魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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大ボリューム(当社比)

(笑)


44話 その日、その男(後編)

 身構える俺とザフィーラ。

 

 しかし、意外にも戦闘機人二人が攻めて来ることはなく、前方で静止している。

 

「古夜晃一、ですね」

 

 戦闘機人がそう言った。

 名前が知られている。そのことに俺は眉を潜めた。攻めてこないことといい、どうしたもんかと戦闘機人を見る。

 

 どちらも髪は暗めの茶色で、一人がロングで一人はショートだ。顔立ちは似ている。双子だろうか。いや、相手が機人ならクローンの可能性の方が高いか。

 

 その片方、髪の短い方が手を前にかざすと、その先に大きなスクリーンが現れた。そこに映るのは紫色の髪の男。

 

『いやぁ〜乱世乱世。新暦74年のミッドチルダのお話。天才、スカさんのガジェットを連れた娘達が管理局地上本部の中を駆け回――』

 

 魔力刃をぶん投げた。

 

 ほんの一瞬だけ顔が真っ二つになるが、ホログラム映像なのですぐに元に戻ってしまう。男の顔が再び映し出される。

 

『何をするんだい晃一君。当たらないとはいえビックリするじゃないか』

 

「まず俺はお前に名乗った覚えは無いんだけどねスカさんや」

 

 ザフィーラからの視線が痛い。

 

『……晃一、お前』

 

『いやいや違うよザッフィー俺は無実だよ』

 

 念話でザッフィーに言い訳をする。別に俺はあいつらの味方じゃないし手伝ったりなんかもしてないです。更に言えば名乗ってすらいなかった。

 

『いやー中々情報が集まらないと思ったら、君、正確には管理局所属じゃなかったのだね。道理で管理局にハッキングしてもほとんど情報が得られないわけだよ』

 

「普通にハッキング言いやがったぞコイツ」

 

 地上本部もハッキングされてるし、大丈夫なの管理局の情報管理。あ、でもあれか。どっちもこいつらの仕業か。こりゃもうだめかもしれんね。

 

「やっぱスカさんがこの騒ぎの犯人なのか」

 

『おや、逆に今まで知らなかったのかい?』

 

 知らなかったよ。ノータッチだよ。でも戦闘機人の話は聞いてたし、なんとな~くはね。

 

 まあ正直、うすうす感づいてはいた。

 

「……で、地上本部に喧嘩吹っ掛けたばっかのスカさんはここに何の用なのかな?」

 

 俺がそう聞くと、画面の向こうのスカさんはにやりと笑みを浮かべた。

 

『色々、だよ。これから邪魔になりそうなここの施設を破壊しておきたかったのもあるが……晃一君のことも気になってね』

 

 うへえ、俺も理由に入ってんのかい。

 

 

 

『単刀直入にいこう。晃一君、そっちではなくこっちを手伝う気はないかね?』

 

 

 

「……本当に単刀直入にだね」

 

 スカさんが切り出してきたのは、端的に言えばスカウトだった。

 

「この状況で人材発掘とは、アホなのスカさん?」

 

『おや、待遇は保証するよ? 三食昼寝におやつは約束しよう』

 

「控えめに言って馬鹿にしてるね」

 

 ククク、と笑うスカさん。このやり取りを楽しんでいるのだろう。心底楽しそうに笑っている。

 

『さあ、どうかね晃一君?』

 

 ふむ、と構えたまま考える。

 

 スカさんは笑みを張り付けたまま。しかし分かる。あれは本気の目だ。

 好みの問題で言えば正直な話、管理局に所属するよりは良いと思ってる。じゃあリスク、リターンはどうか。

 

 ザフィーラや戦闘機人二人の注目も俺に集まる。

 

 数秒の思考ののち、俺は――

 

 

 

「断る」

 

 

 

 力強く、宣言する。

 

 スカさんは顔に笑みを張り付けたままだ。

 

『理由を、尋ねてもいいかな?』

 

「犯罪者になるつもりは無い」

 

 割と真面目に色々考えはした。でも結局、それ以外に理由なんていらないでしょ。誰が進んで法を犯す真似をしなくちゃならないんだっていう話。

 

『ルールは破るためにあるものだろう?』

 

「だが約束は守るためにあるものだ」

 

 スカさんの言葉に即答する。

 お留守番は任されちゃったからね。俺はこう見えても、仕事には誠実なんです。

 

 約束を守らずに犯罪者ルートなんて、そんなダサい男にはなりたくはない。

 

『……残念だよ。君とは良い酒が飲めると思ってたのだがね』

 

「それに関しては同意するよ。どう? テロ止めて世界お花畑計画でもやってみない?」

 

『大変魅力的だが、遠慮するよ』

 

 俺からの提案も断られてしまった。そこで、笑みばかりだったスカさんの顔から表情が消える。

 

『私は、結構本気で管理局を潰したいのでね』

 

「そりゃ残念」

 

 良いと思うんだけどね、ロ〜〜〜マンティックで。

 

 お互い交渉は決裂。ならば残る道は一つ。

 

 ホログラム映像が消え、戦闘機人が構える。俺もグリーヴァを構え直す。

 

 

 

――ただ、ぶつかるのみ。

 

 

 

 

 

 

 戦闘が始まった。

 

 髪が長いの方の戦闘機人、ディードが双剣で斬りかかり、古夜は左手に出した魔力刃と右手のグリーヴァで受け止める。

 

『俺は前衛、ザフィーラは後衛頼む』

 

『了解した!』

 

 刃をぶつけ合い火花を散らせながらもザフィーラと念話を交わす。そして数回斬りあった後、鍔迫り合いとなった。

 

「やりますね」

 

「ッ!クソが」

 

 無表情でそう言ったディードに古夜は舌打ちを返した。左手の魔力刃の方にヒビが入っていたのだ。グリーヴァに力を込めディードを押し飛ばし、ヒビの入った魔力刃をガジェットへと投げ付ける。

 

 爆発でガジェット数機が破壊されるのを尻目に古夜は素早く退避。直後、魔力弾が殺到した。もう一人の戦闘機人、オットーが放ったものだ。

 

『向こうも前衛と後衛に分かれてるみたいね』

 

『そのようだな』

 

 施設を破壊しようとするガジェットを相手にしているザフィーラと戦力を分析する。奇しくもお互い前衛一人に後衛一人のようである。

 

 ただし、戦闘機人側には大量のガジェットがいるが。

 

『俺ができるだけ戦闘機人二人を抑えるから、ガジェットは頼むよ』

 

『後衛の方は無理して相手取る必要はない。そのかわりガジェットは晃一も頼む』

 

『あいさー』

 

 素早く作戦会議を終わらせ、再び古夜とディードが刃を交える。しかし、先程と同じように古夜の魔力刃にはヒビが入ってしまう。やはりディードの武装に対してはただの魔力刃では強度が足りないようだ。

 

「二刀の練度は負けて無いと思うんだけどねッ!」

 

「ぐっ!?」

 

 二刀流のことを口にしながらも、古夜は虚空を踏み締めディードを蹴り飛ばした。そしてオットーが放つ魔力弾を掻い潜り、カートリッジをリロード。

 

「剣伎「桜花閃々」!」

 

 空間を切り刻むようにグリーヴァを振るいながら突進。後退したディードに畳み掛けるようにして攻める。

 

 この技は魂魄妖夢のスペルカードを参考にしたものだ。普通の弾幕とは違い、カートリッジの魔力が主体なので魔力を節約しつつも範囲攻撃を行うことができる。ベルカ式主体なので威力は高いが、反面、ミッド式で放つ弾幕よりも攻撃範囲がイマイチという側面を持つ技だ。

 

 斬撃の弾幕に巻き込まれたガジェット達が爆発。古夜はディードの方を睨むが、弾幕に当たった様子はなく、ダメージが入った様子もなかった。

 

『避けられた、か』

 

『ああ。初見のはずだが、やけに動きに迷いがないというか、視野が広い。もしかしたら二人で視野を共有してたりするかも』

 

 そう分析する古夜。

 

 先程の弾幕は範囲こそ普段のものに敵わなくとも、密度はそれなりであった。死角から殺到するものもあったはず。そのため、古夜はディードが別の視点を持っているはずと予想したのだ。

 

――ペイン六道的に考えて。

 

『どうだ、晃一?』

 

『……正直、厳しいね。戦闘機人二人だけならともかく、ガジェットが多すぎる』

 

 古夜が考えていたのはもう一つ。八門遁甲を使うかどうかだ。

 

 八門遁甲を使えば、戦闘機人二人か、あるいはガジェット群のどちらかは確実に無力化できる。しかし問題はその後だ。どちらかを無力化した後、古夜は使い物にならなくなってしまう。

 

 それでは六課を守りきれない。

 

「――IS発動」

 

 そして古夜達の念話を断ち切るように。

 

 オットーの右手が魔力で輝く。今までとは明らかに違うその魔力に古夜とザフィーラの顔色が変わる。

 

「まず――」

 

「レイストーム」

 

 閃光に包まれ、轟音が響いた。

 

 オットーが放ったのは数本のレーザー。光の帯がうねり、空中の古夜や機動六課を襲ったのである。

 

『ザッフィー、大丈夫?』

 

『……ザッフィー、言うな』

 

 オットーによる攻撃が収まったとき、古夜はレーザーがかすったのか右肩から血を流し、ザフィーラは大きく息を乱しながら立っていた。

 

 六課には、被害が少ない。ザフィーラが守ったのだ。

 

 ただの砲撃ではない、圧縮された光線である。当然の事ながら貫通力は高い。『盾』で防ぐのはかなりの負担だ。

 

『連続で放たれたら、守りきれない』、古夜とザフィーラが同じ考えに行き着く。

 

 だが、休ませてくれるほど敵は優しくない。

 

「IS発動、ツインブレイズ」

 

 刹那、背後から2つの刃が古夜に殺到する。ディードが固有技能を使ったのだ。

 

 高速で死角にまわってからの、強力な斬撃。

 

 墜とせる、そうディードは思った。――が。

 

「なッ!!」

 

「……見えてるぜ、戦闘機人」

 

 飛び散る火花。そして不敵に笑う古夜。彼は両の刃を確かにグリーヴァで受け止めていた。

 

 回るようにして背後のディードをはじく。

 

 古夜が初見で防げたのは単純に高速で動く相手に慣れていたからだ。テスタロッサしかり、なのはの兄の恭也しかり。

 

「……なんだ。思ったよりも表情豊かじゃねえの?」

 

 再びディードと向かい合った古夜の目は、彼女の顔が僅かに、だが確かに悔しそうにしているのを捉えていた。

 

 

 

 一進一退の攻防が続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古夜の頬から汗が一滴、落ちていく。

 

 戦闘開始から、大分時間がたった。幸いにもまだ六課に大きな被害は出ていない。ザフィーラの守護のお陰である。

 

 ガジェット達の数も減らせたが、古夜達も無傷ではない。直撃こそ受けてないものの、少なくない数の傷を負っていた。

 

 そして何より、消耗が激しい。戦闘機人二人とは疲労の度合いが明らかに違うのだ。

 

 これは古夜とザフィーラが一番優先させなければならないのが六課の守護だからである。どうしても攻めより守りがメインとなるのだ。

 

「でも、ガジェットどもはあらかた片付いた」

 

 ここから六課の施設破壊は厳しいだろうと、そう判断する古夜。ザフィーラも同意見であった。

 

「……予想以上に、やりますね。仕方ありません」

 

 ディードがそう言った、その数秒後。

 

「……なぁにそれぇ」

 

「召喚魔法!?」

 

 突如現れた魔方陣から、ガジェット達が現れたのだ。一機ではなく、大量に。古夜の頬がひきつる。

 

「まさか、例の召喚師がいるのか!?」

 

「……それって、なんか前キャロが遭遇したとか言ってた?」

 

 古夜の質問に頷くザフィーラ。

 彼等の言う召喚師とはルーテシアといい、六課からはスカエリッティの協力者と認識されている少女である。

ディード達は彼女と連絡を取り、増援を呼んだのだ。

 

 数を増やしたガジェット達が再び攻撃を開始する。

 

「くっそが!」

 

 否応なしに戦いが激化する。

 

 ガジェットを破壊しつつ戦闘機人二人を相手取る古夜と、六課を守りつつガジェットを破壊するザフィーラ。

 

 必死の防衛戦が続くが、戦力差というものは大きく、次第に押されはじめてしまう。

 

――妙だ。

 

 劣勢の中、眉間に皺を寄せ、縦横無尽に飛び回りながらも古夜は考える。

 

 いくらなんでも戦力を六課に割きすぎだ。あのガジェットの量といい、協力者である召喚師が来ていることといい。まるでこっちがメインではないか。

 

 いや流石にそれは違うはず。管理局を潰す気なら、地上本部を壊滅させる方が重要のはずだ。

 

 では、こういう時はどういうパターンか?

 

 …………地上本部の壊滅と同じくらい重要な目的がこっちにある、かも?

 

 では、それはなにか?

 

 こんな時は特異点が怪しいというのがお約束。一番に挙がるのは、自分か。でも俺への用件はもうすんだはず。なら他。普段の六課とは違う、あるいは違うであろう要素。

 

「……ヴィヴィオ!!」

 

「ぐぉあああ!!」

 

「ッ!! ザフィーラ!!」

 

 古夜が答えに至ったところで、ザフィーラが吹き飛ばされてしまう。オットーのレイストームに対し、とうとう『盾』が限界を向かえたのだ。

 

「くそっ!!」

 

――第六 景門 開

 

 ザフィーラのカバーするため、八門遁甲を使う古夜。

 

 戦闘機人達の目的は施設の破壊だけじゃなく、主力の気を引くこと。そしてその間に別戦力、恐らくは召喚師がヴィヴィオを確保する。

 

 そこまでは分かったものの、余力はない。情けないなと悪態をつく。

 

――シャマル達を信じるしかない。俺はここを守らないと。

 

 底上げした魔力を放出する古夜。

 

「レイストーム」

 

『境符「四重結界」』

 

 巨大な壁が現れ、オットーやガジェットの攻撃を防ぐ。

 

「……それが切り札か」

 

「おおおおッ!!」

 

『桜符「完全なる墨染の桜 -開花-」』

 

 六課の前に現れる巨大な扇。そこから放たれる藍と紫の弾幕。西行寺幽々子のスペルカードだ。

 

 桜吹雪のごとく魔法弾が吹き荒れ、ガジェット達が破壊されていく。

 

「……んのやろうッ!」

 

 しかし、戦闘機人二人を撃墜させることはできなかった。

 

 二人は弾幕を見るや否や後退、ガジェットを固めAMFを全開にすることによって防いだのである。流石に防ぎきることはできず、多少の被弾はあったようだが、決定打とはならなかった。

 

 スペルカードルールとは違い、当てただけでは勝利じゃない。

 

「まだまだ……!」

 

――『式神「十二神……

 

「ぅあ゛……ッ!?」

 

 リンカーコアが軋み、悲鳴をあげる。ふらつき、血を吹き出す古夜。八門遁甲の反動が来たのだ。

 

 以前よりも反動が来るのが早い。それは元々魔力を消費してたからか、リンカーコアの限界だったからか。

 

 立つことすらままならない古夜に、倒れ伏したザフィーラ。二人を見下ろすオットーとディード。

 

「二人でよくここまで守ったものだ。だがそれもここまで……」

 

 冷酷に、オットーが告げる。

 

 そして。

 

「諦めろ」

 

『マスター!!』

 

 ISを発動したディードが、古夜の左腕を斬り飛ばした。

 

 

 

 

 

――決まった。

 

 ディードは確信する。

 

 視界の端に映るのは、宙を舞う古夜の左腕。咄嗟に動かれ体に食らうのは避けられた。だが既に多く数の傷を負い、さらには自分の技の反動で苦しんでいた。これで、倒れる。

 

 ディードの予想通り、左腕を失い、ぐらりと体勢を崩す古夜。そしてディードは倒れていく古夜と目が合い……。

 

 

 

 突如、得体の知れない感覚が彼女を襲う。

 

 

 

 手足が熱を失っていき、心臓が大きく脈打ち、背中に冷たいものが走り、口の中が乾く。

 

 今までは、姉達との模擬戦では決して感じることのなかった感覚。

 

「……俺が」

 

 気付くと、倒れようとしていた古夜の右手に、蒼い魔力が集まり魔力弾が生み出されていた。

 

「っ!!」

 

 反射的に双剣を振るう。

 

 しかし。

 

「なっ!?」

 

「諦めるのを」

 

 古夜に当たる直前で双剣が何かに阻まれる。間にあったのは、なんと直径数センチ程しかないプロテクション。古夜は極限まで小さく、圧縮させたプロテクションで受け止めたのだ。

 

 思わぬ形で攻撃を防がれ体勢が崩れるディード。大きく一歩、古夜が踏み込む。

 

 

 

「 あ き ら め ろ 」

 

 

 

 蒼い魔力が吹き荒れた。

 

「ディード!!」

 

 古夜の攻撃が直撃しディードが吹き飛ぶ。オットーは回り込み、彼女を受け止めた。

 

――第七 驚門 開

 

「よくも、ディードを…………ッ!?」

 

――『反魂蝶ー八分咲ー』

 

 

 

「ああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 弾幕が、六課の空を埋め尽くした。

 

 

 




ディードが感じたのは「恐怖」です。恋ではないのであしからず。

最後のを書きたくてこれを書き始めたと言っても過言ではない(二回目)
言ってないだけでまだたくさんありますが。

感想批評その他諸々お待ちしております。

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