物語を書くのって大変ですね。
戦闘後、グリーヴァを拾ったところで八門遁甲を解除する。途端、疲労感が込み上げてきた。
手足が痛い。立ってるのもしんどいので、雪原に倒れ込む。
そうして一息ついたところで増援が到着した。
「すまない! 遅くなった!」
そういって来たのはシグナム。どうやら増援のリーダーは彼女のようだ。
「大丈夫か古夜!?」
「あんま大丈夫じゃないな」
手足の感覚無くなってきたし。
「これは……!」
シグナムは周囲の状況を見て息を呑んだ。
周りには、俺が破壊した無人機の残骸がそこら中に積み上がっている。
「……流石だな」
「いやいや、もう無理。切り札使ってやっとこれだよ」
「……模擬戦では頑なに使ってくれないアレか」
それです。
シグナムやテスタロッサとはよく模擬戦をしているが、その時は八門遁甲は使ってない。仕事で使ったのも今回が初めてだ。
理由は簡単。そんなに何度も使ってたら体が保たないからである。
動くだけで体が悲鳴を上げるのだ。いくら相手の攻撃を躱せてもそれでは意味がない。
そんなわけで、シグナムは八門遁甲を使った時の俺を知らないのである。生で見たことあるのは高町くらいか。
ちなみに、八門遁甲の仕組みは誰にも教えていない。リンディさん辺りに知られたら使うの禁止されそうだからね。
「お前ッ……手足が……!」
「ん? ああ」
シグナムが俺の手足の状態に気付いた。心配そうに見てくる。
気にしてくれるのは嬉しいけど、これほとんど自滅なのよね。
「俺のことは良い。ヴィータ達は無事か?」
「ああ。お前より先に合流したよ」
それは良かった。
「……高町は?」
「……今、救急搬送されている。お前が殿を務めてくれなかったら、危なかったかもしれない」
そうか。……なら、一応は任務完了かな。
あ、気を抜いたら意識が遠退いてきた。
「お前も早く医療班に……っておい!? 古夜!?」
おやすみなさい。
おはようございます。
ここは……本局の病室だね。ん~結構寝た気がするな。
体を起こし、背伸びをする。――つもりが、思うように体が動かない。見ると、右手右足が固定されている。
「ジェイド、どんくらい時間経った? ……ってあれ?」
動くのを諦め、とりあえず状況確認をしようとしたところで、ジェイドもグリーヴァも居ないことに気付いた。メンテでも受けているのだろうか。
どうしたもんかと思っていると、誰かが病室に入ってきた。
入口を見ると、はやてとヴィータが驚きの表情でこちらを見ていた。
「こ、晃一君……!」
「お、はやてにヴィータか。はよーっす」
とりあえず挨拶をする。しかし、返事がない。
何やら俯いてぷるぷる震えてる。どうしたのさ?
「…………か」
「蚊?」
「軽すぎるわああああ!!!」
「ひでぶッ!?」
はやてから思いっきり右ストレートを喰らった。ちょっ、俺怪我人っ……!
「はよっすやないわ! 全身血まみれで運ばれたって聞いて! 急いで来たらボロボロの状態で寝てて! 三日経っても目を覚まさへんしッ……!」
はやてがポカポカと叩きながらまくし立てる。痛い痛い痛い叩かないで!?
てか俺、三日も寝てたのね。
「ほんまに、心配したんやからな……!」
やがて暴れるのを止め、俺の着ている病院服を掴みながら、絞り出すようにそう言うはやて。
……これはちょっと迷惑かけちまったかな。
「……悪かったよ」
素直に謝る。
それからしばらくの間は、はやてからの文句を聞き続けた。
落ち着いたところで肝心なことを聞いた。
「……で、高町の方はどうなんだ? 目は覚めてんのか?」
ヴィータの表情が動く。
「なのはは……まだ目を覚ましてねえ」
そっか。まあ、俺よりも早く目覚めることはないだろうとは思ってたが。
怪我に慣れてる俺とはわけが違うからね。
「容態の方はどうなんだ?」
「……それは」
「その前に」
ヴィータが答えようとしたが、別の人の声に遮られた。
声のした方を見ると、いつの間にか入口にリンディさんが。
「目、覚ましたのなら、先ずは私たちとお話しましょうか」
何故か笑顔のリンディさん。
……何故だろう。サバイバルで培ったシックスセンスが警鐘を鳴らしている。
目の前には笑顔のリンディさん。その隣には、笑顔のシャマル。
いやはや、美人の笑顔は目の保養になるね。
――彼女らの後ろに般若が見えてなければ。
はやて達は帰りました。味方が居ません。
「……ねぇ、晃一君? これ、何かしら?」
リンディさんが壁のモニターを指しながら聞いてくる。
そこには、八門遁甲を開き、素手で無人機を粉砕する俺が映っていた。
「無人機相手に、素手で殴りかかるとは、随分と無謀な真似をしたわね」
笑顔を急に真顔に変え、リンディさんは言ってきた。
……なんか、迫力が。この人覇王色の覇気使えんのかな?
「ジェイドの身体強化のお蔭ですよ」
「あなたの魔力量じゃ、身体強化でこれだけの出力は出ないはずよ」
「根性です」
「なのはちゃんの検査と一緒にあなたの体も詳しく調べました。無理なのは分かっています」
誤魔化そうとしたが、シャマルに一瞬で切り捨てられた。
……心無しか般若が大きくなったような。
更にリンディさんが問い詰めてくる。
「それに、リンカーコアが酷く衰弱していたわ。……おそらくコレと無関係ではないのでしょう?」
――説明シロ。
言外にそう言われてるのがびしびし伝わってくる。
利き手利き脚が使えない俺に、逆らう術はありませんでした。
八門遁甲の仕組みを説明しました。
「なんて無茶なことを……!」
シャマルが信じられないといった表情で言う。
「リンカーコアのリミッターを外し、通常以上の出力を引き出す…………なるほど。闇の書事件の時も、これを使っていたのね」
その通りです。流石リンディさん、鋭いね。
「どうやってこの技を?」
「闇の書事件で蒐収された時、ティンと来ました。その時に、強くリンカーコアの存在を認識できたので」
「……それで、闇の書事件の時に初めて使用した」
なんか、事情聴取されてるみたいだ。俺、悪いことはしてないんだけどなぁ。
「確かに強力だけど、副作用も酷いわね。……あなたの言う『死門』まで開いたら、どうなるのかしら?」
「リンカーコアが消し飛ぶでしょうね。魔導師としては二度と戦えなくなり、最低でも命に関わるでしょう」
「なっ……!」
代償というか、リスクについて聞き、シャマルが声を失っている。
リンディさんも難しい表情だ。
やがて、リンディさんが大きく溜め息を吐いた。
「……できれば、もう二度と使わないで欲しいのだけど」
「それは無理です」
リンディさんの言葉に即答する。
絶対にこれから先も使わなきゃいけない時は来る。
「どうして? 貴方はコレが無くても戦えるじゃない」
「でも、勝てない相手は沢山居る。才能の差は覆せない」
はやてや高町のような才能溢れる連中は同じ努力ではるか先に行く。それに、俺より才能のある奴はゴロゴロ居るのだ。
「知ってますか、リンディさん。絶対的な才能との差を埋めるには…………修羅になる他ないんです」
仲間と協力とかは俺自身の強さにならない。勝つ手段を選ぶには、強くなる手段は選んでられないのだ。
リンディさんは険しい顔でこちらを見る。俺も見返す。
自然と、睨み合うような形になる。
少しの間、無言の時は続く。
シャマルが気まずそうな顔になってきたところで、ナースさんが一人、入ってきた。
「シャマル先生! なのはさんが目を覚ましました!!」
「本当ですか!?」
どうやら高町が目を覚ましたようだ。
それを聞き、お互い視線を外す。
「行かないと。俺なんかより、気にしなきゃいけないでしょう?」
「……そうね、今はまず、なのはさんが優先だわ」
話は、そこで一旦保留となった。
無人機を素手で殴ったのと八門を第六まで開いたのとで、闇の書事件の時よりも重傷です。