GUNDAM EXA ~もう一人の可能性~ 作:迷人(takto
コズミック・イラにて、ジャンク屋ロウと一線交えるという話です。
ジュピターⅩでの初ダイブから二日後、ゼクトはセシアからの司令でとある訓練を行っていた。
「せい!はぁ!!」
今ゼクトは、特別なコックピットの中にいる。
モビルトレースシステム。
ファイティングスーツという特殊なスーツを纏うことでパイロットの動きをトレースして、モビルスーツにそれと同じ動きをとらせることのできる、格闘技術の発達した世界で使われている技術だ。それを体験できるカプセルでの訓練は、実際のシステムに慣れるのと同時に、基礎的な運動をすることで体力をつけることもできる。まさに一石二鳥である。
しかしこの訓練は、体に密着するスーツによって、それに慣れていない人間であればうまく体を動かすことができず余計に体力を消費してしまう。そのため初心者は、簡単だと思って取り組むと思っていた以上に疲労してしまうのである。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
まだ訓練を始めて間もないゼクトは、息を切らしながらカプセルから出てくる。
そのトレーニングをモニター越しに見ていたセシアが歩み寄る。
「まだシステムに慣れないようですね。」
「あぁ・・・案外体力を使うし、キツイものだな・・・。」
「ダイバーの中には、この訓練が気に入って毎日取り入れている方も居ます。」
「マジか?それはすごい・・・。」
その気力を自分にも別けて欲しいとゼクトは心底思う。
「まだ始めたばかりですし、直に慣れますよ。さぁ、あと5分したら休憩にしましょう、それまでがんばってください。」
「了解・・・。」
ゼクトは再びカプセルに戻り、トレーニングを再開した。
・・・・
20分後・・・
「お疲れ様でした。本日の訓練は以上です。」
「やっと終わったかぁ~。」
ゼクトは本日分のトレーニングをすべて終えた。
普段やらないようなトレーニングに取り組んだせいか、疲労が溜まっているのは明確だった。そしてそのせいかいつもより腹の虫が元気よく泣いている。
そして重い足を引きずりながら食堂へ向かう。
ジュピターⅩの食堂は資料にも書いてあるほど充実していた。
料理の種類は150種類以上あり、その組み合わせは自由度が高い。
ダイバーの好みに合わせて選べるセットや、動くのに必要な栄養をバランスよくとることのできるセットもあり、いつもここはダイバーでにぎわっている。
ゼクトは日替わりのランチを頼むと、開いている席についた。
ランチを食べていると、セシアがモニターを見ながら話しかけてくる。
「言われた通り、一応前回のミッションの座標と時間を記録しておきました。」
「ああ、ありがとう。」
「しかし、どうしてですか?私のミスで起こった危険なミッションだったはずですよ?それをわざわざ記録しておくなんて・・・。」
ゼクトは食事の手を止めて言う。
「俺がもっと実力をつけることができたら、また挑みたいんだ、あの人に。」
あの人ことアナベル・ガトーとの対戦は、自分が未熟なばかりに前回は負けてしまった。
しかし、いつかは勝ちたいと思っている。たとえ今の自分が遠く及ばなくても、強くなって必ず勝つ、とゼクトは決意していた。
「ガトーだけじゃあない、これから出会うすべての人たちのことも記録していこうと思っているんだ。」
頼もしいゼクトの言葉にセシアは笑みを浮かべる。
「何はともあれ、目標があるのは良いことです。協力しますよ。」
「ああ、ありがとう。」
二人で笑いあう。
「ところで、セシアは食事とかしないのか?ホロアクターって飲み食いは必要ないのか?」
「いえ、ご一緒させていただくこともできますよ。」
そういうとセシアは空中で何かの操作を行う。
その後目の前のテーブルに大きな何かが現れる。
たくさんのクリームや果物、クッキーなので飾り付けられた巨大パフェだった。
「スーパーサンライズパフェ立体映像バージョン、ゼクトのおごりということで良いですね?」
「金取るのか!?あぁ・・・。」
それを聞いて肩を落とすゼクトだった。
しかし、目の前でパフェをおいしそうに食べているセシアを見ていたら、コレくらい安いものだと思えた。
食事を終えると、ゼクトは前回のデータに関する資料を見た。
戦うためには、まず相手を知る必要があると考えたからだ。
さすがに何度も戦場を潜り抜けているだけあって、あの動きは只者でなかった。
その攻撃の一つ一つが鋭く、特に巨大なシールドを使ったシールドバッシュは強力であった。さらに、まだ実際に見ていない攻撃がある、この男を攻略するには骨が折れそうだ。
さらに、こんなに強い男がまだ他にもいるのかと考えると、少し気が重くなった。
だがそれと同時に楽しみでもあった。
多くの技術を得るということは自分を成長させ、なにより人類のためになる。
それを得ることのできる人間たちと早く戦いたくて仕方がなかった。
資料を読み終える頃にはもうすでに就寝時間だった。
色々な資料に手を出しているうちに、すっかり集中して見入ってしまったようだ。
就寝時間を過ぎても自室に戻っていないゼクトを心配し、セシアが目の前に現れる。
「もう就寝時間ですよ?急いで自室に戻って休んでください!」
分かった、と手を振って答え、自室へと急いだ。
・・・・
「ゼクト、起きて下さい!起床時間ですよ!!」
セシアのモーニングコールでゼクトは目を覚ました。
しっかりと就寝することができたおかげか、先日の疲れはあまり残っておらず、良い目覚めだった。
「ふぁ~・・・。おはようセシア・・・。」
「おはようございます。今日はあなたにミッションがありますよ。」
ここ数日はトレーニングばかりしていたので、ようやく実戦に赴けるとゼクトは張り切る。
制服に着替えたゼクトはセシアと合流し、ミッションについて話し合った。
「今回はC.Eの世界です。ターゲットはガンダムアストレイレッドフレーム、ジャンク屋ロウ・ギュールの駆るMSです。ガーベラストレートという対艦刀を装備していて、それを駆使した接近戦を得意としています。ですので、相手の接近には注意してください。」
「今回使用できる機体は?」
「誰も使用していないMIアストレイがありましたので、それを使ってください。今回はおまけ付きです。」
「おまけ?」
「はい。」
ゼクトはそれが何なのか気になったが、実際に見てみなければ分からないだろうとあえてそれ以上は聞かなかった。
ミッションの確認が終わると、ダイブカプセルに乗り込む。
「GAロードセット、GO!!」
既にお決まりとなっている出撃コードを叫ぶとともにゼクトはC.Eの世界へとダイブした。
・・・・
「ダイブ完了。」
コックピットから顔を覗かせて周りを見回してみると、どこかの格納庫についたようだ。
「やぁ、待っていたよGダイバー。」
コックピットを出ようとしたところで、見知らぬ男に声をかけられた。
ゼクトのことをGダイバーであると知っているということは、この人はこの世界のデータを内側から管理しているエグザクターなのだろう。
エグザクターの中には、データのなかに住み着き、その世界のデータをジュピターⅩに転送するという任務を担う者も存在している。
「僕はラルク・トーレス。この世界でメカニックとして働いている者さ。」
「アーゼクト・エルスロータスです。」
互いに挨拶を交わしたあと、ラルクからM1アストレイの簡単な機体説明を受ける。
マニュアルと機体を見比べ、明らかに違う部分を見つけたゼクトは問う。
「あの、あれは?」
M1アストレイの両腰部に何かを取り付けるホルダーのようなものが装着されていた。
「あぁ、あれかい?あの武器を装備するためのものさ。」
ラルクが指差す方向を見ると、巨大な二振りの対艦刀がそこにあった。
これがセシアの言っていたおまけだろうか。
「9.1メートル対艦刀さ。相手はあのロウだからね、ガーベラストレートと精度は劣るが、無いよりはいくらかマシだとセシア嬢に言われて用意させてもらった。」
「ありがとうございます。」
「気にしないでくれ、いいデータが取れることを期待しているさ。」
ラルクに改めて礼を言ってから再びM1アストレイのコックピットに乗り込む。
OSの起動を確認してアームレイカーを倒すと、背部のスラスターが展開する。
「M1アストレイ、出ます!!」
掛け声とともに、ゼクトはロウのもとへと飛んだ。
・・・・
明朝、朝日が登る数分前のこと、見知らぬMSに攻撃を受けたロウは、仲間たちと合流するためにフライトユニットの出力を上昇させながら飛行していた。
「全くとんでもない目にあったぜ・・・。へんなヤツらに攻撃受けるわ、せっかく買ったバクゥの頭忘れるわ、今日はホントについてねぇ・・・。」
ブツブツと愚痴を言いながら飛行を続けていると、人工知能をもった機械で、ロウの相棒の8(ハチ)がアラートを鳴らしながら伝える。
「ロウ、前方にモビルスーツ反応!」
「何ぃ!?」
先ほど交戦した奴らの仲間が再び襲ってきたのであろうか。しかし今は一刻も早く仲間と合流したいところ、あまり相手はしたくないものだ。
「どうするロウ?」
「どうするも何も・・・。」
しかし、既に相手はこちらに気付いて近づいてくる。
少しずつ見えてきた目の前の機体にロウは驚く。
「なんだあれ?レッドか?いや違う・・・M1アストレイか。
でも珍しいな、対艦刀を装備しているなんて。」
まじまじとその機体を見つめるが、その機体は攻撃を仕掛けてこない。
「あんたがジャンク屋、ロウ・ギュールだな?」
聞いたことのない声が、M1アストレイから発せられる。
先ほどの相手は会話ひとつなく襲ってきたが、どうやらこの相手は少し違うようだ。
そしてどうしてかは知らないが、相手はこちらを知っている。
「あんた、一体何者だ?」
ロウは目の前の相手に問いかける。
「俺はGダイバーのゼクト。アーゼクト・エルスロータス。あんたと戦い、その技術を学びにきた。」
初めて聞く単語の数々。Gダイバー、戦って技術を学ぶ、それが何を意味しているのかロウは理解できていなかった。
「よくわかんねぇけど、学ぶって言ったって、俺の何を学びたいって言うんだ?」
「ナチュラルの力、そしてあんたが会得した剣術をだ。」
そのための対艦刀かとロウは納得した。そしてそれを学ぶために、このゼクトと名乗った男は真正面から挑んできたということが理解できた。
「ほう・・・。あんたの言っていることはなんとなくわかった。いいぜ、相手してやるよ!!こういう奴は初めてだからな!」
今まであまり戦ったことのないタイプの相手にロウは心を踊らせながら、愛刀ガーベラストレートの柄に手をかける。
それに合わせてゼクトも対艦刀のうちの一振りを引き抜き構える。
周囲は一気に静寂に包まれた。
夜明け前のこの時間、直に太陽が昇る。
日の出に反応して鳥たちが飛び立つ。
その瞬間、決闘は始まった。
「ナチュラルの実力、試させてもらおう!!」
ゼクトは叫び、対艦刀で斬りかかる・・・と思いきや、片手に瞬時にバックパックに装備されたライフルを握り、ロウのレッドフレームに向かって発砲した。
「うぉっ!?」
まさかの行動に驚いたロウは慌てて回避行動に移った。
ライフルから放たれたビームは、レッドフレームの右腕上腕部をぎりぎりかすめて飛んでいった。
「てめぇ!卑怯だぞ!!剣で戦うみたいな感じだったじゃねぇか!!!ってうわ!!」
気がつけば既にゼクトはロウの目の前まで接近していた。
そのまま振り上げた対艦刀を切り下ろすが、ロウのガーベラストレートにあっさりと止められる。ギリギリと音を立てる互いの刃。
「剣術なら・・・負けねぇぜ!」
ロウのガーベラストレートに力がこもり、対艦刀が跳ね返され、そしてそのままゼクトのM1アストレイは後退してしまう。
機体のパワーを考えたら、量産型のM1アストレイよりもロウが自ら手を加えてあるレッドフレームのほうが強い。さらに剣術の腕も相手に分がある。
「さて・・・どうすればこの男に勝てるかな・・・」
ゼクトは弾かれた対艦刀を再び構えつつ策を練る。しかしロウは悠長に考える時間をくれる相手ではなかった
「ハァッ!!」
レッドフレームが居合いの体制をとりながら一瞬でこちらに近づいてきた。
「くっ!」
向かってくるレッドフレームに再びビームライフルによるビームを放つが、当たる直前に目の前からレッドフレームが姿を消した。
「何!?何処に行った!!?」
ゼクトが慌てて辺りを見回す。
「こっちだぜ!!」
上空からロウの声が聞こえ、その方向を向くと、ガーベラストレートを引き抜いたレッドフレームが急速に降下してきた。ゼクトはとっさに対艦刀を引き抜き受け止める。
落下時の勢いもありレッドフレームの一撃に押し負けるM1アストレイ。
この男に勝つためには単調に戦うのはダメだ。
「1本でダメなら、2本だ!!」
両腕で支えていた対艦刀から片腕を離し、備え付けられていたもう一本の対艦刀に手をかける。そして引き抜いた対艦刀を、ガラ空きだった腹部へと斬りつける。
切っ先が近づく瞬間を見たロウは、M1アストレイの頭部に蹴りを入れ、その反動を利用して瞬時に後方へ退いた。蹴られた反動でゼクトは剣撃の手を止めよろける。
「二刀流か・・・おもしれぇ!!」
ロウはガーベラを脇構えにして握り、再びゼクトに向かって突進してきた。
体勢を立て直したゼクトはそれにあわせるように二本の対艦刀を握りながら前に出る。
再び両者の剣が合わさり、独特の音が辺りに反響する。
「手数なら負けない!!」
ゼクトは対艦刀二刀流を駆使してロウ相手に斬りかかるが、二刀流に慣れていないためどうしても単調な動きになってしまい、二本同時に斬りかかったところを一本のガーベラストレートに止められてしまう。
「持ってる数が多けりゃいいってもんじゃねぇぜ!!!」
ゼクトの対艦刀を受け流し、そのままロウが斬りかかる。
下から上に斬り流されたガーベラストレートの一撃を止めようと対艦刀を構えるも、呆気無く弾き飛ばされる。
「くぅ・・・!だがまだ一本残ってるぞ!!」
今度はこちらがと、急接近してきたロウに向かって対艦刀を振り下ろすが、それもあっさりと弾き飛ばされてしまった。
両手に構えていたはずの対艦刀は、二本とも虚しく地面に突き刺さってしまった。
ゆっくりとロウがガーベラストレートを突きつける。
「どうやら、俺の勝ちみたいだな。」
「いいや・・・まだだ!!」
実体剣に気を取られているからであろうか、ロウはまだゼクトに柄モノがあることを忘れているようだ。そう、そのバックパックに装備されている二振りのビームサーベル。
両手を背部にまわし、ビームサーベルを一気に引き抜き、突きつけられていたガーベラストレートを払う。
ロウが退いた隙を突いて、地面に刺さっていた対艦刀を再び手にする。
「面白いな、お前!ここまで近接で渡り合った奴は久しぶりだ!!」
ロウは少し嬉しそうに言う。
ゼクトも、はじめはただただ技術を学びたいだけだったが、今はこの戦いを純粋に楽しんでいる。
「さて!じゃあ俺もそんなお前に敬意を表して、本気で行かせてもらうとするぜ!」
ロウの言葉にゼクトは驚く。アレほどまでの動きをしていながら、まだ本領を発揮していなかったということに。
技術を得るためには本気で戦わなければ意味がない。望むところだとゼクトは再び意気込む。
「ハチ!!パワーアップだ!!」
ロウが言うと、レッドフレームの駆動系がさきほどと違う音を立てはじめた。
今まで使用していなかった部分の制御が外れたのであろう。
「行くぜ!アーゼクト・エルスロータス!!」
上段にガーベラを構えて突っ込んでくるロウ、それに答えるため、ゼクトも対艦刀を低く構えて当たりに行く。
「ロウ・ギュールぅぅ!!」
ロウの振り下ろすガーベラに、ゼクトの対艦刀が重なる。
その瞬間、二本の対艦刀は鈍い音とともに折れ、その切っ先は地面に虚しく突き刺さる。
何度も攻撃を受け流してもろくなっていたところに強い衝撃が加わったためであろう。
「今度こそ、俺の勝ちだ。」
ロウは再びガーベラストレートを、M1アストレイの首元に突き付ける。
たしかにこの男は強い。腕だけではない、精神的にもだ。
今の俺ではまだこえられない、ゼクトはそう思った。
ゼクトは参った、と両手をあげて示す。
それからお互いコックピットから降り、はじめて顔を合わせた。
ゼクトは戦いの本当の目的、GAデータについてのことをロウに打ち明けた。
「人類進化・・・ねぇ・・・。さっぱりだな。」
これは他のデータにも言えることだが、急に言われて理解できるものはいない。
自分がデータの中の存在だなんて現実味もない話など、普通の人間なら信じないだろう。
しかもそれを忘れてしまうというのであればなおさらだ。
「でも、俺との戦いが役に立つってんなら、まあいいか。」
ロウはフッと息を吐くと、こちらに手を差し出してきた。
「なんだかんだ、楽しかったぜ。」
「こちらもさ。」
「また戦いたいもんだぜ。俺は覚えてないだろうがな。」
「剣術が上達してから、また挑むとするよ。」
ロウと握手を交わし、ゼクトはジュピターⅩへと帰還した。
新たな目標ができたことに喜びを覚えながら。
・・・・
データから戻ると、セシアはなにやらバーチャルモニターを操作していた。
集中しているからであろうか、ゼクトが帰還したことにはまだ気付いていないらしい。
「ただいま、セシア。」
後ろから声をかけると、セシアは肩をビクリと震わせ、驚いた様子で振り返った。
「ぜ、ゼクト!?帰ってこられたんですね、急に呼ばれたから驚きました・・・。」
驚かせてしまったことに対してゼクトは軽く謝罪をする。
しかし、セシアがGダイバーの帰還に気がつかないとは、それほどまでに重要なことをしていたのであろうか。
「なぁセシア、何をしていたんだ?」
ゼクトが尋ねると、セシアは明らかに動揺した様子で、「な、何でもありません!」と答えた。それから少し落ち着いた様子で続ける。
「ほかのダイバーに関する内容ですよ、気にしないでください。」
「そうか、それならいいけど・・・。俺にできることが有れば手伝うから言ってくれ。それじゃあ、俺は自室に戻って休むよ。」
「ハイ、お疲れ様でした。」
ゼクトはそう言って自室に戻っていく。
その姿を見送るセシアは、先ほど眺めていたバーチャルモニターを開き、
「私は、こんなものを作ってもいいのだろうか・・・。彼に、渡しても・・・。」
何か躊躇するようにセシアはつぶやいた。見つめるモニターのファイルにはこう書かれていた。
PROJECT EXTREME
・・・
ジュピターⅩ内のとある一室で、その男は不敵に笑っていた。
「ククク・・・新たな絶望を手に入れたぞ・・・。」
数時間前にミッション失敗で腑抜けになっていたとあるGダイバー。
その彼を、セシアとのリンクが切れたすぐあとにこの部屋に呼び込み、彼の心に渦巻いていた絶望を奪い取った。
絶望を糧としているその男にとって、新たな絶望を得ることは最高の愉悦であった。
そんな男の背後から、大人の女性のようにカスタマイズされたセシアが近寄ってきた。
「イクス!あなたキースを!!」
イクスと呼ばれたその男は、笑みを浮かべながら振り返る。
「ああ、確かに受け取ったよ、彼の絶望を。」
そんなイクスに対してセシアは何か言いたげだったが、それをこらえ、もともと話そうと思っていた話題に移る。
「・・・制造は順調です。あと少しで完成するかと・・・。」
「そうか、ようやく完成するのか・・・、極限のガンダムが・・・。」
イクスは正面に向き直り、言葉を続ける。
「極限のガンダムが完成した暁には、すべての者に与えてやる・・・、極限の絶望を。」
そしてイクスは、再び高らかに笑っていた。
別空間。
データだけが集められているこの空間で、その機体は完成間近だった。
完成しきっていない頭部の、その青い瞳が怪しく輝いた。
そして、その機体とは別のどこかで、黄色い光が、データの中で輝きだした。