魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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短めでございます。


24話 親心とグロウス

 俺の怪我の包帯が取れた頃。

 

 高町がリハビリを始めたと、クロノから連絡があった。

 

 もう一度、空へ。その為にきついリハビリに歯を食いしばって頑張ってるらしい。何度倒れても立ち上がろうとするその姿には、鬼気迫るものがあったという。

 

 どうやら高町は魔法を捨てなかったようだ。

 

 精神的にはもう立ち直り、怪我の治り具合も良好とのことである。

 

 

 

 

 

 

「――だ、そうですよ」

「……そうか」

 

 場所は翠屋。定休日で誰も居ない店の中、俺と士郎さんは対面していた。

 

 コーヒーの香りが、空間を満たしている。

 

「すまないな、色々と聞いてしまって」

「いえいえ、士郎さん達は知るべきでしょう」

 

 俺は、士郎さんに高町の様子を教えていた。

 

 士郎さん達は魔法関係者ではないから、直接、高町のお見舞いに行くことは出来ない。

 映像つきの通信で話したりはしてるそうだが、やはり、気になるのだろう。

 

 勿論、あの日高町から聞いたことは話していない。

 俺は約束は守る男なんですよ。

 

「大事な時に娘の力になってやれないとは、親として情けないことこの上ないな」

 

 自嘲するように、士郎さんが笑った。

 

「……俺としては、管理局で働くことを士郎さん達が認めてることがまず意外なのですが」

 

 魔法については知らなくても、危険だってことは分かるはずだ。あんな人外染みた剣術を使えるのだから。

 

 責めたいわけじゃない。なんとなく、気になってしまった。

 親としては、辞めさせるべきなんじゃないかと。

 

「……なのはの意思を、出来るだけ尊重させたくてね」

 

 士郎さんがそう答える。

 命に関わる危険なことだとしても、なのだろうか。

 そう思っていると、士郎さんは語り始めた。

 

「どれだけ危険なのかは分かってるさ。……なにせ、俺は昔、ボディーガードをやってたからね」

 

 まあ、そういうの以外にあんな剣術使ってたらドン引きですよね。

 

「……でもね、俺はそれだけじゃなく、その仕事が、危険な目に遭っている人を直接助けることができるものだってことも知ってるんだよ」

 

 目を伏せながら、話を続ける士郎さん。

 

「俺は他の人よりずっと、命を救うことの喜びを知ってる。大切さを知ってる。達成感を知ってる。だから、危険なだけでは、なのはの意思を曲げさせたりは出来ないんだよ」

 

 士郎さんの言葉には、実感がこもっていた。

 

「まあ、桃子には分からないことだし、俺も心配なのは変わらないんだけどね」

 

 苦笑する士郎さん。

 桃子さんは正真正銘一般人だから、今士郎さんが言ったことは実感できるものではないだろう。

 

「まあそういうわけだから、俺はなのはの好きにさせたいと思っているよ」

 

 そこまで言って、コーヒーを口にする士郎さん。

 とても様になっていてかっこいい。

 

「父親になれば男は変わる。……晃一君も、いつか分かるさ」

 

 士郎さんの言葉を聞いて、なんとなく、俺のことを父親と呼ぶデバイスのことが思い浮かんだ。

 どちらかというとあれは妹だな。

 

「っと、子供に話す話じゃなくなってきたな」

「何を今更」

「コーヒーも冷めてしまったな。もう一杯、入れようか」

「それは是非」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって山の中。

 修行タイムである。

 

『今日はどうするんですか?』

 

 ジェイドが聞いてきた。

 課題はやはり、全体的に攻撃力が足りないところなんだよな。

 機動力は今のところ足りてる。テスタロッサほどのスピードは八門無しでは無理だが、攻撃を避けるのは割りと得意だ。これは、リーゼ達との修行の成果だな。

 遠距離も近距離も、八門無しでは火力不足となってしまう。それはこの前の戦いで明らかになった。

 問題はどうするか。

 

「……やっぱ、体を鍛えるしかないよな」

 

 弾幕の威力は魔力量頼りだからすぐに上げようが無い。

 近距離の攻撃力を上げるには力を付けるのが一番。

 

「よし! 感謝の正拳突き一万回だ!」

『正拳突きだと私の存在意義が無くなってしまうのですが』

 

 グリーヴァが抗議するようにピカピカ光る。

 

「心配要らない。その後で素振り一万回だからな」

『……怪我が治ったばかりなんですから、少しは自重して下さい』

 

 ジェイドの呆れたような声。疲れが溜まんないように治療魔法は使ってくよ? 怪我には使わないけど。

 

 そうすりゃ、魔法のリハビリにもなるから一石二鳥だろう。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、お父さん!」

 

 素振り一万回までなんとか終わらせて。ふらっふらの体を引きずって買い物に来ると、ツヴァイと遭遇した。

 

「お、おおう。ツヴァイか。どうした、おつかいか?」

「はやてちゃんと一緒ですよ!」

 

 そうか、一緒にお買い物かい。

 ちなみに今のツヴァイは人形サイズではなく、小学生くらいのサイズである。

 いつもの人形サイズでは外に出せないので、変身魔法を使っているのだ。

 

「お父さん~」

 

 ツヴァイが抱きついてきた。ちょっと待って、今はとても支えられない……!

 

「はわわ! お父さん!?」

「こらこらリイン、あんま急に飛び付いたらあかんで?」

 

 はやてが来た。

 

「まったく、晃一君も、また無茶な修行してきたんやろ?」

「反省も後悔もしていない」

「凶悪犯か」

 

 なんだかんだ言って落ち着いて話すのは久しぶりかな?

 

「まあ、怪我の後遺症も無いようで良かったわ」

「その辺は俺より高町だろう」

「なのはちゃんにはフェイトちゃんにユーノ君が付いとるやろ。それに、晃一君の方が懲りひん点では性質が悪いしな」

 

 心配性だな。俺は大丈夫だよ。自分のことは自分で面倒見られるさ。

 

「……ほんまに、なのはちゃんのこと、ありがとうな」

 

 どうしたのさ。俺は特に何もしてないぞ?

 

「恍けんでもええんやで? 気に掛けてくれとったやん」

「……何のことやら」

 

 それはクロノに頼まれたからだし、俺がしたことなんて大したことではない。誰でもできることだ。

 

 立ち直ったのは他でもない、高町なのはの強さがあってこそ。

 

「ほんまに謙虚というかなんというか」

「お父さんは優しいですからね!」

 

 ツヴァイの笑顔が眩しい。ごめんね、中身は結構真っ黒なのよ。

 

「まあええわ、夕飯、家で食べてくやろ?」

「作るのめんどいしそうしようかな」

「やったです!」

 

 どこまでも純真無垢なツヴァイに癒されました。

 




士郎さんの心境は作者の想像です。
ただ、ボディーガードをやってたってなると否定するだけではないのかなぁって思います。理念は違っても、仕事は似ているところがあると思うので。

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