世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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短めなので箸休め


キマシタワーを巡る戦い

吾輩はヘテロ厨である。

だから、女の身体であるから女性を落とそうなんて気は起きない。男の精神であるから男性を受け入れようなんて考えられない。

しかし、同性の絡みの美しさには一定の理解が持てる。特に美女と美女の組み合わせは、見ているだけで幸せになる。

というか、美女は何やっても美しいのだ。吾輩が理解できない物事も、美女がやるなら理解できる。

 

前世において結局女性と深く関わることなく死んだ人間である吾輩は、女性の中にあると言われている醜さには終ぞ触れる事は無かったし、そもそもが自らのこの考え方よりも醜いものがあるとも思えなかった。その為、吾輩は今も女性と言うものに多くの夢と希望と理想を抱いている。こんな転生先でこんなワンダフル美少女になったのも、ほぼほぼその思想のためである。

 

全世界美女なら万物が美しい!!なぜなら美女は歩きスマホやっても音を出しながら物を食べても飲酒運転しても猟奇殺人しても美しいからである!!美しいならそれでいいじゃないか!!

それが吾輩ことジャンヌ・オルレアンが確信していることである。いやぁ、美人というのは罪だね!!

 

 

脳が醒める。高菜をアホみたいにぶっ込んだ濃いラーメンスープを米にぶっかけて餃子と共にかっ込むという素晴らしい夢は、飲み干した冷たい水の甘い味すらも残さずに消え去る。極東にはまだラーメンはあるのだろうか。あるのだとしたら、リンクス戦争が終わった後に旅行に行かねばならない。パンも好きだが、米や麺を食わねばいつか死ぬという確信もある。

 

ふと、自分の手が何かを握っていることに気づく。軽く力を加えただけで崩れてしまいそうな柔らかい感触。あぁ、リリウムの手か。

 

ゆっくりと眼を開ける。横でリリウムがこちらを眺めながら微笑んでいる。

 

「おはようございますジャンヌ様。相当お疲れのようで」

 

「おはようリリウム、お邪魔してるよ」

 

私も微笑み返した。ちょい待て、いまこの様子を第三者視点から見るからな。想像力想像力……

 

やべぇぞこれ。やばすぎる。年齢が2人合わせて19から21くらいってのがヤバい。なぜか周囲に天使の持ち物かと思われる羽が舞ってるもん。財団風に言うならばThe battle for the kimasi towers has begun. It will continue until all is ruin.だぜ傭兵諸君。最高だぞおい。

 

ふふふ、だが残念ながらワシはヘテロ厨なのでな!ここからワシがリリウムを押し倒すなんていう選択肢は無い!あり得ない!CGすら用意されてない!ボイスも収録されていない!内部解析しても出てくるのはセレン・ヘイズのデレデレボイスのみだ!CGは有志の方がpixivにあげてるでしょ。というわけで、残念無念また来週!!

 

「よっと、あぁ今はこんな時間か。そろそろ朝食の時間だろう?行かなくて良いのかい?」

 

起き上がり、手は離さずにリリウムに言う。手は離さずに。ここ重要ね。この身体の触れ合いから心の触れ合いに発展しリリウムは私に依存するという計画なのだから。

 

依存されたら裏切りたい。

 

冗談です。本気ですけど。

 

「えぇ、今から出ても十分に間に合いますので」

 

「ふふ、私の事なんかほっといてさっさと行っておけば良いのに」

 

お、なんかアレを感じる。イベント感。選択肢成功で好感度バク上がりするでこれ。

 

「そ、それは……」

 

白肌に

朱の色混ざり

美しい

 

「なんだい?私にいけない事でもしようとしたのかい?」

 

選択肢決定、攻めて攻めて攻めて吶喊して撃滅する。ドンゴンイこうぜ!!

心のCVを徐々にみゆ○ちに変えていく。イケメンで仕留める、慈悲は無い。

 

「ほら、ずーっと私の手を握っちゃったりして」

 

そう言って右手に少し、すこーーーしだけ力をいれる。

するとリリウムが焦ったように手を引いた。うふ、きゃっわい!

だが、その隙を見逃さない。右手を素早くリリウムの肩に回し、強引に抱き寄せた。

奇襲となったリリウムは、抵抗する間もなくこちらへと引き寄せられる。お互いの呼吸すら感じられる距離、直接決められる距離だ。

 

「そこで手を引いちゃダメだよリリウム。それじゃあ図星だと言っているようなものじゃあないか」

 

なお、この戦術はどちらかというとBL的な絡みでの攻めロールをイメージしている。いや、乙女ゲーのイケイケ系か?まぁどっちもやったこと無いし同じか。

 

さて私の脳が目の前に幾千幾万の選択肢ウィンドウを出す。

ここで「スケベしようやぁ……」を選ぶのはトーシローかルート埋めする人間だけである。パンツの色を聞くのもダメ、トラックの前に飛び出して私は死なないと叫ぶのもダメ、私の味噌汁を作ってくれは限りなく正解に近いが引っ掛け問題だ、これは義男の心情ではなく。義男との触れ合いによって保子の中で生まれた気持ちである。

 

そのため、正解はこれだ。唇をリリウムの耳元によせ、優しく、淫靡に囁きかける。

 

「私にどんなイケナイ事をしようとしたんだい?可愛い可愛い悪戯好きの子猫ちゃん……?」

 

このセリフによってリリウムは私に依存する。

 

「…………!(この時、ジャンヌの目にはリリウムの頭から蒸気が噴き出ているように見えていた)」

 

Q.E.D.

証明終了。

ニイタカヤマノボレ。

 

「ち、ち、ちがいます!り、り、リリウムはそんなことは……へへへへへへんな事を言わないで下さいジャンヌ様!!!」

 

会心の一撃である。あとは自動でドラフト会議後に真・野球超人伝が貰える。さて、肩練習するか。

 

「り、リリウムは純粋にジャンヌ様の心配を……!」

 

「あぁ、そうだったのかい。どうやら私が勘違いしていたようだ。すまないねリリウム。」

 

リリウムがキョトンとした目でこっちを見る。唐突に私が引いたからだろう。

 

「え、あ、はい……」

 

「じゃあ、私はまだ用事があるから出るよ。心配してくれてありがとうねリリウム」

 

そう言って窓から退散する。

子猫ちゃん発言から約一分でのサヨナラバイバイである。リリウムは状況を理解できていないだろう。

心をかき乱しといたら後にほっといて勝手に相手の中で恋が熟成されるのを待つに限る。

 

センサーやカメラの隙間を縫うように走り、ウォルコット家から即座に離脱する。身体が軽い、なかなかに美しい走り方だ。

しかし、心配か。寝顔の中に何かリリウムを心配させるような表情が含まれていたのだろうか?今日の夢であった悲しい出来事といえば、ラーメン屋のポイントカードを忘れた事くらいである。それくらいで余り表情が変わるとは思えないが……。

 

気のせいかもしれないが、リリウムの「ジャンヌ様のばか……」という声が聞こえた気がした。

馬鹿も阿保も間抜けも全て自覚してるから大丈夫である。

 




リリきゃわ

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