もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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01 道場破りの来訪

 駒の並べ方や基本的な用語やルールが大体分かった辺りで部室に新たな客がやってきた。

 

「たのもー! ここで一番強い奴を出しぃ!!」

 

 入って来た人物は女子で、見覚えの無い制服を身に纏っていた。

 

「道場破りか? 初めて見るな。

 って言うかわざわざ他校から殴り込んできたのか」

「美里東高校の制服だね」

「……そう言えば近くにそんな高校があったな」

 

 こういう予期しない突発的な遭遇は往々にして駆け魂フラグだが、中川が持ってきている駆け魂センサーには反応が無い。いやー良かった。

 

 

「うちの部に道場破りとは良い度胸だな!」

「ここが県大会個人戦2連覇の御方がいらっしゃる舞島学園将棋部と知っての狼藉か!」

「道場破りか~初めてだな。お茶用意するね」

 

 道場破りの呼びかけに反応したモブ部員達が道場破りにわらわらと詰め寄る。

 何かこいつら楽しんでる気がするな。

 しばらく様子を見ていると主将がやってきた。

 

「へぇ、君が僕に挑もうって言うのかい?」

「アンタがここで一番強いん?」

「まあそういう事になる。まずは名前を訊いておこうか。無謀な挑戦者さん?」

「舞島市立美里東高校将棋部2年、榛原(はいばら)七香(ななか)や。アンタは?」

「フフン、田坂三吉だ。覚えておきたまえ」

「あー、はいはい。とりあえずさっさと始めるで」

「き、キミぃ……まあ良いだろう。では始めよう」

 

 そうして、主将と道場破りの対局は始まった。

 

 

「あ、勉強になりそうだから見てくるね、桂馬くん」

「ああ行ってらっしゃい」

 

 ……僕も様子を見ておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 桂馬くんと一緒に将棋部に行ったら道場破りの人が来た。

 明らかに普通じゃない女子を見て一瞬ポケットに忍ばせてる駆け魂センサーに視線を向けてしまったけど幸いな事に反応は無かった。

 そりゃそうだよね。桂馬くんと一緒に居る度にセンサーが鳴ってたらキリが無いもん。

 駆け魂の事は忘れて勉強の為に見学をさせてもらう事にした。

 

「フフン、君は少々破格なものに手を出してしまったようだね」

 

 主将さんが挑戦者に話しかける。対局中は基本的に私語厳禁ってさっき借りた入門書に書いてあったんだけど……あくまでマナー違反なだけだから特に罰則は無い。

 相手を舐めてる態度が伝わってきたので私からの印象は悪くなったけどね。

 そんな挑発を受けた挑戦者さんは特に反応せず淡々と手を進めていく。

 

「なんたって僕は奨励会の人間にも勝った事があるからね。

 流石にプロには敵わないが、アマチュアの中ではトップクラスだ」

 

「君はこの対局で真の強さというものを目の当たりにする事だろう……!」

 

 榛原さんは淡々と手を進めていく。

 手を、進めていく。

 

「ほい、勝ったで」

「ふげぁっっ!?」

 

 そしてあっさりと主将さんは負けた。

 

「あんた、そんな強うないな」

「…………」

「ん? お~い、どした?」

「…………」

 

 あれ? 主将さん気絶してる。よっぽどショックだったのかな?

 

 

「ところで桂馬くん、この2人って強かったの?」

「ん? そこらのコンピューターのレベル99よりは強かったと思うが、僕に比べたら大したことは無いな」

「何やと? そこのメガネ、今なんつった!」

 

 あ、しまった。桂馬くんの発言が榛原さんに聞かれた。

 これは……ちょっと面倒な事になっちゃいそうだね。

 

「おいアンタ、強いんか?」

「フッ、僕は神だぞ? 強いに決まっているだろう」

「か、神? よう分からんけど強いんやな? 勝負や!!」

「……こんな勝負を受けた所で僕にメリットは全く無いんだがな」

 

 私個人の意見としては桂馬くんの対局は見てみたいかな。

 ただ、それ以外に桂馬くんが勝負する意味が全く無いんだよね……

 

「と、とにかく勝負や! 勝負!!」

「……やれやれ、断る方が面倒だな。

 サッサと終わらせるぞ」

「おお、ようやくその気になったな? おっしゃ行くで!」

 

 主将が気絶してて邪魔だったので別の机で対局準備をして互いに向かい合う。

 そして、対局が始まった。

 

 

 

 

 ……数分後……

 

「……お~い」

「ちょ、ちょい待ちぃ! 今考えとるんや!!」

「いや、考えるまでもないと思うんだが……」

 

 私は素人だから状況はあんまり詳しくは説明できないけど、素人でも分かるくらい桂馬くんが優勢でそろそろ詰みそうだという事は分かる。

 そんな事は榛原さんにも当然分かると思うんだけど……

 

「あんまりこういう事は言いたくないんだが……そろそろ諦めて投了してくれないか?」

「い、いや、まだや! ここっ!!」

 

 それでもなお榛原さんは諦めずに続ける。

 でも、それはただの悪あがきにしかならず榛原さんの王将はどんどん追い詰められていく。

 しばらく経つと私でも何とかできそうなくらいの詰将棋になり、そして完全に詰んだ。

 

「これで詰み、だな」

「う、うちが……負けた……?」

 

 榛原さんは呆然としている。主将のように気絶しないだけマシなのかもしれないけど、この人たちは少々メンタルが弱すぎないかな?

 心のスキマとかできないと良いけど……

 

「よし、それじゃあ帰るぞ」

「あ、うん。皆さん今日はありがとうございました! それでは失礼させて頂きます!」

 

 途中から勝負を見ていた部員の人たちに絡まれない為に急いで帰らせてもらう。

 扉を閉めて駆け出そうとする辺りで『あ、ちょっと!!』と呼び止める声が聞こえたが、無視して帰らせてもらった。

 

 

 

 

 

 ……あ、入門書借りっぱなしだ。

 明日返しに行けば大丈夫かな。多分。






エルシィ<<<そこら辺のアマチュア < 奨励会の下っ端 < 田坂主将 <<< 天理 ≦ 七香 ≦ 桂馬 ≦ ディアナ

強さの順番はこんな感じですかね。きっと。
天理の強さは少々謎ですが、巻末4コマで七香と対局しているので『七香よりは格下かもしれないが同等近くの実力はある』と判断しました。勝ってる描写でもあれば迷いなく同格認定できるんですが、桂馬取ってる所しか出てないですからね……

あと、七香の口調が間違ってたりするかもしれませんが、スルーして頂けると有難いです。

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