「ボディーガード?」
いつも通り、山で修行していると、リスティが来た。
「うん。ちょっと、知り合いに歌手がいてね」
なんでも、リスティの住んでる寮にいた人に留学して歌手になった人がいたらしい。名前は椎名ゆうひ、芸名はSEENA。すげえ、俺でも知ってる。あの人海鳴市出身だったんだ。
「正確には違うんだけどね」
そーなのかー。
その人が、留学してた時の親友とチャリティーコンサートをやるんだと。それで友人の安全のためにボディーガードが欲しいらしい。
リスティも護衛につくから守るのはリスティに任せればいいので、俺は別にやっても良いけど。
「ボディーガードなら、高町家では?」
あそこ、それが本業じゃないっけ?士郎さんは怪我で引退したらしいけど、恭也さんや美由希さんがいるだろうに。
「恭也と美由希にも頼んでるけど、あっちに頼んだのは親友のほうの護衛だからね」
そーなのかー。
なんでも恭也さん達には毎年頼んでたそうで。
SEENAさんの親友ってのは、恭也さん達の知り合いらしい。というか、翠屋の店員だったらしい。そういえば昔、外国人っぽい人がいたような?
「あ、でも俺、武器無いわ」
「そのガンブレードがあるじゃん?」
いやいや、魔法ってあまり人の目に触れちゃ駄目らしいし。特に、魔法技術のない世界では。リスティと会ったときは非常事態だったからためらわず使ったけど、今回はグリーヴァは使わない方がいいだろう。
ジェイドならサポート用に連れていけるんだけどな、モノクルとして。
「だったら恭也が何か貸してくれるさ」
さいでっか。何か今回かなり親切じゃない?
「コンサートにさざなみ寮のみんなも来るんだよ。せっかくだから、寮のみんなに晃一のこと紹介したくてね」
成程、そういうわけね。
さざなみ寮とはリスティの住んでる寮のことである。
「決まりだね。じゃ明日イギリス行くから、ちゃんと準備してね」
「え」
急すぎやしませんか。てかイギリスて。
来ちゃったよ、イギリス。
12時間フライトはキツイ。体がバッキバキなんだけど。
予定ではコンサートは明日。今日はフリーだ。
まだリスティの両親達とは会ってない。俺達は仕事絡みということで移動は別だったからだ。高町兄妹と一緒でした。
「という訳で折角のイギリスだけど、どっか行きたいとこある?」
リスティが聞いてきた。
あるある。イギリスだからこそのがありますよ。
「おひさ!」
「急すぎんのよ馬鹿」
それは俺に言わないでください。
俺が来たのはグレアムさんの実家である。あの人、イギリス出身だからね。管理局を辞めた後はここで静かに暮らしてたそうだ。リーゼ姉妹と一緒に。なにそれうらやま。
「まさかあなたがこっちに来るとは思わなかったわ」
アリアがそう言う。確かに。この件が無ければ来てなかっただろうね。
「だいぶ身長も伸びたじゃないか」
グレアムさんのお言葉。そうなんですよ。クロノなんか俺が小学生の時は同じくらいだったのに、少し前から急に身長が伸びてさ。あいつに見下ろされるのはちょっとイラッとするって、ユーノと話してた時期もあった。
身長はやっぱり欲しいよね。目指せ180センチ。
「それにしても、SEENAのチャリティーコンサートとはね」
「いいなーサインもらってきてよ」
ロッテリア達も彼女のことは知ってるようだ。まあ、イギリスで有名になったらしいからね。
「だが、大丈夫なのかね?」
グレアムが心配そうにこちらを見てくる。
大丈夫だろう。俺の存在関係なしに、高町兄妹とリスティがいるんだ。
「SEENAさんの親友の、フィアッセさんだったかな。彼女のコンサート、何年か前にテロが起きてるそうだよ」
え゛?
次の日、つまりコンサート当日。リスティ達に聞いてみた。
「あー……それね」
少しだけ困った顔になるリスティ。彼女のこういう表情は珍しい。恭也さんも美由希さんも表情が変わった。二人も知ってたのか?
だったら毎年頼んでたのは、テロがあったからなのだろう。言葉は悪くなるが、たかがコンサートにあの二人の護衛は過剰戦力だろうからね。
「まあ、色々あったんだよ」
言葉を濁してきた。話せないことでもあるのかね。
「そうか」
なら聞かないさ。
それからはコンサートの話に。
「忍にサインをせがまれててな」
恭也さんは忍さんにおねだりされてきたようだ。忍さんはSEENAの大ファンらしい。それは知らなかった。
「なのははフィアッセに会いたかったみたい」
そっか。翠屋の店員だったんだからそりゃ高町とも面識あるのか。あ、フィアッセってのはSEENAさんの親友さんの名前ね。
「それじゃボクは晃一をみんなに紹介してくるよ」
「ああ」
「いってらっしゃーい」
コンサート会場の近くで一旦高町兄妹と別れ、リスティの両親がいる所へと連れられていく。
歩きながら、リスティに尋ねる。
「そういや、寮の人達ってどんな人達なのん?」
「お、晃一が他人に興味をもつとは珍しい」
「んーと、寮の管理人に獣医なその妻、私の両親ね。後は超能力者と漫画家の姉妹、バスケ少女に猫耳に霊剣使いかな」
色々とおかしかったぞオイ。霊剣とかオカルトかよ。科学と魔術が交差して物語が始まっちゃうの?
「バスケ少女は高一でダンクできてたし、漫画家のほうはケンカがめっぽう強いよ」
まじでか。ほんとさざなみ寮ってなんなの?人外魔境?
「お、いたいた。おーい!」
そんなことを話してるうちに、リスティがさざなみ寮の面々を発見したようだ。
あの人達か。……なんか、女性ばっかじゃないですか。
「そりゃそうだよ、女子寮だもん」
あれそうなの? 初耳なんですけど。てか管理人て男じゃないっけ。
「うん。ボクのお義父さんだよ」
…………これだけは言わせて。
それなんてエロゲ?
さざなみ寮の人達と少しだけお話しした。美人揃いで耕介さんが羨ましいね。もげろと言いかけたのはしょうがない。
どうやらリスティは俺の精神のことを言ってなかったらしく子供のままで通させてもらった。あまり沢山の人に知られるのもどうかと思うからね。
何となく予想はしてたけど、リスティは養子のようだな。耕介さんと愛さんからリスティが生まれるとは思えないし、名前も英語? だし。
そんなわけでコンサート。細かい打ち合わせなんかは恭也さん達に全部任せている。俺は不審人物がいたらぶちのめすか、捕まえればいい。
武器は恭也さんから借りた小太刀二本。刃は潰してない。峰で使う予定だ。後はリスティから渡された拳銃。こちらは使う予定はない。コンサート会場は人が多く、流れ弾が危険だからね。
武器は全て隠している。この技術は恭也さんに教えてもらった。
今の俺は黒スーツ姿。グレアムさんが急遽用意してくれた一張羅である。せっかくだからとプレゼントしてくれたのだ。スーツの割りには動きやすい。
今、俺は会場をパトロールしている。SEENAさんとフィアッセさんには常にリスティと美由希さんがつき、恭也さんと俺でそれぞれ不審人物がいないか見張ってるのだ。
ジェイドのサーチをオンにして会場の客を見て回る。
つっても、チャリティーコンサートだしな。人気歌手のライブとはいえそんな物騒な物持ち込むやつなんかいないだろう。
『探知に反応がありました。拳銃のようですね』
…………いたわ。
男を付けながら、どうしたもんかと考える。男は最初は受付の回りをうろついていたが、どこかに連絡すると、会場を離れた。
取り敢えず恭也さんに連絡だな。
「銃を持ってるっぽい人見つけました。アジア系の顔で堅気には見えません」
『なに? 場所は?』
「さっきまでは受付のとこでしたが、今はだいぶ外れの方まで来てますね」
『……そうか。俺がそっちへ向かう。そのまま見張っていてくれ。後、戦闘になってしまうかもしれない。準備も頼む』
あいさー。
電話を切り、男の観察を再開すると、男は路地裏に入り、集団と合流した。数は10人以上。そのほとんどが銃を所持しているようだ。
「…………げ」
男達の内の一人が持ってるあれ、まさかダイナマイトか?
「どうした?」
「ピッ……」
恭也さんですか驚かせないでくださいよ何か変な声出ちゃったじゃないですかというか来るのはやいですね!
色々言いたかったが黙る。恭也さんの顔が怒気に染まっていたからだ。怖っ。
「あいつらは……!」
「知ってるんですか」
「前にリスティさん達が潰したはずのマフィアだな。恐らくその残党だろう」
へえ。
「好き勝手させてたまるか………潰すぞ」
「アッハイ」
瞬☆殺
恭也さんマジ恐るべし。敵は八割方恭也さんが倒してくれたわ。いや俺も頑張ったんだよ? あいつらの爆弾処理したし。でもあの人相手がマシンガン使ってきたのに全弾弾くとか。まじで人間じゃないわ。
会場から離れた所でドンパチやったので、コンサートに影響は無かった。無事、成功である。よかったよかった。
コンサートを見ることはできなかったが、嬉しいことにSEENAさんと直接話せたしね。お礼にオリジナルのCDも作って貰えた。オリジナルといっても前世の人気曲なんだけども。
なんとも報酬がおいしい仕事でしたね。
後日、ネットでイギリス人間花火の記事が出回ったことの説明は省かせて頂きます。
カットされてるところはいつか他の人視点で書けたらいいですね。