魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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46話 想い

 薄暗い空間の中、刃と刃がぶつかり合い、幾度も衝撃波を生む。目にも止まらぬ速さで飛び交い刃を重ねるのは、フェイト・テスタロッサと戦闘機人ナンバー3のトーレ。

 

 フェイトはライオットザンバーの二刀流で、トーレはライドインパルスは発動し手足の八つのブレードで。斬撃の応酬が続き、お互い血が流れ、それでも攻撃は止まらない。

 

 

 

 スカリエッティ一味によるテロは本格化し、各地にガジェットドローンが襲来、戦闘が激化していた。

 

 一番の問題は『聖王のゆりかご』である。聖王が鍵となり起動する、超巨大空中戦艦。衛星軌道上に達すればほぼ破壊は不可能になる上、次元跳躍攻撃も可能になってしまう。つまり、管理局全体が崩壊の危機ということだ。

 

 だが、機動六課を筆頭とする管理局員達の奮闘もあり、ガジェットによる被害は抑えられ、戦闘機人達も次々と撃破されていた。

 

 

 

 そしてここは、アコースの調査により特定された、ジェイル・スカリエッティのアジトである。首謀者であるスカリエッティを逮捕するべく、シスターシャッハとフェイトを筆頭とした部隊が突入していた。

 

 ナンバー7のセッテはフェイトが切り札である真・ソニックフォームを使い、既に倒した。ここに残るは戦闘機人達の実戦リーダーであるトーレと、主犯であるジェイル・スカリエッティのみ。

 

 ここの戦闘も、終わりが近い。

 

 フェイトは空中で体を捻り、右脚の蹴りでトーレの右腕を弾く。そして右脚が傷つくのを気にもせず、左腕のブレードに両の刃を叩き付けた。

 

 トーレのブレードが砕け、隙が生まれる。

 

「はああああッ!!」

「ッ!?」

 

 怒涛の連撃。二刀の刃から稲妻が奔り、嵐の如き乱舞を見舞う。トーレは残ったブレードで防御するが、勢いに負け、次々にブレードが破壊されていく。

 

 そして遂に、フェイトの斬撃がトーレを吹き飛ばした。スカリエッティのすぐそばに落ち、そのまま意識を失う。

 

 荒い息をしながらも、すぐさまバルディッシュをザンバーフォームに変形させ、スカリエッティへと向けるフェイト。

 

「……あとは、あなただけです」

 

 刃を向けられても笑みのまま動じないスカリエッティ。余裕綽々といった様子である。

 

「……チンクとディードは既に損傷。オットー、ノーヴェ、ウェンディもやられてしまったか」

「アコース査察官とシスターシャッハもそれぞれ戦闘機人を捕縛しています」

「……劣勢のようだね」

 

 スカリエッティはそこで残念そうにため息をつくが、直ぐに不敵な笑みに戻る。

 

「君といい晃一君といい、私の仲間になってくれないのが本当に残念だよ」

「あなたのような変態が父親なんて嫌だと、そう言ったはずです」

「ククク、成程、これが反抗期か……おっと、そのゴミを見るような目はやめてくれたまえ」

 

 バルディッシュがバチバチと鳴る。若干先程よりもボルテージ上がってる気がしなくもない。逆にフェイトの視線の温度は急降下しているが。

 

 それをスカリエッティは意にも介さず、手を大きく広げて語り始める。

 

「まあいくら劣勢といっても、『ゆりかご』は止まらんよ」

「止めます。なのは達が、絶対に」

 

 フェイトはバルディッシュを振りかぶり、そして叩き付ける。右手に装備したデバイスを使い受け止めるスカリエッティ。

 

「……残念だよ、本当に」

 

 その言葉を最後に、デバイスは破壊され、スカリエッティは吹き飛ばされた。壁に激突し、ずるずると落ちる。

 

「ジェイル・スカリエッティ。貴方を逮捕します」

 

 

 

 

 

 

 

 聖王のゆりかご、その玉座にて。

 高町なのはと戦闘を繰り広げていたのは、他ならぬヴィヴィオだった。

 

 ヴィヴィオは、聖王として無理矢理覚醒させられてしまっていた。幼い少女だったはずの体は成人のそれへと変貌。なのはを『ママの敵』と刷り込まれ、排除しようと攻め立てる。彼女を傷つけるわけにはいかないなのはは、一方的な戦いを強いられていた。

 

『レストリクトロック』

 

 桃色のバインドが出現し、ヴィヴィオを捕らえる。三重、四重もの拘束に少しの間ヴィヴィオの動きが止まるが、

 

「効かないっ!」

 

 僅かな硬直の後、破られてしまう。聖王の力が覚醒した彼女の持つ高いラーニング能力によって、一度受けた魔法の効果が半減されてしまっているのだ。

 

「はあっ!」

 

 お返しとばかりに放たれる虹色の魔力弾。プロテクションで防ぐ。

 

 切り札であるブラスターシステム、デバイスによる能力の底上げは既に第二段階まで解放されている。4つのブラスタービットには多くの魔力がかかり、体への負担も大きい。

 

『とっとと諦めればいいのにねぇ~』

 

 響く声の主は戦闘機人ナンバー4であるクアットロだ。他の戦闘機人は全員倒れ、それを知りながらも全く動じることのない彼女からは、スカリエッティの因子を色濃く受け継いでいることがよく窺える。

 

『傷つけたくないって母親面するならさっさと殺されてくれないかしらん♪』

「……レイジングハート、サーチは?」

『もうすぐエリア3です』

 

 煽るようなクアットロの声を無視し、『別作業』に集中するなのは。

 

 彼女の目に、諦めが浮かぶことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、玉座とは対角に位置する、ゆりかごの駆動炉。ここでは、ヴィータが駆動炉を破壊するべく奮闘していた。

 

 防衛システムによる妨害を受け、多くの血を流しながらも、何度もグラーフアイゼンを駆動炉に叩き付ける。

 

 しかし、駆動炉の防護バリアは恐ろしく強固だった。鉄槌と駆動炉が激突するが、その度に弾き返されてしまう。

 

「くそ……!!」

 

 弾かれ体勢の崩れたヴィータを狙い砲撃が殺到する。隙間を縫うようにしてかわすヴィータ。

 

 着地し、再び飛ぼうとするが、思うように力が入らず、膝をついてしまう。

 

 グラーフアイゼンは傷だらけを通り越してヒビだらけ。柄には血が滲んでしまっている。状況は絶望的。

 

だが、それでも。

 

「諦めるわけには、いかねえんだ……!!」

 

 歯を食い縛り、グラーフアイゼンを杖代わりにしながらも立ち上がる。

 

 脳裏に甦る、あの時の事故。護ることができず、彼女を連れて退くことしかできなかった。自分は、なにもできなかった。

 

 そんなのはもう、嫌だから。

 

 主も友も護れないなんて、絶対に嫌だから。

 

「あたしは……」

 

 紅く輝く駆動炉を睨み付け、グラーフアイゼンを突きつける。

 

「あたしは『鉄槌の騎士』だ!! 障害はぶち抜く! 敵は打ち砕く! それがあたしの『守護』! それが、あたしの『騎士』としての在り方だ!!」

 

 気高く、吠えた。

 

「アイゼン!!」

『Jawohl!』

 

 グラーフアイゼンを高く掲げる。

 

 ツェアシュテールングスフォルム。巨大化したヘッドの片側がドリル、もう片側はジェットとなる、攻撃力極振りのヴィータの切り札。

 

 ヒビだらけのそれを、ジェット噴射で勢いをつけ、駆動炉の上から隕石の如き一撃を叩き込む。

 

「おおおおおおおおおおおお!!」

 

 カートリッジをいくつも排出し、限界まで威力を上げる。魔力も誇りも、全てを破壊力に変えて、全身全霊の一撃を。

 

 ドリル回転が、ジェット噴射が、グラーフアイゼンを障壁を越えて駆動炉へと捩じ込んでいく。

 

 グラーフアイゼンのヒビを広げながらも、ついに駆動炉に小さな亀裂が生まれる。ヴィータの咆哮が響く中、亀裂はどんどん広がり、そしてついに、

 

「ぶち抜け!!!!」

 

 爆発と共に、砕き割った。

 

 同時にグラーフアイゼンも砕け散り、爆風にあてられたヴィータは吹き飛ばされる。

 

「やっ、たぜ……」

 

 それでも、ヴィータの表情は満足気だった。限界を向かえた彼女は、飛行魔法もままならず、そのまま真下へと落ちていく。

 

 その時、黒羽が舞い散った。

 

 ヴィータの体が、優しく受け止められる。

 

「はやて……リイン……」

「お疲れ様、ヴィータ」

「おつかれさまです」

 

 受け止めたのは、他でもないヴィータの主。リインフォース・ツヴァイとユニゾンしたはやてだった。

 

 彼女はゆりかごの外で指揮をとっていたが、リインと合流すると、指揮を任せて自身も乗り込んできたのである。

 

「ごめんな、無茶させて」

「へ、へ……晃一に比べたら、こんなの、無茶に入らないぜ」

「ふふ、確かにな……ありがと」

 

 重傷にもかかわらずヴィータはニヤリと笑い、はやても微笑む。

 

「あと、もう少し、もう少しや。なのはちゃん、晃一君……!」

 

 決着の時は近い、はやてはそう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

「駆動炉が……!?」

 

 最深部でゆりかごの制御をしていたクアットロだったが、駆動炉が破壊され、ここで初めて、彼女の顔に焦りが浮かんだ。

 

「いや、焦ることじゃない。AMF濃度を下げて、より多くの魔素を取り込めるようにすれば、駆動炉がなくても十分……!」

 

 航行は可能。そう言おうとしたが、口が動かなかった。

 

 いつの間にか目の前で、桃色の魔力球がふわふわと浮かんでいたからだ。クアットロの目が驚愕で見開かれる。

 

「これは……!?」

 

 

 

 

 

 

 

「……見つけた」

 

 静かに呟くなのは。

 

WAS(ワイドエリアサーチ)、成功です』

 

 仕掛けをしたのは玉座にたどり着くよりももっと前、ゆりかごに突入し、ヴィータと別れてすぐである。サーチ用のスフィアを数個を放ち、ゆりかご内のどこかにいるであろうヴィヴィオを攫った主犯をずっと探していたのだ。

 

「ちょっと動かないでいてね、ヴィヴィオ」

「っ!?」

 

 動きを止められるヴィヴィオ。すぐさま破ろうとするも、鎖と縄が複雑に絡み合い、今までのように簡単には振りほどけなかった。チェーンバインドとレストリクトロックの併用、このタイミングのためにとっておいた技だ。

 

「一気に抜くよ、レイジングハート……!」

『はい、マスター』

 

 力強く踏み込み、レイジングハートを敵がいる方向へと向ける。

 

 やることは一つ。

 

『壁抜き……!?』

 

 信じられないといった様子のクアットロ。彼女のいる場所はゆりかごの最深部だ。駆動炉とほどではなくとも、玉座とはかなり離れている。この距離の砲撃など、常人にできることではない。

 

 だが、やろうとしているのは少なくとも常人ではないのだ。圧倒的破壊力の砲撃による壁抜きは、彼女の十八番。クアットロもすぐそのことに思い至る。

 

「ブラスター3!!!」

 

 なのはの周りに浮いていたブラスタービットが一斉に壁の向こうのクアットロの方に向く。そして広がる5枚の翼。

 

「ディバイン……!」

 

 砲口に桃色の魔力が集まる。光が強くなっていき、溜められた魔力が大きく広がっていく。

 

「バスター!!!」

 

 砲撃。

 

 何枚もの壁を貫いていき、一直線に進んでいく。逃げることなど許しはしない。

 

「あ、や……あああああああああああ!!!!」

 

 桃色の光の奔流が、絶叫するクアットロを呑み込んだ。

 

 

 

 

『……命中です』

「っ………やった……!」

 

 なのはの顔に安堵の笑みが浮かぶ。ヴィヴィオを洗脳した事件の主犯は倒した。これで――。

 

 そう、気を抜いてしまった。

 

『マスター!!』

「え?……うっ!?」

 

 殴り飛ばされるなのは。大きく飛ばされ、壁にぶつかる。不意をつかれ、まともにくらってしまった。起き上がり、ごほごほと咳き込む。

 

 攻撃してきたのは、なのはの拘束を振りほどいたヴィヴィオだった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 泣きながら謝り続けるヴィヴィオ。だが言葉と表情とは裏腹に、体が止まる気配は無い。

 

 何故と思うが、直ぐに答えに行き着く。

 

「レリック……!」

 

 そう。ヴィヴィオが聖王として覚醒するために埋め込まれたレリック。彼女がクアットロから受けていたのは主に精神干渉であり、クアットロが倒れてもヴィヴィオの中のレリックが消えたわけではないのだ。

 

「ヴィヴィオ……今、助けるから!」

「ためだよ……! 止められない……!」

 

 虹色の魔力を両腕に纏い、なのはへと殴りかかるヴィヴィオ。なのはは咄嗟にプロテクションを張るも、打撃の威力が凄まじく、再び吹き飛ばされてしまう。

 

 直ぐに起き上がりレイジングハートを構えるなのは。

 

 そんな彼女を見て、ヴィヴィオが悲痛な面持ちで口を開いた。

 

「私、思い出したんだよ。私は昔の人のクローンで、心も体も、造り物なの……。本当のママなんて、どこにもいない……!」

「それは違うよ」

「っ!?」

 

 なのはは迷うことなく、即座に否定してみせた。予想してなかったのか、ヴィヴィオが言葉に詰まる。

 

 僅かに目を伏せるなのは。

 

「確かに私もフェイトちゃんも、ヴィヴィオと血は繋がってない。そういう意味では、本当のママじゃないよ……でもね」

 

 彼女は顔を上げ、真っ直ぐにヴィヴィオを見つめる。

 

「大切なのはね、血の繋がりじゃないんだよ。心が繋がってれば、そんなの関係ないんだ」

 

 彼女は知っている。産まれ方が他人と違っていても、人に愛情を注ぐ事ができる親友を。血が繋がってなくても、家族と強い絆で結ばれている親友を。

 

「……私は、ヴィヴィオの本当のママになるよ! なってみせるよ! ヴィヴィオとの繋がりを、失いたくなんてないから!」

 

 そして、なによりも。

 

 

 

「ヴィヴィオの事が、大好きだから!!」

 

 

 

 ヴィヴィオの体が震え、一筋の涙が流れる。どこまでも真っ直ぐななのはの言葉が、ヴィヴィオの心に響いていく。

 

「……ヴィヴィオだって、なのはママが大好きだよ……!」

 

 ぽつりと、言葉がこぼれた。

 

「もっと、一緒にいたいよ……!!」

 

 それを切っ掛けに、心の奥底にあった本当の願いが溢れ出す。

 

 

 

「なのはママ……たすけて……!」

 

 

 

 一人の母親が、不敵に笑う。

 

「助けるよ。……いつだって、どんなときだって!!」

 

 想いは、確かに届いた。

 

 ブラスタービットが弧を描きながらバインドを形成し、ヴィヴィオに巻き付いていく。

 

「ちょっと痛いけど、我慢できる?」

「うん……がんばる……!」

 

 なのはが優しく問い掛け、ヴィヴィオは強く頷いた。

 

 これから行うのは至極単純。純粋な魔力ダメージのみを与えてレリックを破壊するのだ。

 

「全力……全開!!」

 

 魔力を収束する。彼女の元に集った魔力が、優しい星のように光り輝く。

 

「スターライト……ブレイカー!!!!」

 

 

 玉座が、光に包まれた。

 

 

 

「うぅ……あ……!」

 

 ヴィヴィオの体から浮かび上がる深紅の宝石。

 

 

 

跡形もなく、砕け散った。

 

 

 

 光が収まる。肩で息をし、レイジングハートを杖代わりにして立つなのは。ボロボロの彼女の目に映ったのは、自身の力で立ち上がろうとする、一人の少女だった。

 

「ヴィヴィオ……!」

 

 ヴィヴィオは痛みに耐えながらも、一歩、また一歩と、懸命に母親の元へと足を進める。なのはもまた、娘の元へと駆け出す。

 

「なのは、ママ……!」

「ヴィヴィオ!!」

 

 そして、ついに二人の距離がゼロになり、

 

 

 

 ゆりかごの中、親子は固く抱き合うのだった。

 

 

 




前回から1ヶ月はギリギリたってないからセーフセーフ。気がついたら時間がたってたなんて言えない……。

初めて主人公が一切出ない回でした。そして原作通りという……今更か。

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