魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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47話 虹

 時は少しさかのぼり、地上本部近郊。

 

 拐われた姉を救出したスバルに戦闘機人二人を捕縛したティアナとヴァイス、そしてオットーやガジェット達への対応に当たっていたザフィーラとシャマル。それぞれがそれぞれの戦いを終え、合流していた。

 

「なのはさん達が!?」

「ああ。予想できたことだが、念話が全く通じねえ」

 

 ヴァイスから状況説明を受けるスバルとティアナ。ゆりかご内のAMFのせいで状況確認ができないため、なのは達の様子が全く分からないのだ。

 

「なのはさん達なら、大丈夫だと思うけど……」

 

 そうは言っても、と不安が顔に出るスバル。彼女達の強さは百も承知だ。……だけど、それでも、やはり、心配なものは心配だ。

 

 自分は戦闘機人モードがあるからAMF下でも走れるし撃てる。でも自分がなのはさんを助けるなんておこがましいんじゃないかなというか、いやでも連絡つかないから何が起きてるかは分からないしもしかしたら、でもでも──

 

「何迷ってん、のっ!」

「いったぁ!?」

 

 突然の衝撃。ティアナにクロスミラージュのグリップで後頭部を思いっきり小突かれたのである。いきなりのことに混乱しながらも涙目でティアナを見るスバル。

 

「行きたいんでしょ?なのはさんを助けに」

「ティア……」

 

 相棒が、呆れた目でこちらを見ていた。

 

「今更なにごちゃごちゃ考えてんのよ。それは私の役割でしょうに」

 

 言いながら、ティアナが視線をヘリの方へと向ける。その先では、担架に寝かせられたギンガがネックレスを手に起き上がっていた。

 

「スバル……これ」

 

 ギンガがスバルへと差し出したのは、彼女のデバイスであるブリッツキャリバー。スバルのマッハキャリバーと対になる、母親の形見の入ったデバイス、左の拳。

 

「ギン姉……」

「必要でしょ?」

 

 スバルの手を取り、ブリッツキャリバーを握らせるギンガ。

 

「ゆりかごまでは俺が運んでやる」

「ヴァイス陸曹……」

「お前の力量なら、心配はいらん」

「きっと待ってますよ、なのはちゃん達」

「ザフィーラ、シャマルさん……」

 

 皆が、スバルの背中を押す。

 

「ワガママに自分貫くのがあんたでしょうが。そんでそれに付き合うのが私。そうでしょ?」

 

 不敵な顔で笑って見せるティアナ。つられるように、スバルの顔も笑顔になる。

 

「なんだかティア、男前になったね」

「ちゃかさないの。……行くわよ」

 

 顔を両手ではたき、気合いを入れる。そうだ。私はなのはさん達を助けに行きたい。幼い私を救ってくれた、あの時のなのはさんのように。

 

「うん!行こう!」

 

 ヘリに乗りこむスバルとティアナ。勢いよく回るプロペラ。いざ出発という、そのとき。

 

「? 待て、何か近づいて──」

 

 ヴァイスが言いかけたところで、その何かがヘリの直ぐ前へと飛び降りてきた。新手かとザフィーラ達が構えるが、現れた人物に驚愕する。

 

 

 

「そのヘリ、相乗りしていい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ゆりかご内部。

 

「うわぁ……」

 

 なのは達のいる場所に到着したはやての第一声である。玉座は砕かれ原型を留めておらず、壁はヒビだらけの上トラックが余裕で通れる程の穴まで開いていた。更には地面に大きなクレーター。

 

 ぶっちゃけ、少し引いていた。

 

「あっ!はやてちゃん!」

「無事にヴィヴィオは救出できたみたいやね、なのはちゃん」

 

 そのクレーターのそばで抱き合っていた二人。なのはとヴィヴィオである。二人共ボロボロではあったが、とても晴れやかな顔をしていた。

 

「……派手にやったなぁ」

「えへへ……」

 

 ぶち抜かれた壁に目を向け、ため息混じりに呟く。砲撃によって開けられた穴は見えなくなるまで続いていた。高濃度のAMF下でやったとは思えない。

 

 当の本人は照れくさそうに笑っている。かわいいけど背景と合わない。普通に怖い。

 

「あ、そうだ!ゆりかご内の戦闘機人達は?私、二人倒したはずなんだけど」

 

 思い出したようになのはが尋ねる。

 

「一人は後続隊が保護したで、もう一人も今頃捕縛されて、ヴィータ達と揃って脱出しとる頃やと思う。様子からして、ガジェット以外の敵はもうおらんみたいやな」

「……そっか」

 

 ふう、と一息つくなのは。先程よりも幾分、顔色がよくなっている。事件の終息が見えてきたからだろう。

 

「……無茶のしすぎはあかんで?」

「大丈夫、ヴィヴィオのためだもん」

 

 そう言って、ヴィヴィオに頬ずりする。嬉しそうに笑うヴィヴィオ。暖かなその光景に、はやてとリインもつられて笑顔になった。

 

「……母は強し、やな」

『まったくもってその通りなのです』

 

 はやての感想に、リインも同意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、和やかなまま終われれば良かったのだが。

 

 けたましく鳴り響くサイレンが空気を一変させる。

 

「これは……!?」

 

 一同に緊張が走る。そして流れるアナウンス。

 

『聖王陛下、反応ロスト。システム、ダウン。これより、ゆりかごは休眠モードに移行、艦内復旧の為、魔力リンクをキャンセルします。繰り返します──』

 

「あっ!」

 

 なのはの飛行魔法が解除され、桜色の羽が消失する。はやても、リインとのユニゾンが解除されてしまう。驚き声を上げるリイン。

 

「……若干だけど、ゆりかごの高度、落ちてない?」

 

 一方、なのはは魔法が解除されたことを気にすることなくそう呟いた。この中で最も空戦魔導師としてのキャリアがある彼女だからこそ気づいた、些細な違和感。

 

 思わずはやてが顔をしかめる。自分たちには分からないのでほんのわずかだろうが、なのはの感覚が間違ってるとは思えない。

 

「……確かに、ゆりかごにとってクアットロは脳、駆動炉は肺、ヴィヴィオは心臓みたいなもんやろうし。人なら休眠どころか永眠やろなぁ」

 

「言ってる場合じゃないですよはやてちゃん!」

 

 なのはの感覚が正しければ、ゆりかごは、落下する。

 

 計画では、駆動炉を破壊しヴィヴィオを救出することでゆりかごの速度を落とし、宇宙空間で待機しているクロノ達がアルカンシェルの発射態勢を完了させるまでの時間を稼ぐつもりだった。

 

 どちらも完遂でき、ゆりかごの速度は確かに激減しているが、こうなるとは。休眠モードでも自動航行は維持されるはずなのだが、スカリエッティが何か細工でもしたのか。

 

「ほっといてもダメだし止めてもダメとか。ほんっと腹立つ……!」

 

 魔導砲であるアルカンシェルはAMFと相性が悪いため、確実に破壊できるようにと数台掛かりでの発射予定だ。破壊の規模は計り知れない。もしかしたら、現在の高度であっても地上に被害が出てしまうかもしれない。

 

 一番ピンチなのは他でもない自分たちなのだが。

 

「兎にも角にも、脱出せな。……なのはちゃん」

 

「……うん、大丈夫。走れるよ!」

 

 何をするにしても魔法が使えなければどうしようもない。まずはゆりかごから脱出するべきだと判断するはやて。不安なのがなのはの体調だが、ヴィヴィオの手前、弱い姿は決して見せない。

 

 脱出するべく、なのはの開けた穴へと走る一同。しかし、

 

『艦内の応急処置を開始』

 

「しまった!」

「壁が!?」

 

 無情にも、システムによる自動修復によってなのはが開けた穴が塞がれてしまう。突入時に開けた穴も、戦闘中に開けた穴もだ。

 

「くっ……!」

 

 出口が閉じられる。ほぞを噛むはやて。

 

 諦めるな考えろ。自分はまだまだ魔力に余裕がある。なんとかして魔法を使って、なんとかして壁をぶち抜けないか。だがユニゾンも解かれてしまった。それに自分はシグナムやヴィータのようにアームドデバイスは持っていない。こうなれば本格的に魔法抜きで壁を壊すしか……。いやいやそんな晃一君じゃあるまいし。

 

 堂々巡り。諦める気などさらさらないが、打開策が思い浮かばない。

 

 なにかないのか、なにかなにかなにか──

 

「──ん?」

 

 ふと、気づく。

 

 何かが、轟音をたててこちらに近づいている。モーター音というか、人の声というか……。

 

 

 

 

「──ぅうぉぉぉおおおお!!!」

 

 雄叫びと共に、壁がぶち抜かれた。

 

 飛び散る瓦礫や爆風に紛れ、玉座の間に突入してく来たのは。

 

「なのはさん!」

「助けに来ました!」

「ティアナ、スバル!」

 

 そして。

 

「──あ」

「よっ、こんにちは」

 

 左の袖を爆風ではためかせる、紛れもない古夜晃一だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺、参上!ってね。

 

「よっ……とと」

 

 乗ってきたバイクから飛び降りるが、よろめいてしまった。グリーヴァを杖代わりにしてバランスをとる。やっぱり、隻腕ってのは不便だね。

 

「晃一君、なんで、ここに」

「ちょっと野暮用でね。ランスター達のバイクに一緒に乗せてもらってきたのさ」

「取り敢えずこの事件が終わったら晃一さんはセクハラで訴えます」

「しょうがないじゃん。AMFもあるんだし、直接掴まるしかないだろ?」

 

 片腕でバイクに乗るのは大変なんだから。それにやらしいとこには触ってないって。

 

「こういち!」

「おお、ヴィヴィオ。無事だったか。ごめんな、守ってやれなくて」

「大丈夫!なのはママが助けてくれた!」

「そっか。…………良かったな」

「うん!」

 

 なのはに抱かれているヴィヴィオの頭をよしよしとなでる。六課や『あいつ』から聞けば、中々に酷なことをされただろうに。元気そうでよかった。

 

「よし、じゃあお前ら。とっとと脱出──」

「ちょい待てや」

 

 ぐえっ。はやてに首根っこを掴まれた。危ない、転ぶとこだった。

 

「晃一君の用事って、何?」

「ゆりかご関係」

 

 はやての肩に乗っているツヴァイが驚いているが、はやては予想がついていたらしく、さほど驚いた様子はなかった。

 

「落下しつつあるんは知っとるやろ?」

「心配すんな。落下もなんとかする」

 

 ぴくりと、はやての眉が動く。

 

「また、無茶するんやろ」

 

 咎めるような、怒気を含んだ言葉。

 

「……まあな」

 

 グリーヴァを一旦待機状態に戻し、はやてへと向き直る。……ここは、ちゃんと説得しておかなきゃならないところだから。

 

 一歩踏み出す。はやてとの距離が縮まる。

 

 そして、俺は。

 

 

 

 

 

 はやてを、抱きしめた。

 

 

 

 

 

「――え?」

 

 ポカンと、まぬけな顔になるはやて。突然の事に、頭がついていっていないのだろう。

 

「おぉ……」

「?」

「……」

「わー」

「わぁ!」

 

 なのは達が見てるが気にしない。右腕で抱きしめ続ける。やがて状況が理解できてきたのか、みるみるうちにはやての顔が赤くなっていく。

 

「……な、ななにゃな……!」

 

 なんでこんな事を。真っ赤なはやての顔がそう物語っている。

 

「……まあ、あれだ」

 

 覚悟を固めたいというか、気持ちの整理をつけたいというか。心配すんなと伝えたいというか。あとは……ちゃんと、向き合おうかなとも。色んな事にね。

 

 こっぱずかしくて口には出せないが。

 

「状況のやばさは理解してる。でも、それでも、俺自身がやりたいんだ。やらなくちゃいけないんだ」

「……晃一君」

 

 抱きしめてるのも流石に恥ずかしくなってきたので、いったん離れる。

 

「ダイジョブダイジョブ。……俺は、思い出にはならないさ。過去形で語られるのは、嫌だしな」

 

 不敵に笑いかける。

 

 束の間の静寂。そしてその後。

 

「…………あ~もう!」

 

 頬が赤く染まったままのはやては、頭をガシガシとかくと、大きなため息を吐いた。

 

「……スバル、ティアナ。なのはちゃんとヴィヴィオを連れて脱出や。頼むで」

「「はい!」」

「リインも一緒に行ったげてや。指示、よろしく頼むで?」

「はいです!」

「私は晃一君と残る」

「おい」

 

 反射的に突っ込む。お前は残るんかい。今の説得の意味よ。抱き締め損?

 

「やりたい放題の晃一君には、監視が必要やからな」

 

 吹っ切れたように笑うはやて。

 

「……お前は、トップだろうが」

「せやな。だから残る。私は部下を見捨てない、絶対に」

 

 即答し、肩に乗っていたツヴァイを高町へと預ける。言葉に迷いがなかった。

 

「…………はぁ」

 

 今度はこちらがため息をつく。これはもう引かないやつだ。

 

 ……もう、そうもたもたしてられないな。

 

「……ほら、お前らはさっさと脱出しろ」

 

 しっしっと手を振り、高町達に脱出を促す。高町は一瞬残りたそうな顔をしたが、やがて頷いた。ヴィヴィオを抱えたまま、バイクに乗る。

 

「いきます!」

 

 そうして、ナカジマがウイングロードを展開。ティアナ達はフルスロットルで玉座の間から消えていった。

 

 残るのは、俺とはやての二人だけ。

 

「……で、晃一君の作戦は?」

「……なに、簡単なことさ」

 

 そう言いつつ俺はグリーヴァを再びセットアップし、ガンブレードとなったそれを構えた。

 

 ──八門遁甲 第四 傷門 開

 

 全身から溢れ出す()()の魔力。

 

 はやての目が見開かれる。

 

「晃一君、それ。その魔力光……」

「俺の本来の色だよ」

「ええええ!!??」

 

 はやてが驚くのも無理はない。虹色の魔力光とは、すなわち聖王の証だ。

 

 これは『あいつ』の置き土産。聖王としての力。ジェイドに隠れてよくわからないだろうが、右目の色も翡翠に変わっている。今の俺は、聖王として覚醒しているのである。

 

 だから。

 

『──聖王反応、検出しました。ゆりかご、起動します』

 

 こうなるわけだ。

 

 聖王反応さえあれば、ゆりかごは起動する。そうなりゃ、少なくとも一気に落下ってのは防がれる。ゆりかご側が勝手に頑張ってくれるってことらしい。『あいつ』の入れ知恵である。

 

「じゃあ、ゆりかごの操作も出来たり?」

「あ、それは無理だわ」

「無理なんかい!?」

 

 今俺がやったのは自分の魔力をゆりかごに()()()やるという簡単なことだ。だからこそ俺にでもできたわけで、操作とかそこまで高難度なことは厳しいです。

 

 だが、出来ることはもう一つある。

 

 俺が操作できないとなると、ゆりかごは先ほどまでと同様に、目的地までの航行を再開することになる。となると、魔法で航行しているゆりかご内は――

 

「AMFが弱くなり、魔法が使えるようになるわけだ」

「……なにするか、分かった気がする」

 

 額に手を当て、はやてが呟く。流石はやて察しがよろしい。

 

 ニヤリと笑い、宣言する。

 

「ぶっ壊すんだよ。ゆりかごを、跡形もなくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆音が響く。

 

「――来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ。『フレースヴォルグ』!!」

 

 はやてが展開した魔法陣から、白銀の光が放出される。光は分裂し、壁一面を破壊していく。

 

「おおおお!」

 

 周囲に魔力刃を生み出す。百、二百と数を増やしていく。

 

 ――八門遁甲 第五 杜門 開

 

 魔力を底上げし、更に剣を生み出していく。その数、千。

 

「いけっ!」

 

 全方位に向けて射出。着弾し爆発し、床も天井も関係なく全てを破壊する。

 

「ちょ、晃一君あぶなっ!殺す気か!」

「文句はあとで聞くから」

 

 はやてからの抗議を流しながらも次の魔法の用意に移る。

 

「『デアボリック・エミッション』!」

「うお!?」

 

 黒に染まった空間が広がり、ゆりかご内を消し飛ばした。危なっ。巻き込まれかけた。いきなり広域魔法ぶっぱなしやがったぞコイツ。

 

「ちょっと」

「はいはい、文句は後で聞くからっ!」

 

 どや顔でこちらを見つつも攻撃を続けるはやて。倍返しってかおい。まあいい。

 

 実際問題、お互いそこまで余裕はない。

 

 俺はリンカーコアが悲鳴を上げているし、はやては魔法の負荷に耐え切れずに杖にヒビが入り始めている。

 

 ――八門遁甲 第六 景門 開

 

 痛みを振り払うように、八門をさらに一つ開く。

 

 破壊が進むにつれ、ゆりかごのシステムにも相当ガタが来ている。いや、相当ぶっ壊して回ってんのにまだダウンしてないのは流石ロストロギアとしか言いようがないのだが。落下スピードは徐々に、だが確実に増えている。

 

「急がなきゃ、なあ!!」

 

 上から崩れてきた天井を避けながら、砲撃を放つ。

 

 ある程度の大きさの瓦礫なら落ちていく間に流れ星にでもなってくれるだろうが、今のゆりかごの大きさじゃまだ駄目だ。もっと粉々にしないと。

 

「それにしても、すごい魔力やなぁ」

 

 あれ、はやてに八門遁甲を生で見せるのは初めてだったか。聖王として覚醒しているのもあって、八門遁甲の効果も増大しているし、驚かれるのも無理はないか。はやてに魔力で驚かれるとはなぁ。

 

「まあ、その分負担もえげつないけどね」

「……あとで説教」

「あっ」

 

 失言だった。

 

「響け、終焉の笛。『ラグナロク』!!」

 

 今度ははやてが砲撃を放つ。いくつもの壁を貫通していく白い波動。

 

 破壊が進むにつれ、AMFが薄まっているようだ。魔法の行使が徐々に楽になっているのがわかる。

 

 それにつれて破壊も進む。上側は夜空が一望できるまでになった。

 

「よし、次ィ!」

 

 ――八門遁甲 第七 驚門 開

 

 グリーヴァに魔力を込め、特大の斬撃を飛ばす。カートリッジを無くなるまでリロードし、ゆりかごを切り刻む。

 

 聖王として覚醒しているおかげか、いつもより八門遁甲の負担が軽い。それでもめっちゃ痛いけど。

 

「ふふっ」

 

 ふと、笑い声が聞こえた。見ると、肩で息をしながらも、はやての表情は笑顔だった。

 

「なあ、晃一君。私今、すっごく嬉しいんや」

 

 魔法陣をいくつも展開し、大規模な魔法を行使しながらも、彼女は続ける。

 

「晃一君、ちょっと変わったでしょ?」

 

 グリーヴァを振るう右腕が止まる。

 

「見てて思った。何かは分からないけど、でも初めて、本当の晃一君が見えた気がする。……だから」

 

 はやてが魔法を放つ。白い光がまばゆく輝く。

 

「……だからな。晃一君のこと、止めちゃ駄目だって。そう、思ったんや」

 

 夜空を背に飛ぶ夜天の主。彼女は優しい笑顔で、こちらを見ていた。

 

「……そうか」

 

 そうとしか、口に出せなかった。

 

 彼女は、俺の意志を尊重してくれているのだ。無茶だと知って、無謀だと分かって。それでも、俺の背中を押してくれると。

 

 心の中で礼を告げる。……口に出すのは、全てを片付けてからだ。説教を受けた後、改めて。

 

 ゆりかごの下方へと回る。システムはもう機能していないらしく、本格的な崩壊と落下が始まろうとしていた。

 

 さあ、最後の一息だ。覚悟はとっくに完了してる。

 

 ……いくぜ!

 

 ――八門遁甲 第八 死門 開

 

 

 

「 八 門 遁 甲 の 陣 !!!!」

 

 

 

 今までとは比較にならない量の魔力が溢れ出す。

 

「はやて。俺の後ろにまわれ!」

「うん!」

 

 グリーヴァを高く掲げる。ジェイドとのデバイス二つがかりで処理を進める。

 

 俺とはやてで散々魔法を使った。そのおかげで、今俺たちの周辺には魔力がまき散らされている。八門遁甲と夜天の主の莫大な量の魔力がだ。

 

 ――収束砲

 

 だが高町の代名詞であるスターライトブレイカーとは少し違う。俺が自分で構築した魔法である。貫通力ではなく攻撃範囲に重点を置いた、広域破壊魔法。スペルカードを再現し続けてきた俺の、魔法使いとしての極致。

 

 全身から流れ出る虹色の魔力だけでなく、周囲から少しずつ魔力が集まり、俺の前方に球を作っていく。虹色の塊は膨張し、あまりの魔力に紫電がほとばしる。

 

 ピシリと、右目のジェイドにヒビが入った。扱う魔力の大きさに、デバイス側にも大きな負担が出ているのだ。

 

 しかし、まだ足りない。ゆりかご全体を消し飛ばすなら、もっと魔力を集めなければ。

 

「チッ!」

 

 思わず舌打ちしてしまう。

 

 焦る思考。胸の痛みが嫌に響く。このままじゃ、失敗……?

 

 

 

 ――不意に感じる柔らかい感触。少し遅れてやってくるほのかに甘い香り。

 

 

 

 はやてが、背後から抱き着いていた。

 

「えへへ。さっきのお返しや」

 

 顔は見えないが、笑っているのだろう。そんな声色だった。

 

 ……頭が冷えた。胸の痛みも、意識の外へ。

 

「これで決める。後のことは、お前に任せた」

「任された!」

 

 失敗する気がしなかった。

 

 

 

「いっけえええええええええええ!!!!!」

 

 

 

 グリーヴァを振り下ろす。瞬時に爆発する閃光。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 光は広がり、ゆりかごを包み込み、天を突き抜け、そして――

 

 

 

 

 

 その日、ミッドチルダ全土に、虹色の光が降り注いだという。

 

 

 

 

 




遅れて申し訳ございませんでした。色々あったりなかったりしましたが半年経ってないのでセーフですよね。

ゆりかごのAMFはかなり薄まってる設定。理由については捏造ですのであしからず。

聖王のことは初期から考えてました。バレバレだったみたいですが。

主人公の使った収束砲は言ってしまえば闇の書の意思さんが使ったスターライトブレイカーです。

恐らく次回が最終話かなあ。はやての誕生日までには終わらせたい。

感想批評その他諸々お待ちしております。

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