魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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43話 その日、その男(前編)

――…………。

 

 音、いや『声』が聞こえる。

 

 またかと、俺は内心ため息をついた。夢の中でここまで意識がはっきりしているのも珍しいと思う。

 

 よく分からない空間のなかで、よく分からない声が聞こえてくる。こちらの方は、最近になって頻度が増してきた。

 

――…………。

 

 以前よりも、見るたび聞くたびに声が明瞭になっているのがわかる。それに、頻度が増すのと同じようにクリアになっている気がする。

 

――…………。

 

 いや。

 

 今までとは違う。これはただクリアになっているんじゃない。

 

 『声』の意味が理解できそうな気がするのだ。まるで外国語から日本語に変わったかのような、そんな感じ。

 

 そこまで考えたところで、ふと気づく。

 

 目の前に、いつの間にか『影』がいた。

 

 思わず身構える。夢だというのに。

 

 そうして、眼前の『影』は――。

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 はっと、目を開く。

 

 目に入ってくるのはカーテンの隙間から入ってくる陽光。聞こえてくるのは声ではなく、小鳥のさえずり。

 

 どうやら、夢から覚めたらしい。

 

 「…………ふう」

 

 横になったまま、微かに乱れていた呼吸を整える。賢者タイムとかそんなんじゃないです。

 

『おはようございます、マスター』

『おはようございます』

「……ああ、おはよう」

 

 ゆっくりと体を起こし、デバイス達と挨拶を交わす。

 

『……大丈夫ですか?顔色がよろしくありませんが』

「……いや、問題ない」

 

 ジェイドにそう答え、ベッドから出る。

 

……気、引き締めなきゃな。

 

 着替えながらも、静かに気合いを入れる。

 

 今日は、地上本部の陳述会だ。

 正確には明日なのだが、警備は前日から行うということで高町達は今日から出発する。それに合わせて俺も今日から六課に出るのだ。

 

 平日だが、しょうがない。今日は授業が終わり次第ミッドチルダに向かうつもりだ。多少遅くなってしまうが、高町達が地上本部へと出発する頃には着くだろうし、問題はないだろう。

 

 朝食を食べた後、ランニングへ。その間も、どうしても夢のことを考えてしまう。

 

…………あの夢の最後。『影』から聞こえてきたのは。

 

 

 

 永く聞くことの無かった、『俺』の名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大学での授業が思ったよりも長引いてしまった。いや単に俺が課題の存在を丸っと忘れてしまっていたのだが。月村に見せてもらい、ぎりぎりのところで提出できた。ここら辺のミスは滅多にしないので変に心配されちゃったよ。

 

 そんなこんなのことがあり、六課に着くころにはもう大分遅い時間となってしまった。

 

「あ、晃一君。遅かったやないか!」

「悪い悪い」

 

 外、ヘリポートにはやて達が集合していた。ざっと見渡してみたが、高町達はいない。直ぐに出発しそうなヘリも無いので、どうやらフォワード陣はもう出発したようだ。

 

「なのはちゃん達なら、たったいま出たとこやで」

「ありゃ、やっぱり少し遅かったか」

 

 入れ替わりになったっぽい。

 

 はやて、シグナム、そしてフェイトはまだいる。向こうに行くのはフォワード陣出発の9時間後、つまりは明日らしい。

 

「……で、なんでヴィヴィオがいるんだ?」

「……こーいち」

 

 とてとてと、眠そうに目を擦りながらもこちらへ寄ってくる幼女。寮母で普段ヴィヴィオのことを看ているアイナさんもいる。

 

「もうおねむじゃないのかヴィヴィオ。どうしたんだ?」

「……ママが」

「ん? ああ、高町か」

 

 少ないヴィヴィオの言葉から察するに、高町のことが心配になって出てきたのだろう。

 

「よっ……と。それで、見送りはできたか?」

「うん。約束した」

「そかそか、よかったな」

 

 ヴィヴィオを抱き上げ、話を聞く。約束の内容は聞かない。ぶっちゃけ聞いてもそっかで終わるだろうし。

 

「それじゃ、ヴィヴィオはいい子でお留守番してなきゃな」

「うん!」

「なんや、そうしてると親子みたいやなぁ」

 

 俺とヴィヴィオの様子を見て、はやてがそんなことを言ってきた。

 それを聞いてヴィヴィオがこちらを見てくる

 

「……こーいちママ?」

「なんでやねん」

「ぷはっ」

 

 素で突っ込んでしまった。はやては腹を抱えて笑うのを必死にこらえている。なんかデジャビュを感じるぞこれ。

 

 いや正直流れ的にパパと呼ばれるのは覚悟してたよ?それなのになんだよ、ママって。

 

 ……まあ恐らく、本人は親子と言われて高町達と同じようにで呼んだつもりだったのだろう。

 

 変に誤解を生まないよう、ゆっくり言葉を選んで語りかける。

 

「……ヴィヴィオには、なのはママとフェイトママがいるだろう?」

「?うん」

「じゃあ俺はママじゃないなあ。ママは充分いるじゃないか」

 

 充分すぎると思うけど。色んな意味で。

 

 ヴィヴィオはあまり理解してないようだったが、取り敢えずママ呼びは止めれた。ツヴァイの前例があったので正直ほっとしてる。

 

「でも、ほんとに親子みたいだよね」

 

 今度はテスタロッサがそう言ってきた。

 

「テスタロッサまで言うか」

「だって、ヴィヴィオと晃一、似てるもん」

 

 似てるか?そもそも俺は金髪じゃないし、テスタロッサの方が似てると思うがね。

 

「なんとなく、顔のパーツがというか……。それと、瞳の色」

「…………」

「ヴィヴィオは右目が翡翠で、左目が真紅でしょ?晃一も左目は真紅で同じ色だし、こっちにいる時は右目にはジェイドをつけてる。そっくりだよ」

 

 …………まあ、確かにね。

 

「でも俺はママじゃない」

「それは、うん。…………ふふっ」

 

 お前も笑ってんじゃねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 9時間後。9月13日、未明。はやて達の出発時間となった。

 

 場所は再びヘリポート。出発待機中のヘリがプロペラをうるさく回している。

 

 先程とは違い、ヴィヴィオはいない。まだ寝ているからね。

 

「残念だったな、可愛い見送りがいなくて」

「平気だよ。……うん、ほんとに」

 

 テスタロッサを軽くからかうが、全然平気そうじゃねえなこれ。

 

 六課スタッフ達の見送りを受け、ヘリに乗り込んでいくはやて達。シグナムが乗りテスタロッサが乗り、最後がはやてだ。

 

 乗り込む前にこちらを向くはやて。

 

「それじゃ、私達も行ってくるわ」

「おう」

 

 …………………………。

 

「……なんか、もうちょいないんか?幼馴染にエール的なのは」

「ファイトだよ!」

「もうちょい心込めて言って」

 

 ため息をつくはやて。テスタロッサから若干非難の視線が送られてくるが、無視。シグナムはやれやれといった表情だ。

 

「……六課のスタッフは優秀なんだろ?」

「うん」

「それに向こうには高町達がいる」

「うん」

「だったら、大丈夫だろう?精々、頑張ってきなさいな」

「……うん」

 

 頷くはやて。

 

「晃一君」

「なんだ?」

「……頼んだで」

「まかせな」

 

 こうして、はやて達は地上本部に向けて出発。

 

 

 

 陳述会が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 それから、暫くの時間が流れた。

 

 陳述会はもうスタートしているだろう。休憩室にてテレビをつけてみれば、生中継で地上本部の様子が流れていた。

 

 司令部、ロングアーチは現地の高町達と連絡を取ったりで忙しいが、一介の嘱託魔導師にすぎない俺はやることがない。自然とテレビを眺めることになる。

 

「何も、起こらなければ良いのだがな」

 

 ずっと流れているリポートを見ながら、ふとザフィーラがそう呟いた。

 

「起こるよ、絶対」

 

 断言する俺。ザフィーラが僅かに目を見開く。

 

「……なにか、心当たりでもあるのか?」

「いんや、何も」

 

 何度も言うが、俺は犯人の事は聞いてない。戦闘機人が相手ってのは流石に知ってるけどね。

 

 ……訂正。戦闘機人が相手となると、若干心当たりが無くもない。けどまあ、俺が知ってる程度の事ははやて達だって知ってるだろう。

 

 テロが起きるかどうかには関係ない。

 

「ただ、『予言』があって、『そのためにあいつらが動いてる』んだろう?……なら、絶対に事は起こる」

 

 

 

 

 

『見てください! 地上本部に向けて謎の無人機が!! ……ああっ! 砲撃まで!』

 

 ほら。

 

 中継映像がにわかに騒がしくなる。映るのはかなりの数のガジェットドローンに、煙を上げる地上本部。中の様子も映るかと思ったが、映像が途切れてしまう。一気に砂嵐。

 

「……まさか、本当に来るとは」

「そうね」

 

 まあ来るとは思ってたけど。

 

 他の番組でもっと情報を得られないかとザッピングしてみるけど。どこも似たり寄ったりだ。

 

 ロングアーチに聞けば一発だろうけど、今頃大忙しだろうし。局員じゃない俺が聞くのもどうかと思うしな。

 

「どうやら地上本部が強力なハッキングを受け、中枢との連絡が取れなくなってしまっているらしい。他にも戦闘機人からの攻撃などが報告されている。今は警備にあたっているフォワード陣が緊急時の集合場所に向かっているところだそうだ」

 

 ザフィーラがロングアーチスタッフの一人から情報を聞き出してくれたみたいだ。懇切丁寧な説明どうもありがとう。

 

「フォワード陣とは連絡取れてるっぽいけど、地上本部にハッキングとかやべえな。よほどのプロか、あるいは――」

 

 そこで、言葉は途切れた。

 

 鳴り響くアラート。直後にロングアーチからのアナウンスが入る。

 

『こちらに高速で接近する無人機群を確認!敵襲です!!』

「……まじかい」

 

 こっちにまで来るのか。想定してなかったわけじゃないけど、ちょっと意外。

 

 慌ただしくなる機動六課。敵襲だから当然か。地上本部と同じく、ここが攻められることは無かったしな。

 

『晃一さんとザフィーラさんは最前線で迎撃お願いします!シャマルさんは他の戦闘員のサポートを!』

『りょーかい』

『心得た』

『わかりました!』

 

 バリアジャケットを展開し、ザフィーラと共に外へと向かう。

 

「……あ」

「おっと」

 

 休憩室を出ると、ヴィヴィオがいた。アイナさんといっしょだ。避難するところだろう。

 

 ヴィヴィオに袖を掴まれた。

 

「こーいち、大丈夫?」

 

 不安そうなヴィヴィオの顔。

 

 幼い娘を危険な目に遭わせてしまうというのは申し訳ない。安心させるように頭を撫でる。

 

「……ヴィヴィオは自分とママ達の心配してなって」

「……こーいちも、ザフィーラも」

「アイナさん。頼んます」

「ええ」

 

 アイナさんに連れられていくヴィヴィオ。

 

 最後の『も』って、俺らのことも心配してくれるってか?あの娘良い娘すぎるでしょ可愛いなぁ。

 

「こりゃ頑張らないとねザッフィー」

「ザッフィー言うな」

 

 

 

 

 

 ザフィーラと外に出ると、だいぶ先の方からたくさんの点滅する光が近づいてくるのが見えた。もう捕捉されてるとはいえ、こそこそ隠れる気はないみたいだな。

 

 テレビに映っていた無人機達に負けず劣らずの数。

 

 暗くなった空に浮かぶガジェットドローン達。その先頭にいるのは二人の戦闘機人。

 

 グリーヴァを向け、口を開く。

 

 

 

「ようこそ、機動六課へ」

 




Party out → シャマル

Party in → 主人公

主人公がいれば多分こうなってたんじゃないかと。多分。

多分後編へ続く。

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