僕の指示に従ってハクアがあの日の情報を模型に吹き込む。
「12時40分、桂木桂馬と接触。
50分、中庭に移動。
54分、体育館を捜索。
13時15分、東校舎周辺を捜索……
しっかし分単位で覚えてるなんて、人間にしては驚異的な記憶能力ね」
「フン、この程度はゲームの攻略ルートを覚えるのに比べたら楽勝だ。
僕は好きなゲームならPFPを裏返しの状態でエンディングまで行けるぞ」
「何の意味があるのよ、何のイミが」
あの時は配信イベントを回収する為に時刻を気にしていたという事もあるがな。
その気になれば秒単位で思い出す事も可能だろう。
「15時32分、旧校舎裏の劇場にて駆け魂を発見、と同時にエルシィと合流。
……この辺から問題の場面ね」
「そうなるな。
しっかしここに来るまでエルシィは一体どこで何をしてたんだ?」
「その辺の情報もできれば入れておきたいけど……あの子がそんな事を覚えてるとは到底思えないわね」
「そうだな。とりあえず『道路の近くで消防車を眺めていた』と入れておこう」
「しょ、しょーぼーしゃ?」
あながち間違ってない気がするのは気のせいではないだろう。
「この後の流れは紙に纏めておいた。ほれ」
「ん、ありがと。
15時32分、ハクアが駆け魂の勾留を試みるが、操られた生徒達の妨害により失敗。
33分、駆け魂が天井を突き破って脱走」
「あ、そうだ。駆け魂って物に触れるのか?」
「確か……
「なるほど、分かった」
「それじゃあ続き。
15時34分、ハクアが駆け魂を追う。
35分、再びセンサーに駆け魂が反応。建物を丸ごと覆う大結界を展開後、エルシィと桂木は駆け魂を追う」
「ここもだったな。
屋上と1階ではそこそこ距離が離れてるがセンサーは反応した。
強い力を持つ駆け魂だとセンサーの感知範囲も広いのか?」
「ええそうよ。
ついでに言うと、駆け魂が力を使ってない状態だとセンサーも反応しにくいわ。
今回の駆け魂は逃げた振りして近くに隠れてて、私を操ろうとした時にエルシィのセンサーが反応したんでしょうね」
「隠れる事もできるのか……面倒だな」
やはりあの日の事を再確認する上でこの模型は便利だな。ありがたい。
「15時35分、エルシィと桂木が屋上に到着。
ハクアが2人に襲いかかるが、エルシィの結界により防がれる」
ハクアが紙に書いた事を一字一句正確に読み上げるとあの日の状況が再現された。
ハクア人形がエルシィ人形と僕の人形に向かって鎌をガンガン振り回している。
「か、桂木? 私、ここまでヒドかった?」
「大体こんな感じ……いや、実際には鎌が燃え上がったり帯電したりしてより物騒だったぞ」
「……エルシィが居なかったら真っ二つだったわね。お前が怒るのも無理はないわ。本当にごめんなさい」
「その件はもう済んだ事だ。次行くぞ」
「…………
15時37分、エルシィがハクアを結界で殴り倒す。
桂木がハクアを説得、ハクアは駆け魂の支配から逃れる。
しかし、下に居た生徒たちが屋上まで浮遊して来て妨害に加わる。
15時38分、エルシィが駆け魂に対して球状の結界を展開し、歌を歌う。駆け魂と生徒達の動きが鈍くなる。
その隙を突いてハクアが駆け魂を勾留する。
15時39分、駆け魂の勾留が完了。
……ふぅ、これで終わりね」
「しっかし何なんだろうな、最後のコレ」
改めて見ても謎だ。
仮説だけならいくらでも立てられるんだが……本人に訊いた方が手っ取り早いだろう。
「コレねぇ……一応ドクロウ室長にも訊いてみたんだけど、適当に誤魔化されちゃったのよね」
「……お前たちの室長、絶対何か企んでるだろ」
「私に言われてもねぇ……」
「ならエルシィに訊くか」
「え? 起きたの?」
「叩き起こす」
「……だ、大丈夫なのかしら?」
「寝かせ過ぎても体調崩しそうだし丁度いいんじゃないか?」
「そういう問題なの……?」
「知らん。それじゃあ起こしに行って……」
「連れてきたよ~」
僕が立ち上がる前に中川が2階からエルシィを引きずり降ろしてきてくれた。
「なんれすかひめさま~。わたしまだねむいれす~」
……どうやら異常は無いようだな。良い事だ。
「……ハクア、何かこいつが一発で目覚めるような方法は無いのか?」
「そうねぇ……エルシィ、ちゃんと質問に答えてくれたらこの『証の鎌』をあげるわよ~」
「ふえぇっ!? ほ、本当ハクア!?」
本当に一発で目覚めたな。
って言うかあの物騒な鎌、そんな名前が付いてたのか。
勲章的な何かなのか?
「まあいいエルシィ、目が覚めた所でこれを見ろ」
「はい? 何ですかぁ?」
ガッシリと肩を掴んでテーブルの前に座らせて、ついさっき完成した始末書を再生し、目的の時刻で止める。
「こ、これもしかしてウチの学校ですか? わ~、凄い!!」
「ちなみにコレはハクアの始末書だ。
まずは……こっちからだな。
15時35分、建物を丸ごと覆う大結界を展開」
エルシィが建物全体を覆う大結界を展開した場面である。
確か、ハクアによれば『10人前後の小隊が協力して作れる代物』だったか。
「エルシィ、お前いつからこんな事ができるようになったの?」
「えっと、大きな結界を張る事自体は一応前からできたけど、ちゃんと維持できるのは人間界でだけだよ」
「人間界で?」
「うん。室長によれば魔法で汚染された地獄の空気は私の能力と相性が悪いとかなんとか……」
「ん? 地獄の汚染? どういう事だ?」
「あれ? 知りませんか? 大昔の戦争の影響で地獄の地表は誰も住めない土地になってるんです。
今では大きな岩を空中に浮かべてそこで暮らしてるんですよ」
「……壮絶な戦争だったんだな」
落ちこぼれの理由は地獄の環境のせいって事か? 地獄で弱くなる悪魔ってどういう事だよ。
まあいい、次だ。
「さて、15時38分、『球状の結界を展開し、歌を歌う』。ここだ。コレは何だ?」
見せたのは勿論、球状の結界を展開して歌を歌う場面だ。
「コレですか? 室長は『破邪結界』って呼んでましたね~。
私のはじゃの力をはんきょう・しゅうそくさせていってんにあつめて駆け魂の力を弱めるとか何とか……」
一悶着あるかと思ったんだが、あっさりと答えてくれた。
『破邪の力を反響・収束し一点に集める』で良いんだよな?
……まずはここから訊いておこう。
「『破邪の力』って何だオイ」
「私の固有の能力らしいです!」
「え? お前の能力って結界じゃなかったの?」
エルシィの言葉に対してハクアは驚いたようだ。
固有の能力なんて単語は初めて聞いたが、それ自体は普通にあるのだろうか?
「固有の能力なのは分かった。その詳細は?」
「え~っと確か……駆け魂とか旧悪魔やそれらが使う邪法を弱める……とか何とか言ってた気がします。
普通に使うとすっごく疲れちゃうんですけどね~」
「それで昨日ぶっ倒れたわけか。使用のリスクは単純な疲労だけか? 他は大丈夫か?」
「はい、疲れるだけでそれ以外は何ともないです」
「……そうか、じゃああと一つ。
歌を歌ったのは何でだ?」
「歌に魔力を乗せて操った方がイメージしやすかったので歌いました!」
そういうものなのだろうか? とりあえずそういう事にしておこうか。
これで昨日の事は大体分かったが……確か昨日『ドクロウ室長以外には秘密』って言ってたよな。
何の意図があって隠してるんだ?
「は、ハクア? その、ちゃんと質問に答えたから……」
「ええ、鎌でしょ? はい、あーげた」
ハクアが鎌を上に持ち上げた。
……確かに、上げてるな。
「ええええ~? そりゃないよハクア~」
「あ~、やっぱりあげるから」
「ホント!?」
「はい、あ~げた」
「ハクアのバカぁ!!」
お前ら……小学生か。
……破邪の力……隠蔽……
駆け魂、いや、旧悪魔に対抗する為? 隠す必要性は……
……………………
……今は、何事も無い事を祈るしか無いか。
というわけで、今度こそハクア編終了です。
固定イベントは伏線を張ったり世界観に迫る為の回というつもりで書きました。ある意味ではハクア編と言うよりもエルシィ編だったかもしれませんね。
最後の方は少々詰め込み過ぎましたかね? 大丈夫でしたでしょうか?
質問や指摘が殺到するようであれば加筆修正する、あるいは質疑応答の場を設ける……かもしれません。
さて、次回の攻略ですが……ちょっとだけ呪いが残ってました♪
こんな事言うと2人まで絞り込まれそうだけど別に構いませんね♪
攻略時期が原作とかなり乖離しているので厄介そうです。時間がかかってしまうかもしれませんが気長にお待ちください。
では、また次回お会いしましょう!