もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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02 道場破りの再来訪

 翌日の放課後、私は入門書を返す為に1人で将棋部の部室に来ていた。

 

「失礼します、田坂主将居ますか?」

「ん? ああキミか。どうしたんだい?」

 

 主将さんは奥の方で棋譜を並べてたみたいだけど私の呼び出しにすぐに応じてくれた。

 ……なんだろう、何となく雰囲気が変わってる気がする、気のせいかな?

 

「昨日借りた入門書、どさくさに紛れて持って帰っちゃったので返しに来ました」

「ああ、なるほど。役に立ったかい?」

「はい、ありがとうございました!」

 

 主将さんが貸してくれた入門書には基本的なルールは勿論、対局時の礼儀作法とかだけではなく少し気になっていた奨励会についても書いてあったので凄く参考になった。

 演技に生かす為に基礎知識さえあれば良いかと思ってたけどちょっとだけ興味が出てきた。桂馬くんとも遊べるかもしれないし。

 

「ところで、昨日はあの後大丈夫だったんですか?」

「昨日? ああ、少々恥ずかしい所を見せてしまったね。

 一応主将として県内の有力な選手の名前は覚えていたのだが、榛原七香なんて名前は全く聞いたことが無くて油断していたら……あのザマだ。

 いや、油断していなくとも9割以上の確率で負けていただろうね」

「は、はぁ……」

 

 あれ? この人本当に主将だよね? 榛原さんの前で油断しまくってたあの人だよね?

 

「いやぁ、さっきまであの時の対局の棋譜を並べていたんだが、色んな意味で酷い。

 無名の選手でもあれだけの指し手が居るんだ、僕もうかうかしていられないよ」

「そ、そうですか。

 それじゃあこれで失礼させて頂きますね」

「フフン、また何かあったらいつでも来てくれたまえ」

 

 人格が変わった主将を少々不気味に思いながらも踵を返して部室の出口へと向かう。

 扉に手をかけようとした瞬間、勢いよく扉が開き誰かが入って来た。

 

「あの男はアイタッ!」

「ふむぎゅっ!」

 

 丁度出ようとしていた私の顔面に誰かの額が思いっきりぶつかった。

 うぅ……痣にならないといいけど……

 

「おおっと、すまんすまん。大丈夫かいな?」

 

 顔を上げてぶつかってきた人を確認する。

 そこには昨日の道場破り……榛原さんが立っていた。

 

「だ、大丈夫……です」

「良かった良かった。

 ってお前さんあの男と一緒に居った子やないか」

「へ? あの男?」

「決まっとるやろ! あのメガネの男子や!」

「えっと……桂馬くんの事?」

「多分そいつや! そいつどこに居るん?」

 

 これ、どう考えても再戦希望だよね。桂馬くん面倒くさがるだろうなぁ……

 榛原さんには悪いけど適当に誤魔化して……ん?

 

「ごめん、ちょっと携帯が鳴ってる。ちょっと待って」

「おう! なるべく早くな」

 

 ポケットからかすかな振動と音を感じる。

 しかし、携帯を取り出してみても反応が無い。

 ……あれ? まさか?

 今度はポケットから駆け魂センサーを取り出す。

 

ドロドロドロドロ……

 

 手元のセンサーを見て、目の前の榛原さんを見て、もう一度手元のセンサーを見る。

 ……うっそぉ……

 

「ん? どしたん?」

「あ、いえ……」

 

 ……現実逃避してないで行動計画を迅速に立てないといけない。

 どうやって対応すべきか……

 

「……さっきの話の続きですけど、桂馬くんはもう家に帰ってしまったのでまた明日ここに来てください」

「明日まで待てんよ。もし家を知っとるなら教えてくれんか?」

「う、えっと……」

 

 『知らない』とシラを切る事もできるけど、後で嘘だとバレる可能性がある。

 今後どう転ぶか分からないのでリスクは避けたいかな。

 ……なら仕方ない。

 

「す、すいません! 用事があるので帰らせてもらいます!!」

「え? ちょっ!!」

 

 戦略的撤退を選ぼう。

 開きっぱなしの部室の扉を抜け、廊下を走って近くの曲がり角で曲がる。

 そして2~3歩進んでから錯覚魔法を切り替えてUターンする。

 

「そこ、退いてぇっ!!」

「ふぇっ!? あわわっ!!」

 

 すると追ってきた七香さんとぶつかりそうになるけど来る事は分かってたので何とか避ける。1日に2度もぶつかって痛い思いをするのはゴメンだ。

 

「な、なんなんですか一体!? 気をつけて歩いてください!!」

「お、おう、すまん」

 

 急がせた原因は私にあるけど、そんな事は棚に上げておく。

 こういう時には一瞬で姿を変えられる錯覚魔法は便利だね。

 

「あ、ちょい待ちぃ! さっきこの道を黒髪ロングのメガネの女子が通らんかったか?」

「え? えっと……確かあっちの方に行きましたよ~」

「そうか、ありがとな! それじゃっ!!」

 

 適当な方向を指し示したら七香さんはそっちの方に走って行った。

 ……よし、別ルートを通って適当に帰らせてもらおう。





何か気付いたら田坂主将がまともになってました。
まぁ、今後一切関わらないし、別に問題ないですね♪
……なんて事を思っていた時期が、僕にもありました。

七香の身長は151cmでかのんの身長は161cmなので正面衝突した場合にはかのんちゃんの顔面に七香の額がぶつかるはず。よって七香は『痛い』と声を上げ、かのんちゃんは言葉にならないはず!!
……そんなの適当でも良い気がするけどきっと気のせい。

ちなみに、これもどうでもいい豆知識ですがかのんちゃんの身長は同年代の女子だと1位のようです。流石アイドル!(プロフィールが公開されている生徒のみ。二次元含む)
ついでに2位は僅か1cm差の160cm。攻略ヒロインの結だけでなく京さん、囚われの美術部員こと飛鳥空さん(一応同年代)。ついでにフィオーレもここのラインのようです。

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