魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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かけあしで話が進んでいきます。


9話 闇が近づく

「あれ? やがみんが居ないのは珍しいな」

 

 また買い物で八神家と遭遇した。ただ、今日はシグナムとシャマルの二人のみである。

 

「ああ、古夜か。主は今日、少し体調が優れなくてな」

 

 二人とも、表情が硬い。何かあったのか? やがみんが心配なだけかな?

 

 

 

 

 買い物が終わったあと、シグナムに呼び止められた。

 

「古夜。……話がある。この後、少し、良いだろうか?」

 

 この前のような強引さはない。

 

「……決闘はごめんだぜ」

 

 ただ、断れる雰囲気じゃなかった。

 

 

 

 

 

「古夜には、話しておかなければと思ってな」

 

 そう、シグナムが語り始めた。

 

「やがみんの命が、危ない……?」

 

 シグナムたち守護騎士の大本である闇の書。なんと、その闇の書が、やがみんの命を蝕んでいるのだそうだ。足が動かないのは、その所為だったらしい。

 

 気づいたのはつい最近。このままでは、やがみんの命が危ない。

 

「だから我々は闇の書を完成させ、主はやてを治療することにしたのだ。たとえ、それが主の命に背くことだとしても」

 

 ……なるほどね。まあ、良いんじゃないの?

 

「闇の書は、様々なリンカーコアを蒐集し、666の項を全て埋めることで完成する」

 

 ふむ。リンカーコアって?

 

『魔力の源、体内にある魔法を扱う為の器官です』

 

 ようはトリオン器官ですね。分かります。

 

「それで、頼みがある」

 

 ん? 何さ?

 

 

 

「お前のリンカーコアを、もらえないだろうか」

 

 

 

 …………。

 

「断られたら、奪うようなことはしない。お前は、主はやての大切な友人だからな。……ただ、主の為に、少しでも多くの魔力が欲しいのだ」

 

「良いよ」

 

「卑怯な頼み方だというのは百も承知だ」

 

 だから良いって。

 

「頼む……!」

 

 聞いてよ。

 

「……良いのか?」

 

 良いよー。

 

「リスクは、分かっているのか?」

 

 わかってるよ。治りきるまで、魔法使おうとすると激痛が走るんでしょ? でもさ。

 

「やがみんの治療の為だろ?」

 

 命かかってんだ。こんくらいリスクの内に入らないだろう。

 

 それに。

 

「お前みたいなやつが、恥を忍んでこんな頼み方してきたんだ。そこは汲んでやらないと」

 

「……っ! ……恩に着るっ!」

 

 良いよな? ジェイド。

 

『しばらくマスターは何もできなくなりますからね。私としてはむしろウェルカムです』

 

 いやいや魔法以外にもできる修行はあるだろう。

 

『絶対安静です。何かしたら私が魔法を使ってマスターに地獄の苦しみをプレゼントします』

 

 ちょ、おま。

 

 

 

 

 

「準備は良いな?」

 

 良いぜ。

 

「できるだけ、苦しくないようにはさせてもらう」

 

 それは助かる。

 

 そしてシグナムは、背後から俺の胸に腕を突き刺してきた。おおう、胸から腕が生えてる。血は出てないし、違和感あるくらいで痛みはないけど、結構ホラーだな。

 

 突き出たシグナムの手の中で、光る球がチカチカと色を変え続けている。これが、リンカーコア。魔力の源か。

 

「蒐集、開始」

 

 シグナムの声と共に、蒐集が始まる。

 

 力が抜けていくと共に、目の前のリンカーコアが段々小さくなっていく。腕を動かし、試しに触れてみる。

 

 今まで魔法を使ってて意識することはなかった。存在自体知らなかった。だが今、確かにその存在を感じることができる。

 

 ……ティンときた!

 

「シグナム、好きなだけとって良いから、できるだけ、蒐集を長引かせてくれないか?」

 

「む? 何故だ?」

 

「ちょっと、思い付いたことがあってね」

 

 何かは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 蒐集が終わった。

 

「予想以上にページを埋めることができた」

 

 それはよかった。さて、残りのページはどうやって埋めんのかね。

 

「これから先は、通り魔のように無差別に襲っていくことになるだろうな」

 

 まじか。それじゃ、管理局が出てくるだろうなあ。

 

「管理局の者に何か聞かれても、黙っていてくれると助かる」

 

 良いよ。あ、でも、通り魔の共犯だなこりゃ。

 

「いいや。お前はリンカーコアを奪われたただの被害者だ。罪に問われることはない」

 

 シグナムが苦笑しながら言ってくる。おそらく、もし俺が蒐集を断っていたら、この会話自体をなかったことにするつもりだったのだろう。

 

「私達のことは、幾らでも軽蔑してくれて構わない。……ただ、主はやての友では、居続けてくれないか」

 

 別に軽蔑なんてしないよ。はやての友でも無くなったりしない、というのは少しはずいので、ちょっとふざける。

 

「シグナム知ってるか? ばれなきゃ犯罪じゃないんだぜ? 完全犯罪という言葉があってだな……」

 

 俺はおどけたようにそう言ってみせた。

 

「……ふっ。そうだな」

 

 シグナムは少しだけ、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 12月になった。

 

 できるだけ俺に負担がかからないようにしてくれたお蔭か、リンカーコアの調子もすっかり良くなった。

 

 俺は今、一人で瞑想をしている。

 

 思い出すのは、リンカーコアを蒐集された時の感覚。

 

 リンカーコアの存在を意識する。

 

 …………。

 

『マスター』

 

 何さ?

 

『どうやら魔法戦闘が起きているようですが』

 

 ん? まあ、シグナムたちだろ。それよりも、あと少しだ。あと少しで掴める気がする。

 

『マスターの言うそれ、実現可能なんですか?』

 

 きっとできる。その為にも、リンカーコアの存在をはっきりと感じられるようにならなきゃ。

 

『まあ、激しいものではないので、私としては良いのですが』

 

 ほんと過保護か。

 

 ちなみに、リンカーコアが調子を取り戻す前に修行しようとしたら、まじで勝手に俺の魔力使って魔法使いやがった。拷問かと思った。

 

 瞑想を続ける。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………。

 

『……ター…………マスター!!』

 

 うっさいなあ。何度も何さ?

 

『朝です』

 

 ……やっべ。

 

 

 

 

 

 

 寝不足である。

 

『馬鹿ですか』

 

 辛辣。学校、きつかったなあ。昼間の記憶がほとんどねえわ。

 

「おや、やがみん。体調は良いのかい」

 

「あ、こういち君。おかげさまでもう大丈夫やで」

 

 買い物にて、やがみんに遭遇した。体調の心配はないようだ。心なしか機嫌も良さそうである。

 

「聞いてや! 今日な、友達ができてん! すずかちゃんて言うてな。図書館で本取ってもらって、読書好きって知って。すぐに仲良うなれたわ」

 

 ほーそれは良かったねぇ。

 

「夢中になって話してもうてな。途中、司書さんに注意されてもうたんよ」

 

 かなり仲良くなったみたいで何よりです。

 

 適当に買い物を済ませて、そこで別れた。

 

 

 

 

 

 その次の週。学校に行くと、なんだか教室がざわついていた。特に男子。今日、何かあったっけ?

 

「昨日、となりのクラスに転校生がやって来たらしいぜ」

 

 クラスメイト君が教えてくれた。

 

「その子がすっげえかわいい娘で、皆お近づきになろうとしてるんだ」

 

 そーなのかー。

 

「金髪ロングに真紅の瞳。しかも聖祥美少女3人組と仲が良いときた! これは聖祥美少女四天王になること間違いなしだな」

 

 美少女3人組て。そんなんあるのかよ。こいつら、変な方向にませてねえ?

 

 俺が小学生の頃なんて、えっと……思い出せないけど。でもこうではなかった気がする。

 

 ほんとに、この世界の子供は年不相応だなあ。俺みたいなのが目立たないのは良いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 変わらないように見えても、タイムリミットは近づいている。

 

 

 

 

 

 

 

「はやてが、入院?」

 

 シャマルから沈痛な面持ちで告げられた。

 

「はい。はやてちゃんの足の容態が良くなくて。治療の為、しばらく、入院することになったんです」

 

 ふーん。まあ、気が向いたらお見舞いにいくよ。

 

「是非お願いします。はやてちゃんも喜びます」

 

「……治療は、間に合うのか?」

 

「あと、少しなんです。必ず間に合わせます」

 

 間に合うなら良い、のか? ……なんだか嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも俺には何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 




グレアムさんの支援を受けながら、犯罪者となる人になにも言わない主人公。まあ、グレアムさんには都合が良いのですが。

主人公はSEKKYOUは苦手なんです。

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