感無量です。
学校帰り、やがみんのお見舞いにきた。入院先は俺が目覚めた場所でもある、海鳴総合病院。
受付にて、やがみんの部屋の場所を聞く。
「あら、八神さんのお友達かしら?」
病室に行こうと思ったら、白衣を着た美人さんに話しかけられた。何か用?
「私、はやてちゃんの担当医師なの。私が案内するわ」
おお。これはナイスタイミング。
石田先生と一緒にやがみんの病室に向かう。
「君の話ははやてちゃんから聞いていたわ」
へえ、なんと。
「自分と同じ境遇の、変わった男の子ってね。確かにはやてちゃんの言うこと分かるわ」
あなたも結構ストレートに俺が変だと言ってませんかねえ。まあ、精神が精神だから、しょうがないとも思うけど。
「はい、ここがはやてちゃんの病室よ」
あざっす。
「はやてちゃんのこと、お願いね。病は気からって言葉もあるんだから」
知ってる。でも俺には無理です。そういうのは、例の友達とやらの役目だろう。
ノックして病室に入る。
「あ、こういち君! お見舞い来てくれたんやな!」
まあ、修行以外特にやることないし。
入院という割には、やがみんは元気そうである。元気そうなだけで、実際は違うのかもしれないが。
「今日は制服なんやな。久しぶりに見た気がするわ」
そういや、そうかもね。学校帰りにまっすぐ買い物にいくことなんて滅多になかったからな。
「ところで、その制服、聖祥のやない?」
よくわかんね。俺の場合、制服なんて覚えらんない、覚える気がないのに。
「前に言った友達も聖祥なんよ」
へー。そりゃまたなんとも奇縁な。
「もしかしたら学校で話したことあるかもなあ」
「すずかちゃんって名前、前に言ったやろ。知らん?」
「学校の奴で名前覚えてる奴自体居ないわ」
「えっ」
信じられないといった表情のやがみん。あ、でも一人、恭也さんの妹の、なのはだっけ? は名前知ってる。翠屋で高町家からかわいいかわいい話されてるからな。それでも顔は知らない。
やがみんは話題を変えてきた。小学生に気を使われたよ。
「シグナムたち、ちゃんと暮らしとるかな」
「掃除に洗濯は大丈夫そうだろ。シャマルがやってくれそう」
「問題は、料理やなぁ」
それな。はやてが居なければシャマルは使い物にならないし、シグナムは……なんかできる気がしないんだよなあ。
「なんだかんだいって、ヴィータが一番頼りになりそう」
「あはは、そうかも」
「んじゃ、そろそろ帰るわ」
長居する気も特に無いので。
「むーもうちょっとおってもええんとちゃう? 折角、美少女と二人きりなんやで」
「美少女と二人きりは気まずいから帰るわ」
「え、そういう反応?」
かわいいのはそうかもしれんが、まだまだ子供。10年早い。
とっとと病室から出る。すると、
「え?」
「あら?」
「ん?」
やがみんの病室に女の子二人が入ろうとしてた。例の友達か。
「あ、あの、古夜君、ですか?」
紫の髪の娘が聞いてきた。もう片方の娘は明らかに外国の娘っぽい金髪だし、こっちの娘がすずかちゃんかな。
「ん、そうですよ」
「はやてちゃんの、お見舞いに?」
なんか少し戸惑ってる様子。まあいきなり鉢合わせたら驚きもするか。
「はい、でも俺はもう帰るので、それでは」
特に興味もないので、目を伏せる程度に礼をして、その場を去った。
そういえば、あの子達って、いつぞやのケンカしてた女の子達じゃないか。あの時の娘とやがみんが友達になっていたとはね。合縁奇縁とはこのことか。
にしても、二人でお見舞いとは仲良くなったもんだ。もう一人のカミジョーさんは居なかったけど。
やがみんは四人組と仲良くなれたって言ってたし、あの茶髪の娘ともう一人居るんだろうな。
……じゃあ、その残り二人は? 一緒に来なかったのは何故だ?
そして、聖なる夜、クリスマスイブの日。
闇の書の蒐集もいよいよ完了といったところらしく、守護騎士たちとはほとんど会わなくなった。それでも今日は、はやてのところにお見舞いに行くそうだ。
クリスマスといっても特にやることがない俺は、いつも通り修行したあと、家でだらだらしていた。
異変は、突然起こった。
突如、莫大な魔力を感じとる。
「っ! ジェイド、なんだこれは?」
感覚的にそこまで離れてもいなさそうだが、魔力探知が得意でない俺がここまではっきりと感じ取れるって、結構やばくね?
『わかりません。位置特定しますか?』
「頼む」
聞いといてアレだが、何となく予想はつく。おそらく、これが闇の書の魔力なんだろう。
『……特定、完了しました。……これは、海鳴総合病院の近くですね 』
やっぱり、闇の書か。魔力の蒐集が終わって、はやての治療に移るとこなのだろう。
守護騎士たちの言ってたことが本当のことであれば、だが。
なんかモヤモヤすんな。
サバイバルで培った危機感。それが警鐘を鳴らしている。
動こうか迷っていると。
『マスター、緊急の連絡です』
ん? この魔力関係かな。
ジェイドに映像を繋げてもらう。そこに写ったのは。
『晃一君。久しぶりね』
深刻な表情をしたリンディさんだった。
「リンディさん、随分と久しぶりですね。どうしたんですか緊急連絡なんて」
『あなたも、この魔力には気づいているでしょう』
まあ、さすがに。
『単刀直入に言います。アースラの提督として、あなたに救援を依頼します。今、ロストロギアが暴走してるの。……このままでは、地球が危ないわ』
突然過ぎて、一瞬、理解できなかった。
「暴、走……!?」
ロストロギアってのは、闇の書のことだろう。それが、暴走?
どうしたんだよ。治療するってのはどうしたんだよ。
「……俺に、頼むようなことなんですか?」
アースラにはリンディさんの息子さんのクロスケとやらも居るはず。執務官試験にも合格してた。俺よりも頼りになるやつは居るだろうに。
『クロノ執務官は、今、別件に当たってもらっています』
若干、表情の曇るリンディさん。どうかしたのか?
『現地の魔導師や、嘱託の子達に戦ってもらっているけど、とても危険な状態なの。ついさっき、一人、夜天の魔導書に取り込まれてしまって……今は、少しでも戦力が欲しいわ』
……闇の書が暴走して、そこまで危険な状態に? これは、さすがに、無視できない、かな?
「……とりあえず、現場に向かいます。途中で事情を詳しく」
『ええ、わかりました。よろしくお願いします』
ダッシュで現場に向かう。その道中でリンディさんから念話で詳しく話を聞いた。
闇の書とは正式には名を夜天の魔導書といい、魔導師の技術を収め研究して後生に伝える為に作られた魔導書だったらしい。だが、歴代のマスターの改変に次ぐ改変によりバグが蓄積、マスターの意思すら食い潰す、凶悪な破壊兵器となってしまった。
話が大分違うぞ畜生め。
シグナムたちが嘘を言っていたようには思えなかった。でも、それをリンディさんに言うわけにもいかない。
それで仕方なく俺も蒐集されたことを教えると、こんな状況なのに怒られた。
『何でそんな大事なことを知らせてくれなかったんですか!』
いや、まずこっちから連絡する方法なかったし。
戦闘した時の守護騎士たちの話と少し違っていると言うと、
『それは、おそらく夜天の魔導書のバグが、守護騎士たちに少なからず影響を与えているんでしょう』
成程。バグによる記憶の混濁か。あいつらは自分たちが夜天の魔導書ってことも覚えてなかったみたいだし。
「……くっそが」
思わず悪態をつく。なんも知らない内に地球が危ないとか、まじで洒落にならん。
『晃一君、あの娘たちのこと、お願いします』
リンディさんから切実な声で頼まれる。
いやいや、むしろ俺が危ないと思うんだけど。リンディさんから聞いた今戦ってる魔導師って、ランクAAAレベルとかのバケモンなんだろ。
足手まといになるだけじゃねと思いながらも、何も言わず、全速力で進む。
辺りはすっかり暗くなり、クリスマスの明かりが街を照らしている。
市街地から場所を移し、海上。高町なのはと、夜天の魔導書が、激しい戦闘を繰り広げていた。
「リンディさん、エイミィさん。戦闘位置を海の付近に移しました!」
市街地で戦闘を続けるのは被害を大きくするだけだったので、高町なのはは戦いながらも場所を海上まで移動させていた。
「それと、闇の書さんは駄々っ子ですが、話は通じそうです! もう少しやらせて下さい!」
絶対に助けて見せると、なのははレイジングハートを構える。
「いくよ! レイジングハート」
『はい、マスター』
そして、なのはは闇の書の意思に対抗する為、レイジングハートをエクセリオンモードへと変型させる。
エクセリオンモード。レイジングハートのフルドライブモード。デバイスの性能を100%発揮できるが、デバイス自身への負担が大きくなるという切り札。
「繰り返される悲しみも、悪い夢も、きっと終わらせられる……!」
対して闇の書の意思は。
「………………」
無言で手をなのはへと翳す。
再び激闘が始まる――――――その瞬間。
轟音が響く。
「!?」
なのはは新手かと驚き、音の響いた方を見る。
闇の書の管制人格もまた、新たな敵に目を向ける。
そこに居たのは。
「 待 た せ た な 」
黒いマスクに黒い外套の、一人の魔導師だった。
最後のをやりたかったから書き始めたといっても過言ではない。
もっかいアニメを見直してきます。