魔法少女リリカルなのは Second Life 作:雪都 叶夢
次に糺が目を覚ましたのは森の中だった。
すでに日は高く上っており、そろそろ昼と言ったところだろう。季節までは分からないが、そこまで暑くもなく寒くもない。少々肌寒いくらいだ。春か秋だと思われる。否、木々が色とりどりに染まってなく、若葉色のため春と考えて良いだろう。
それにしても、と糺は思う。
「なぜ森? いや、街中で倒れててもダメだろうから良いんだが、別にこんなどこかも分からないところに落とさなくても……」
そう愚痴ったところで事態は全く変わらない。いつまでもこうしているわけにもいかないと考えその腰を上げた。
そこで違和感に気付く。目線が低い。どう考えても170あった身長から見える景色じゃない、と。
そして自分の身体を見てその訳を理解した。
「……体が縮んでるのか」
何とも信じがたい話だが、自分の身に起こっていることだ。信じざるを得ないだろう。この体は大きさからみて10歳前後のようだ。どうしてこうなったのかは分かり切っている。トレンのせいだ。とは言え、こちらから連絡は出来ないので元に戻してもらうことも、訳を問いただすことも不可能だ。この体で乗り切るしかないだろう。
だが、まずここから出ないことには何も始まらない。どこまで体力が落ちているのか不安になるが、その足で歩きはじめる。
『マイロード、そちらではありません。逆です』
突如、機械音の様な男性の声があたりに響く。それも糺のポケットの中から。ギョッとしながらも、その声の主を探るべくポケットに手を突っ込んだ。そこにあったのは意識が遠のく前にトレンから受け取った一つのキーホルダーただ一つだった。有り得ない。そう思いつつも聞かずにはいられなかった。
「さっきの声は君?」
『御明察です、マイロード』
そうその音声はそのキーホルダーから鳴っていた。
その事実よりも糺はもうすでにいろんなことがありすぎてこんなことでは驚かなくなっている自分に感心した。
それに加え、これからどんなことがあるのだろうと、少し興奮さえしている自分がいる。生前では浮かぶはずのない思い。格子の中からは想像もできない出来事。既に糺は満足していた。
『マイロード、町はあちらでございます。ちなみにトラン様より伝言をお預かりしておりますが、聞きますか?』
「ん、じゃあお願いしよう」
『えーこほん。
糺さん転生は無事にできましたか? まず気になっていることでしょうどの世界なのかを発表します! なんとそこは「魔法少女リリカルなのは」の世界です!! どうですか? うれしいでしょう?』
「いや、そんな世界知らんし」
『えっと、特典ですが、なんかものすごく多かったんです。よかったですね?』
「なぜ疑問形!? 変なのあんの!?」
『えっと能力名読み上げますよ
1:蛇なる者
2:影咲く手
3:縁の恩恵
4:蛙空を知る
5:無を貫く意
6:百戦練磨
7:見通す眼
です。あ、内容はさっぱりなので自分で探してね。以上。家、用意できなかったけど頑張って!』
「いや、内容分からないって…… てかホームレスかよ」
この際、能力はどうでもいいからまず住む家確保しないと、と考えるもののこの子供の姿ではバイトしようにもどこも採用されないだろう。最悪野宿だな、と一旦考えを終わらせる。
『マスター、後反対側のポケットにトレン様が何か入れてましたよ』
その声に従って左のポケットに手を伸ばすと何やら手帳の様なものが入っていた。今度は手紙か、とも思い広げてみる。よくこんなものが入ったなと若干感心しつつもその内容を読む。
「って、貯金通帳じゃねーか! てかこの金額なんだよ!?」
通帳の事にも驚いたがそれよりもこのゼロの数に驚いた。ゼロ8つ。1億円。しばらくは何もしなくても暮らしていけるレベルだった。一生で普通の人間が稼ぐ金が3億だったはずだからこれはその3分の1。30年分と言うことだろうか。だが、それよりも問題なのが、
「金はあってもこの姿じゃあ家売ってもらえないだろ……」
全ての道はローマに通ず、とでも言うようにどうしてもこの体の問題に行きつくようだ。はぁ、とつきたくもないため息が漏れてしまう。死んだときの姿で来れていれば18歳だったためこんな苦労はせずに済んだだろうとありもしないことを考えてしまうのは仕方がないだろう。
『さぁ、マイロード行きましょう』
そういうこの機械(?)は空気を読めないのか、はたまたマイペースなのか、そんな提案をしてくる。正直その場でいつまでも悶々としていられる、と言うよりしてしまうが、それでもこのキーホルダーの言うことも一理あると思ってその場を後にした。
▽▲▽▲▽▲▽
その森から出るには優に1時間かかってしまった。その間、糺はキーホルダー(コマンドメンツと言うらしい)と話していたが、ここはリリカルなのはと言う世界の海鳴市と言うところらしい。そもそもリリカルなのはと言うのは元の世界であったアニメらしいのだが、糺はそういう類を一切見ることが出来なかったため、もちろんこの世界は知らない。
そうなれば糺にとってそれは決定した物語でもなんでもなく、ただの人生そのものだった。それはあれほど行くのを拒んでいた自分が主人公で、他が役者の世界と同じなのだ。それでも、糺はこのコマンドメンツの様な不思議がこの世界にあると言うだけで、その事実は全く気にしなくなっていた。
とりあえず、と言うことで町に着いた糺はお金を口座から落としていた。この体なので声を掛けられるかとビクビクしたりしていたのだが、案外声を掛けられないものだ。無事に5万ほどの金額を落として財布に入れる。
本当はこういうところで前世との時代の差と言うものを見つけられれば良かったのだが、糺は訳ありで家から出たことがない。故に元の世界はどんなだったか、と聞かれても何も答えられないのだ。つまりこの世界との差は分からないのだ。
「取り合えず、資金はあるから飢えはしのげるとして、家だよなぁ……」
とは言え、こればっかりはどうすることも出来そうにない。
そこで、はぁ、とため息を吐く。昔からそうだ。繰り返し繰り返し同じことを考えてしまう。前に進まなければならないのに立ち止ってしまうのだ。せっかくの新しい人生だ。昔の考え方は捨てて、とりあえずはやれることから始めるとしよう。
「コマンドメンツ、いや、言いずらいからコマンでいいか?」
『マイロードがそう呼びたいのならそう呼んでください』
「分かった。……てかそのマイロードってのやめないか?」
『それは不可能です。マイロードは
「はぁ、まあいいか。……じゃあこの辺にスーパー的なの無いか?」
『それでしたらあちらに……』
コマンドメンツ改めコマンの道案内の元、迷うことなく目的地であるスーパーマーケットへ到着できた。糺は改めてコマンの凄さを実感した。ただ意思を持っているだけでなく、細かな情報も的確だ。この世界の人が皆持っているのであれば、元の世界よりも発達しているのは明白だろう。
スーパーが見えてきたところでキンと音が響く。金属を落としたような音に一瞬立ち止まる。
そこで隣を車椅子の少女が通った。年齢は今の自分と同じくらいだろうか、あの年齢で車椅子とは病気かなんかだろうか、とつい考えてしまう。しかし次の瞬間フラッシュバックが起こる。
暴走する車。
轢かれる少女。
燃え上がる炎。
そして流れる血。
いやな予感、いやいやな予知と言う物だろう。だがこれは知っている感覚。生前使えた、もう使うことは無いと、絶対に使わないと決意した未来視。されど、この瞬間だけはありがたい、そう思えた。目の前で散るはずの少女を助けられるのだから。
「危ない!」
車椅子を掴み、その少女を止める。突如叫んだ糺に周りの人も驚いたようにこちらを見る。
「な、なんや!?」
急に捉まれ、止められたことに驚きつつも振り返る少女。だが次の瞬間に道路を走っていた車がトリップして歩道に、進んでいたら丁度少女が轢かれる位置につっこむ。少女はビクッ、と体を震わせ硬直する。無理もない、このまま進んでいたら轢かれていたし、下手をすれば死んでいた。
「なんやよう分からんかったけど助かったわ……」
「あ、ああ」
そんな会話を交わすが二人共の目線はお互いの顔ではなく、その事故に釘付けだった。そのうちに周りの状況を理解しだした大人が携帯でどこかへ連絡する。救急車でも呼んだのだろうか。
そのうちに警察と救急車がやってきた。どうやらその車に乗っていた人も何とか無事だったらしい。救急車に乗せられ病院へ向かう。唖然としたままの二人。糺はこんな時でさえつい思ってしまう、もっと他にやりようがあって、そしたらあの運転手も助けられたんじゃないか、と。高望みなのは重々承知だった。それでも予知してしまったのだから助けたかったと思うのだ。
「はぁ、……あ、ごめん」
糺はいまだに車椅子を押さえつけていたことに気づきすぐさまその手を放す。その声は少女にも届いたようで、今度はその顔を糺に向けた。呆けたような表情だったが、その少女は同じくらいの子供としては可愛い方なのだろう。濃い茶髪のショートカットで瞳は綺麗な蒼だった。
「あっ、ありがとうな」
そう言って少女は糺に向かって笑かける。その笑顔は糺にはとても眩しく見え、ドキッとしてしまった。だが、そんな動揺をおくびにも出さない。
「どういたしまして。それより、怪我は無いか? 少し無理やり引っ張っちゃったから」
「いや、大丈夫やで。あ、そや。私八神はやてって言います。あなたは?」
「僕は真掛糺です」
「そか、糺君か。よろしくな。私の事も名前で呼んでな」
そうやって二人で自己紹介をして、その場から離れた。そこで糺は先ほどまで考えていたこと、衣食住の住の確保に思い当たった。もしかしたらマンションはダメでもホテルくらいなら借りられるのではないだろうか、と。考え経ったら即行動。さっそくその辺をはやてに聞いてみる。
「んじゃ、はやて。この辺りにホテルってないか?」
「え? ホテルかいな。……あったと思うけどどないしたん?」
「いや、住む家ないからホテルでも借りようかと……」
「あかんよ!! 家出しちゃあかん! 家の日と心配するやろ!!」
住む家がない、と言うことを家出をしたので行くところがない、と言うふうに勘違いしたらしい。普通に考えたらそうなるのかもしれないが、糺の場合は文字通り家がないのだ。糺は一瞬何を言っているのか分からなかったが、その答えにすぐたどり着いた。
「んと、僕、親居ないんだよね。で、家もないからホームレスなんだ」
あはは、と笑いながらそう返す。そんな気軽そうに話す糺を見てはやては何か思いつめた表情になる。さもそれが自分の事の様に目に涙をうっすらとさえ浮かべていた。
「なんでや……なんでそんな話、平気でしてられるんや、寂しくないんか?」
「僕はもう慣れた。ずっと一人だったからな」
そう返すがはやてはさらに悲しそうな表情になる。そして絞り出すように発する声はどこか消えてしまいそうな儚さがにじみ出ていて、さっき自己紹介をしたときにいた元気な少女の姿はどこにもなかった。
「私も両親いないんや。……でも、私はいつまでたっても寂しいんよ。でも私、この足動かへんのよ。そのせいで学校にも行けん、せやから友達も出来ん。いっつも思うんよ、家族ができたらって……」
そんなはやては正直見てられない。さっき会ったばかりだとしても、その顔を見てると胸を締め付けられるような気になる。だからなのかもしれない。こんなことを口走ってしまったのは。
普段の糺ならば絶対に口にしないだろう言葉。
初対面のあったばかりの人に言うには不相応な言葉。
体が縮んだせいで思考までも単純になっているのかもしれない。
「だったら、僕と家族にならないか?」
まるでプロポーズ。一生を誓い合う相手に言うようなそんな言葉。
その言葉をはやてはどう取ったのだろうか。
その顔は糺に向けられているがさっきまでの様な悲しそうなそうな表情ではなく、呆けているような表情。それでも迷惑そうな表情ではない。そしてはやては一言だけ。
「はい」
叶「どうでしたか? 日常を描くのがすこぶる苦手なんですが」
糺「それでよく小説書こうと思ったな」
叶「いや、僕も書いちゃうとは思わなかったよ!? 書いてみたくなっちゃったんだから良いじゃないか!」
糺「まぁ良いんだけどよ。一つ言わせろ。なぜあの終わり方で僕をここに出すかなぁ!!!」
叶「いや、他にキャラまだ出せないでしょ」
糺「神様! トランがいるよ!!」
叶「……次回予告っ!!」
糺「おい、叶夢ェ」
叶「次回ついに原作に突入します! いや、ついにってほどでもないな」
糺「んと、特典の一つが分かるんだったな」
叶「ああ、あれね。てかあの特典能力名だけで分かる方いらっしゃるんでしょうかね? 分かられたらいろいろ終わるんですが」
糺「次回『百戦錬磨の力』こんなタイトルで大丈夫か?」
叶「大丈夫だ。問題ない」
糺「いや、そのネタ誘ってないから」