世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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うーん、この話は絶対必要なんだけど地味だなぁ。書く気力起きないなぁ。

そうだ!色々増やしまくって派手にしよう!

どっかーん!ごっかーん!

ぶわっはっは!!(投稿)


戦乙女の飛翔

「正気ですか!?ネクスト一機で第八艦隊を相手にしろと!?」

 

「正確には〝クイーンズランス〟のみ……をです。お嬢さん。我がGA社からの依頼は、BFF本社、〝クイーンズランス〟を、第八艦隊に極力損害を与えずに撃沈することです」

 

「無茶苦茶な……」

 

代理人であるフィオナと、今回の依頼人であるGAの大西洋方面軍の司令官の話し合いを横で聞きながら、男はコーヒーを口に含んだ

まるで高級客船のような一室、GA大西洋艦隊旗艦の司令室にて、この会合は行われていた。

 

やたらと高い報酬、直接会うまで極秘の依頼内容。訝しみながらも、馴染みのGAからの依頼ということもあり、ワルキューレやフィオナと共に迎えの大型輸送機に乗った。

 

そして、蓋を開ければ「六大企業の内の一つを潰せ」という報酬に見合うだけの依頼内容を見せられた。それにしても、少しばかり高すぎるような気もするが。

 

「そもそも、どうして第八艦隊に手を出してはいけないのですか!?」

 

「理由は二つ。……一つは政治的な理由だ。傭兵である君たちには開示できない。」

 

アフリカ系のルーツを持つ司令官の男は、黒く太い指を二本立ててフィオナ達の前に向けた。その内の一つ、中指を折り拳の中におさめる。

 

「もう一つ、時間的な制約だ。我々の入手したとある情報によると、一八○○にはBFF第二艦隊がクイーンズランスの護衛の為に第八艦隊に合流するらしい。君たちがこの依頼を承諾した場合、すぐに我々はある方法でもって君たちをクイーンズランスへと送り届ける。だが、どう余裕を持って準備を行っていても、君たちが辿り着く頃には第八艦隊は三十分以内にBFF第二艦隊と合流する事になる。そんな余裕の無い状況だ、他の艦船に目を向けている暇も惜しい。だからこそ、最初から目標としては排除しておこうというわけだ。」

 

成る程、男は心の中で頷いた。この説明で、政治的な理由というのもだいたいわかった。BFF本社の運航スケジュールなんていう超々々弩級の極秘情報を握っているということは、BFFの高級幹部の中にモグラがいるという事だ。

ならば……少し突飛かもしれないが……GAは、そのモグラと協力して、この戦争の後、BFFの吸収を考えているのだろう。

だとすれば、なるべく戦力を残しておきたいというのも頷ける。こちらとしては、良い迷惑であるが。

 

「それはこちらで判断する事柄の筈です!」

 

「報酬にはその事も加味している。わかってもらいたいね」

 

「一つ、質問がある」

 

いままで口を挟まずに、二人の会話を聞いていた男が腕を組んだまま口を開く。

 

「ある方法をもって送り届ける……と言ったが、それはどんな方法かは教えては貰えないのだろうか?」

 

「あぁ、すまないが、この依頼を受けて貰わない限り伝える事はできない。」

 

「そうか」

 

一度、大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。ちらりとフィオナの様子を伺うと、彼女は不安そうにこちらの様子を見た。

大丈夫だよ。アイコンタクトで男はそう伝えると、そのまま司令官の方を向いた。

 

「この依頼を受けます」

 

「そうか、よく決心してくれた」

 

司令官は頷くと、執務机の上に置いてある受話器を手に取る。短く、しかしハッキリと、司令官は言った。

 

「白き騎槍を砕け。繰り返す、白き騎槍を砕け。」

 

フィオナが息を吐く。ポツリと、天井へ向けて呟いた。

 

「もう……戻れないわね……」

 

「……だな」

 

もう一度だけ、コーヒーに口をつける。その苦さの中に、何となく男はこれからの自らを見た気がした。

 

 

「VOB……ねぇ」

 

アナトリアに対して、緊急の装備の輸送を頼んだ男は、艦に搭載されたシミュレーターの状況設定を行うフィオナに対して言葉をかけた。

 

「確かに理に適ってはいます。大出力の追加ブースターを使用し、超高速で接近すれば。第八艦隊の濃密な防空網をすり抜けることは可能なはずです。」

 

「ロケットエンジンのクーガーらしい発想だ。コジマ技術がダメなら、自社の長所である通常ブースターを伸ばす。ここまでぶっ飛んだ事ができるなら、クーガー社の未来は明るいな。」

 

クーガーの技術者から渡されたVOBについての書類を見る。揚力や空力など一切考えずに、膨大な推力のみでネクストを飛ばすという無茶苦茶な装備だ。

曰く、未だ研究段階のものを、本作戦にあわせて無理やり実用化したらしい。

 

「成功率は70パーセント。有人ロケットを飛ばすとしたら到底許可できない数字だな。」

 

作戦開始は3時間後。今頃、甲板上ではクーガーの技術者達や甲板作業員達が、ワルキューレにVOBを取り付ける為に戦っているだろう。

 

「データ入力完了しました。」

 

フィオナが一息吐いてそう言った。

 

「ありがとう。さて、時間がない。早速始めよう」

 

「装備はどうします?」

 

「届いた場合と、届かなかった場合を5:5で想定する。」

 

「わかりました。」

 

男がシミュレーターに乗り込む。まずは、VOBの操作に慣れなくてはならない。AMSを接続。一体化とまではいないが、ワルキューレと感覚がリンクする。

 

「状況設定、完了ました。」

 

「了解。ワルキューレ、これより状況を開始する」

 

次の瞬間、周囲に夕焼けに染まる大西洋が景色が広がる。

だが、それを認識する前に、暴力的なまでに身体にかかる推力が、男を襲った。

 

「グッ…………!」

 

歯を食いしばる。少しでも油断すれば、意識をまで吹き飛びそうな衝撃。こりゃ、だいぶ苦労しそうだ。VOBの操作へと神経を傾けながら、男は脳の片隅そう呟いた。

 

 

「大西洋司令部から入電。こちらからの出撃はありません。リンクスは第二段作戦に備え待機しろとのことです」

 

「そうか、それは良かった。あんな物に乗ったら、身体がいくつあっても足りないからな」

 

旧フランス領のロリアン、ここでは、二人のリンクスが対BFF作戦の為に集まっていた。

GAのメノ・ルーとローディーである。

ローディーが報告してきた兵に向けて礼を言うと、若い男はそれでは、と敬礼を残して退室した。

 

「この戦争の流れをも決める作戦を傭兵に任せる……か。」

 

待機、と聞いたローディーが懐に入れていた紙巻きに火をつける。そんなセリフとは裏腹に、その顔に深刻さは無い。

 

「……間違いなく、彼は屈指のリンクスです。GA社はおろか、陣営全体でも彼を超えるリンクスは居ません。むしろ、当然の選択かと」

 

「それに、倒れても懐がいたまない……か」

 

ローディーが紫煙を吐き出す。メノは、同じ部隊で過ごす内に、少しずつではあるがこの男の事を理解し始めてきた。

アンジェのような人間とは真逆の存在だ。彼は、戦いが方法である事を知っている。この世界が企業のメリット、デメリットの中で回る事を知っていて、リンクスなどと持て囃されても、自らが企業の駒でしかない事を自覚している。

 

「……成功するのでしょうか、この作戦は」

 

「十割だろうな」

 

「VOBが届けば、確実に成功すると?」

 

メノが紅茶に口をつける。コーヒーもそうだが、孤児院に居た時には絶対に飲めなかったような高級品を、リンクスになってから口にするようになった。

 

「例え、VOBが途中で壊れようとも……さ。あのレイヴンなら、成し遂げかねない。」

 

そう言って、ローディーがまたタバコをくわえる。

 

「随分と、評価が高いんですね」

 

「彼がGA側で遂行した任務の戦闘記録は全て見た。あれを見ると、自分が粗製であることを再確認するよ」

 

くくく、と笑いながら、ローディーがタバコの火を灰皿の中に落とす。

 

「粗製だなんて……」

 

メノが言い返そうとする。ローディーは、間違いなく実力者だ。低いAMS適正を感じさせない巧みな操縦と、緻密な戦術眼。ローディーとは、何度もシミュレーターで訓練を行っているが、メノの勝率は四割五分と、僅差ではあるがローディーに負け越していた。

 

「いや。彼と比べると、殆どのリンクスは粗製になるだろうさ。彼と比べる事ができるのは、レイレナードのトップリンクス二人にBFFの女王様……それと、例のイレギュラーくらいだろう」

 

イレギュラー、という言葉にメノの身体がビクリと震える。

ローディーはそれに気付くと、申し訳なさそうな表情を見せる。

 

「すまない。……やはり、まだ忘れられないか?」

 

「はい……。一時期と比べて、落ち着いてはきたのですが」

 

あの悪魔の笑い声は、未だにメノの脳に染み付いていた。軍医によるカウンセリングは受けているが、それでもマシになったという程度で、完治したとは到底言えない。

 

「正体不明のイレギュラー……か。それこそ、レイヴンがこの任務を失敗するとしたら、件のイレギュラーが関わった場合のみだろうな」

 

ローディーが新しいタバコに火を着ける。

メノは、もう一度紅茶に口をつけた。

霞スミカを撃破して以来、イレギュラーの目撃情報はない。出来れば、二度と会いたくない存在だ。

 

ただ、何となく、彼女には予感があった。望んでいなくても、あの神出鬼没は再び私の前に現れるだろうと。

 

 

因みに、その悪魔はパワプロのマイライフに勤しんでいた。現在、彼女にとっての成すべきことは、弱いに設定されたコンピューター相手に、チート二刀流選手でもって無双プレイをすることだった。

 

「パワポケみたいなドロドロした恋愛してぇなぁやっぱ」

 

自分の周囲のドロドロとした戦争など忘れたかのように、少女は言った。画面の中では、ミスター読売のじゃんぬ選手が、四打席四ホーマーの完全試合によりお立ち台の上でヒーローインタビューを受けていた。

 

 

「エアボスよりワルキューレ。全ての用意が整った。貴機の発艦を許可する」

 

空母艦橋の頂上付近。GA大西洋艦隊の旗艦を務める巨大航空母艦、その飛行甲板上の全ての権限と責任を負う飛行長が、客人へ向けて出撃の許可を出した。

 

「ワルキューレ了解。こちらはVOBの最終チェックへと移る」

 

いま、飛行甲板上には、背中に白い追加ブースターを増設した鋼鉄の巨人が、出撃の時を待っていた。

水平線の彼方、太陽は未だ沈んでいないが、空は徐々に赤色が蒼天を侵食してきている。

 

「了解した。いいか、この空母から発艦する時点で貴様は俺の息子も同然だ。這いつくばってでも帰ってこい」

 

エアボスの言葉に、VOBの接続状況を確認していた男は思わず吹き出してしまう。

なるほど、ベテラン士官というのは、こういう風にパイロットを勇気付けるのか、勉強になった

 

「勿論だ、なんなら土産を持って帰ってくるさ」

 

男は笑いながらそう返した。

現在、ワルキューレの足元では、黄色いジャケットを来た男達が何の障害物も無いか確認している。

すでに、カタパルトへの固定は完了している。このチェックが終われば、発艦は近い。

赤いジャケットを来た兵装要員の男が、ワルキューレの武装が固定されている事を確認し合図を行った。何とか、アナトリアからの装備は間に合った。その装備に少し手間取ったが、慣れないライバル企業の装備なのだから当然であろう。

 

ワルキューレの姿勢を、少し前傾させる。

緑のジャケット、カタパルト関係要員と機体重量の確認を行う。問題無し、ワルキューレの指で合図を送る。

機体後部、ワルキューレのブーストを逸らすためのブラスト・ディフレクターが持ち上がる。発艦の時は近い。

 

「ワルキューレ。聞こえますか?」

 

フィオナの声だ。いつも以上に固い声だ。今頃、彼女は航空母艦の戦闘指揮所に居るはずだ。そこからの直通回線だろう。

 

「本作戦は極秘任務です。本通信の後、全ての回線を封鎖されす。ですから、これだけは伝えておきます」

 

「なんだ?告白なら縁起が悪いから後にしてくれ」

 

「なっ……!?」

 

おっ、照れたな。GAの兵士が周囲にいる中、真っ赤になるオペレーターの姿を思い浮かべる。

 

「そ、そんな事はしません!!」

 

「そうか、まぁ、なんだ」

 

男は笑った。残念ながら、男は軍艦相手に死ぬ予定は無かった。だからこそ、軽くショッピングにでも行くかのような様子で、オペレーターに対して言った。

 

「戻ってくるよ。必ずな」

 

「…………はい。お願い、します」

 

通信が切れる。前方では、カタパルト幹部の男が、ワルキューレにスロットルを開くよう指示してる。

その指示に合わせ、男はブースターを最大推力にし、噴かせる。固定されていなければ、すぐにも吹き飛んでいくだろう推力だ。さらに、VOBにも点火、これで、準備は整った。

男は、ワルキューレの右手の親指を立てた。オールクリア。軽く、敬礼のポーズをとる。

そして、すぐに機体を前方に戻すと、深く呼吸を行い、身体を深くシートに押し付けた。

 

カタパルトが作動した。

 

電磁カタパルトが、一切の無駄なくワルキューレを前方へと運ぶ。すぐに時速三○○キロ近くまで加速されたネクストACは、そのまま空中へと放り出された。

 

さぁ、ここからだ。

男が覚悟を決める。

 

次の瞬間、いままで感じたことの無いほど大きな力が男の身体を襲った。

VOBが噴射を開始したのだ。取り付けられた大型のタンクから、コジマ粒子を供給し、それをプラズマ化させ、噴出する。コジマ技術の低さから、QBやOBなどの燃費の悪く、男の中では下の下のブースター企業に認定していたクーガーだったが。なるほどこのように大量のコジマ粒子が供給される状況という条件はつくが、充分な性能を発揮できるブースターを作るだけの技術力はあるらしい。

 

「こりゃ……コジマ技術という弱点を補ったら化けるかもな……!」

 

加速に耐えながら、男はちらりと速度計を見た。時速2000キロを超え、まだまだ加速していた。

 

既に、発艦した航空母艦は水平線の向こうへと消えていたが、彼にはそれを確認する余裕は無かった。

 

 

レーダーピケット潜水艦〝N2〟は、その日も第八艦隊から遠く離れた海にて、接近する敵を探知すべくBFF製の艦載用大型レーダーでの索敵を行っていた。

艦上早期警戒機や主力艦の搭載する大型レーダーでも、監視には充分だが、第八艦隊の護衛するものの重要さもあり、BFFは何隻かの大型潜水艦をレーダーピケット艦任務に就けるように改修していた。

 

レーダーに反応は無い。せいぜい、大型の鳥を時々捉える程度だ。

緊張感の無い水兵共は、既に今日の夕食が気になりだしてきた。出港してからまだはそこまで経っていないので、冷蔵庫には新鮮な食材がある筈だ。他の潜水艦乗りとは違い、殆どの時を水上で過ごしている彼らだが。大出力のレーダーを常に展開しているという理由で外に出られない為に、他の潜水艦乗りと同じように、楽しみは日々の食事だ。

 

そんな水兵達に喝を入れようと、副長が口を開いた時、レーダー員の報告が室内に響いた。

 

「方位一七○より高エネルギー反応が超高速で接近中!!ネクストです!感は一!」

 

「なんだと?」

 

艦長が反応する。高エネルギー反応?たかだか一機のネクストで第八艦隊を相手に?威力偵察か?

まぁいい、どちらにしろ、こちらは攻撃するのみだ。

 

「主力艦隊に通報しろ!対空要員は対空・対ネクスト戦闘用意!敵勢力の速度は?」

 

「ま、待ってください……これは……」

 

「どうした?何か……」

 

「1900ノットです!敵ネクスト、1900ノットで近づいてきます!!」

 

レーダー員の悲痛な叫びに、他の水兵達が驚愕する。

艦長も、内心の動揺を隠しながら尋ね返す。

 

「1900……?それはネクストか?戦闘機では無く?」

 

「間違い有りません!」

 

他のレーダー員が叫ぶ。艦長は軽いパニックに陥っていた。彼は優秀な男だったが、マッハ3で飛翔するネクストという常識外れなモノに適応できる程、経験を積んだわけではなかった。

 

「データ照合完了しました、ワルキューレです!」

 

「ワルキューレ……あのアナトリアの……!」

 

「敵反応、あと5秒で本艦直上を通過します!」

 

「高射砲及び対空ミサイル発射準備完了!」

 

「全兵装自由!復唱は要らん!撃て!逃すな!」

 

「敵機、本艦直上を通過!なおも主力艦隊へ向け加速しています!!」

 

「艦隊防空ミサイルが回避されました!!」

 

「高射砲の砲撃が追いつけません!!」

 

先ほどまで静かだった艦内が、一気に戦場の様相を呈する。

だがそれも、すぐに絶望の静けさに包まれる事になる

 

「敵機……本艦の射程圏内から離脱しました……」

 

レーダー士官の報告を聞き、乗組員達は呆然と立ち尽くす。

 

「まずいぞ……あんなものが喉元に突き刺さればクイーンズランスが……」

 

副長が呟く。そうだ、あれはただの兵器では無い、ネクストだ、最強を誇る第八艦隊でも、防空網を無理矢理突破し、クイーンズランスのみを狙う機動兵器に対してやれる事は皆無だ。

もし、反撃の機会が与えられたしても、それは間違い無く、 BFFが敗者となるのが決定した後の事だ。

 

「すぐに艦隊に敵の詳細情報を報告しろ!」

 

艦長が叫んだ。冷や汗が止まらない。あのスピードだ、既に、戦乙女は主力艦隊の射程内にいるだろう。

 

もはや、戦闘の中心の彼方にいる事を自覚した艦長は、自らに出来ることが祈ることのみだどいう事を察してしまった。

 

 

とりあえず、もう少しスピードを落とすようにクーガーには行った方が良いだろう。流石に、このスピードは人体というものを無視しすぎている。そろそろ4000キロに達成しようとしている計器を見て、男は思った。中型ネクストをこの速度で飛ばすのは、正気とは思えない。2000キロ超くらいで丁度良いだろう。

 

男には余裕が出てきていた、既に、周囲の風景を確認するだけの余裕も獲得した。ミサイル回避の方法も、先ほどすれ違った潜水艦相手に練習はすませた。万が一の時は、肩にフレアも装備している。

 

「お……!」

 

赤く燃える水平線上に、艦影を視認した。第八艦隊だ。

と、レーダーが濃いモヤに包まれる。艦隊によるジャミング攻撃だ、この海域にいる限り、全ての駆逐艦、巡洋艦を潰さないとモヤは晴れないだろう。

だが、そんな暇は無い。

男は急いで頭に叩き込んだクイーンズランスの姿を探す。駆逐艦、巡洋艦、戦艦、航空母艦、それらの配置から、護衛対象を捜索する。

 

「いたっ!!」

 

巨大な輪形陣の真ん中、この戦場には場違いな程に優雅な客船を見つける。

 

間違いない、クイーンズランスだ。

 

だが、護衛の騎士たちは、姫君を傷つけようとする矢を通さないように、高射砲とミサイルを発射する。だが、男は冷静に、QBとフレアを駆使し、それを回避する。

 

戦艦の主砲がワルキューレ目掛け砲撃を行う。流石のBFF製だ、精度は高い。だが、そのお陰で、かわせば確実に当たらないという安心感もある。

 

GAからの飛矢は届いた。男はシミュレーター通り、VOBパージの為の操作を行う。

 

VOBパージ、大型ブースターが空中でバラバラに崩壊し、ワルキューレは慣性のままに、だが少しずつ速度を落としつつ、降下する。

 

ドン、ピシャリ。

 

ワルキューレが降り立ったのは、クイーンズランス、その艦上だった。

足下から数多の悲鳴が聞こえた気がした。それを気にも留めず、男は、ワルキューレの両腕を振り上げる。

 

その腕には、イクバール製射突型ブレード、ラジュムが装備されていた。莫大な威力を誇る決戦兵器。対大型兵器として、一級の性能を持っていた。

 

両腕に装備されたラジュムを、男はクイーンズランスに突き立てた。そして、撃鉄を引く。

 

次の瞬間、ラジュム内のカートリッジに充填されている炸薬が破裂する。密閉された空間内で発生した力は、唯一の逃げ場である大型パイルのある方向へ殺到する。

 

瞬間的に加速したソレは、音の数倍の速度でもって飛び出る。目の前にある鋼鉄の板など、まるで存在しないかのように突き破り、その下にいた柔らかな存在を衝撃波で消し飛ばした。

装甲など存在せず、中にいるBFFの高級幹部たちの快適さのみを追求したクイーンズランスのど真ん中に、その優雅さとはかけ離れた大穴が開く。

 

その時に気付いた事だったが、彼がイクバール製兵器を突き立てた場所は、クイーンズランスの機関が存在する場所だった。

ラジュムによって開けた空洞の中に、動き続ける炉を発見した。

男は気付いた、ソレは、コジマ粒子の発見により、相対的に安全な技術と化したものだった。

 

男は、それに向かって腕を伸ばし、装填を完了した右腕部の射突型ブレードを撃ち込んだ。

それを制御すべき人員は、最初の一撃でもって吹き飛んでいた。

そして、トドメの一撃が、炉に撃ち込まれた事により、ソレは安全な機関から、巨大な爆弾と変化した。

 

命中を確認した男は、すぐさまクイーンズランスから離れた。そして戦果を確認せず、離脱を図る。

 

数秒後、かつて極東において出現した二つの太陽と同じ類のモノが、第八艦隊中央において発生した。

それは、極小規模なものだった。だが、クイーンズランスの中にいたBFF幹部をこの世から跡形も無く消し去り。白き騎槍を叩き折るには充分な破壊力だった。

 

 

その場にいたBFFの将兵たちは、みな呆然とするしかなかった。

目の前で、BFFの象徴が、美しき槍が、二つに分かれ、海中へその姿を消そうとしていた。

 

ある者は涙し、ある者は怒りを覚えた。下手人を叩き落とすべく高射砲の火が各地で上がるが、戦乙女はそんなものを気にせず飛び去る。

 

クイーンズランスが沈む、真っ二つに割れたそれは、死という輝きを放ちながら、夕陽に共に沈む。

その姿は、まるで一つの芸術のようであり、それを見た者たちの心に複雑な感情と共に刻まれることなった。

 

 

クイーンズランス轟沈の知らせは、一瞬にして世界中に広がった。

 

レイレナード本社に置いてその報を聞いたベルリオーズは、撃沈から30分後にはその報告を受け取った。

 

「流石というべきかな」

 

彼は友に対して苦笑を浮かべると、傍にある受話器を取った。

これからの作戦はもう決定してある。唯一優勢なネクスト戦力での、敵重要施設への直接攻撃。GA本社奇襲は失敗したが、多くの腕利きリンクスが斃れた現在なら、またチャンスもあるだろう。

 

「最早、長期戦はこちらの首を絞めるのみ……か」

 

数コールで相手が出る。相手はザンニ。現在は、アクアビット社との連絡要員として北欧にいた。

 

「狼煙を上げろ。」

 

予め決めていた符丁を口にすると、ザンニは了解しました。とだけ言って受話器を置いた。

 

ベルリオーズは深く椅子に座り込んだ。ギアトンネルを拡張し、内密に掘り進めた秘密通路。当初一部の者の間で話されていたアナトリア襲撃作戦よりも、手間はかかるが、効果は大きい筈だ。

 

状況は絶望的だ。だが、諦める気は無い。人類への緩慢な死を与え続ける企業への懲罰は、夢を託す者たちの為にも続けなければならない。

 

人類が、黄金の時代を迎える為に。男は無数の人々を断頭台へと送り続ける。その目には、煌々と意志の光が灯っていた。

 

 

同日 深夜

 

その日、欧州にいた者達は、大小の差こそあれ、みな一様にその揺れを感じた。

震源はローゼンタール本社、その地下数十メートル下だった。

所属する全てのリンクスが戦場に散ったローゼンタールは、その為に本社の防衛が他の企業と比べてほんの少しだけ、だが致命的な程に甘かった。

アクアビット社は、そんなローゼンタール社の地下に向け、極秘の地下通路を掘り進めていた。

そこに送り込まれたのは、蹂躙兵器ウルスラグナ。だが、その武装は全て取り外され、その代わりに全車両にコジマ粒子が充填されていた。

無人で運行されたウルスラグナは、ローゼンタール本社直下に辿り着くと、唯一可能な攻撃を行った。

 

それははじけた。

戦時中だった事が災いだった。ローゼンタール本社にはまだ多くの人間が残っていた。そして、その周囲にある実験施設や宿舎などにも、多くの人がいた。

 

だが、最早そこには何も無い。まるで隕石が落ちたかのように、そこには巨大なクレーターのみが残っていた。人がいた痕跡など何も残っていない。大量のコジマ粒子のみが、人々の御霊の様に、大地を汚していた。

 

 

その日、六大企業の内二つが消滅した。その報告は、この戦争に関わる全てのものに、この戦いの泥沼化を確信させるには充分な情報だった。

 




最近トーラスマンにハマってます。うーん、オリリンクスはあまり出したく無いけど、トーラスマンが似合う女性リンクスが欲しい。(銀翁はあれはあれで大好き)

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