「いい風ね」
潮の香りが混ざった風が楯無の頬を撫で、楯無の日頃の疲れを吹き飛ばす爽快感が身体を駆け巡る
楯無は視線を下に下ろすと自分を包み込んだ優しい風とは真逆の暴風が巻き起こっているか如く砂塵が舞っている砂浜が映っていた
「風助くんも人間離れしているけど凰さんも大概人間離れしているわね」
発生原因は風助と鈴の両名であった
二人ははじめて本格的な組手をし数十分経っても決定打を与えられずにいた
「風助、動きが鈍くなったんじゃない」
「まだ余裕だぞ」
鈴の攻撃を躱し距離をとり減らず口を叩くが風助の顔には大量の汗が流れ息も乱れていた
(風助くんの持ち味は目にも止まらない素早さ。だけど砂浜でその素早さが削がれ、凰さんは体幹が普通の人よりもしっかりしているからか特に問題なく動けている)
楯無は二人の動きを冷静に分析し、彼らをどう対処するか思考を張り巡らせる
(風助くんは、力と速さは人間離れしているけど所詮子供。持久力に難があるみたいね。凰さんは風助くんには力も速さも劣るけど体幹が凄いからどんな不安定な体勢、場所でも100%に近い威力の拳や蹴りを放てるか)
二人には弱点があるがそれはあくまで代表レベルの人間の話である
並の代表候補生では彼らに手も足もでないだろう
「せいっ!」
鈴の左の廻し蹴りを辛うじて避けた風助だが疲労がたたり転けてしまう
鈴はその隙を逃さず放った蹴りを踵落としの要領で地面に叩きつけ左足を軸に蹴りを放ち風助の顔面スレスレで止めた
「あたしの勝ちね」
「おう、負けちまったな」
二人とも満面の笑みを浮かべる
「二人ともお疲れ様、はいこれ」
崖の上から楯無がボトルを投げ、それ受け取るとすぐ様飲み始める
「鈴おめぇいつの間にあんな強くなったんだ?」
「よく言うわよ、忍空技何一つ使ってない癖に」
「俺は大事な友達を傷つける真似しねぇぞ」
楯無は組手を見て風助にどこか歪さを感じていた
彼の攻撃はいずれも急所を外し戦闘に支障がでない場所ばかりにも関わらずキレはまるで刃のようだった
「じゃあとっとと帰って朝飯にすっぞ」
「そうね」
二人揃って崖をよじ登る様子を見て改めて風助達の規格外さを思い知る
通常、岩を登るのもその道のプロでも相応と訓練を積んでから行うものである
だが彼らはそんな経験等ない素人だ
にも関わらず道具も無しに崖を登る姿は異常だ
これは身体能力のみ、技術等一切無しに登っているのと同義
彼らの身体能力は常人の数倍どころではない
そんな事実に楯無は背筋に薄ら寒いものを感じた