「お兄さんですよね?!」
ピンク色の髪の女の子が言う。テスタロッサと一緒に来てたところを見ると、ライトニング隊だろう。視線は明らかに俺の方に向いている。
「……隠し子?」
「いやいやいやいや」
手を振り、全力で否定する。
そんなわけないだろう。高町さん適当なこと言わないでもらえます?周りの目が痛いんですけど。特にはやて。
「……晃一君、妹おったん?」
「いない……筈」
「断言できないの……?」
『俺』には妹がいたなんて記憶は無いけど、『古夜晃一』にはもしかしたら生き別れの妹がいたかもしれないし。あ、でも年の差的にあり得ないか。
何とも言えない空気も女の子は分からないようで、明るい表情のまま話を続ける。
「私ですよ!サバイバルの知識を教えてもらったキャロです!」
「ん?サバイバル?」
あごに手をやる。
懸命にアピールしてくるキャロと名乗った女の子の言葉に、引っ掛かるものがあった。確かに、このピンク髪に見覚えがあるような。
「……あ、竜召喚できるって言ってた子か」
「はい!その私です!」
思い出した。そういえば昔、サバイバルしてた時に子供の面倒を見たことがあった。その時の子だ。
「知り合いなん?」
「知り合いってほどのもんじゃ無いけどな」
一緒にいたのは一ヶ月もない。キャロって名前も正直忘れてたし。
反応があった人もいた。
「キャロの言ってたお兄さんって、晃一のことだったんだ」
納得といった表情でテスタロッサが言う。一方、他の面々はいまいち理解ができないようだ。
キャロと出会ったのは、中3の夏休み。竜がいると聞いて、その年のサバイバルは人のいる世界でやったのだ。キャロとはその時に出会った。
森の中、サバイバルをしていて近くに気配を感じたから敵かなと思い構えると、茂みから出てきたのはピンク髪の女の子。何事かと思ったわ。
なんでも、キャロは竜召喚の力が強すぎたため、住んでいた集落を追われてしまったそうだ。集団ネグレクトとか恐いよね。
幼い子を放置とか流石に出来ないので、独りで生きることが出来るよう、サバイバルの手解きをしたりした。そして一ヶ月弱一緒に暮らした後、別れたのだった。
かいつまんで説明する。
「別れたんかい。引き取るとかは考えんかったん?」
「んな無責任なことできるか」
独り暮らしな上未成年で定職に就いてるわけでもないんだぞ。面倒見切れない。そりゃ預かるってなればグレアムさんも力を貸してくれるかも知れないけどさ。それは少し違うだろう。
それでもほっとくのは気が引けるからサバイバルの手解きをしたのだ。最低限独りで生きていけるようにはしたし、施設までは送ったから、それで勘弁してほしい。
「お兄さん!私竜召喚できるようになりましたよ!」
「そうかそうか。成長したな」
嬉しそうに話すキャロ。
俺と会った時は追い出されたばっかだったからな。暴走するとかで竜召喚は一度も見なかった。
場の皆もある程度は理解できたようで、今は嬉しそうなキャロを微笑ましげに見ている。
「じゃあ、感動の再会を済ませたところで……」
仕切り直しとはやてが手を叩く。ぶっちゃけ感動はしてないけどね。
「改めて自己紹介といこか!」
○
先に六課のフォワード陣から自己紹介をする。先ずはスターズ隊の二人。
青髪で短髪の女の子がスバル・ナカジマ。オレンジ髪でツインテールのがティアナ・ランスター。この二人は知ってた。
その次にライトニング隊。やはり子供二人がメンバーのようだ。
赤髪の男の子がエリオ・モンディアル。そしてキャロ・ル・ルシエ。
続いて月村が自己紹介。高町達の親友と述べる。はっきり親友だと名乗れる関係って素敵だよね。
そしてまわってきてしまった俺の番。
「とんぬらです。よろしくね」
「真面目にやれや」
今度は蹴りではなく手刀を頂いた。身長差の関係で後頭部が痛い。
「リインのお父さんです!」
『ええええ!?』
この流れデジャビュなんだけど。
簡単に説明する。
「かくかくしかじかで」
「まるまるうまうまというわけやな」
「部隊長、まったく分からないです……」
仕方ないので多少真面目に。
「古夜晃一。大学生。一応嘱託魔導師で、六課に雇われてたりします。後は……一応、デバイスマイスターの資格も持ってるよ」
「魔導師だったんですか?」
「しかもデバイスマイスター……」
ナカジマ妹とランスター妹が驚いてる。リインのことについても納得がいったようだ。
「古夜、晃一さん……」
「あれ、キャロも知らなかったの?」
「名前、聞く機会が無かったから……」
お兄さん呼びで定着してからな。仮に聞かれても答えてなかったと思うけど。
「あの……失礼ですが、魔導師ランクは?」
「ん?えっと…………何だっけ?」
「Cやね。ちなみに晃一君。ティアナとスバル、エリオがBでキャロはC+やで」
「あらやだ一番低い」
子供だからっていうのはあれだけど、エリオとかキャロにまで負けてるのはちょっと恥ずかしいわ。
「まあ、古夜の場合は強さと無関係だがな」
シグナムが言う。確かに上のランクとってないだけだけど、そう言われると過大評価されそう。
「晃一君の強さは……模擬戦でもしよか?」
「よしやるぞ晃一」
いきなりすぎるだろ。体を動かしたいとは思ってたけど。あとシグナムさんは目を輝かせないでください。
「時間はあるし、フォワードの皆にもいい経験になるやろ」
見取稽古か。それだと恥ずかしいとこ見せられなくなるな。
まあ、ストレス発散にはなるか。
「じゃあ晃一君準備して。私達は夕御飯食べながら観戦するから」
その扱いはないんじゃないかと思うんだ。
○
対面する古夜とシグナム。古夜の手にはグリーヴァが、シグナムの手にはレヴァンティンが、それぞれ待機状態で握られている。
「剣を交えるのは久しぶりだな、古夜」
「ま、お互い忙しかったしな」
シグナムが騎士甲冑を展開する。それに合わせて、古夜もバリアジャケットを展開した。
スーツを少しカジュアルにしたようなデザイン。ネクタイは邪魔になるのでつけていない。
両者が剣を構える。
「ねえねえティア、晃一さんってどのくらい強いのかな?」
「さあ……シグナム副隊長が負けるのは想像できないけど、あの人のこと認めてるみたいだったし……」
フォワード陣は少し離れたところで観戦、勝負の行方について考えている。
……片手に肉の盛られた紙皿は持っているが。
審判ははやて達隊長陣だ。
「クリーンヒットが入ったら試合終了な。ルールは、晃一君は身体強化のみ、シグナムは身体強化とレヴァンティンのフォルムチェンジのみ」
「シグナムは出力リミッターもかかってるから、このくらいで」
はやてとフェイトによる説明が入る。
合図を出すのはなのはだ。
「それじゃあ、よーい……」
ジェイド越しにシグナムを見据える。古夜もシグナムも前かがみに、体重が前にかかる。
「スタート!!」
瞬間、金属音が響く。
『速い!?』
フォワード陣が驚きの声を挙げた。
お互い距離を詰めての一撃。火花が飛び散り、鍔迫り合いとなる。
そのまま近距離での攻防へ。
――飛天御剣流 龍巣閃
古夜による乱撃。シグナムはレヴァンティンで一撃一撃を受け止める。
「……フッ!」
「ッ!」
乱撃が止んだところで、シグナムの反撃。攻撃後のほんの少しの硬直を狙い、斬りつける。
古夜はそれを体を捻ってかわした。更にシグナムが攻撃するが、これはグリーヴァで防御。
攻撃し、回避し、反撃し、防御する。
ガンブレード同士の応酬。
「……ハッ!」
シグナムが至近距離での突きをくりだす。古夜はそれを、横に逸らし、回るように回避。
――飛天御剣流 龍巻閃
更にそのままシグナムの背後に回り込むようにして一撃を加える。
シグナムは振り返ることなく前方、つまりは古夜から離れる方向に前転し、これをやり過ごした。
一旦、間合いが切れる。
「……フフ」
「……楽しそうだなおい」
シグナムの心底楽しそうな笑みに、若干古夜の顔がひきつる。
「……さて、余り長引かせるのもなんだ」
シグナムの持つレヴァンティンから空薬莢が排出される。カートリッジをリロードしたのだ。
「よっしゃ」
『カートリッジロード』
古夜もシグナムの言葉に応じ、リロード。グリーヴァのリボルバーが回転し、薬莢が飛んだ。
二人の魔力が一時的に高まる。
「紫電……」
「破魔……」
「 一 閃 !!」
「 竜 王 刃 !!」
衝突。そして魔力の衝突による爆風が吹き荒れる。
「きゃあ!?」
「うわぁ!?」
風はある程度距離をとって見ていたフォワード陣の方まで届いた。
「あらら……」
「カートリッジのこと、ルールに入れ忘れてたね」
なのはとはやてがプロテクションを展開、風圧から食材達とフォワード陣を守る。
「さて、勝敗は……?」
爆風によって立ち込めていた砂煙が晴れていく。
消えていく砂塵の中、現れたのは。
「ウボアー……」
木にぶつかり、うめき声をあげている古夜と、
「……私の、勝ちだな」
レヴァンティンを鞘に戻す、シグナムだった。
○
背中が痛い。
「シグナムの勝ち!」
試合終了。俺の負けである。ちくせう。
立ち上がり、バリアジャケットを解除、はやて達のところへ。
「愉しい試合だった」
「そらようござんした」
シグナムはイキイキとしてる。こんにゃろめ。
「最後のあれ、晃一にしては珍しいね」
テスタロッサが言った。最後のというと、シグナムと真正面からかち合ったやつか。
確かに、俺は終始真正面から向かってくというのはしない。動き回るのが基本である。
「シグナムには出力リミッターかかってるんだし、正面からぶつかっても勝てるかなって」
目論みは外れたけど。冷静に考えてみたら、カートリッジ使うのに出力関係ないんだよね。
「お父さ〜ん、大丈夫ですか〜?」
「大丈夫大丈夫」
木にぶつかっただけだし、バリアジャケットが守ってくれたからね。
高町達の方を見ると、高町がフォワード陣に感想を聞いていた。
「フォワード陣の皆はどうだった?」
「凄かったです!」
「特に最初の接近戦ではシグナム副隊長とほとんど互角に見えましたし……」
良かった。あいつダッセーみたいな感想なくて。
「おつかれさん、晃一君。はいお肉」
「おお、さんきゅ」
はやてが皿にお肉を盛り付けて持ってきてくれた。丁度空腹感が出てきたところだったんだよね。
「一段落ついたら皆で銭湯行くで」
「銭湯?」
銭湯というと、何年か前にできたスーパー銭湯か。行ったことないな。
「お前ら海鳴満喫しまくりじゃね?」
「仕事はちゃんとしとるし。せっかくやから、休暇っぽくしたいしな」
成程ね。
○
やって来ましたスーパー銭湯。こういうのは初めてなのか、新人達もテンションがあがってるっぽい。
「エリオ君!一緒に入ろうね!」
「ええ!?」
キャロの発言にエリオが驚く。
「でもほら、僕は男湯の方だし……」
「お前らの年なら行き来自由だぞ?」
「晃一さん!?」
なんで!?とエリオがこちらを見てきた。大丈夫、お兄さんは分かってるよ。
耳元で、小声で言う。
「素直に行っとけ。大人になった時後悔するぞ?」
「晃一さぁん!?」
必死の説得により、エリオは男湯に入ることに。なんだぁ勿体無い。
「キャロ」
「はい?」
いいこと教えてあげよう。
○
「ふぃ〜……」
湯に浸かる。少し高めのお湯が身に染みる。
「凄い体ですね……」
エリオがこちらを見て呟く。
「ま、鍛えてるからな」
それなりどころじゃなくらいには。それでもムキムキのマッチョにならず、細身に見えるのは体質か、この世界の人の特徴なのか。
恭也さんとかも身体能力の割に細身だしね。
と、そこへペタペタと足音。子供のものだ。
「エリオく〜ん!」
「キャ、キャロォ!?」
やって来たのはキャロだった。顔を真っ赤にさせて驚くエリオ。ウブな反応やねぇ。
「ど、どうしてこっちに……!男湯だよ!?」
「行き来自由だから私もこっちにこれるって、晃一さんが」
「晃一さぁぁん!」
てへぺろ。
何してるんですか! というエリオの言葉を華麗にスルー。こっちに呼んだのは面白そうだったからだ。
「何だかんだ言って照れ臭いんだろ。キャロ、お前があっちに連れて行ってやれ」
「はい、お兄さん!」
「晃一さぁぁぁぁん!!?」
そうして、エリオはキャロに連行されていった。
……のせといてあれだけど、キャロの羞恥心の無さがお兄さんすこし心配です。
それはさておき、一人になったので、露天風呂にてゆっくりとくつろぐ。
やや涼しげな気温のなか湯に浸かり、俺はゆっくりと息を吐いた。
まだ夜空というには早いが、こんな空も、なかなか風情がある。
「……もう、こんな年か」
大学生にもなり、もう前世の記憶にある年とほとんどおなじとなった。
「……………………」
空を見上げ、感慨にふける。
月は、見えなかった。
あ、ロストロギアは無事回収できました。俺はすることまったく無かったです。
キャロと知り合っていた主人公。サバイバルさせてたのはこれが理由だったり。
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