インテリオル・ユニオンは悩んでいた。
当初こそ押せ押せムードのだった同社だが、アナトリアの傭兵にグリフォンに侵攻した部隊が殲滅され、発電施設のメガリスが破壊されると、その雰囲気は一変した。
更に今も、ロベルト・マイヤー大橋に展開している部隊が壊滅的な損害を受けている。サー・マウロスクを増援として派遣したが、どうなるかはわからない。
さらにもう一つ問題がある。
開戦した次の日から、レオーネメカニカ社を中心とした幾つもの軍事基地が襲撃を受けていた。
生き残った人間の証言により、下手人は例のイレギュラーだと判明した。
その手口はいつも同じだ、大型グレネードによる砲撃をいくつか叩き込むとそのまま突撃、ブレードとハイレーザーライフルでもって残る兵隊を潰していくという形である。
前線をいくら固めようとも、この不明ネクストはそれを無理矢理突破して基地を襲っていた。
アナトリアの傭兵とこのイレギュラー。インテリオル・ユニオンは、この二つのネクストを始末せねば、継戦が不可能な状態になっていた。
上層部は、この二人を討伐するためにネクストを投入することを決定した。
まずアナトリアの傭兵に対しては、アルドラのオリジナルリンクスであるシェリングと、もう一人の傭兵、ジョシュア・オブライエンを投入。
そして不明ネクストの相手には……
第14話 サクラサクラ
「ありゃ、誰もいない」
レオーネメカニカ社の軍事基地、前線にいたノーマル部隊を切り捨てて無理矢理突入した私が見たのは、もぬけの殻な基地の様子である。
「罠かしら」
さくっ、さくっとそこらへんにある施設を踏み潰しながら、周囲の警戒をする。
「ふむ、となると戦争序盤から五月蝿くしていた甲斐もあるってものだ。さて、ではどっちが来る?」
楽しみだと言わんばかりに少女は椅子にもたれかかった。最近、ノーマルとか通常兵器とかばかりを相手にしていた。無双系のゲームも楽しいが、やはり少しばかり骨のある敵との戦いもやりたかった。サーでもいいが、やはり、私としては、後々のことも考えて……
なんだろう、前から思ってたが、やはり少しばかりウォーモンガー入ってきたな。少し血を吸いすぎたかしら。今宵の月光は血に飢えておる……コココココ……
何てことを思っていると、レーダーが接近中の機体を捉える。
二機……ネクストだ。すこーしばかり心が震える。そしてその機体の情報を見て、さらなる歓喜が全身を襲った。
「いたぞ、例のイレギュラーだ」
レオーネ・メカニカ社の実質的な最高戦力である霞スミカは、僚機に対してそう話しかける。
「確認しました。ヴェーロノーク、支援攻撃を開始します。」
エイ・プールはそう宣言すると、イレギュラー機に対してASミサイルによる攻撃を開始した
「聞かなきゃいけない事が山ほどある。できるだけ生かしておけよ」
そう言うと、シリエジオはレールガンを放ちつつ突撃を開始した。
馬鹿みたいな量のミサイルが降り注ぐ。右に左にQBをかましながら、ヴェーロノークを眺める。
マシンガンがあれば即落ち二コマであるが、残念ながら今の私の武装はミサイルをぶち落とすことには向いてない。
そしてさらに面倒なのが……
「クソレールガンがぁ……!」
シリエジオの武装の最大の特徴は、高い弾速と威力を持つレールガンの存在だ。
このファッキン桜色は、このQBの隙間に上手いこと弾丸を当ててくる。
お返しとばかりにカノープスを当てる。効いている様子はない。それなのに向こうは、無理矢理とPAを破ってこちらを削ってくる。全く面白くない。
この機体は武装の特性上、シエラジオの事を苦手としている。
カノサワと月光、共に強力な武装ではあるが、どちらもエネルギー兵器である。
高いEN防御を最大の特徴とするインテリオル機が相手では、どうもジリ貧になりがちだ。
うん、そうなのだ。ほんといっつも戦いが長引く。なんでACテストであんなに長期戦やらなあかんのだ。GA系の相手とやらしてくれよ。
まぁ、その為のOIGAMIではあるのだが。こんなミサイルカーニバルの中では落ち着いて狙い撃つなんて芸当はまだ出来ない。
となると、ヴェーロノークをとっとと排除すべきなのだが、こいつもテルスタイプだ。武器腕だから少しは耐久性が下がっているが、それでも倒し難いのは変わりない。
ならとりあえず、今は逃げに徹するべきだろう。全弾を撃ち切らせて撤退を待つ。これしかない。
「せいぜい弾薬費に苦しめ!レオーネが!!」
でもあの機体、どう考えても企業なんてバックがあるからこそ許される機体だよなぁ。
企業戦士恐るべし。
三分経つ
未だASミサイルは降り注ぐ、弾幕は厚い。
今見ているのは基本的にシリエジオの銃口だ、光った時に回避、光った時に回避。ASミサイルより先にこっちのAPが尽きるなんて笑い話にもならない。
ミサイルを斬り払う、爆風がクレピュスキュールの繊細な肌を焼き、破片が粒子の衣服を傷つける。さらにそんなところにレールガンが突き刺さる。うわぁー、いたぁーい。
最高に不愉快である。
貧乏ゆすりが止まらない。
ゴミ箱を蹴り飛ばしたい。
クソが
クソがクソが
クソがクソがクソが
クソがクソがクソがクソが
クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが……
「クソがァァァァァァァァ!!!!!!!」
銀キャップによる介護の必要な鉛筆よりも短い私の堪忍袋が尾がブチ切れる。即殺せねば気が済まぬ、なぁにが首輪付きじゃボケェぇぇぇ!!ワシの物語の主人公はワシだけじゃこの裏切りものガァァァァァァ!?!!?!クレイドルを落とせんオペレータぁぁニィィィイイィィィ!!!!??!!生きてる価値なんてないんですよオォォォォォ?!!?!!!!!
「去ねやボケがァァァァァァ!!!!!!!!!」
空中戦を仕掛けるボケ共を叩き殺すため、近くの倉庫に左前脚部を突っ込み、蹴る、飛ぶ。
四脚タイプの唐突な跳躍に、敵二機は面食らったようだ。空中殺法ビル蹴りジャンプ、V系ニンジャにのみ伝わる秘伝である。
クレピュスキュールに対し音楽、及びノーロックモードの設定を要求。殺到するミサイル。敵はどちらも元気百倍、こちらのAPは既に20%減少している。某フランスの将軍曰く、状況は最高という奴だ。いや、あっちの方がどう考えても絶望的だな。まぁ、いい。
さぁ、反撃を開始しよう。
「お空のACと洒落込むぞォ!!レオーネの売女どもがァッ!!」
曲はGotta Stay Fly。
私めのセルフカラオケでお楽しみ下さい。
「All day longじゃゴミ虫共がァァァァ!!!」
「なっ…………!?」
不明ACがミサイルを振り切る。戦闘スタイルが変わった。回避を優先したものから、一転一気にこちらを潰す戦い方に変わる。
イレギュラーはカノープスを乱射しながら、わたしのシリエジオに突っ込んできた。映像で見た、連続QBによる三次元的かつ不規則な接近。あれは一部の者たちが信じていたトリックや加工されたものでなく、本当のものだったらしい。上に下に右に左に前に後ろにランダムにかわしかわしかわしてかわす。そして確実に、確実に、こちらの喉元に鎌を突き立てるべく死神は歩み寄ってきていた。
「ちっ……!」
ロックが定まらない、銃弾が当たらない、距離を取れない。先ほどまでも多くの攻撃を回避されたが、あれはまだ理解できるレベルだった。いま、こいつがやってるのは、中身に人間がいるならば、間違いなくトマトジュースになってるであろう機動だ。
「シリエジオ!!下がってください!」
ヴェーロノークからの通信。空高くから見ている彼女は、こちらと敵の正確な距離を見ることができているのだろう。下がっている。全力で下がっているのだ。だが、ミサイルよりも速い相手からどう逃げろと?
「ここまでか……」
四脚機がすぐに目の前に現れた。
唐突にオープンチャンネルで通信が流れてくる。耳が割れそうな程の音の嵐の中を、理性の飛んだソプラノボイスが語りかけてくる。
「チェックメェイトォ…………!」
怒りと、愉悦と、興奮と、快楽が、言葉から滲み出る。
最早両腕のレールガンとレーザーライフルでは如何にもできない距離だ。
「桜はよぉぉぉぉ…………」
イレギュラーが右腕を伸ばし、シリエジオのヘッドパーツを掴む、ミシミシと嫌な音が響く
「散るからよぉぉぉぉぉぉ…………」
イレギュラーはシリエジオを地面に向かって投げつけた。ご丁寧にも、落ちる途中に、こちらのメインブースターを撃ち壊してくれるオマケ付きで。
衝撃が全身を襲う。メインカメラは破壊され、サブカメラの視界も悪い。背中のレーダーは使い物にならず、最悪なことにミサイルは先ほどの衝撃により誘爆していた。なるほど、だからPAが一瞬で消し飛んだのか。
「美しいんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
直後、不明機がこちらを踏みつけた。その一撃でもって、後頭部を強かに打ちつけてしまった霞スミカは意識を手放してしまった。
「この!この!このォ!!死ねェェ!!!死ねェェェェ!!!!」
動かなくなったシリエジオを怒りのままに踏みつける。当初の目的は怒りと共に蒸発した、ここでぶっ殺しても構わないという覚悟である。色々と想定して家から色々持ってきたが、無駄になるかもしれない。
4本の脚でリズミカルにストンプしてると、ふとまだ上に金のかかる女がいた事を思いだす。
が、どうやら動くに動けないらしい。まぁ、あの機体だと誤爆もあり得るからな。
優しい私めは彼女に撤退の理由をあげることにした。OIGAMIを展開、狙いをつける。ヴェーロノークはこちらに気づくと、ロックを外そうと回避行動を起こす。
そんな無駄な行為をあざ笑うかのように、私は引き金を引いた。
有澤製の巨大グレネードの砲弾が、ヴェーロノークの左腕部を丸ごと削り取る。コアは流石に頑丈で、一撃で破壊とはいかなかった。
エイちゃんは、そのダメージをもって継戦不可能と判断したのだろう。ヨロヨロと撤退していった。
さて、デカイのを一発かましたお陰でだいぶスッキリした。足元を見ると、綺麗な桜色の鉄屑が落ちている。あ、コアは無事だ。流石に踏み潰すのは無理だったかぁ。
ふと、私の中の悪魔が語りかけてきた。
奴はこっちを殺そうとしたんだから、こっちは相手に何をやっても構わないのでは?と
そして、天使が語りかける。
殺すのはやめよう。と
私はシリエジオのコアを引っぺがした。頭から血を流した霞スミカがおねんね中だ。
護身用の拳銃を持ち、コアを開き、眠り姫の元に降り立つ。
ふむ、息はしているな。この血は……少し頭の皮を切ったのか。はわわ、かわいそかわいそなのです。いたいのいたいのとんでいけーなのです!
んでもってまず、霞の目をガムテープでぐるぐる巻きにする。その次にスミカの手を拘束し、足もセレンが座っている操縦席に巻きつけた。うーん、ここでエロ同人ならヘイズのパイロットスーツの胸の部分だけ切り裂くのだが、ざんねん!ここはエロ同人の世界ではなく現実です!!そして私は身体はおんにゃのこなんです!!!きゃは!!!
霞スミカの腹を思いっきり蹴る。血と唾液の混合液が、私の身体にかかった。これを瓶詰めしたらいくらで売れるかを考えながら、私はかつての戦友に語りかけた。
「へぇい彼女、ロシアンルーレットに興味はない?」
アルテリア・カーパルスの恨みを晴らす。慈悲は、無い。裏切り者には当然の報いだ。
戦闘を長く書けないという悩み。