早朝稽古を終えた三人は寮へと向かっていた
「この道はじめて通るな」
キョロキョロと周りを見ながら歩く風助に楯無はため息をつく
「ここ通るのが最短ルートなのにどうすれば一回も通らないのかしらね」
「私も人の事言える質じゃないけどこいつの場合、目的地につくのは天文学的奇跡と同義だと思ってますから」
「おめぇら、ちょいちょい失礼だぞ」
「うっさい、あんた出前行って戻ってきた回数、数える位しかないじゃない」
(それはひどいわね)
そんな談笑中風助は何か音がする事に気付いた
「何の音だ?」
「これは空手部の練習の音ね、学年別トーナメント前の練習だから山村先生も気合入っているのよ」
楯無が風助の疑問に答えると扇子には熱血指導の文字が書かれていた
「IS学園って空手部なんてあったんだ」
鈴は意外そうに答える
女尊男卑の風潮があっても男の世界と言うイメージが強い空手がIS学園にある事に純粋に驚いていた
「ねぇ、ちょっと覗いてみない?」
「俺は別に構わねぇぞ」
「私も構わないわ」
意見が一致しちょっとした寄り道を敢行した
空手部の道場は小さいながらもしっかりとした造りでそこから聞こえてくる掛け声はどれも気合が入っていた
風助達が中を覗くと一人の生徒がもう一人の生徒に正拳突きを胸元に放とうとしていたがその正拳突きはヒットする寸前で止まった
「一本!それまで!」
「ありがとうございました!」
その様子を見守っていた結花の掛け声と共に両者は礼をし壁際に置いてあるタオルで汗を拭った
「あら?楯無会長に凰さん桐山くん、どうしたの?」
結花が風助達に気付き、部員達は慌てて身なりを整え始めた
稽古で疲労し人目を気にする必要ない為乱れていたが風助がいるとなると話は別だ
歳上の女としてだらしないところを見せたくないと言うプライドが彼女らにあるのだろう
「いえ、たまたま近くを通りかかったら彼らが気になったので見学をと」
「あぁ…そういうことだったの。で感想は?」
「驚きました。先生が空手部の顧問でしかもこんな本格的な組手やっているなんて!」
最後の最後しか見ていないが、それだけでも分かるものがある
相手に当てず寸止めにする
それがどんなに凄い事か鈴自身、身に染みている
自身の力を理解しコントロールする、さらに相手の攻撃を捌き防御を崩しそこに自身の最高の攻撃する
見ている分には単純な行為であるが攻撃を当てるにはこれだけの過程が必要でありそれをクリアするのは困難を極める
そこに寸止めするとなればさらに難度があがる
それをこなす先程の部員は相当の手練であり彼女らは防具を身に着けていない
つまり彼女らは日常的に今の様な組手を行っている
女子限定しなくとも高レベルな事は容易に判断出来た
そういった事もあり鈴は驚きを隠せなかった
一方風助は不思議そうな顔をしていた
「あら?桐山くんどうしたの、そんな不思議そうな顔をして?」
「さっきなんで礼なんてしてたんだ?」
「風助、あんた何言ってんのよ。礼に始まって礼に終わる、武道の基本じゃない」
「武道?なんだそれ?」
「へ?」
その場にいた全員が間抜けな声をあげる
「あんた本気で言ってんの?」
「おう、武道ってなんだ?」
(そう言えば風助くんって忍空を武“術”って言ってたし技術面では突飛しているけど精神面では歪さを感じさせるしそれと関係しているのかしら)
それを見た結花は風助の肩を叩き道場に飾られている掛け軸を指差す
「心技体?」
「そう、心技体が武道の基本で一番大切な心構えよ」
疑問を浮かべる風助に結花は続ける
「力と技、それだけあれば並の人より優れているけどね、それだけじゃ駄目なの。本当に大切にしないといけないのは心、心を精進しなきゃどんな優れた力も技もガラクタになる」
結花は風助から離れ何もないところへ正拳突きをする
風助は目を奪われる
「でもね、心を磨きあげれば力も技ももっと輝く。だから私はその武道精神をより多くの生徒に教えたいの。強さを誰かを傷付ける為に使うではなく誰かを守ってあげる為に使う心構えをね」
風助は結花の言葉に心が震えていた
(心を鍛える。俺、そんな事考えた事ねぇぞ)
知りたい、風助は武道を武道精神を知りたい、そう思っていた
「そんなに気になるなら教えてもらえばいいじゃない」
鈴が風助を優しく撫でながら助言する
「でもおばちゃんやおっちゃんの手伝いあるし…」
「馬鹿ね、ここは学校なのよ。学ぶ場所なんだししっかり学びなさい。誰もあんたを咎めたりしないわよ」
「先生、俺に武道教えてくれるか?」
「勿論よ、歓迎するわ」
部員全員が歓声をあげ風助を歓迎した
次回この作品における藍眺が登場します
そして、風助が成長するキーワードの一つ武道を登場させました