃあ要求は何なの?」

「……こんなの要求するまでも無い事なんだがな。

 絶対に譲れない条件として、中川に謝ってくれ」

「え? どういう事?」

 

 どういう意味だろう? 私とハクアさんは今日初めて会うし、さっきまでのやりとりで特に謝られるような事も無かったと思うけど……

 

「……分からないのか?

 この首輪を通して、僕と中川、ついでにエルシィの命は繋がってるんだぞ?」

「……え? あの、ちょっといいかな?」

 

 ぼんやりと眺めてるだけのつもりだったけどそうも言ってられなくなってきたみたいだ。

 桂馬くんがわざわざそんな事を念押しするっていう事は……

 

「もしかして、昨日ってかなり危なかった?」

「……ああ」

 

 ハクアさんと桂馬くんが穏やかに話してるから『殺されかけた』っていうのは大げさな表現だと思ってたよ……

 昨日のあの時、冗談抜きで命の危機だったんだね、私。

 

「で、でも、結局は大丈夫だったし……」

「大丈夫だったから、僕だって最初はわざわざ言う気は無かったんだがな。お前の態度を見たら気が変わった。

 偉そうな態度で呑気に握手したり、

 気付いてなかったとはいえ殺しかけた本人の前で冗談であっても『ほんの取るに足らないちょっとしたミス』と言ったり、

 貴様、本当に反省しているのか?」

「それは……そんなつもりじゃなくて……」

「それに、一つ素朴な疑問なんだが……

 始末書を書くんなら『失敗した事』を書くんだよな?

 お前の一番の失敗は『最初に駆け魂を取り逃した事』だろ?

 そっちの方はもう作ったのか? あるなら是非とも見せてほしいんだが」

「け、桂馬くん? ちょっと言いすぎじゃないかな?」

 

 過失とはいえ殺されかけたのだからこの位の追求が正しいのかもしれないけど……

 私自身には全く身に覚えが無いのだから謝られてもどう反応して良いのか分からないし、今にも泣きそうなハクアさんをこれ以上追求するのはちょっと酷だろう。

 

「……ふん、中川に免じてこんなもんにしておくか。

 それじゃあ、さっさと仕上げるぞ」

「え? あの、こっちは必要無いんじゃないの?」

「最初の失敗の方が重要だという事は言ったつもりだが、こっちが不要だと言ったつもりは無いぞ。

 まぁ、始末書と言うより報告書なんじゃないかという気はするが……あった方が良いだろ?」

「え、ええ。そうねありがとう。

 あと、中川……だったわよね、本当にごめんなさい」

「……うん、私は大丈夫だったから」

 

 桂馬くん、私の為に怒ってくれたんだね。

 もしかするとハクアさんに罪悪感を感じさせて今後の交渉で優位に立つみたいな目的があったのかもしれないけど……

 それでも私は嬉しいよ、桂馬くん。






実は僕、最初の方はハクアの事あんまり好きじゃなかったです。
最近までその理由は忘れてたのですが……
せいぜい1週間以内にあんな事件を起こしておいてかなり軽い感じでやってきたのが原因だった気がします。
原作でも割と身の危険があって、本作では更に分かりやすく危ないのでこんな感じにしてみました。
まぁ、僕が危険度を上げておいて後日談では原作セリフを使いまわしてるのでハクアにとってはある意味理不尽ですが。

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