GUNDAM EXA ~もう一人の可能性~ 作:迷人(takto
人類は、幾度となく戦いを繰り返してきた。
それは歴史を重ねるごとにその規模を拡大していった。
戦うことで人類は何か求め、それを得ようとした。
しかし、何かを得るのと同時に失うものも多かった。
そう、戦いこそ人類の過ち、そして、人類が進化していったという証である・・・。
木星・・・
地球から遠く離れた、太陽系第5の惑星である。その衛星軌道上にその施設は存在した。
『ジュピターⅩ』
はるか過去に繰り返された人類の戦いのデータ(GA)、そのすべてが集められた場所だ。
生き残った人類は、そのデータにダイブする術を見つけ出し、その中のどこかにある『人類に必要なデータ』を学び、集めることで、衰退してしまった人類を再び繁栄させようとしていた。
データにダイブし、術を学ぶ者達を、人々は『Gダイバー』と呼んだ。
今日も、新たなGダイバーが生まれようとしていた。
ジュピターⅩのメインゲートの目の前に立つ青年が、そのゲートをくぐりながら資料を見つめ、顔を上げては施設内を見回す。おろしたての真新しい制服を着て、いかにも新人だという雰囲気を醸し出している。銀色の髪に、黒に少し赤みがかった瞳が特徴的だ。配属されたばかりで、まだ右も左も分からない。とりあえず自分がこれから過ごすことになる自室に向かおうと歩き出そうとしたところで、
「アーゼクト・エルスロータスさんですか?」
後方から声をかけられた。
振り向くとそこには、一人の少女が立っていた。
「ようこそ、ジュピターⅩへ。お待ちしておりました。アーゼクトさん。
私はセシア・アウェア、あなたのミッションを担当します。」
セシアと名乗った少女はそう言って軽く敬礼をしてきた。
「ああ、こちらこそよろしく。」
アーゼクトと呼ばれた青年も敬礼を返す。
「さっきの様子を見てもらって分かるとおり、俺はまだココの勝手が分からない、だからこれからいろいろと教えてくれると助かる。」
アーゼクトはおもむろに手を差し出す、だが。
「あっ・・・すみません私は立体映像(ホロアクター)なので、触れることができないんです・・・なので握手も・・・。」
アーゼクトははっとして手を引き戻した。
「ご、ごめんそうだった・・・資料を見て知っていたはずなのに・・・」
つい、君があまりにも自然で、好みであったから・・・とは言えなかった。
気恥ずかしさというものもあったが、その一番の理由はあくまでお互いはパートナーであり、そこに余計な感情を持ち合わせてしまっては、これからの任務等に支障が出てしまうと思ったからだ。
「いえ、気にしないでください、よくあることですので。それよりも、この姿はお気に召しましたか?」
セシア曰く、彼女の服装や容姿は、Gダイバーの好みに合わせて変更ができるらしい。
因みにアーゼクトの好みの設定では、小さなハットのような帽子を頭にのせ、全体的に黒くフリルのついた服とミニスカート、黒いニーソックスと、なんともゴスロリチックなファッションだった。彼女の容姿をカスタマイズのできる理由は、Gダイバーがミッションを円滑に行えるようにするためだという。自分の好みの制服に身を包んで、少しだけ恥ずかしそうにしているセシア。アーゼクトがその姿に見惚れていると、
「ナンジャクモノ!ナンジャクモノ!」
何か硬い物体が頭にぶつかった。突然の痛みに頭をおさえながら、
「痛ってぇ・・・何だこいつは?」
アーゼクトの様子にセシアはクスリと笑うと、
「その子はハロといって、私と一緒にあなたをサポートします。」
セシアに聞いてハッとする、Gダイバーのサポートはセシアのほかにハロという小型のロボットがつくことになっているのだ。資料に目を通していたはずなのに、アーゼクトはそのことを見事に忘れていた。
これからはセシアとともに世話になる対象のため、アーゼクトは先ほどのことを水に流し、ハロに笑顔で挨拶をする。
「これからよろしく頼むよ。」
それにハロも飛び跳ねて答える。
そのやり取りを終えると、
「それではこれから、施設を簡単に説明します。」
セシアにつれられ、説明を受けながらジュピターⅩの内部を歩いて回る。
食堂やトレーニングルーム、Gダイバー一人ひとりのための個室と、施設全体の設備は充実していた。施設の説明が終わると、次にこれから行うミッションの大まかな説明を受ける。Gダイバーのやるべき仕事は、各世界のGAデータに飛び、その世界のデータをリアルに経験して、それを回収することだ。
ダイブするためには、あるものに乗って行く。
「ガンダム」
それは人類が戦争の中で作り出した、モビルスーツと呼ばれる人型の兵器である。
はるか昔から、人は戦争のたびに新たな兵器を作り出し戦っていた。
その過程で生み出されたのがモビルスーツであり、人はそれを駆って戦いを繰り広げた。
その世界ごとにモビルスーツは異なり、それぞれのモビルスーツに対抗するため、Gダイバーは決められたガンダムに乗って出撃するのだ。
セシアにより最適と判断されたガンダムに登場しデータへとダイブする。
けして自分の好みで選ぶことのできるものではないため、Gダイバーには選ばれたどの機体でも乗りこなし、無事データを集めてくるという技術が要求される。
一通り説明が終わると、セシアにある場所へとつれてこられた。
ここはデータにダイブするためのカプセルが設置されている場所だ。
「今回のミッションは、まずダイブに慣れることが目的です。」
そういいながらセシアはアーゼクトにミッションプランのデータを見せる。
今回ダイブするのは宇宙世紀 0083の世界。
ここでの目的は、デラーズ紛争時に駆りだされたジオン軍残党の兵と交戦して、
その戦闘の技術を学ぶというものだ。
このジュピターⅩに来る前にある程度実践的な訓練を積んだアーゼクトとしては、あまりに単純なミッションだった。
ダイブする前に、専用のパイロットスーツに身を包んだアーゼクトは
カプセルのハッチを開け、そのコックピットに乗り込んだ。
そして出撃時に設定されているコードを叫ぶ。
「GAロードセット、GO!!」
・・・・
見知らぬ宇宙空間に白いボディの機体が現れる。
アーゼクトはあっという間に宇宙世紀にダイブすることに成功した。
アーゼクトが搭乗しているのは、ガンダム試作4号機(ガーベラ)である。今回のミッションには十分過ぎる機体だ。
アームレイカーを倒し、目的のポイントに繰り出そうとしたとき、違和感を覚えた。
少し妙だ。セシアのプランであれば目的地は紛争中の、その戦場という指定であったはずだ。しかし、まだその戦いは起こっていなかったのだ。
セシアが設定ミスでもしたのだろうか?そう考えていると、何かがこちらに急速に接近してきた。
アーゼクトはその機体を見て目を見開き、驚いた。
目の前に立ちはだかったのは、設定ではこの場所に来るはずのない機体、
デラーズ紛争が起こるきっかけとなった機体。
RX-78GP02、ガンダム試作2号機(サイサリス)だった。
自分の乗る試作4号機と同じプロトタイプシリーズであるが、最強の攻撃力を持つMSとして核の搭載を考えられているためにシリーズ中で最も巨体で、力強い印象を与えている。
また強襲用の使用も視野に入れられているため、その機動力は高く設計されている。
4号機ガーベラとの体格差は明らかで、その大きさにアーゼクトは圧倒される。
そしてそのサイサリスのコックピットから通信が入った。
「応えろ、貴様は一体何者だ?なぜ、貴様がその機体に乗ってここにいるのだ?」
サイサリスと核を連邦から強奪したジオン軍の兵士、アナベル・ガトー少佐の声だ。
後にGP01、試作1号機(ゼフィランサス)のパイロット、コウ・ウラキと接戦を繰り広げる男としてデータに残っている。
スピーカー越しであるとはいえ、その声の重さにさらに圧倒されるアーゼクトであったが、ある意味で、これは幸運であるかもしれない。
歴史にも名を残していて、かなりの実力の持ち主。こんな大物と対峙することができれば、きっと大きな経験をし、その技術を得ることができるかもしれない。
しかしその相手が相手だけに、戦って無事にデータを持ち帰ることができるだろうかという心配が、ゼクトを迷わせる
だが、ここでただ手をこまねいているだけでは何も始まらない。どちらにしても、実際に戦ってみなければ分からないのだから。
少しの不安も見せないように、アーゼクトは意気揚々と叫ぶ。
「答える義理はない!俺はあんたと戦いに来た、それだけだ!」
「ほう・・・、私と戦いたいと。本来であればおとなしくその機体を明け渡せば見逃そう、と言いたいところであるが、そうもいかないようだな。」
そういいつつ、ガトーはビームサーベルの柄に手をかける。
「その心意気やよし!貴様の放ったその言葉、後悔させてくれよう!!」
勢いよくビームサーベルを引き抜いた。それにあわせてアーゼクトもサーベルを抜く。
「ジオンのエースの実力、試させてもらおうか!!」
互いにビームサーベルを振りぬき、バチバチという音を立ててぶつかり合う。
巨体で、さらに推力で勝るサイサリスは、アーゼクトのガーベラを徐々に押していく
バーニアの出力を全開にしてようやく互角のガーベラだったが、おそらくサイサリスはまだその本領を発揮してはいないであろう。
「どうした!?貴様その程度なのか!?」
ガトーはさらにレバーを握る手の力を強めていく。
「真っ向から攻めるだけでは私には勝てん!!」
その言葉を聞きアーゼクトははっとする。
確かに力押しだけでは機体の差もあり勝てない。このままでは確実に押し負けてしまうであろう。
ならば、とアーゼクトは競り合いをしながら、右脚部でがら空きだったサイサリスの股間部に蹴りを入れた。
食らうと同時にその振動でよろけるサイサリス、そこにすかさずガーベラのビームライフルを放つ。しかし、その攻撃はサイサリスの巨大な盾に止められてしまう。
そして、ガトーはサイサリスの盾を構えたままアーゼクトに向かって体当たりを仕掛けてきた。サイサリスの全推力が乗った強力な打撃を与えられ、アーゼクトのガーベラは後方に吹き飛ばされてしまった。かなりの振動がアーゼクトの体を揺さぶり、一時動くことができなくなってしまう。
「先ほどの蹴り、なかなか良かった。今一歩であったな。しかし今の攻撃を受けたのだ。貴様も動くことはできまい。」
再びサーベルを構え振り上げるガトー
「さらばだ!!」
一気に振り下ろされるサーベルを目にし、アーゼクトはとっさにレイカーを握り直し左腕部のバーニアを噴射した。それによりビームサーベルが触れる前に回避することができた。
再びガトーがビームサーベルを振りかぶる。しかし今度は振り下ろされる直前にアーゼクトは拳を振りぬき、サイサリスの頭部に直撃した。その一撃で今度はガトーが後方に飛ばされる。すぐさまその身を翻すと、アーゼクトが最初に放ったような蹴りをガーベラの腹部に見舞った。その衝撃はシールドバッシュよりもピンポイントにコックピットに衝撃を与える。
今度こそ、アーゼクトは動きが取れなくなる。
「あの一撃を食らってなお、攻撃の手を止めないその精神、貴様は確かに只者ではなかった。」
ガトーはビームサーベルを構える。
「貴様が生まれ変わった時、また相手をしよう。その時まで!!」
ガトーがビームサーベルを振り下ろす時、今度こそ動けないと悟ったアーゼクトは、緊急脱出装置用のコマンドを叫ぶ。
「ダイブオフ!」
サイサリスのビームサーベルが、ガーベラのコックピットを切り裂く。カメラアイの光は消え、力なく漂う。
ガトーはサーベルを格納したあと、念のためとガーベラに近づく。
「む・・・。」
切り裂いたコックピットの下部を見てガトーが声を上げる。
「消えた・・・・?」
本来そこにあるはずの人の死体が漂ってこなかった。
完全な状態出なかったとしても、体の一部も見つからないのは流石におかしい。
一体何がどうなっているんだ・・・と考えていたガトーだったが、突然バチリと頭痛がしたかと思うと、ここ数分間の出来事をすっかり忘れていた。
自分は何故こんなところにいるのか、よく思い出せず、ガトーは何事もなかったかのように再び広大な宇宙を翔けた。
Gダイバーはダイブしているデータから退出するとき、そのデータ内の人々がGダイバーと接触することで見たものや得たものを忘れさせてしまう。
その接触によって、データ内であらたな進化をしてしまわないように。
ゆえに、Gダイバーの存在を覚えているものはいないのである。
・・・・
フシューという空気の抜けるような音とともに、ダイブカプセルのハッチが開く。
初のダイブがこんなにきついものだとはアーゼクトは思いもしなかった。
まだふらつく体で立ち上がり、カプセルから出る。
「アーゼクトさん!大丈夫ですか!?」
目に見えて疲労しているアーゼクトに、急いでセシアが寄ってくる。
「予想外の強い相手と、一戦交えてきた・・・。確かに手強いな、あの男は。」
疲労はあるものの、その表情には、確かに充実感が得られたように見えた。
「すみませんでした・・・何かの手違いで少し時間がずれてしまったようで・・・。」
目の下に少し涙が溜めながら、セシアが申し訳無さそうに頭を下げる。
アーゼクトはふっと少しだけ笑うと、そんなセシアに優しく言う。
「気にしないでくれ。おかげで、ジオンのエースの力とやらを見ることができたんだから。」
そして、なにか思いついたように指を立て、アーゼクトは続ける。
「でも、ちょっと大変だったからな、ご褒美に、ひとつお願いを聞いてくれないか?」
セシアはアーゼクトの言葉に、え?と反応する。
「俺のことを"さん"付けで呼んでいるけど、呼び捨てで構わない。あと、アーゼクトじゃなくて、"ゼクト"って呼んでくれないか?そのほうが呼ばれ馴れてるんだ。」
笑顔で話すアーゼクトを見て安心したセシアは涙をぬぐい、微笑んだ。
「それでは、これからはゼクトと呼ばせていただきますね。」
「ああ。それと、改めて、これからよろしく、セシア!」
「ハイ!」
向かい合いながら、互いに笑い合うゼクトとセシア。
晴れてジュピターⅩのGダイバーとなることができたゼクト、これから彼は、一体どんな経験をするのであろう。人類進化のためのデータを見つけ出し、回収することはできるのだろうか。まだそれは誰にも分からない。
なぜなら、彼のミッションは始まったばかりなのだから・・・・。
・・・
ジュピターⅩのどこかにある部屋、そこで一人の青年が不敵に笑う。
「新たなGダイバー、アーゼクト・エルスロータスか・・・
貴様もいずれ、この先に待ち受ける絶望を知ることになるだろう・・・。
それまでせいぜいデータ収集に励むことだ・・・。
来たるべき時のために・・・。フフフフフ・・・・。」